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冬野つぐみのオコシカタ  作者: とは
第三章 冬野つぐみの出会い方

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チョコレートは魔を誘う

今回は番外編ということで、チョコ大好きなさすらいの料理人+α視点にてお送りいたします。

楽しんで読んでいただけますように。

 皆様こんにちは。

 人出品子です。

 本日は、朝の木津家からお送りしております。


 さて冬野君がこの度、めでたくもこの木津家に住むことになりました。

 いや、これは本当にめでたいのです。

 一人暮らしというものは、他人に気を遣わなくていいという利点があります。

 ですが一方では、時に襲ってくる孤独感や寂しさというものに、向き合わざるを得ない時もあるのです。

 事情があり彼女はそれらを人よりも沢山、人よりも長く経験してきました。


 ですが、これからは違うのです。

 彼女は木津家のあの子達と、そして私と共に歩むことを選んでくれました。

 選ばれた私達は、ただそれに応え、横で一緒に手を握り歩んでいきたい。

 私は、そう願っています。


 その一歩目として私は、彼女にギフトを贈ろうと考えているのです。

 ささやかな引っ越し祝い。

 今日はこちらをサプライズにて、作成しようと考えております。


 とはいえ、彼女はとても気を遣う子。

 何か欲しいものがあるかと聞いても、恐らくあの子は笑って言うでしょう。


「ここに居させてもらえるだけで、私は充分に欲しいものを貰えているのです」


 これは間違いなく彼女の本心でしょう。

 先日の引っ越しの時にも感じていましたが、彼女はあまり物欲がありません。

 冬野家は確かに彼女に対して、教育費や家賃などは支払っていました。

 でもそれだけなのです。

 解析班の調査によれば、冬野家は彼女が自分の為に使うための余剰金。

 平たく言えばお小遣いなどの費用は、一切出していないようでした。

 さらに自分で稼ごうにも、彼女はアルバイトを家族から禁止されていたのです。


 表向きの理由は『学業に専念させるため』。

 でも本当の理由は『目立ってほしくないから』。

 彼女は普段は、確かにへっぽこです。

 しかし自分が、誰かに必要とされているのを知った時のあの子は、物凄い力を発揮します。

 彼女が兄よりも優秀な人材だということ。

 それを知られるのを恐れた兄が、あるいはそれに忖度(そんたく)した家族の判断だったのでしょう。


 最高に下らない、実に醜い話ではありませんか。

 まぁそんな面白くもない輩の話は、別にどうでもいいのです。


 そういった訳ですので私はなるべくお金を掛けずに、それでも彼女に気持ちを渡せるものをと考えました。

 その結果、私が何か作りそれをプレゼントをすればいいという答えに達しました。

 既にスーパーで今回、作る料理の材料も買ってあります。


 ふっふっふ、そうです。

 私の料理を今回、彼女にプレゼントしようと考えているのです。

 せっかくなのでたくさん作って、皆にも分けてあげてもいいなとも考えていますよ。

 優しいですね、私って。

 今回、私が彼女に贈るのはお菓子です。

 お菓子と言えばそう、お分かりですね。

 私が愛してやまない、チョコレートを使ったものを考えております。


 実行は今からです。

 今朝、今日の夕飯は引っ越しパーティーで食べたピザを食べたい! と冬野君にお願いしておきました。

 前日から惟之には、冬野君の今日の買い物の運転手を頼んであります。

 ヒイラギ、シヤ、さとみちゃんも荷物持ちとして一緒に買いに行っています。

 もちろん促したのはそう、この私。

 買い物疲れ&疲れた時には甘いものという、サプライズで喜ばせるために!

 あぁ、私はなんて素敵な先生なのでしょう!

 さぁ、レッツクッキング。


 えーとまずはチョコを溶かしまーす。

 ボウルにチョコを入れてっと。

 溶かしていきまーす。


 ……熱っ! あっつぅ!

 ちょ、何これ! 熱いじゃん。

 でも料理は火力が命。

 冬野君の為に! 

 私は例え、わが身が焦げようともっ!

 やってみせるっ!


 ……焦げましたね。

 わが身ではなく、チョコが。

 うん、なんかビターチョコに勝手にジョブチェンジしたわ、これ。

 でも大丈夫です。

 生クリームでこれを生チョコに再び、ジョブチェンジさせますのでね。

 そーれ、美味しくなーれ!


 ……どうしたことでしょう?

 混ざりませんね。

 しかも焦げたパサパサは生クリームの上で浮いているし、更には黄色だか白だかの脂分が勝手に出てきていますよ。

 

 うーん、仕方がない。

 とりあえず固まっている部分のチョコだけでも、すくい上げてバットに流し込みましょう。

 

 ……はっはっは。

 ここは、油田かな?

