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冬野つぐみのオコシカタ  作者: とは
第一章 木津ヒイラギの起こし方

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42/320

ある喫茶店にて 再び

 その日、古津の経営する喫茶店はいつになくざわついた状態にあった。

 ほとんど女性客で埋め尽くされた店内。

 彼女達の話題は、つい五分ほど前に出て行った四人組でもちきりだ。

 いつも通りに現れた午後六時の君。

 そしてその後にやって来た、近所の大学の教師だという女性とその連れの男性及び女生徒の四人が起こした出来事。


 突然つまずいた女性に気づき、すぐさま席を立ち上がると自分の方に引き寄せる男性。

 そのまま優しく女性を自分の胸元へ抱き寄せた姿は、その場に居たほとんどの女性の心をわしづかみにしてしまった。

 そしてそれと同時にその女性とぶつからぬ様、同じく自分の元へ女生徒を引き寄せる午後六時の君。

 突然のハプニングにも表情を全く変えることなく、女生徒の肩に慈しむようにそっと腕を回し女生徒を守ったその姿。

 ミステリアスな雰囲気と若い男性にはない色気を漂わせた姿。

 それらがあいまって、彼女達には神々しくすら見えていたに違いない。


 目の前で起こったドラマのような出来事に、女性達は一様に目を輝かせその話に花を咲かせていた。

 周りの会話を聞いているアルバイトの女性も、頬を紅潮させトレーを抱きしめながらぽおっとたたずんでいる。

 女性というものは、こういったものが本当に大好きなのだな。

 彼女達を眺めながらつくづく思う。

 だが、のんびりと考え事をしている場合ではない。

 古津は頼まれていた最後の三つ目の依頼の片付けに入る。


 イトウからの三つ目の依頼。

 一番奥の席の足元にあるコンセントから、イトウに渡されていたコンセントタップを引き抜く。

 こんなものを六時の君の席の一番近いコンセントに挿しておいて欲しいとは、一体何がしたかったのだろう。

 だがこれで、とりあえず約束は守ったことになる。


 ドアベルの音が響く。

 振り返った先に、(くだん)のイトウがこちらに向かってやって来る。

 イトウは古津からコンセントタップを受け取ると、礼を述べて店を出て行った。

 謎が残る所ではあるが、おそらくこれ以上の介入(かいにゅう)は止めておいた方がいいと古津は考える。

 なんだか良く分からないことが続いて、少々疲れてしまった。

 ……今日は早めに閉店することにしよう。

 そう思い古津はアルバイトを呼び寄せた。



◇◇◇◇◇



「お待たせして申し訳ありません。回収完了しました」


 車に乗り込むと、イトウは後部座席に座る小柄な女性に声を掛ける。

 助手席に置いてあった黒い保護ケースに、コンセントタップを丁寧に戻すと車を発進させる。

 

「品子様を追いかけなくてよろしいのですか? 清乃(きよの)様」

「……井藤(いとう)、お前は品子に甘すぎる。そこまで面倒をみなきゃいけないなんて冗談じゃない。さっき手を貸してやったばかりだぞ」


 清乃と呼ばれた女性は鼻をふんと鳴らすと、窓の外の流れゆく景色を眺めながら答える。


「このまま本部へ戻る。もう少ししたら、あの子達も来るだろうし」


 バックミラー越しに女性を眺めながら、井藤はその「もう少ししたら」の二人の今後を考える。

 冬鳥のお嬢さんから伝言を聞いて、顔面蒼白になっているであろう二人に井藤は心から同情する。


「……だがまぁ、今回は許してやらんこともないな。落月のやつから予想外に面白い話も聞くことが出来たわけだし」


 歳は五十を越えているが、幼ささえ感じさせるような顔つき。

 だがその口から出てくる言葉は辛辣(しんらつ)なものばかりだ。


「しかし、あの冬野というお嬢さんは可愛いね。おっとりとしたところが、何だか誰かさんを思い出させるね。ふふ」


 口角を少し上げ小さく歯をのぞかせた後、すぐに笑いを収めて真顔に戻ると言葉を続ける。


「――さてと。久しぶりに、私も動いてみようかねぇ」

お読みいただきありがとうございます。

次話タイトルは「三条管理室にて」

小さいご婦人、そこそこ動きます。

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― 新着の感想 ―
[一言] きっと女性客の目には少女漫画のような、周りに花が咲き乱れてキラキラしている中に、室さんたちの姿が見えていたのでしょうね。 そして図らずもまた売り上げに貢献していくと…。 それにしてもこの店…
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