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冬野つぐみのオコシカタ  作者: とは
第三章 冬野つぐみの出会い方

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冬野つぐみは語る

「ばばばーん! さとみちゃ〜ん、遊びーましょ!」


 品子がさとみに話しかけていく姿をつぐみは見守る。

 彼女の手には紙と色鉛筆が握られており、さとみは遊ぶという言葉にキラキラと目を輝かせた。


『あそぶ? 何してあそぶんだ?』

「じゃじゃーん。お絵かきでーす!」


 品子が、リビングの机の上に紙を広げる。

 そしてさらさらと鉛筆を走らせ、次々と動物の絵を描いていく。


『おぉ、しなこすごい! 友だちをかいて!』

「いいよー。さとみちゃんも、かきかきしよう! あ、明日人。君も何か描いてよ!」

「わー、絵心が試されちゃいますね。でも面白そう!」

『かきかき! する!』


 三人がわいわいと机の上に広げた紙を前に楽しそうにしている姿を、ヒイラギとシヤは微笑みながら見つめている。

 そんなにぎやかな様子を眺めながら、つぐみは二人に静かに近づいていく。


「ごめん、二人に話があるの。来てくれるかな?」


 二人がうなずいたのを確認し、自分が先頭となって和室へと向かう。

 彼らを先に部屋に入れると静かに襖を閉じ、心を落ち着かせていく。


 決意をもって、つぐみは振り返る。

 後ろにいたヒイラギは不思議そうな顔を。

 シヤはいつも通りの冷静な表情でこちらを見つめている。

 二人に座るように促し、口を開く。


「今から二人に、話をしたいの。私の、……家族の話を」



◇◇◇◇◇



『かきかきって楽しいな! しなこ!』

「それは良かった。さーて。次は何を描こうかなぁ?」


 鉛筆をくるくると回しながら、品子はさとみに尋ねていく。


『お花! おいしいやつ!』

「うはー、基準わかんなーい」

「あはは。この時期なら、朝顔やひまわりなんてどうですか? 品子さん」


 困った顔をした自分に助け舟をと、明日人がさとみの頭を撫でてから、黄色の色鉛筆でひまわりを描いていく。


「お、いいねぇ! じゃあ私は朝顔を描いてみよう」

『おいしいやつー!』


 さとみはバンザイのポーズをして、ぴょんぴょんとジャンプを始めた。

 嬉しそうな彼女の姿に笑みがこぼれてしまう。

 青色の色鉛筆を手に取り、品子は朝顔を描きはじめた。


 西洋朝顔の花言葉は、『愛情の絆』だったことを品子は思い出す。

 つぐみは今頃、ヒイラギ達に話をしているはずだ。

 家族から与えられるはずだった愛情を、受け取れなかった彼女。

 心に深い傷と喪失感を、ずっと抱えて生きてきた女の子。

 彼女の話を聞き、あの二人がどうするかは品子には分からない。


『どんな結果であろうと、二人の言葉を受け入れます』


 そうつぐみは言っていた。

 

『しなこっ! お花、ちゃんとかいてー!』


 さとみが品子の腕を揺すりながら、顔を覗き込んできていた。

 つい手を止め、考え事をしてしまったことに苦笑いをしてしまう。

 自分はつぐみと約束したのだ。

 だから今は、役目をきちんと果たさねばならない。

 彼女がヒイラギ達に話をする間、さとみをこのリビングに留まらせるようにと頼まれているのだ。


 泣いてしまうかもしれない。

 そんな姿をこの子に見られたくないからと。


「ごめんねー。どうしたらおいしいやつに見えるかなぁ? って考えてたー」


 慌てて答える品子にさとみは、うんうんとうなずく。


『それならしかたないな! おいしいは、すわなければわからないからな』

「そうそう、吸わなければ。……やってみなきゃ分からないからね〜」 


 そう、どんな結果になるかは。

 やってみなければ分からないのだから。



◇◇◇◇◇



 和室へと向かう間、シヤの前を歩くつぐみは何も話さない。

 とても緊張しているのだということは、シヤにも分かった。


 話があると言われた時、ひょっとしたらという思いはあった。

 数日前のつぐみがさらわれた事件で、誘拐犯の男に対し話していた言葉。

 彼女はずっと兄にわび続けていた。

 これに関わることではないのだろうかとシヤは考えている。


 品子につぐみの家庭事情を尋ねた際に、言われた言葉。


『彼女が自分から話すまで、もう少し待ってもいいんじゃないか』


 今がきっとその時なのだ。

 ならば自分は、品子から言われたようにきちんと向きあって聞こう。

 先に自分達を部屋に入れ、つぐみは閉じた襖に触れたまま、こちらに背を向け動かない。

 心配になったであろう兄が声をかけようとする。

 シヤはそっとそれを制し、彼女からの行動を待つ。


 くるりと振り返った彼女は、しっかりとした口調で話す。


「今から二人に、話をしたいの。私の、……家族の話を」

 


