忘れ物?
つぐみにとって昨日は、とても奇妙な日だったと言えるだろう。
皆と賑やかにご飯を食べ、とても楽しい一日だった。
だが品子が、車に忘れ物を取りに行くと出て行った十数分後。
品子は頬が真っ赤に腫れた惟之を連れて帰って来たのだ。
忘れ物とは、惟之だったのか。
決して、そういった驚きではない。
だがこの状況は、初めて惟之と会った時を思い出す。
あの時は品子が頬を真っ赤に腫らして、帰って来ていた。
それが今度は惟之だ。
あの二人は一体、何をやっているというのだろう。
惟之はとても痛そうではある。
それなのに、とてもすっきりとした顔をしているのだ。
かつて品子に渡したように、保冷剤とハンカチの応急セットを彼へと差し出す。
笑顔でそれを受け取った惟之は、品子と三十分ほど話をして帰っていった。
顔を冷やすといえば、クラムは元気だろうか。
あの時の彼は、痛そうな怪我をしていた。
治っているといいとそっと願う。
連絡先は交換したので知っているが、さすがにこちらから連絡するのは恥ずかしい。
「……いつか連絡が来てくれたら、いいな」
つぐみの言葉は静かに、夏の夜に解けるように消えていった。
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次話タイトル「出雲こはね」
名前だけは出ていた出雲さん、やっとの登場回です。




