状況確認
「えーと、では皆の話をまとめていくよ。違ってたら、訂正を頼む」
品子の声につぐみはうなずき、皆と顔を合わせる。
ビルの三階の部屋。
ここに居るのは惟之、品子、明日人、そしてつぐみの四人。
連太郎はすでに帰ったと、惟之からは聞いている。
ある程度の話は報告は受けており、話をまとめるのには問題はない。
惟之からのこの言葉もあり、このまま状況確認を始めることになったのだ。
中央のテーブルに設置された椅子に、それぞれが腰を下ろす。
隣に明日人がやって来て、にこりとつぐみに一度、笑いかけて腰掛ける。
自分の正面の席に惟之、彼の隣に品子が席に着く。
全員が着席したのを確認した品子が、皆の顔を見渡しながら立ち上がると話を始めた。
「まずは、九重君が私達へのお土産を持って、先にこちらのビルに戻る。そのあと少しして冬野君と明日人が店を出ようとした。先に冬野君が店の外に出た際に、誘拐されている女性を発見。追跡を行った」
つぐみと明日人は互いに目を合わせるとうなずきあう。
「はい、その通りです。そのまま井出さんと通話の状態にして後を追いかけました。途中で罠だと気づいたのですが、結局は捕まってしまいました」
「つまりは誘拐されていた女性は、共犯ってことでいいのかな?」
品子がつぐみを見ながら尋ねてくる。
「はい、その通りです。おそらくですが、彼女が中心人物だと思います。後の二人の男性は付き従っているという印象でしたから」
「そして君から金を奪った後に、その場に鞄を捨てた。そして例の倉庫に連れていかれたと」
品子の言葉を聞き、つぐみは自分の膝の上の鞄を眺める。
「そして僕がつぐみさんから通話で聞いた道を辿りながら、途中で惟之さんに連絡をしました。シヤさんのリードと鷹の目をお願いして追跡を継続。その際に、僕が彼女の鞄の発見及び回収を行いました」
「明日人からの電話で品子がシヤに連絡を取り、リードで大体の場所を確認。鷹の目で見つけた倉庫の位置を明日人と連太郎に連絡。そうして向かってもらったという訳だ」
「はい、つぐみさんにしつもーん」
明日人が挙手をしながら、つぐみに尋ねてくる。
「僕が着いた時には既に、その主犯格の女性は居なかったよね。彼女はどこに行ったの?」
「それが、私にも分からないのです。突然、私の顔を見て怯えだしたかと思ったら、叫びながら出て行ってしまいました」
自分に付けられた左頬の傷に、そっと触れながら答える。
「顔ねぇ。冬野君はその女性に怯えられた理由とかって、思いつくことある?」
品子がつぐみの方にやって来て、まじまじと顔を見ながら質問してくる。
「それが、本当に突然だったんです。凄く怯えながら『嘘よ』とずっと繰り返していました」
「自分で連れて来ておいて怯えていた? よくわからんな。今の時点での冬野君のこの件の意見を、聞かせてもらえないか?」
惟之に促され、つぐみは答える。
「男性のうちの一人と話をした際に、その人は『誰でもよかった』と言っていました。ですので私だから狙われたのかというと正直、分からないです。ただ女性からは、私が何か気になると言われてはいたのですが。……ただの言いがかりだったのかもしれません」
「まぁ、確かに。あそこに行ったのも、明日人に誘われての偶然だしねぇ。うーん、やっぱり君が狙いじゃなかったのかなぁ。むー」
品子が唸りながら席に戻っていく。
「あとは……。組織ではなく三人だけと言っていたのと、証拠になりうる鞄に対する扱いがかなりぞんざいな所。それを考えると、落月ではないという気がします」
「そうだね、その意見に僕も賛成だなー。ところで惟之さん、連太郎君が倉庫に着いた時の状況って聞いてるんですよね?」
明日人が頬杖をつきながら、斜め前に座る惟之に尋ねる。
「あぁ。俺からの連絡を受け倉庫に入ったら、男が一人だけでいた。チャンスと思いそのまま冬野君から引き離して、彼女を確保したと聞いている」
「はい、その通りです。その後に井出さんが。さらにその後に先生が来てくれて、ここにいるということになります」
「うん、これで一通り確認は出来たかな? それぞれなにか質問あるかい?」
品子の呼びかけに、明日人が反応する。
「はいはーい。解析組は今回の三人組の追跡はどこまで進んでいるのですか?」
「一人は右腕を骨折してるから、こいつが一番みつけやすそうかな。後はあの辺りで三人組の美人局の被害の報告が複数あがっているんだ。こいつらがその該当者ではないかと俺は考えている」
「へぇー、美人局ねぇ。どういう感じの報告が来てるの?」
品子が惟之が持っていた書類を奪い、読み始める。
「ふーん、月並みだね。女性が仲間二人に襲われているふりをする。それを見かけた人が助けに入り、その相手から三人で金品を奪う。……ってこれ、こいつらだってほぼ確定じゃん」
「あの! その三人の特徴とかって、その資料にあるのですか? 私は全員を見ているので、同一人物か確認が出来ます」
つぐみの提案に惟之は、戸惑いの表情を浮かべていく。
「ショックが大きいといけないので、確認はもう少し後でもいいと思ったのだが、……本当に大丈夫かい?」
「はい。お気遣いありがとうございます、靭さん」
資料を受け取り、つぐみは目を通す。
「やはり特徴が一致します。この三人で間違いないです」
「ありがとう。お陰でこちらの確認が早く進みそうだよ」
「あ、ねぇ惟之。お前が倉庫で鷹の目を使った時、発動者の気配は無かったの?」
「あぁ、無かったんだ。だから少なくとも骨折野郎は、一般人ということになるな」
「んー、じゃあやっぱり落月じゃなかったのかなぁ。まぁその方がもちろんいいんだけどさ」
つぐみの存在が、落月に知られていない方がいい。
その意見に皆はうなずく。
「さてと。ある程度は確認が出来たことだし、そろそろ今日はお開きにしようか。冬野君、今日の夕飯は店屋物にしようか」
顔の傷を心配して、外に出なくて済むように考えていてくれるのだろう。
品子の配慮が嬉しい。
だが、甘えてばかりではいけないとつぐみは考えを口にする。
「いえ、いつも通りに買い物をしてから帰りましょう」
「そうか、ならば今日は私が冬野君の代わりにご飯を作るとし……」
「冬野君! 俺も今日はそちらで一緒に食べてもいいだろうか?」
品子の言葉を遮るように、惟之が話し出す。
「あー、惟之さんだけずるい! 品子さん、僕も! 僕もいいですか?」
「いいよ! 今日は惟之が皆に寿司をおごってくれるらしいから、明日人もおいでー!」
「おい。俺はそんなことは、一言も言ってないんだが」
「じゃあやっぱり私が、久しぶりに腕を振るうとい……」
「うん! 今日は、確かに寿司が食べたい気分だ。よし、みんな寿司にしよう」
品子の手料理を食べる位なら、出費の方がいい。
惟之の表情からは、それがみてとれるが財布の持ち合わせは大丈夫なのだろうか。
ともあれ、今日はとても賑やかな夕食になりそうだ。
この後のことを思い、つぐみは穏やかに微笑むのだった。
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次話タイトルは「皆で夕食を」




