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冬野つぐみのオコシカタ  作者: とは
第二章 10年前の昔話

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10年前の昔話 その10

「お、来たな品子。まずは座れ」


 三条の管理室の扉を開いた品子に、清乃が声を掛けてくる。

 部屋には彼女とその補佐役の井藤(いとう)が居るだけだ。

 品子は一礼をして部屋に入る。

 清乃は書斎机から部屋の中央にあるソファーへと移動して腰を下ろし、品子にも自分の向かいの席に座るように促した。

 品子が着席するなり清乃は、早口で話し出す。


「時間は取りたくない。手短に話すぞ。まずお前を『ご招待』した仁部という男。こいつは一条所属の下級発動者だ。そして一条からの報告によると『何も悪くない品子を傷つけてしまった行動に絶望して、その事実に耐えきれずに、衝動的に命を絶ってしまった』とのことだ」

「……そうですか。その報告の文言が昨日、仁部が私に発した言葉と酷似しているのは、一条からのこれ以上触れるなというメッセージと言った所ですか?」

「それをどうとらえるかは、お前の自由だよ。こちらとしても連れて行かれたとはいえ一条の管理地、ましてや特殊な場所に関係者でもないお前や惟之が入ってしまった。……この辺りとの相殺があると考えてくれればいい」

「わかりました。今後、私はどうすれば?」

「何も、だよ。つまりは互いに何もなかったことでおしまいと言った所だ」


 惟之の言った通りだ。

 自分達は上の指示に従うのみ。


「わかりました。ご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ありませんでした。このような事態を繰り返さないように、これからは十分に注意していきます」


 清乃は何も言わない。

 不思議に思い見上げた先の彼女の顔は、悔しさをにじませた表情にも見える。


「私の、私の力が及ばずこのような形になったのは、す……」

「清乃様。これは私の不手際(ふてぎわ)から始まったのです。そのようなことは、……そうですね。私の手料理で相殺と考えてくれればいい、でどうでしょうか?」


 ずいぶんと悲しい自虐だが、もとはと言えば自分の失態なのだ。

 清乃が自分に謝罪をするなど、決してあってはならない。

 その言葉を聞き困ったような笑みを漏らすと、清乃は品子の頭に手を伸ばしてきた。

 くしゃくしゃと強めに撫でられながら、優しい声が品子の耳に届く。


「お前もずいぶん言うようになったねぇ。頼もしい限りだよ。さて、そろそろ帰りなさい。ヒイラギ達を迎えに行っておくれ」

「はい、では失礼いたします」


 にこりと笑みを返して部屋を出る。

 ヒイラギ達は今日は天気がいいから、外で遊んでいるはずだ。

 扉を閉め、くるりと体を前に向ける。

 ふわりと、いつもはない自分の頬に髪が触れる感触。

 顔にかかるおくれ毛を、そっとかきあげる。

 予想外の清乃の行動のおかげで、ずいぶんと髪が乱れてしまった。

 そっと髪を直しながらその力強さに。

 自分の成長を認めてもらえた嬉しさに品子の頬が緩む。

 

 清乃に言われた通り、ヒイラギ達を迎えに行かねば。

 彼らの最近のお気に入りの場所へと品子は向かうのだった。

 


◇◇◇◇◇



「どうですか? 品子様の成長ぶりは」


 傍らで口元を綻ばせて清乃を見ている男に、同じように笑い返し清乃は呟く。


「成長してもらわないと困るんだよ。さっさと隠居して、こちとらのんびりしたいんだからな」

「そうですね、ですが当分は清乃様に頑張っていただかないと。今回の件といい、少し賑やかになり過ぎているところがありますから」

「あぁ、そうだねぇ。どうも最近、私はその賑やかさから外されているようだ」

「品子様がおっしゃっていた、発動が使えない場所の存在は清乃様はご存じでしたか?」

「……まったくあずかり知らないことだったよ。せっかくだからその件を一条様にお尋ねしてみたら『マキエ亡き後の祓いの今後を考えるために必要な場所として使用する。これ以上は一条の機密として答えられない』というありがたーいお答えを頂戴できたよ」


