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冬野つぐみのオコシカタ  作者: とは
第三章 冬野つぐみの出会い方

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夕食にて

「ううっ、おかしい! おかしいよこんなこと!」


 品子が鼻をすすりながら、台所で寿司を食べているのをつぐみはつい見てしまう。

 さぞ寿司は涙と合わさり、しょっぱい味がしていることだろう。


 リビングでは皆が。

 いや、正しくは品子以外の皆は、リビングで寿司を食べている。

 あれから『さとみの前で理性をしっかり保ちます』宣言をしたつぐみは、無事に解放された。

 だが品子は違ったのだ。


「も、もちろんするよ~。……多分」


 この言葉で、見事にフラグを立ててしまったのだ。

 その為、本日二回目の木津家会議にて、「品子は台所以外移動禁止」の議案が成立。

 ちなみにつぐみ以外は、全員賛成だった。

 それにより品子は、台所以外の他の部屋への移動を禁じられているのだ。


「うっ、ぐすっ。惟之はっ! こんな可哀想な私の姿を見て、何とも思わんのか!」

「……風呂とかの生活に必要な時の移動は、認めてやったんだ。十分な慈悲(じひ)だろうよ」


 吸い物を飲みながら、惟之は品子に声を掛けている。


「そうそう。素直にやりませんって、決意するだけで良かったのに。それが出来ないのなら自業自得だろう」


 甘エビの寿司を手に取ったヒイラギが、続けて話す。


「さとみちゃん。玉子食べる? これねぇ、甘い味がするんだよ」

『あまい? 食べたい! あすと、ちょうだい!』


 さとみと明日人は、すっかり仲良くなったようだ。

 嬉しそうに隣同士で並んで食べている。

 さとみはまだ箸が使えないので、明日人がそのつど彼女の口に「あーん」をしてあげているのだ。

 その姿につぐみの口からはつぶやきがもれる。


「うぅ、……羨ましい」


 理性が飛ぶといけないと、そっと見つめるだけにする。

 玉子をぱくりと食べたさとみは、目を大きく開いた。

 そうして立ち上がり、大きく手をぶんぶんと振り回す。


『おいしい! これおいしい!』

 

 そう叫びながら、きらきらと目を輝かせるではないか。

 次の瞬間、リビングにいた全員が自分の寿司桶から玉子を差し出そうとした。

 ――もちろん台所にいた品子も。


「品子姉さん。せめてものという気持ちでつぐみさんは、品子姉さんのお吸い物に多めにお麩を入れていましたよ。つぐみさんの優しさに感謝して、そこで大人しく食べていて下さいね」


 いつも通り淡々と、シヤが品子へと声を掛けている。


「ぐあぁぁ、足りないんだよぉ。ちっとも足りないんだよぉぉ。お麩が足りても、さとみちゃん成分が全然足りていないんだよぉ!」

「何だよ、そのさとみちゃん成分って」


 惟之があきれたようにつぶやいた言葉は、台所からの品子の呪詛(じゅそ)のような声にかき消される。

 品子は一生、台所から出られなくなるのでは。

 最後に残しておいたマグロのにぎりを堪能(たんのう)しながら、つぐみはそう思うのだった。



◇◇◇◇◇



「ううっ。美味しいはずのお寿司が、しょっぱいだけの味気ない食事になろうとは。……しかも私のおごりなのに。ううっ」


 皆が食事を終え、つぐみは台所で洗い物を始める。

 後ろからは、品子の恨めしそうな声。

 結局、今回は全て品子の支払いとなった。

 自分の分は払いたいと提案をしたが、品子からは二人のお祝いだからと言われごちそうになってしまった。


 さとみは今、シヤと一緒にお風呂に入っている。

 ヒイラギは、午前中に出来なかった課題を済ませるために自室に戻っていった。

 惟之と明日人は、リビングで茶を飲みながらゆっくりとしているようだ。

 それぞれが時間を過ごしているのを眺め、つぐみはこの場にいられる満足感に浸る。

 そんな中、浮かんだ疑問を品子へと尋ねる。


「先生、さとみちゃんは私の所に来てくれました。彼女のこれからですが、室さんと沙十美みたいな感じに、私の体の中に入ってくるんですかね?」


 つぐみの問いに品子は、しばらく考えこんでから口を開く。


「うーん。別に体内に居ないといけないというわけではないんだよね。別に彼女が命を狙われているわけでもないし。どうするかは、二人で話し合えばいいんじゃないかなぁ?」

 

 確かに行方不明扱いの沙十美と違い、こちらのさとみは他人に見られても困るわけではない。

 だが夏休みが終われば、つぐみは大学に行くことになる。

 そうなるとつぐみの部屋で、さとみを一人で待たせることになってしまうのだろうか。

 一人で部屋にぽつりといるさとみの姿を想像する。

 その彼女の姿に、過去の自分の姿が重なっていく。


 そんな可哀想なことは絶対にしたくない。

 ならば自分の中に居てもらった方がいいだろうか。

 悩むつぐみの視界に、シヤとさとみが風呂から出てリビングにやって来るのが映る。


「あれ、さとみちゃんパジャマ着てる? いつの間に?」


 つぐみの不思議そうな表情に気付いたシヤが台所にやって来た。

 冷蔵庫からお茶を取り出しながら、つぐみへと説明を始める。


「惟之さんが出雲さんに、連絡をしてくれていたみたいです。二条の方がこちらの家に、さとみちゃんのパジャマや下着などを一式、届けに来てくれました」

「さすが靭さん、というか出雲さん。自分もその視野の広さを見習いたいなぁ」


 二つのコップにお茶を入れたシヤは、その言葉にうなずきリビングへと戻っていく。

 シヤはさとみと二人で仲良く並ぶと、お茶を飲みはじめた。

 その愛らしさに、同じテーブルに居る惟之と明日人にも、そしてもちろんつぐみにも笑顔が浮かんでいく。


「……ふふ、可愛いのに手が届かないっていやぁね。本当に嫌になっちゃうわぁ」


 後ろからオネエ言葉で話す品子の言葉を、つぐみは聞かなかったことにする。


 一通り片づけは終わった。

 今のうちに、さとみと自分の体に入るかの相談をしておいた方がいい。

 リビングへ目を向ければ、可愛い女子二人組はちょうどお茶を飲み終わったようだ。

 つぐみはさとみと話すため、リビングへと足を進めた。

お読み頂きありがとうございます


次話タイトルは「変化」

お話もここいらで大きく変化をしてまいります。

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― 新着の感想 ―
[一言] お風呂上がり、ドライヤーの時間ですね さあきた私の出番だ! 温風で乾かした後に涼しい風で整えて櫛でとかしてツヤツヤにしなければ(←捕まりますね(笑)
[一言] とうとう謎成分が出るほどに、さとみちゃんの魅力が限界を突破しましたね(笑) そして無慈悲な判決が下された品子先生は、台所という名の牢獄で寂しくお寿司を食べたと……いや、まぁこればかりは幼女…
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