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冬野つぐみのオコシカタ  作者: とは
第六章 井出明日人の結び方

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井出明日人は決断する

 指先に集中させていた力を解除し、明日人(あすと)品子(しなこ)の額から指を離す。


「はい、これにて終了です。お疲れ様でしたー」

「うんうん、痛みもすっかり消えているね。相変わらずいい腕をしているな、明日人(あすと)は」


『結』と互いの治療を無事に終えた二人は、応接室で再び向かい合わせに席に着く。


「さて、これからのことになるのだけれど……」


 品子の言葉が途切れる。

 何者かに、会話を聞かれているのではないか。

 そんな品子の心配に気づいた明日人は、人差し指を口に当ててウインクをしてみせる。

 

『もう少し待っていてほしい』


 明日人の意図を理解した品子が、小さくうなずき返してくる。

 やがてノックもなく扉が開き、疲れた様子の惟之(これゆき)が入ってきた。

 扉を閉めるため二人に背を向けた彼が、サングラスを外し右手に持つのが明日人の目に映る。

 振り向いた彼の顔を見て、明日人は思わず「わぁ」と呟いていた。


「僕、惟之さんの千里眼(せんりがん)を初めて見ました。今までの片目と違って新鮮ですね」


 惟之に確認もなく、会話を始めたことで品子が慌てて立ち上がる。


「明日人、待って! それは今、話してい……」

「大丈夫だよ、品子。この部屋に入る直前に発動は済ませた。ここを監視している奴はいないよ」


 惟之の言葉に、品子はほっとした表情を浮かべて腰を下ろす。


「えっと。つまり明日人には、惟之がこの部屋に来るのが分かっていたということだね。さらには発動を行っていたことも。これは『結』の効果なのかい?」


 品子の問いに明日人は答えていく。


「はい、その通りです。鷹の目には及びませんが、『結』を行ったお二人の位置や発動の気配が僕にはわかるようになったみたいですね。とはいえプライバシーの問題もあります。普段はこの発動は行わず、今回のような非常時のみに使用することをお約束しておきます」


 品子の隣に座った惟之が、サングラスを机に置くと明日人へ視線を向ける。


「そうだな。お前のことだから悪用はしないと思うが、そこのところはしっかり頼む」


 苦笑いを浮かべ、答えた惟之を明日人は見つめる。 

 入室してきた時から気になっていたが、惟之の体調が(かんば)しくない。

 確か惟之は、緋山(ひやま)に治療をしてもらっていたはずだ。

 不思議に思い、明日人は惟之へと尋ねる。


「あの、緋山さんに治療をしてもらっていないのでしょうか? なんだか疲れが顔に出ていますけれども」

「いや、治療はしてもらったんだ。だがその後に、いろいろあってな……」


 どうしたことか、手のひらを見つめながら惟之は言い淀む。

 ぐっと手を握りしめると、惟之は自分へと視線を向けてきた。


「また中断されても厄介だ。話を進めよう。明日人、『結』は完了しているんだな」

「はい、無事に済ませてあります。では聞かせていただけますか? 『結』を急いだ理由を」


 惟之と品子が互いに目を合わせうなずきあうと、品子が口を開く。


「私から説明しよう、惟之は発動の継続を頼む。認識が違っていたらその時に訂正してくれ」

「了解だ。明日人も、何かしら気づいたことがあれば話をしてほしい」

「はい、わかりました」


 姿勢を正した明日人は二人を見つめる。

 ふうっと息をつき、品子は語り始めた。


「明日人、これは君からの話を聞いて私たち二人が出した結論だ。まずは十年前のマキエ様の事件からはじめようか」



◇◇◇◇◇◇



「つまりマキエ様の事故は、偶然ではなく何者かにより引き起こされたもの。それに結佳(ゆうか)様は巻き込まれ殺された。品子さん達はそう考えているということですか?」

「あぁ、そうだよ。それに……」


 ためらいを見せた品子に、明日人は言葉を続けていく。


「僕が四条に呼ばれたのも、母の事故ですら、仕組まれたものかもしれない。そう言いたいのではないですか」


 真基(まさき)の事件当時のおかしな行動と結佳の死亡。

 それにより弱体化したタイミングで送られた明日人の存在は、四条内でさらなる混乱を呼ぶことになった。

 それは『ある存在』にとっては、実に都合のいい展開だといえる。

 マキエの事件以降に、それらの()()が重なり飛躍的に力を伸ばしたのは一条のみ。

 品子達は具体的に口には出さないものの、彼らを疑っている。

 明日人はそれを確信していた。


「……断言はできない。だが、それだけのことを何ら躊躇(ちゅうちょ)なく行う存在があるとしたら。冬野君はそいつらにとって邪魔な存在ということになる」


 明日人の脳裏につぐみの笑顔が浮かぶ。

 穏やかで、人のことばかりを考えている陽だまりのような優しい子。

 確かにつぐみは、次期マキエになりうる資質を備えている。

 そんな彼女が、自分を守ってくれていた大切な人達と同じように命を奪われるなどあってはならないのだ。

 そんなことは絶対にさせない。 

 ならば、だからこそ……。


 ――それを理解し、次に自分がすべきことは。


 わずかの間、眉を曇らせた明日人はぐっと手を握りしめると、二人へと笑いかける。


「今日までにお二人と『結』が出来ていたのは幸いでした。これから僕は、しばらくあなた方との接触を、……絶ちます」

お読みいただきありがとうございます。

次話タイトルは「井出明日人は前を向く」です。


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― 新着の感想 ―
[良い点] いよいよ物語が動きますかな? うん、そろそろ主人公が出てくるに違いない笑 [一言] それにしても…… つぐみちゃんは、次期マキエ様の資質かぁ どうなるんだろう白日は('Д')?
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