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冬野つぐみのオコシカタ  作者: とは
第十章 三条の転じ方

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靭惟之は確認する

 ヒイラギとシヤを、このまま連れていくべきか。

 惟之(これゆき)はその結論を出せずにいた。

 彼らと以前に約束していた、「自分達に出来ることがあったら、必ず呼んでほしい」という願い。

 それもあり、ここまで連れてきたものの、彼らの口数はいつにもまして少ない。

 当然であろう。

 清乃(きよの)の中に清春()が存在していることを、彼らは知ってしまったのだから。


 この事実が、彼らにどれだけの衝撃を与えたのかは計り知れない。

 ましてや自分は、それを知りながらもずっと黙っていたのだ。

 その負い目もあり、二人に直に意思を聞くことなく、ここまできてしまった。


 発動者にとって、動揺は大敵だ。

(おも)い』が揺らげば、能力は著しく損なわれる。

 やはりここは帰らせるべきであろうか。

 思い悩む惟之の耳に、鹿又(かのまた)の声が聞こえてくる。


「う~ん、おじさんってば、長距離運転で体がガチガチだわ。ちょっと外で体をほぐしてこようかねぇ。出雲(いずも)連太郎(れんたろう)も、一緒にラジオ体操でもしようじゃないか?」

「え? 自分はそのつもりはな……」

「まぁまぁ、九重(ここのえ)君。たまには体をほぐすのも悪くないと思うわよ」


 ぐいぐいと連太郎の背中を押しながら、出雲は車から降りていった。

 鹿又もその後に続くと、通りすがりに惟之の肩を軽く叩く。


「あまり時間をやれなくてすまんな。どんな結論でも間違っていない。お前からも、そう言ってやってくれ」


 三人だけで話を。

 鹿又のその配慮に感謝しつつ、惟之は苦笑いで答えていく。


「俺からではなくても、すでにこの子達には聞こえていますよ」

「あっれぇ、そうなの?」


 鹿又は大げさに驚く仕草を見せる。


「んじゃ、ついでに言っておくか。清春様の件、俺も初耳だったからびっくりしたし、何で言ってくれなかったんだろうって思ったよ」


 ヒイラギ達へと穏やかな視線を向け、鹿又は続ける。


「俺は清春様からすれば、裏切る可能性があったから言わなかっただけ。でも決して裏切ることなんてない君達に伝えなかったのはきっと、守る為なんじゃないかな。俺があの人の立場だったら、きっと同じようにしていたと思うから」


 ヒイラギ達からの返事を聞かず、鹿又はひらひらと手を振り、車から降りていく。

 彼から託された言葉を、引き継ぐのは自分だ。

 二人の正面に座り、惟之は前を見据える。


「連太郎と同じように、二人にも、この先の行動を決めてもらう」


 青ざめた顔色の二人が、自分を見つめ返してくる。

 シヤにいたっては、両手が震え、ヒイラギに手を握ってもらっている状態だ。

 こんな子達に、残酷な選択を突き付ける。

 あまり時間は残されていないこともあり、熟考(じゅっこう)する猶予(ゆうよ)すら与えてやれない。

 自分は何とひどい人間だろう。

 うつむきそうになるが、それは彼らに見せるべき姿ではない。

 

「今のヒイラギ達は、ひどく動揺している。この感情をもって救出に向かうのはとても危険だ。それを二人も理解していると思う。このまま帰るというのであれば、もちろんそれは構わない」


 目はそらさない。

 なぜなら自分は、見届ける必要があるからだ。

 彼らの表情から読み取れるもの。

 恐れ、不安、ためらい。

 ……だが、惟之の言葉を聞く彼らの感情の中に、安堵(あんど)は一切ない。

 つまり二人には、帰るという選択はないということ。

 ならば自分は、彼らの決断を見守り、その背中を押すだけ。


「俺がお前達を守る。不安や抱えきれないものがあれば、俺が全て受け止めるから」


 惟之の言葉に、シヤは目を閉じ、うつむいていく。

 やがて顔を上げた彼女の表情に、思わず惟之は言葉をこぼした。


「……シヤ?」


 笑っている。

 ごく小さな笑み。

 けれども、シヤは笑っていたのだ。


「ありがとうございます、惟之さん。九重さんが言っていたように、私もここにいていいのかと、ずっと考えていたんです。でも、……思い出せました」


 シヤの言葉を継ぎ、惟之は続ける。


「黒い水の事件での、冬野君が誘拐された時のことだね?」

「はい、品子姉さんに帰れと言われた時、それでも私達兄妹は拒み、最後まで皆さんと共にいました」


 そうだ、自分達にあの時、シヤは言ったのだ。

 帰るという選択をすれば、自分が許せなくなる。

 そんな後悔はしたくないのだと。


「やっぱりその時と、気持ちは変わらないのです。だからまたつぐみさんを助け出して、私はあの人に『おかえりなさい』と言いたい」


 強い意志を宿した瞳を、彼女は自分へと向けてくる。


「だから私も、最後までここにいさせてください。惟之さんの言葉で、それを言える勇気をもらえました」

「……そうか、わかったよ」

「おいおい、シヤ。品子のことも忘れちゃだめだろう? ねぇ、惟之さん」


 声に緊張を含みながらも、ヒイラギはにやりと笑って惟之を見つめてくる。


「俺も行くよ。あの時より、俺達はきっと成長しているから」


 シヤの手をそっと離し、握りしめた拳を彼は見つめる。


「冬野が俺達にくれたんだ。前を向く力を、進む力も。だから見ていてね惟之さん。俺達はきっとあいつを助けるために、役に立ってみせるから」

「……やっぱり兄さんだって、つぐみさんの話ばかりしているではないですか」

 

 めずらしく口をとがらせたシヤの表情に、惟之はつい笑ってしまう。


「よ~し、そっちは結論が出たようだな。俺もラジオ体操のおかげで、体がすっかり元気になったぞ」

 

 声の方へと目を向ければ、鹿又が機嫌よさそうに自分達へと近づいてくる。


「では、作戦会議を始めるとするか。ここに来るまでに入ってきた情報は今、出雲がまとめているからそれが出来次第、説明することにしよう。それぞれの発動を踏まえ、こちらで人員の振り分けと役割を決めさせてもらった」


 鹿又は胸ポケットから出した手帳に目を向けつつ、惟之達へと口を開く。


「指定された役割さえこなしてくれれば、やり方はそれぞれに任せる。ただ今から言う条件だけは、守ってもらいたい」


 顔を上げた鹿又は、言葉を続けていく。


高辺(たかべ)十鳥(とどり)を見かけた際は、どのような状況であろうが作戦を中断させ、撤退せよ。これだけは、何があっても守れ。絶対にだ」

お読みいただきありがとうございます。

次話タイトルは『松永京は語る』です。

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― 新着の感想 ―
シヤちゃあああん!!ああ、彼女がこんなにもはっきりと……!! そしてシヤちゃんにとってもヒイラギくんにとっても、つぐみしゃんの影響がとても大きいですね。二人にとって大事なひと、もちろん品子しゃんも助け…
そういえばシアちゃんとヒイラギくんも久々の登場ですねー うん、 もう少し品子姉さんを拾って下さいw まぁ普段の行いなのかな?笑 また品子姉さんと三人の絡みが見たいですね それが楽しみです(^^)の …
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