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冬野つぐみのオコシカタ  作者: とは
第六章 井出明日人の結び方

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鶴海真那は戸惑う

十鳥(とどり)さん。ノックも無しに、いきなりどうしたのですか」


 明日人(あすと)惟之これゆきへ視線を向けている十鳥に対し、品子(しなこ)はさも驚いたふりをよそおい、後ろから呼びかける。

 品子はあえて、十鳥からは死角となる位置で待機し声をかけた。

 しかし彼はそれに驚くそぶりもなく、品子へと振り返ってくる。

 動揺を見せないその姿は、訓練でつちかわれていたものか。

 ……あるいは、品子が()()()()()()()()と把握をしていたのか。


 いずれにせよ、彼の訪問の目的を知る必要がある。

 どう聞くべきかと考える品子へ、十鳥は視線を合わせてきた。


 グレー無地のスリーピースを着こなす、鋭い目つきのこの男を品子は苦手としていた。

 彼の切れ長の目が、心を探るかのように自分を見ている。

 なぜだかそう思えてならないのだ。

 真一文字に結んでいた十鳥の唇は、品子と目があった途端に緩められ笑顔へと変わっていく。


「これは品子様。珍しい場所でお会いしますね」

「えぇ、お互いにそんなに頻繁(ひんぱん)に来る場所ではないというのに。しかしながら、許可もなく入ってくるなんて。驚きましたよ」

 

 ここは四条の管理地だ。

 情報を取り扱う二条の惟之はともかく、自分や十鳥にはあまり来ることのない場所でもある。

 十鳥は高辺(たかべ)と同様に、一条の長である吉晴(きはる)の秘書だ。

 さらに彼は本部内にいるときはほぼ吉晴に同行しており、単独で行動する姿などめったに見かけない。

 そんな男がわざわざ、ここにきた理由は一体何だというのか。

 品子はそれを探らんと声をかけていく。


「しかも息を切らしているご様子。この部屋の誰かに、それほどに急ぎの用でもありましたか?」


 このような無礼ともいえる振る舞いには、さぞかし理由があるのだろう。

 そういった皮肉も込め、品子は十鳥へと問いかけてみせた。

 髪の乱れを整えるかのように、オールバックにした髪に触れながら十鳥は答える。


「……いえ。なにやら穏やかではない声が、こちらから聞こえたような気がしたので」

「おや、それはおかしいですね。私達は特に声を荒げた覚えはないですよ。しいて言えば、あなたがお見えになった際に井出君が驚いて声を出したぐらいでしょうか」

 

 突然の入室により、話を中断せざるを得なかった。

 その思いがつい、強めの言葉となり品子の口から出てしまう。

 十鳥の姿越しに心配そうにこちらを見ている明日人と、「あまりやりすぎるな」と言わんばかりに唇を引き結んだ惟之の姿が目に入る。


 ……いけない、冷静にならねば。

 そう考えた品子は大きく息をつき、十鳥へと再び向き直る。


「……申し訳ない。見ての通り具合を悪くした人間がいるので、少し気がたっておりました」


 やつぎばやの品子からの質問から解放され、心なしかほっとした表情を十鳥は見せてくる。


「いえ、それこそ私の勘違いで突然にこちらへと入室してしまったのです。改めてお詫び申し上げ……」


 十鳥の言葉は、控えめなノックの音によってとどめられた。

 振り返った品子の目には、戸惑いの表情を浮かべ入り口に立つ鶴海(つるみ)真那まなの姿が映る。


「ごめんなさい、扉が開いていたので。あの、これは……?」


 入室する自身へと向けられた品子の視線の厳しさに、驚いた真那の足が止まる。


「真那さん。こちらがうかがってもよろしいでしょうか? 十鳥さんがどうしてこの部屋に、あなたとは違いノックもなく突然に入ってきたのかということを」

 

 品子の言葉に、真那は困った様子で十鳥を見つめている。

 その十鳥は、真那へと視線を合わせると笑みを浮かべていく。


「真那様、すみませんでした。この部屋でよくないことが起こっていると私が勘違いをしてしまいまして」


 自分への追求がそれ、真那へと移行したことで余裕が出来たかのような。

 そんな十鳥の態度に、品子の心に軽い苛立ちが起こる。

 一方の真那は、部屋にいる人物の顔ぶれや十鳥の言葉にかなり混乱しているようだ。


「これは一体、何が……?」

「本当にですよ、困ります。十鳥様」


 冷ややかな女性の声が新たに響く。

 開かれたままの扉の先には、真那の部下である緋山(ひやま)晴沙はるさが立っていた。


「突然に四条に来たかと思えば、真那様と話がしたいと勝手に連れ出さないでいただきたいです。さらには事務方からその連絡をもらい、お二人のために部屋の手配を私がしている間に、許可も得ずにこちらの部屋に入られたと?」


 緋山の言葉と真那の態度で、十鳥によって真那はただ連れてこられただけであること。

 同時に普段は穏やかなあの緋山が、大変に立腹しているということも品子は理解する。

 表情を消した緋山は、淡々と言葉を続けていく。


「十鳥様、真那様。いつまでもこちらにお邪魔するのはよろしくないでしょう。先ほど申し上げた通り、別の応接室を準備してあります。お二人はどうぞこちらへ」

 

 手のひらを彼らが来た廊下側へと示し、緋山は真那達へと視線を向けた。

 彼女の顔にはいつもの笑顔が戻り、丁寧な言葉で二人の退出を促している。

 だがその態度の端々に、断ることは許さないという意思を品子は感じずにはいられない。


「そうですね。皆様、大変失礼いたしました。真那様、では移動いたしましょう」


 かすかな動揺を浮かべながらも、はっきりとした声で十鳥は真那へと声をかけ扉へと向かい歩き始めた。

 十鳥は真那の隣に来ると、肩にそっと手を添え共に部屋を出ていく。

 そんな二人の姿を、緋山は笑顔のまま見つめている。

 だがほんの一瞬だけ。

 緋山が真那達へ鋭い視線を向けたのを、品子の目は捉えていた。

お読みいただきありがとうございます。

次話タイトルは「靭惟之は任せる」です。


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― 新着の感想 ―
[良い点] うわぁあぁ…… なんですかこの不穏な空気はヽ(´o`; [一言] シリアス回が終わってなかった笑 これはここからまた一波乱くるぞぉう( ゜д゜)!
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