 バットの中のチョコの表面。

 白い脂がどんどん浮かんできてるよ。

 擦ったら消えるかなぁ。

 表面をならしがてら、ググっとやってみましょうかね。

 何かこのままだと、ヒイラギがすごく文句言ってきそう。

 やっぱさ、ただの生チョコじゃまずいよねぇ。

 やはりここはオリジナリティーを加えるべきかなぁ。


 うーん、コンセプトとしては……。

 うん! 決めた! ギャップで攻めよう!

 甘いはずのチョコに違う味覚が!

 ほら、あるじゃん!

 柿ピーにチョコレートとか、ポテチにチョココーティングとかさ!

 これでいけばいいじゃん!

 んー、となると甘いの反対だから。

 ……辛い?

 となると、ここは胡椒だな。

 おしゃれな感じで、黒胡椒をかけてみるとするか。

 ほい、ぱらぱらりっと。


 うん、あとはこれを冷蔵庫で冷やせば完成じゃん。

 かつてカレーを作った時、ついうっかり失敗しちゃったけど。

 あの時はみんなが帰って来る時間を計算しそびれて、慌てたからいけなかったんだね。

 今日は時間も問題ない。

 あとは冷蔵庫が、いい仕事をしてくれるだろうし。

 冷蔵庫に入れるついでに、冷凍庫にあったパリパリチョコアイスを食べながら待つとするか。


 ――あれ?

 パリパリチョコ、もう最後の一個だぁ。

 さっきのが三本目だったから、そりゃそうか。

 みんな遅いなぁ……。

 って、おっ! 帰って来たみたい!

 さぁ皆に素晴らしい私のチョコで、素晴らしいおやつタイムをっ!



 ◇◇◇◇◇



「ぴーざー。ぴーざー。たーべーるぅー。つーぐみさんのぴーざをたーべーるぅ」


 不思議なリズムに合わせて、井出さんが私を見つめながら即興の歌を楽しそうに歌っている。


「ふふふ、井出さん嬉しそうですねぇ」


 幸せそうな笑みを浮かべた井出さんを見ていたら、こちらまでつい笑顔になってしまう。


「うん! だってこの間のピザさぁ。すっごく美味しかったもーん! ヒイラギ君、誘ってくれて本当にありがとうね!」

「いえ。人数が多い方がいろんな食材で、たくさん食べられますからね。それに冬野はこのメンバーで食べたいんだろう?」

「うん、その通り! さすがヒイラギ君! 私のことを分かってくれてるね!」

「うんうん、楽しくていいね〜! あれ? 惟之さんとシヤさんはまだ車の中なの?」

「はい、荷物が多いですからね。でももうすぐ……。あ、来ました!」


 私の視線に気づいた靭さんとシヤちゃんが、にっこりと笑ってこちらに向かって来てくれる。


『冬野! びよーんは! 甘いびよーんも作るのか?』


 井出さんと手を繋いでいたさとみちゃんが、空いた方の手をぶんぶんと振りながら私に尋ねてくる。


「そうだよ、さとみちゃん。甘いピザも作るよ~。だからバナナ一緒に買ったもんね!」

『うん、ふくろも重いけど、一人で持って運んだぞ!』

「えらいよねぇ、さとみちゃん。大好きー」


 さとみちゃんの頭をそっと撫でれば、大きく眩しい笑顔が私を見上げてくる。


 嬉しい。

 皆が私をどんどん知って、たくさんの幸せと喜びをくれる。

 ありがとう、ありがとう。

 私もみんなに返していこう。

 貰ったものを精一杯。

 返し方は知っている。

 いや、違うな。

 教えてもらったよ。

 だから……。


「ただいまー! 先生っ! 今から美味しいピザ作りますよーっ!」


 ――この後に何があったか。

 それはまた別の話。

お読みいただきありがとうございます。


次話ですが、章終わり恒例ですね。

「登場人物紹介その3」となります。

登場人物の紹介も1,2章の時点より随分と変わった人達がおりますので、こちらの書き直し兼なんで君を追加したものを投稿予定です。

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― 新着の感想 ―
[一言] チョコレートという名を被った危険物の話ですね…… ああ、幸せな日常はこうも簡単に崩れ去るのですね 動きすぎた二人が消える それはるんるん気分で(体が物理的に)動きすぎた井出さんさとみちゃんだ…
[一言] 途中で察して「あかん……」と思っていたら、「優しいですね、私って」で品子先生の顔が某魔族に見え、「皆まとめてあの世に送るから寂しくありませんよ」と言ってるように思えて、心配が恐怖に変わる始末…
[一言]  むむ、チョコも上手に(オーブンなどで)焼けば、さくっとしたエアリーなチョコになる筈なんですがね。  それと、チョコにこしょう、おいしいのです。適量をまもれば、結構高級感のある味に変身します…
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