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手早く羽毛田を車に詰め込むと、飛ばし気味で夜の高速へと飛び乗る。

少し落ち着くと後部座席で手足を縛られた羽毛田が喚き始めた。


「何なんだ! お前ら! こんな事してタダで済むと思ってんのか⁈ 俺は天下のコムタクだぞ‼︎ わかってんのか⁈」


私はバックミラーで羽毛田を見つめながら心中でため息を吐く。

どうやら本当に自分のことをコムタクだと思い込んでいるらしい。


「いやいや、分かってないのはアンタの方ですよ」


「はあ⁈ さっきから何言ってんだお前? ストーカーにしてもタチが悪いぞ‼︎ いいか!絶対に刑務所にぶち込んでやるからな‼︎ 覚悟しとけ!」


コムタクになっても傲慢さは変わらないらしい。

私は諭すように羽毛田に話を続ける。


「本当のコムタクはね、そんな乱暴な言葉遣いしないんですよ」


「ええ、もっと紳士で優しいんですよ。おかげでアンタが我が社に居た頃とは全く雰囲気が変わっていい感じですよ」


「何言ってんだお前ら……⁈ いかれてんのか⁉︎」


その時、後部座席で羽毛田の管理を任せていた髪の乱れたヤバ目の女こと、ヤバ子が包丁を振りかざした。


「ちょっと黙ってろ……!」


「ひっ……!」


「はいはい、ヤバ子ちゃんそこまで」


本当に刺しかねないので慌てて止めた。

羽毛田は息を切らせながら私たちを睨みつけてきた。


「俺をどうする気だ? おい、日本の警察は優秀だぞやめとけよ」


「まあ、黙ってついてきて下さいよ。アンタ色々忘れてるんですよ」


「何言ってんだ、キチガイどもめ……」


まあ、そう言われても仕方ないなと思いながら私たちは高速を急ぐ。




「はい、着きましたよ。ちょっと遠いけどこれくらいの距離のが気づかれなくていいですからね」


車を数分飛ばして郊外のとある住居の側に停車すると私たちは羽毛田に双眼鏡を手渡した。

窓の向こうを覗き込むように言うと羽毛田は文句を言いながらも従う。


「クソッ! 何なんだよ……」


「ちなみにヤバ子ちゃんが盗聴器を仕込んでくれました。

音声はサービスです。

後で盗聴器は回収しときますからね」


「何言ってんだ……?」


ヤバ子はハッキング能力に加えてこういった潜入や盗聴、盗撮能力に優れている。

流石ストーカー一歩手前の女だ。

怪訝そうな顔をする羽毛田も双眼鏡の先を覗きスピーカーから流れてくるその声を聴くと目を見開きピタリと黙った。


『ほらほら、頬にソース付いてるわよ明美』


『いっけなーい、ありがとうママ』


『もう、明美ったらいつまでも甘えん坊さんなんだから』


とある母娘のものである音声が聞こえてくる。

羽毛田が覗く双眼鏡の先には声の主が見えている筈だ。


「どうです? あの家族を見て何か思い出すことは…… 部長? 大丈夫ですか?」


羽毛田が双眼鏡を取り落とし、頭を抱えてうめき始めたので私は慌ててその背をさする。


「うう…… くっ…… 頭が……!」


「大丈夫ですか⁈」


「ええ……どうしよう」


暫くあたふたと呻き続ける羽毛田を介護していると少し復調した羽毛田が震える声で呟くように声を発した。


「グッ……! 明美……聡子…… 俺の娘と妻じゃないか…… それにお前らは庶務の高山と岡田? 俺は今までなぜ忘れて……」


双眼鏡の先に映る母娘は別居中の羽毛田の妻と娘だ。

こうしてその姿を見せてみれば何かを思い出すと考えたのだがその目論見は成功したようだ。


「良かった…… 思い出せたみたいですね。アンタ今までとあるタチの悪い呪いのせいで自分のことをコムタクだと思い込んでたんですよ。

気分大丈夫ですか?」


私は自分の罪を棚に上げ羽毛田に説明し始める。

全く自分で自分の邪悪さに呆れ返るわ。


「くっそ……! 最悪だよ…… 明美、聡子……!」


そういいながらフラフラと車を降りようとする羽毛田を慌てて押し留める。


「ちょっとちょっと! ストップ! ストップ! イカれてることに周りもアンタみたいな中年ハゲをコムタクだと思い込んでるんですよ。誰も彼も今の今まで私たち以外アンタのことをコムタクだと思ってたでしょ? 今行ってもアンタの家族が混乱するだけです」


羽毛田は真っ青になり肩を震わせながら家族の方を見つめる。


「グッ……! 俺はいったいどうしたら…… 気付いたらコムタクと入れ替わってただと? なんなんだ! いったいどうなってる!」


「落ち着いて下さい。私たちもアンタとコムタクが元に戻るお手伝いをするんで協力しましょうよ」


「アンタも今のままじゃ家族に会えないでしょ? 困るわよね」


「くそっ……! いったい何が起こっとるんだ……?」


羽毛田は真っ赤になり激昂しながら座席をポカポカと叩き続ける。

……全てをバラしたら羽毛田もヤバ子も矛先を私たちに向けてくるだろう

内心で震えながら私たちはそれでもまだ詳しい経緯を告げる訳にはいかなかった。

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