冬野つぐみは知りたがる
資料の読み込みと品子達からの話により、つぐみは白日のことを学び始めていた。
白日は、大きく分けて四つの所属先がある。
それぞれ一条から四条までに分けられており、惟之は二条、品子と木津兄妹は三条、そして明日人は四条に所属している。
かつて白日には、発動者の痛みや反動を抑えることが出来る『マキエ』と呼ばれる人物がいた。
だが十年前に起こったある事故により、惟之は片目と発動能力の一部を、そしてヒイラギ達は母親であるマキエを失ったのだという。
おかしいではないか。
マキエの子供であるヒイラギ達が、なぜ虐げられねばならない。
「先生、ヒイラギ君達はなぜ、ひどい扱いを受けているのですか?」
つぐみの問いかけに品子は、戸惑いの表情を見せてくる。
惟之と出雲は本部に用事があり、今は仮二条資料室には二人しかいない。
あまり触れて欲しくない話だとは理解しているが、今ならば品子も答えやすいのではないかという思いもある。
「君が意味も無く、こんな話をする人間ではないことは分かっているよ。だからそんな顔しなくていい」
かなり情けない顔をしてしまっていたようだ。
反省するつぐみの頭を、優しく撫でてから彼女は続ける。
「白日はマキエ様の浄化能力を手に入れたい他の組織から、ひどい妨害や嫌がらせを受けることが何度もあったんだ。あの方が亡くなったことによりそれまでの鬱憤や不満、怒りが全てヒイラギ達に向けられてしまったんだよ。さらにマキエ様の後継者が十年たった今でも現れないことが、苛立ちの矛先を、向かわせることになったのだと思う」
「そんな。でも、それは……」
「そう、彼らには何も非がない。でもやり場のない怒りは、どうしても弱者へと向かってしまう。悲しいことだけれど」
ひどい話ではないか。
だが同時に、つぐみの中に新たに芽生えるのは違和感だ。
「冬野君?」
「先生。まだ白日という組織を、あまり理解していない自分が言うのも変だとは思います。ですが何か、納得がいかないというか」
「うーん。私の知る限り君の感覚は、真実を見つけているものだけに気にはなるね。どうしたんだい?」
「まだ言葉に上手くできないというか。もう少し白日の知識が欲しいです。ですので一つ、お願いがあります」
◇◇◇◇◇
「失礼します。九重入ります」
「あぁ、どうぞ入ってくれ」
品子が入室するように促せば、扉が開き一人の少年が姿を現す。
資料室へと呼びよせた九重連太郎を、品子は笑顔で迎え入れる。
なぜ自分が呼ばれたのか。
そう顔に書いてある少年に、品子はある頼みごとをしていく。
不思議そうに聞いていた彼は最後まで聞き終わると「わかりました」と短く答えてくれる。
「では九重君、お願いするよ」
「はい、品子様。お任せください」
「普通に接してくれるだけでいい。彼女は今、このビルの入り口で先に待っているから」
「はい、では行って参ります」
「ごめんよ、君が高校生だと聞いてね。年が近い方がいいと思ってお願いしたけど、迷惑だったら断っていいんだよ?」
九重は、真面目な表情を変えることなく品子を見つめてくる。
「とんでもないです。自分に出来ることでしたら、いつでもお手伝いさせてください」
「ありがとう、惟之にはこちらから言っておくから」
「はい、よろしくお願いします」
九重が扉を閉めた後、しんとした部屋の中で品子は思う。
――さてさて。
冬野君は彼から、何を引っ張り出してくるのだろうねぇ。
お読みいただきありがとうございます。
次話タイトルは「九重連太郎」
前作を読んでくださっていた方は、彼の存在を覚えているでしょうか? というくらいの存在感だった彼のお話です。