◇◇◇◇◇



 和室にはすでに座布団が三つ並べられている。

 そのうち二つ並んでいる方へと、シヤ達は座る。

 向かい合うようにして置いてある残りの一つにつぐみが座るのをシヤは見届けていく。


「私の家は世間で言う、裕福な家庭と呼べるものだったと思う。家族構成は父、母、兄、そして私の四人家族。兄は三つ上だから今は二十一歳、……かな」


 正座をして膝の上に両手をきちんと揃え、自分達を見ながらぽつりぽつりとつぐみが語り始める。


 最初にあったのは違和感。

『裕福な家庭と呼べるものだったと思う』

 つぐみは過去形で話を始めたのだ。

 だが続きを聞く限り、家族が亡くなっている訳でもなさそうだ。


 シヤは隣りにいる兄へと視線を向けた。

 真っ直ぐにつぐみを見つめたまま、ヒイラギは彼女が話す言葉に耳を傾けている。

 シヤはヒイラギがこの家に帰ってきた日のことを思い出す。


「冬野は実家に帰らなくて大丈夫なのか?」


 この家に帰って来た日に、ヒイラギがそうつぐみに尋ねたのだ。

 夏休みなのだし、実家に帰省もしたいかもしれない。

 シヤも気にはなっていたので、彼女の反応をと目を向ける。

 その時つぐみは、ほんの一瞬だが、怯えた表情を浮かべていた。

 だがすぐに、彼女は笑いながら答える。


「大丈夫だよ! だから、もう少しだけここに居させて」


 彼女は腰に手を当て、にこにこと笑っている。

 その後、品子が突然に会話に乱入し、その話はうやむやになってしまった。

 あまり自分の家族について、触れて欲しくないのだろう。

 当時のシヤはそう感じたものだ。


 更に思い返してみる。

 奥戸の事件の際の彼女の資料には、家族の詳細な記述が無かった。

 いや、その項目のページだけが抜けていた記憶がある。

 品子か惟之が自分達が読む前に、その部分を意図的(いとてき)に外していたのだろう。

 そんな家族の話を、彼女は自ら話そうとしているのだ。


 なぜ、このタイミングでなのかは分からない。

 だが彼女がその決意をしたというのならば、それに対しきちんと向きあうべきだ。

 それが今、自分がすべきこと。

 ヒイラギと同じように、真っ直ぐ彼女を見つめる。

 極度の緊張からか、つぐみの顔は真っ青だ。

 先程から所在なさげに、彼女の手が膝と腰を往復している。


 口を開きかけては止めてを繰り返すつぐみに向かい、シヤは声を掛けようとした。

 だが、その前にヒイラギが彼女へと語る。

 

「冬野の言葉で話せ。それまで俺達は待つ」


 兄の言葉に背中を押されるように、シヤも続けていく。


「そうですね、それでいいと思います。どうかつぐみさんのそのままの思いを、私達に」


 それを聞いた彼女は驚いた顔をした後、目を閉じておもむろに自分の両頬を両手でばちんと挟み込む。

 かなりの痛みがありそうな音だった。

 そう思いながら眺めたつぐみは、頬をおさえたまま笑っている。


「痛ーい。でもこれでやっと口が動きそう。私の言葉、私のこと。どうか聞いてもらえますか?」


 シヤがうなずけば、つぐみはゆっくりと話し始めた。

お読みいただきありがとうございます。


次話タイトルは「冬野つぐみは願う」

彼女が語るお話に、願いに二人はどう答えるのか?

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― 新着の感想 ―
[一言] 井出さんはもう保育士になれそうな感じですな(笑) それにしても蝶だから美味しい花とは、相変わらず可愛いですねぇ(*´ェ`*) 一方で別の部屋では真面目な話。 これまでチラホラとは出ていた主…
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