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冬野つぐみのオコシカタ  作者: とは
第一章 木津ヒイラギの起こし方
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ある部屋で

 枕敷(まくらじ)きの八畳間の部屋にいるのは二人の男。

 そこから面した庭を眺めながら、若い男がもう一人の人物に語りかける。


「最近、獣が二匹ほどうろついていませんか?」


 老いではなく、円熟(えんじゅく)といった言葉が相応しい相貌(そうぼう)の男がそれに答える。


「あぁ。少々、(わずら)わしい奴らがいるみたいだな」


 若い男は振り返ると、部屋の中央に座る相手に嬉しそうに続ける。


「だったら。邪魔なら早く、片付けた方がいいのではないですか?」

「……片付けるにしても、何かと理由も必要だろうに。下手に動けばその獣の庇護者(ひごしゃ)から噛みつかれる。それではただこちらにとっては、面倒になるだけだろう」

「噛みつくだけでなく、引っ掻かれそうですよね。庇護者さんの爪はさぞ痛いでしょうねぇ、ふふ」


 口元は柔らかく微笑んでいる。

 だがその目尻は下がることなく、軽く曲げた自分の指の爪を見つめている。

 その右目尻の下にある泣きぼくろが(うれ)いの表情のように見え、彼の言葉の真意を隠しているかのようだ。


『我が息子』ながら、くえない男だ。

 老いた男はそう思いながら口を開く。


「いらぬ波風を立てる必要は無い。今は(はら)いの延期といい、落ち着かない状況が続いている」

「逃げ出していた(うるわ)しいあの方のご機嫌は、良くなったのですか?」

「こちらは約束を守った。機嫌が良かろうが悪かろうが関係ない」


 若い男と対照的に、老いた男は不機嫌そうに呟く。


「与えられた仕事をこなす。それだけやっていればいいのだよ。使われる側はな」


 その言葉を受け、再び小さく口元に弧を描くと彼は返事を戻す。


「そうですよね、余計なことはしなくていいんですよ。彼らも大人しく利用されていればいい。それでうまく回っていくのですから、ね」

お読みいただきありがとうございます。

次話タイトルは「井出明日人は条件を出す」

果たしてつぐみはその条件をクリアできるのか?

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