 不機嫌に語る清乃に、井藤が答えてくる。


「確かにマキエ様の後継者が現れていない以上、かように述べられたらこちらとしてはそれ以上は踏み込めませんね」

「まぁね、とはいえマキエが亡くなってからまだ日が浅い。それにもかかわらず、周到な準備をしているというのがどうも気に入らないね」


 清乃としては、そもそもがマキエの「事故」からいって気に入らないというのに。


『偶然に』マキエ自身の(けが)れを取り除くための儀式の日に、普段守護するはずの人間がおらず。

『偶然に』そのために代わりの守護をするために集められた人間が、よりにもよって各所属の幹部候補の子供達ばかりが集められ。

『偶然に』そこに落月が居合わせ、手違いが起こりマキエは亡くなってしまった。


 さりとて、これが仕組まれたことだという証拠は今の清乃の手元には何もない。

 確立した証拠もないのにそんなことを口にしたら、三条にどんな害が襲い掛かるか。

 だから今、清乃は黙るしかない。


 だがこちらとて、いつまでも大人しくしているわけではない。

 マキエが居なくなった今後は、三条に代わり一条が権力を握ることになっていくだろう。 

 各所属の力関係やしがらみなんぞは正直、こちらからすればどうでもいい。

 清乃が望むのは、マキエの事件の真相。

 そして三条の大切な子供達を守ること。

 悔しいがこれらの望みを叶えるには、今の自分にはまだ足りないものが多すぎる。

 時間はかかるだろうが少しずつ集め、それらを得ていかねば。

 今は黙して動かず。

 ……違う、わずかずつでいいのだ。

 

「私は。……いや、『私達』は必ずやり遂げてみせる』



◇◇◇◇◇



「見つけた!」


 三条の敷地内の奥まった一角。

 コの字状の建物の間の小さな広場で、ヒイラギとシヤは猫の人形と新たに品子がガチャガチャでゲットした犬の人形で、お芝居をして遊んでいるようだ。

 配役はヒイラギが猫役、シヤは犬役のようだ。

 建物の陰に隠れ、そっと様子をのぞきみる。


「ながれ星だ! おねがいをしよう。犬ちゃん!」

「しようー」

「ねこはね! ねこは、こうおねがいするよ! よくきいて!」

「はいー」

「えっとね、目にすなが入りませんようにー!」

「はいー」


 高々と猫を掲げ、ヒイラギは叫んでいる。

 ……そういえば風の強い日に、目に砂が入って痛がってシヤが泣いていたとヒイラギが言っていた。

 さすがは兄。

 妹をお芝居の中でも守るといったところか。


「か、可愛い! なんて可愛らしい従兄妹達なのだっ!」


 我慢できずに品子は駆け出し、二人をそのままぎゅっと抱きしめた。

 突然あらわれた品子に二人は驚き、きゃーと悲鳴をあげながら笑っている。


「もうもう! 可愛い二人に今日は、品子さんの秘蔵コレクションチョコを大解放して食べさせてやるんだから!」

「チョコたべる! やったー!」


 可愛らしい、二つの笑顔。

 大切な、二つの笑顔。

 ぐっと前に手を伸ばすと握り返してくれる、温かな二つの小さなぬくもり。

 そっと握りしめ、品子達は歩き出すのだった。

お読みいただきありがとうございます。


次話タイトルは「それからの今の話」です。

次の話で第二章は一区切りとなります。

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― 新着の感想 ―
[一言] どうか謝らせてあげてください! そう思ったのは自分だけではないはず。 品子ちゃん、キミが料理の練習をしないと将来大変なんだぜ……周りが。 そして一条は敵ですね。えぇ、私の中では敵と認定しま…
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