表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
冬野つぐみのオコシカタ  作者: とは
第一章 木津ヒイラギの起こし方

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

28/320

状況確認

「えーと、では皆の話をまとめていくよ。違ってたら、訂正を頼む」


 品子の声につぐみはうなずき、皆と顔を合わせる。

 ビルの三階の部屋。

 ここに居るのは惟之、品子、明日人、そしてつぐみの四人。

 連太郎はすでに帰ったと、惟之からは聞いている。

 ある程度の話は報告は受けており、話をまとめるのには問題はない。

 惟之からのこの言葉もあり、このまま状況確認を始めることになったのだ。


 中央のテーブルに設置された椅子に、それぞれが腰を下ろす。

 隣に明日人がやって来て、にこりとつぐみに一度、笑いかけて腰掛ける。

 自分の正面の席に惟之、彼の隣に品子が席に着く。

 全員が着席したのを確認した品子が、皆の顔を見渡しながら立ち上がると話を始めた。


「まずは、九重君が私達へのお土産を持って、先にこちらのビルに戻る。そのあと少しして冬野君と明日人が店を出ようとした。先に冬野君が店の外に出た際に、誘拐されている女性を発見。追跡を行った」


 つぐみと明日人は互いに目を合わせるとうなずきあう。


「はい、その通りです。そのまま井出さんと通話の状態にして後を追いかけました。途中で罠だと気づいたのですが、結局は捕まってしまいました」

「つまりは誘拐されていた女性は、共犯ってことでいいのかな?」


 品子がつぐみを見ながら尋ねてくる。


「はい、その通りです。おそらくですが、彼女が中心人物だと思います。後の二人の男性は付き従っているという印象でしたから」

「そして君から金を奪った後に、その場に鞄を捨てた。そして例の倉庫に連れていかれたと」


 品子の言葉を聞き、つぐみは自分の膝の上の鞄を眺める。


「そして僕がつぐみさんから通話で聞いた道を辿りながら、途中で惟之さんに連絡をしました。シヤさんのリードと鷹の目をお願いして追跡を継続。その際に、僕が彼女の鞄の発見及び回収を行いました」

「明日人からの電話で品子がシヤに連絡を取り、リードで大体の場所を確認。鷹の目で見つけた倉庫の位置を明日人と連太郎に連絡。そうして向かってもらったという訳だ」

「はい、つぐみさんにしつもーん」


 明日人が挙手をしながら、つぐみに尋ねてくる。


「僕が着いた時には既に、その主犯格の女性は居なかったよね。彼女はどこに行ったの?」

「それが、私にも分からないのです。突然、私の顔を見て怯えだしたかと思ったら、叫びながら出て行ってしまいました」


 自分に付けられた左頬の傷に、そっと触れながら答える。


「顔ねぇ。冬野君はその女性に怯えられた理由とかって、思いつくことある?」


 品子がつぐみの方にやって来て、まじまじと顔を見ながら質問してくる。


「それが、本当に突然だったんです。凄く怯えながら『嘘よ』とずっと繰り返していました」

「自分で連れて来ておいて怯えていた? よくわからんな。今の時点での冬野君のこの件の意見を、聞かせてもらえないか?」


 惟之に促され、つぐみは答える。


「男性のうちの一人と話をした際に、その人は『誰でもよかった』と言っていました。ですので私だから狙われたのかというと正直、分からないです。ただ女性からは、私が何か気になると言われてはいたのですが。……ただの言いがかりだったのかもしれません」

