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冬野つぐみのオコシカタ  作者: とは
第四章 人出品子の求め方
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井出明日人は言いよどむ

「それならば、女性を向かわせれば良いのでは? そう、例えば出雲さんとかだったら!」


 明日人からの提案に、惟之は首を横に振る。


「おそらく無理だ。仮に出雲が向かうとしよう。部屋の中で出雲が品子に見入ったままで、行動不能になって終了だよ」

「つまり、誰も部屋に入ることが出来ないと?」

「あぁ、そうだ。だから解決方法としては、品子が意識を失うこと。それでようやく発動が解除され、あの部屋に入れるという訳だ」

「では僕達は、ただ待つしかないと」

「残念だがその通りだ。まぁ、他にも方法はある。品子が自分の力で、発動を抑え込むこと。だがこちらは正直、難しいな」

「そうですね。品子さん、ひどく動揺していますから」


 今の品子の状況が、明日人には分かるのだ。

 助けたいのに、手が届かない。

 さぞ彼は、やりきれない思いを抱えていることだろうと惟之は思う。


「つぐみさんとは違う意味で治療が施せない。自分の無力さが嫌になりますね」

「そう自分を責めないでくれ。そういった意味で言ったら、俺はお前さん以上に無力だよ」


 惟之の言葉に明日人は、悲しげな眼差しを向けてくる。


「すみません。誰が悪いわけでもないですものね。こればかりは」


 独り言のように、明日人は呟く。

 だがすぐに惟之を見上げ話を続ける。


「あの、状況は理解しました。惟之さん、先程の発言の数々。知らなかったとはいえ、申し訳ありませんでした」


 ソファーから立ち上がり、明日人が惟之へと頭を下げる。

 

「俺の方こそ説明が足らずに不快な思いをさせてしまったな。すまなかった。頭を上げてくれ」


 惟之も同様に立ち上がると、明日人に座るように促す。

 ソファーに再び座った彼は、何やら言いたげな表情で惟之を見てくる。

 

「……ここは二人だけだ。言いたいことがあるのなら、……聞くぞ」


 惟之の言葉に明日人は、ためらいと好奇心が混ざりあった表情を浮かべた。


「ん〜、ではお言葉に甘えて。惟之さんが今、鷹の目を使っていないのは。……その、やっぱり」


 普段は惟之に対して遠慮のない明日人が、珍しく自分に対して言いよどんでいる。


「その、品子さんの姿を鷹の目で見ることすら、危険だということですか?」

「……確かに聞きづらく、答えづらい質問ではあるな。だが、聞くぞと言ったのは俺だったからな。明日人、お前は今はどうだ?」

「僕ですか? 僕は今の所、品子さんの姿を直接に見ているわけではないので、特に感情や体に変化は無いですねぇ」

「そうか。俺は……。発動してない時点で、答え合わせは出来ているか。あいつを相手には言いたくないが」


 惟之は明日人へ苦笑いを浮かべる。


「惟之さんでも、そんな状態になるのですか。僕が今、品子さんの姿を直に見てしまったらと考えると。うーん、ちょっと洒落にならないですねぇ」


 困惑顔で頬をかきながら、自分に向けて話す明日人の表情。

 その顔にはまだ、思うところがあると感じた惟之は明日人へと問う。


「……まだ何か、ありそうだな」


 その言葉に、明日人は大きく目を見開いた。

 何も言わず、惟之は明日人を見つめる。

 明日人が言おうか言うまいか、悩んでいることくらいは分かる。

 それが好奇心によるものか。

 あるいはより親しくなりたいという願いから、彼女を知りたいがゆえのものか。

 こればかりはさすがに惟之には分からないが。


 しばしの沈黙の後、戸惑いながらも明日人は口を開く。

 ゆっくりと、言葉を選びながら彼は話を始める。


「昔、噂を聞いたことが、……あります。品子さんが初めて妖艶を使った時に、その……」 

「その噂の結末は? お前が聞いた話の結末はどうなっていた?」


 いつも通りに、声が出せなかったようだ。

 かぶせ気味に語る惟之の声を聞き明日人はうつむくと、「すみません」と小さな声で謝ってくる。


「言葉が過ぎました。誰しも、立ち入ってはいけない部分はあるのに。……でも」


 ぐっと顔を上げると、惟之を見つめ明日人は話を続ける。


「単なる興味や好奇心で、聞いたのではない。どうか、それだけは信じてください」


 明日人は真剣な眼差しで、惟之の顔をまっすぐに見返して来た。

 そんな彼に対し、どう答えるべきかを惟之は考えていく。

 そうしてから、ようやくまとまった結論を。

 自分の知りうる事実を伝えるために惟之は口を開いた。


「俺が、明日人に対して言える言葉ではなかった。すまない。謝るのは俺の方だ」

「いえ、惟之さんっ! それは違っ……」

「初めて品子が妖艶を使ったときの件だが。俺はその場にいたわけではないから、話すことが出来ない。その場にいた人間は、品子以外の全ての人間は」


 自分の動揺をさらけ出さないように。

 一度、大きく息をつくと再び惟之は話を続ける。


「品子以外の事件の関係者は皆、『いなくなって』いるんだよ。だから真実を知り、語ることが出来るとすれば、それは品子本人だけだ」

お読みいただきありがとうございます。


次話タイトルは「靭惟之は思い返す」です。

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― 新着の感想 ―
[一言] かなりデリケートな話題ですし、二人にとっても待つだけなのは中々にしんどい時間ですよね……。 品子先生も制御できない状態ですし、女性が行けばと思えば同性までも魅了してしまうとは(;´Д`) …
[良い点]  更新ありがとうございます。 [一言]  惟之さんがいいださないから女性でも助けに行くのは不可能なんだろうと思ってましたが、やっぱり。  そして衝撃のラスト二行。  次回をかたずをのんで…
[良い点] おわぁあ! 衝撃的な告白ですね ラストに驚きです( ゜Д゜)!
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