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8

羽毛田は顔を真っ赤にして激昂しながらソファから立ち上がった。


「くっ……! ふざけるなっ! コムタクだかなんだか知らんが俺の生活や家族は俺のもんだ! 返せ!」


「よくいうよ。コムタクの名を使って結構楽しくやってたんじゃないの?」


図星を突かれ羽毛田はウッと言葉に詰まる。

コムタクは更に畳み掛けるように続けた。


「それにさ、詳しい事情は知らないけどあんた家族と別居中らしいじゃないか。おまけに会社じゃ嫌われ者。そんな人生投げ出して代わりにコムタクとして生きてくれよ? な?」


「ぐぅっ……!」


顔を怒りで真っ赤にしながらも肩を震わせながら羽毛田は言い返す事が出来ない。

コムタクはニッコリと微笑みじっとそんなハゲと目を見合わせた。


「よーーく考えなよ。元の生活とコムタクとしての生活どちらが楽しかったか。本当にあんた元に戻りたいの?」


「部長……!」


こんなにもあのコムタクが芸能界に未練が無かったとは予想外だった。

私は予想外の事態に困り果てる。


そんな重々しい空気を振り払うように軽薄な笑い声が部屋に響いた。


「あーらら。こりゃあ俺の呪いがとけねーわけだ」


「そんな……」


その時、困惑した私たちを他所にヒステリックな金切り声が上がり髪を振り乱した女がソファから勢いよく立ち上がった。

必死の形相のヤバ子である。


「そんなのっ……! 認めない‼︎ コムタクはっ! コムタクは永遠の存在なんだからっ‼︎ コムタクが戻らないなら私は死ぬっ‼︎」


いつの間にか懐から取り出した刃物を首筋に当てヤバ子は喚き立てる。

私は慌てて錯乱するヤバ子の手首と肩を抑え押し留めた。


「落ち着いてよヤバ子」


「おいおい、コムタクさんよ。熱心なファンがこう言ってるぜ? それでも戻って芸能活動を続けてやる気はないのかい?」


宥めるように問いかける呪道の言葉にもコムタクは首を横に振る。


「……呪いで俺とあのおじさんを入れ替えたアンタの事だ。あの子の記憶を操作することなんか朝飯前でしょ?」


呪道は頬をかきながらやれやれ、と呟き、答えた。


「そりゃあそうだがな」


つまりは呪道の呪いによって完全に羽毛田と自分を入れ替えて欲しいという事だ。

私はあの中年不健康ハゲに世界中のファンが群がる光景を思い浮かべた。

……すごくシュールだ


「イヤァァァァァ‼︎ コムタクゥゥゥ‼︎」


ヤバ子は髪を振り乱し悲鳴を上げジタバタと暴れ始める。

私は必死でそんなヤバ子を羽交い締めにした。


そんな熱心というか狂信的なファンであるヤバ子にコムタクは済まなさそうに頭を下げた。


「ごめんね、ヤバ子ちゃん。俺、もう疲れたんだ……」


なんて事だろう。

……これから私たちの目にする数々の名作ドラマの主演は羽毛田に変更されてしまうということだろうか


「コムタクさん、私たちからもお願いします……! 私たちにはわからない苦労もあったんだと思います…… それでも私たちはあなたの演じるドラマが見たいんです…….」


「ごめんね…… 君たちにも申し訳ないけど」


「そんな……」


私たちの懇願にも耳を貸す気はないようだ。

呪道はため息を吐きながら呆然とする羽毛田の方にも水を向ける。


「やれやれ…… そこのダメな方の部長も同意見かい?」


羽毛田は肩を震わせ思い詰めたように口を開いた。


「俺は…… うう…… 家族のいない自宅に会社に行けば冷たい視線にさらされる日々……もう元になんか戻りたくない……」


こんな泣き言を漏らす羽毛田は初めて見る。

こいつはこいつで抱えていたものがあったのだろうか……


誰も何も言えなくなった重い空気を裂くように呪道がポンと両手を叩く。


「よーーし。わかった。わかった。アンタら相当疲れてたんだな。可哀想に。

そこまでの結論を出すに至った苦労押して知るべし、だな。

アンタらが悪いんじゃねえ。そこまでアンタらを追い込んだ社会が悪いんだよ。気にすることはねえ。

本来は因縁をねじ曲げるなんて邪道なんだが特別に願いを叶えてやってもいいぜ」


「本当ですか……?」


「ちょっと! 何言い出すのよ、おじさん‼︎」


冗談じゃない……

知らない間にあのコムタクとこのハゲが入れ替わるなんてどんなホラーだ。

私としては絶対反対だ。


しかしそんな私の意思を他所に呪道は話を続ける。


「ただし」


呪道は人差し指を立て2人に向かっていつになく真剣な表情になった。


「最後に俺の話を聞いてくれ。決めるのはそれからでも遅くねえだろ」


「「話?」」


コムタクとハゲがハモりながら応える。


「ああ。これから少しだけ夢を見てもらう。アンタらがまだウブで野心に燃えていた頃の話だよ。

それが終わってからまだ同じ答えを出すなら俺はもう何も言わねえ」


2人は顔を見合わせ、やがて同時に頷き了承する。

呪道には何か考えがあるのだろうか……?


そんな遣り取りを固唾を呑んで見守っている私たちを気にする事なく呪道は何やら指をくねくねと動かして何かの準備を始め、そして2人へと近づいていった。


「よし、じゃあ俺の掌をようく見てくれ……

1、2、3はい……!」

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