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冬野つぐみのオコシカタ  作者: とは
第三章 冬野つぐみの出会い方

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井出明日人は説得する

「な! 靭さんに先生? どうして、お二人がここに?」


 突然の二人の登場に、つぐみは言葉を詰まらせる。

 つまり明日人との会話が、聞かれていたということではないか。

 驚くつぐみを見つめ、惟之が慌てた様子で部屋へと入って来る。


「えぇと、つまり何だ。……これはだね、冬野君」


 たどたどしい口調で惟之は話し始める。


「盗み聞きのようなことになり、すまないと思っている。だが何だか君の様子が変だということを、俺も品子も気になってしまっていてだね。そんな矢先に明日人が真剣な顔をして、君の部屋に向かっていくのが見えたものだから」

「……だから、鷹の目を使おうって言ったじゃないか」


 厳しい表情のまま、品子はつぐみを見つめてくる。


「いや、でもあそこにはヒイラギもシヤもいたから。何となくそのまま明日人を追って、ついていってしまったというか……」


 動揺している惟之とは正反対に、冷静な態度を崩さず品子が口を開く。


「明日人。君は惟之と私がついてくると、分かっていたんじゃないのかい? いや。あえて私達がここで話を聞くように、誘導したんじゃないか?」


 抑揚のない口調で品子は明日人に尋ねる。

 一方の明日人は、品子を見つめてふわりと微笑んだ。


「いやだなぁ。そんな器用なことを、僕が出来るわけないじゃないですか~」


 まさに「しれっと」という言葉がふさわしい様子。

 先程までの明日人の行動は、計画的なものだったのだろうか。

 だがそうなると明日人の意図は一体、何だろう。

 そう考えるつぐみの耳に、品子の鋭い声が届く。 


「つまり明日人としては、冬野君が発動者になるのを認めろと?」

「そこまで言うつもりはありません。どちらかといえば僕も、彼女がこちら側の人間になるのは反対ですから。でも二人とも、彼女の気持ちを聞いていたでしょう? 本人の気持ちを無下(むげ)にするのもどうかと、僕は思ったまでですよ」


 先程までの笑みを顔から消し、明日人は続ける。


「品子さんとしては白日の上の人達に彼女の能力を知られ、利用されることを懸念(けねん)しているわけですよね?」

「あぁ、そうだ」

「これに関しては、それほど心配しなくてもいいのではないですか? 基本的にさとみちゃんが、つぐみさんの中に入らなければ変化は起こらない。だったら必要時だけ、それを行うようにすればいい。あと、惟之さんに聞きたいのですが。さとみちゃんからは、発動者の気配を確認が出来ないと言っていましたよね?」


 突然に話を振られ、惟之は慌てて視線を明日人へと向ける。


「あ、あぁ。そうなんだ。さとみちゃんは、俺の鷹の目に反応しなかった。そばにいた品子の気配は捉えていたというのに」

「先日のつぐみさんの変化の際も、惟之さんは鷹の目を使っていましたよね? その時はどうだったのですか?」

「……やはり分からなかったよ。あの部屋にいたお前たちの気配は、しっかりと確認出来ていたんだがね」


 明日人はその言葉に、考えこむ様子を見せる。

 すやすやと眠り続けるさとみの頭をなでながら、彼は口を開いた。


「理論は分かりませんが、さとみちゃんはどうやら特別な存在みたいですね。つまりは組織の動きに気を付けてさえいれば、つぐみさんの能力は隠し通せるのではないかと僕は考えます」


 明日人の言葉に、思わずつぐみも続ける。


「あのっ! 私がその力を使う時に条件を決めて、行動するようにすればいいと思います。必ず靭さんか先生がそばにいる時のみに使う。そうすれば万が一の時には、先生が私を眠らせればいいですし、靭さんが一緒に居れば他の発動者の方の気配に気づいて下さるでしょうし!」

 

 つぐみの言葉に対し、抑揚のない声で品子は続ける。


「……そもそもがその約束を、君が守るという保証がない。君は誰かが窮地(きゅうち)に立たされれば、私や惟之が居なくてもその力を使おうとするだろう。それが仮に私達が知られたくないと言っている、白日の上の奴らだったとしてもだ。……ならばその条件は、全く意味がない」


 品子に対し、何も言い返すことが出来ない。

 確かにその状況になったら、何のためらいもなく自分は力を使うだろう。


「でも、()()()()()こそ、彼女の力があるのではないのですか?」


 黙りこくったつぐみを見て、明日人は穏やかな口調で品子へと語り掛けている。

 それに品子がうなずきながら、つぐみの隣へとやって来た。


「……確かにそうかもしれない。けれども君が傷ついたり、命にかかわることに巻き込まれてしまったら。そうなるのが私には耐えられないんだよ」


 品子からのありのままの思い。

 それを聞き自分の心にあるこの気持ちをどう伝えるか。

 それをつぐみは考えていく。


 ――自分も品子と同じように、素直な気持ちを、願いを。


「先生は以前、私に言ってくれましたよね? 私の念いはとても強いのだと。私は今、自分を信じ前を向いて皆と一緒に歩いて行きたいと考えています。確かに、今の私は頼りない存在です」


 かつての自分であれば、最初の明日人の説得に応じて守られることを選んでいただろう。

 そして守られるという幸せで穏やかな、けれどもとても小さな世界で生きていたに違いない。


「私自身が進もうと思えている限り、きっと成長できる。皆の力になれる存在になれると思うのです。いえ、なります! なってみせます!」


 胸に手を当て、つぐみは言葉を続ける。


「私はこれから先、何があっても諦めません。失敗しようが何だろうが、上手くいくまでです。私は何度でも自分の足で立ち上がり、前へ歩いて行きます。だから先生には、それを見守ってほしいのです」


 そう、自分は変わっていくのだ。

 気持ちを奮い起こし、品子からの返事を待つ。 

 返答を決めあぐねているのか、品子はつぐみを見つめたままで何も言わない。

 そんな品子の隣へ、惟之がやって来る。

 

「品子、お前が冬野君を思っているのは分かる。だが、だからこそ見守り導いてやることも、正しく動くことにつながるんじゃないのか」


 惟之の言葉に、思うところがあったのだろうか。

 品子の目に苦しみや喜びが混じりあった感情が、あふれ出してくるようにつぐみには映る。

 苦しいとは違う、喜びとも違う。

 複雑に混ざりあった表情を向けながら、品子はようやく口を開いた。


「……考えていることが一緒なのに。相手には諦めなさいなんて言ったら、駄目だよね」


 そう呟き、つぐみを優しく抱きしめてくる。


「諦めないのは大事、でも無理はしないで。大切なんだ、君のこと」


 どれだけたくさんの思いを、この短い言葉に込めているのだろう。

 品子からの言葉に生まれてくる、この感情は喜びなのだろうか。

 どうしたらこの気持ちを伝えられるだろう。

 頭の中にはいくつかの言葉が浮かぶ。

 でもそれらはどうしても、今の自分にはふさわしくないように思える。

 そう答えを出したつぐみは、言葉の代わりに品子の肩に頭をのせたままうなずく。

 今度は強くつぐみを抱きしめると、品子はぽつりと言葉を落とした。 

 

「わかった。……私は、君がこちら側に来ることを認めるよ」

お読みいただきありがとうございます。


次話タイトルは「井出明日人は提案する」

ずっと明日人のターン状態ですねぇ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 前回も今回も、相手に対する思いやりの応酬でございましたな。 皆がそれぞれ大切に思うものを壊さないよう、守るために考え動いているのに、その矢印が互いに向けば向くほど折り合いはつきにくいという……
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