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冬野つぐみのオコシカタ  作者: とは
第四章 人出品子の求め方
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人出品子と井出明日人は絡まる

「くっくっく! 分かり合えないというのは悲しいなぁ、明日人」

「そうですね。やはり互いに譲れない。となるとこうなるのは、もはや運命だったということですよ!」


 冷静になって話をして欲しいとつぐみは願っているのに。

 不穏な空気はリビングで高まっていく一方だ。


「どうやらここでもう一度、お披露目がして欲しそうだねぇ。明日人は」


 品子が、手のひらを上にかざして明日人を見つめる。

 その様子に惟之が、慌てて声を掛けていく。


「おいっ! 品子! まさかここで発動を行うつもりか!」

「だーいじょうぶ! 髪は結っているし、範囲は絞るからそちらには影響ないさ」


 つぐみ達を振り返りながら、品子は嬉しそうに笑っている。

 発動という言葉に、つぐみは今までに品子が使っていた能力を思い返す。

 品子の発動能力は、記憶の操作。

 つまりは明日人を操るということ。


「あれ? でも仲間同士での発動は、禁止のはずですよね? しかもそれを以前、先生から教えてもらったような……?」

「それを聞いて、僕が素直に発動させると思いますか!」


 品子から一歩しりぞくと、明日人は笑みを貼り付けたまま、両腕をぐるりと大きく回す。


「え? 何だか分かりませんが駄目ですっ! 止めてください! って、何これ?」


 事情も分からぬまま、つぐみは二人の方へ踏み出そうとするが、その先の光景に言葉を失う。

 いつの間にか品子と明日人が、お約束の延長コードに二人そろってぐるりと巻かれていたからだ。


「……いつもすまない。ヒイラギ」

「いいえ。うちの従姉と、なんかよく分からない医者みたいな人がお世話になりまして」


 惟之とヒイラギの会話を聞いた、ぐるぐる巻き二人が騒ぎ始めていく。


「なんだよそれ! 私が惟之をお世話してるんだよ! 逆だろう、ヒイラギ!」

「ちょっと! ヒイラギ君! 僕に対する認識がひどくない! しかもこの体勢、苦しいんだけどー!」


 いびつな二人三脚のようにぴったりと密着し、わいわいと叫んでいる二人。

 しかも品子の片手と、明日人の両手が上げられたままの状態で一括(ひとくく)りに縛られている。

 これは確かに苦しそうだ。

 そしてなんだかとても、間抜けな光景だとつぐみはぼんやりと考える。

 そんな縛られ組のターゲットはつぐみへと移行していく。


「冬野君! こんな非道な扱いを見た君は、もちろん我々を助けに来てくれるのだろう?」

「そうだよ、つぐみさん! こんな可哀想な僕達を、君は見捨てるわけないよね?」


 二人そろって、涙目になってつぐみを見つめてくる。

 確かに少し可哀想だと考え彼らの方に向かい一歩、歩み出すと惟之がつぐみに話しかけようとしてきた。


「冬のく……」

「余計なことを言うんじゃねぇぇ! お前はそこで大人しくたれっとけよ!」

「そうですよ! 今は僕達がつぐみさんの優しさにつけ入る、大事な場面なんですよ。惟之さんはそこで、いとおかしくたれていて下さいよ!」


 つぐみの後ろでヒイラギが「うわぁ、馬鹿だぁ」と小さく呟くのが聞こえる。


 つぐみは大きく息を吸い、ゆっくりと吐き出す。

 そして、ぐるぐる二人組へとにこりと笑ってみせた。

 もとから笑顔の明日人と、つぐみにつられてひきつった笑いを浮かべる品子。

 品子はともかく、明日人はこの展開を狙っていた確信犯であったとつぐみは理解する。

 彼らを見つめ、スマホを手に取りつぐみは電話をかける。


「あ、もしもし。シヤちゃん? 全て終わったよ。もう帰ってきていいからね。そう。ちょっと帰ってきたら、驚くかもしれないけど。……うん、気にしなくていいから」


 しんとした部屋の中。

 つぐみの声だけが、リビングに響いていた。



◇◇◇◇◇



「ううっ、ごべんなさい。本当に反省していばす」

「僕もです。だからせめて、手を解く位までは許してもらえませんか? あ、シヤさん! さとみちゃーん! 助けて! 僕の腕が死んじゃう!」


 もはや変なオブジェのように、リビングで展示物状態になっている品子と明日人を帰って来た二人が、呆然と見つめている。

 先に我に返ったさとみが、恐る恐るといった様子で二人に近づいていく。


『しなこ、あすと。なかなおりできたのか? これがお前たちの、なかなおりのぎゅっなのか?』


 そう話しながら二人をぺたぺたと触っている。


『違うよ、さとみちゃん』


 部屋にいる全員がそう思っていた。

 だが言われた当の本人達は、さとみの言葉と触ってもらったことに癒されたのだろう。

 でれでれと鼻の下を伸ばし、それはもう嬉しそうに笑っている。


「だめだ。この人達、ちっとも反省していない」


 そう呟くつぐみの後ろから、ヒイラギと惟之の会話が聞こえる。


「……ヒイラギ。延長コードは、まだ残っているか?」

「大丈夫だよ、惟之さん。コードはもうないけど、縛るものだったら他にもたくさんあるからさ」


 これから一部の人間が叫びはじめる。

 そう察したつぐみは台所へお茶の準備に向かう。


「おっ、解けた! 惟之っ、さっきはよくも! ……っておい! ヒイラギ、なんでまた縛るんだ!」

「あっはは~! 愚かですね、品子さん。口はわざわいの元なんで……。 えっ! 何で! 何で僕もなの!」

「当たり前だろう! 個別になっただけでもありがたく思えよ!」

『おおっ! しなことあすとが一人でぐるぐるにかわったぞ! なんだこれ、すごいな!』


 さとみの興奮気味の声を聞きながら、つぐみはコップにお茶を注いでいく。


「あっは~ん、さとみちゃん。助けておくれよ~! それか、私をなでなでしておくれよ~」

『わぁ。なんだかしなこが、きもちわるいぞ! これゆき、どうしたらいい?』

「うん、さとみちゃんはこっちに行こうか。冬野君がお茶を準備してくれているようだしな」

『うん、のどかわいた! 冬野! おちゃちょうだい! あれ? しなこないてるぞ~。どうしたんだぁ?』

お読みいただきありがとうございます。


次話タイトルは「冬野つぐみは探りを入れる」です。


次話は7月5日午前7時頃投稿予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] おっ、二人の暴走っぷりが限界を超えて、とうとう木津家最高裁判官・ヒイラギの裁きが下りましたなww それにしても品子先生はいつも通り?ですが、井出さんの方は意図してこの状況を楽しんでいたんで…
[一言] 「さとみちゃん。見ちゃいけません」 と言いたい(笑) きたー!最新話まで追いついたー! うー!ビクトリー!!
[一言]  戦争は平和的に収束しましたね!(大笑い)  さとみちゃんが可愛いなあ!  (大笑い)  (大笑い)
感想一覧
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