忘れ物?
つぐみにとって昨日はとても奇妙な日だったと言えるだろう。
皆と賑やかにご飯を食べ、とても楽しい一日だった。
だが品子が、車に忘れ物を取りに行くと言って出て行った後のこと。
品子は頬が真っ赤に腫れた惟之を連れて帰って来たのだ。
さすがにこれには驚いた。
(先生の忘れ物って、靭さんだったんだ。そういった驚きではない。うん、決して)
初めて惟之と会った時を思い出す。
その時は品子が頬を真っ赤に腫らして、帰って来ていた。
それが今度は惟之だ。
あの二人は一体、何をやっているというのだろう?
惟之はとても痛そうではあるのだ。
それなのに、なぜだかとてもすっきりとした顔をしている。
かつて品子に渡したように、保冷剤とハンカチの応急セットを差し出す。
笑顔でそれを受け取った惟之は、品子と三十分ほど話をして帰っていった。
(あ、冷やすといえばアンドリュ……。じゃなかった、クラム君は元気かな?)
彼も、痛そうな怪我をしていた。
治っているといいなとそっと願う。
連絡先は交換したので知っているが、さすがにこちらから連絡するのは恥ずかしい。
「……いつか連絡が来てくれたら、いいな」
つぐみの言葉は静かに、夏の夜に解けるように消えていった。
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次話タイトル「出雲こはね」
名前だけは出ていた出雲さん、やっとの登場回です。