ある部屋で
白日内にある枕敷きの八畳間の部屋。
ここにいるのは、父親と息子の二人だけだ。
そこから面した庭を眺める父親へ、息子が語りかけてくる。
「最近、獣が二匹ほどうろついていませんか?」
円熟といった言葉が相応しい相貌の父親は、淡々とそれに答える。
「あぁ。少々、煩わしい奴らがいるみたいだな」
こちらへと振り返った息子が、嬉しそうに続ける。
「だったら。邪魔なら早く、片付けた方がいいのでは?」
「……そうするにしても、理由が必要だ。下手に動けばその獣の庇護者から噛みつかれる。それではただ、こちらにとって面倒になるだけ」
「噛みつくだけでなく、引っ掻かれそうですよね。庇護者さんの爪はさぞ痛いでしょうねぇ、ふふ」
息子の口元は柔らかく微笑んでいる。
だがその目尻は下がることなく、軽く曲げた自分の指の爪を見つめたまま。
その右目尻の下にある泣きぼくろが、憂いを帯びているように父親には映る。
うつむいたその視線は、彼の言葉の真意を隠しているかのようだ。
『我が息子』ながら、くえない男だ。
父親はそう思いながら口を開く。
「いらぬ波風を立てる必要は無い。今は祓いの延期といい、落ち着かない状況が続いている」
父親の言葉に、息子は不満げに尋ねてくる。
「逃げ出していた麗しいあの方のご機嫌は、良くなったのですか?」
「こちらは約束を守った。機嫌が良かろうが悪かろうが関係ない」
父親は不機嫌そうに呟く。
「与えられた仕事をこなす。それだけやっていればいいのだよ。使われる側はな」
その言葉を受け、再び小さく口元に弧を描き、息子は返事を戻す。
「そうですよね、余計なことはしなくていいんですよ。彼らも大人しく利用されていればいい。それでうまく回っていくのですから、ね」
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次話タイトルは「井出明日人は条件を出す」
果たしてつぐみはその条件をクリアできるのか?




