待ち人 驚く事あり
冬野つぐみは、悩んでいた。
待ち人来たらず。
おみくじに書いてありそうな文章が、頭に浮かぶ。
ヒイラギの目覚めから数日。
いまだ小さなさとみがつぐみの元に来る様子は無い。
自分なりに考えて砂糖水を作ったり、蝶の動きを真似してみたりと出来ることはやってきたのだ。
彼女が来てくれる為の挑戦はしてはいるものの、まだ努力が足りないということか。
「もー、どうしたらいいんだよー!」
答えが見つからず、思わず叫んでしまう。
「ふ、冬野君? どうしたの?」
つぐみの声を聞き、品子が部屋を覗き込んできた。
「す、すみません! ちょっと取り乱してしまいました。どうしたらさとみちゃんは来てくれるのかなぁって、考えていたらつい……」
品子はうなずきながら、部屋へ入って来る。
「悩んでいるねぇ。まぁ若いうちはいろいろと悩んだ方が、大人になったときにその経験が助けてくれることもあるさ。……さて、冬野君。さとみちゃんが来てくれないのは、どうしてだと思う?」
自分の目を見て、品子が答えを待っている。
真っ直ぐに見つめ返し、答えを考え始め、ふと気づく。
相手の目をきちんと見て話す。
以前の自分には出来なかったことだ。
「思いつくのは私に対して、まだ心を許していないからとか。……あまり考えたくないですが、私が受け入れてもらえる資質が無かったからでしょうか」
話していくうちに、心がちくりと痛みはじめる。
皆と違い、発動の力を持ち合わせていない自分。
数日前の倉庫での事件の時も、トラブルを引き起こしただけで、何もできなかった。
そんな自分に彼女を受け入れる資格がないから、彼女は来ないのだろうか。
「うんうん、なるほどね。ではその君の答えをふまえて、これから君はどうするんだい? どう動いていくのか、……って冬野君?」
痛い痛い、心が痛い。
どうしよう、自分は何もできない無力な存在だ。
そのこみ上げる感情のまま、つぐみは品子に思いをぶつけていく。
「せんっ、先生っ! 私に発動の力がないからですか? だからさとみちゃんは来てくれないの? 私がヒイラギ君や室さんみたいにきちんとした力が無いから、さとみちゃんは嫌なのですか?」
「いや、そういう訳ではなくてね。えっと、これはどうしたものか……」
彼女が困っているのが分かるのに、自分が止められない。
鼻がツンとして息が上手に吸えない、こんなところで泣いてはだめだ。
分かっているはずなのに、両目からは涙が出てきてしまう。
「わた、私は、わだじぃ、ううっ……」
「あの、ごめんね、冬野君。君を泣かせるつもりは無かったんだ。本当だよ。あぁ、どうしよう!」
つぐみは頭を抱えられるようにして、品子に強く抱きしめられる。
「……品子姉さん、何をしているのですか?」
聞こえてくるのは、とても冷たい声。
ぐすぐすと鼻をすすりながらつぐみが見上げた先には、シヤとヒイラギの姿があった。
「し、シヤ? あのこれは何というか、その……」
「先程、泣かせるつもりはと言っていましたね。つぐみさんに何をしたというのです?」
「品子、お前やっていいことと悪いことくらい、大人なんだから分かるはずだよなぁ?」
「えぇ、ヒイラギまでそんなこと言うの? いや、確かに原因は私だけれど……」
つぐみを抱えたまま、品子はおろおろとしている。
二人を勘違いさせたことに気づき、状況を説明しようとするが、泣いているせいでうまく言葉が出せない。
「じがうんでず。ぜんぜいがわるいばけでは……」
「『しなこぉ!』」
二つの声が品子の名前を呼ぶ。
二つのうちの一つの声は、ヒイラギだ。
その彼は驚いた顔をして、その場で立ち尽くしている。
隣のシヤも何があったんだという顔で、きょろきょろと周りを見渡していた。
品子は「あちゃー」と言わんばかりの顔で、つぐみの方を見ている。
つぐみはといえば鼻をすすりながら、シヤと同じように周りを見渡すことしか出来ない。
聞こえた声は、女の子の声だった。
だが該当する年代の子は、ここにはシヤしかいない。
だがシヤが、「しなこ」と呼ぶはずがない。
『しなこ、なぜ冬野を泣かす! いじめるのはだめだ! しなこはせんせいだろう!』
どこからともなく声が聞こえる。
同時に窓ガラスから聞こえる、小さく何かが当たるような音に導かれるように、皆が窓へと目を向けた。
そこには小さな白い蝶が窓ガラスに体当たりをするかのように、何度もぶつかっているのが目に入る。
驚いてその蝶を眺めることしか出来ないつぐみに代わり、品子が歩み出し窓を開いた。
蝶はするりと入ってくると、白い光を放ちながらどんどん大きくなっていく。
やがてそれは人の形になり、一人の少女がそこから現れる。
ずっと待っていた、来てくれると信じていた女の子。
白いワンピースを着たその少女、さとみがつぐみの前に立っていた。
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次話タイトルは「さとみはおそれをなす」
恐れる相手とは果たして誰を指すのか?