「まぁ、確かに。あそこに行ったのも、明日人に誘われての偶然だしねぇ。うーん、やっぱり君が狙いじゃなかったのかなぁ。むー」


 品子が(うな)りながら席に戻っていく。


「あとは……。組織ではなく三人だけと言っていたのと、証拠になりうる鞄に対する扱いがかなりぞんざいな所。それを考えると、落月ではないという気がします」

「そうだね、その意見に僕も賛成だなー。ところで惟之さん、連太郎君が倉庫に着いた時の状況って聞いてるんですよね?」


 明日人が頬杖をつきながら、斜め前に座る惟之に尋ねる。


「あぁ。俺からの連絡を受け倉庫に入ったら、男が一人だけでいた。チャンスと思いそのまま冬野君から引き離して、彼女を確保したと聞いている」

「はい、その通りです。その後に井出さんが。さらにその後に先生が来てくれて、ここにいるということになります」

「うん、これで一通り確認は出来たかな? それぞれなにか質問あるかい?」


 品子の呼びかけに、明日人が反応する。


「はいはーい。解析組は今回の三人組の追跡はどこまで進んでいるのですか?」

「一人は右腕を骨折してるから、こいつが一番みつけやすそうかな。後はあの辺りで三人組の美人局(つつもたせ)の被害の報告が複数あがっているんだ。こいつらがその該当者ではないかと俺は考えている」

「へぇー、美人局ねぇ。どういう感じの報告が来てるの?」


 品子が惟之が持っていた書類を奪い、読み始める。


「ふーん、月並みだね。女性が仲間二人に襲われているふりをする。それを見かけた人が助けに入り、その相手から三人で金品を奪う。……ってこれ、こいつらだってほぼ確定じゃん」

「あの! その三人の特徴とかって、その資料にあるのですか? 私は全員を見ているので、同一人物か確認が出来ます」


 つぐみの提案に惟之は、戸惑いの表情を浮かべていく。


「ショックが大きいといけないので、確認はもう少し後でもいいと思ったのだが、……本当に大丈夫かい?」

「はい。お気遣いありがとうございます、靭さん」


 資料を受け取り、つぐみは目を通す。


「やはり特徴が一致します。この三人で間違いないです」

「ありがとう。お陰でこちらの確認が早く進みそうだよ」

「あ、ねぇ惟之。お前が倉庫で鷹の目を使った時、発動者の気配は無かったの?」

「あぁ、無かったんだ。だから少なくとも骨折野郎は、一般人ということになるな」

「んー、じゃあやっぱり落月じゃなかったのかなぁ。まぁその方がもちろんいいんだけどさ」


 つぐみの存在が、落月に知られていない方がいい。

 その意見に皆はうなずく。


「さてと。ある程度は確認が出来たことだし、そろそろ今日はお開きにしようか。冬野君、今日の夕飯は店屋物(てんやもの)にしようか」


 顔の傷を心配して、外に出なくて済むように考えていてくれるのだろう。

 品子の配慮が嬉しい。

 だが、甘えてばかりではいけないとつぐみは考えを口にする。


「いえ、いつも通りに買い物をしてから帰りましょう」

「そうか、ならば今日は私が冬野君の代わりにご飯を作るとし……」

「冬野君! 俺も今日はそちらで一緒に食べてもいいだろうか?」


 品子の言葉を遮るように、惟之が話し出す。


「あー、惟之さんだけずるい! 品子さん、僕も! 僕もいいですか?」

「いいよ! 今日は惟之が皆に寿司をおごってくれるらしいから、明日人もおいでー!」

「おい。俺はそんなことは、一言も言ってないんだが」

「じゃあやっぱり私が、久しぶりに腕を振るうとい……」

「うん! 今日は、確かに寿司が食べたい気分だ。よし、みんな寿司にしよう」


 品子の手料理を食べる位なら、出費の方がいい。

 惟之の表情からは、それがみてとれるが財布の持ち合わせは大丈夫なのだろうか。

 

 ともあれ、今日はとても賑やかな夕食になりそうだ。

 この後のことを思い、つぐみは穏やかに微笑むのだった。

お読み頂きありがとうございます!

次話タイトルは「皆で夕食を」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] バラバラの視点をこうやってひとまとめにするのは、見ていて分かりやすくて良いですね。 それにしても惟之さんの反応の早さよ…。 結果的にはお寿司になって財布には痛いけれど、体には優しかったの…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