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冬野つぐみのオコシカタ  作者: とは
第三章 冬野つぐみの出会い方
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冬野つぐみは感動する

「井出さん! なんてっ、なんて素晴らしいお店なのですか。キッシュの中のカボチャがホロホロとした上に少し甘めの味付けとこのふわふわ食感。なのに外側はパリッとしているって! これを絶品と言わずして何と言えばいいのか!」


 嬉しくて仕方がない様子のつぐみの声が響く。


 木津家のある戸世(とせ)市から車で三十分ほどの野小納(やこな)市にある店で、つぐみと明日人は食事を楽しんでいた。

 以前、明日人と出かけたタルトの店は、可愛らしい雰囲気の店であったとつぐみは思い返す。

 だが今回は、落ち着いた空間を楽しむといった店のようだ。

 客層も自分達よりも少し年上の世代が多く、和やかな雰囲気で店内は満たされている。


「ねー、ここのは本当に美味しいよね。もっと早く教えてあげればよかったねぇ。つぐみさん。今日はいつになく、饒舌(じょうぜつ)だね?」

「そうですか? ふふふ、井出さん。美味しいものは人の口と心の動きをまろやかにするのですよ。それにしてもさすがです。こんな素晴らしいお店を知っているなんて。美味しいタルトリストの持ち主だけありますね。ぜひまた来店したいものです! でもここは遠いから、なかなか来れないのが難点ですね」

「そう? でも、もうすぐ君も白日に入るでしょ。ここに来る頻度は増えるかもよ」

「あ、そうですね。ということは。……じゅるり」

「つぐみさん。君は女の子だからね、よだれは拭こうか。うーん、それにしてもさ。惟之さんと品子さんのトラブルって、何だったんだろうね?」


 明日人の皿に残ったキッシュはあと一口分だ。

 美味しそうにそれを食べ終えると、明日人は首を傾げながらつぐみを見て問いかけてくる。

 その仕草は男性なのに、年上であるのにとても可愛らしい。

 思わずしてしまった考えを打ち消しながらつぐみは答える。


「そうですね。本部に行くお二人に便乗する形でこちらのお店の近くまで送って頂けたのは、ありがたいやら申し訳ないやらですけれど」


 この店は白日の本部の近くにあるそうで、明日人の話を聞いた品子が店の前まで車で送ってくれたのだ。

 店が近いこともあり、用件が終わるまでつぐみと明日人は待機をして、皆で一緒に食べたらどうだろう。

 当初つぐみは、この提案をした。

 だが品子からは、そのトラブルがどう落ち着くのか分からない。

 何より待たせるのは心苦しいからと言われ、結局二人で食事をすることになったのだ。


「井出さんは、そのトラブルの心当たりとかってあるのですか?」

「いや。それが全然、わかんないんだ」

「そうですか。私の推測でしかないのですが、そこまで大きな問題ではないと思います」

「え、どうして?」


 明日人は興味深そうにつぐみを見つめてくる。


「靭さんが最初に電話に出たときに、こわばった顔の後に少しだけ苦笑いというか。……くすりと笑ったような表情をしていたんです。だから最初にそのトラブルの報告を受けて驚いた後に、そこまで大変ではないという報告も受けた。あるいは自分で収められる、という判断をなさったのではないかと感じました」


 つぐみの言葉に、明日人はうなずきながら続ける。


「二人で行ったということ。今日の本部での予定を考えるとさ。研修に出掛けてるヒイラギ君達に、何かあったのかと思ったんだ。でもそれなら、靭さんが一緒に行くのもおかしいんだよねぇ」

「……あの、今日の研修に九重さんは参加してますか?」

「連太郎君? あぁ、確か参加していると思うよ〜」

「ならばヒイラギ君達と九重さんの三人に、何かあったのではないのでしょうか?」

「確かにそれなら二人が呼び出されるのは分かるねぇ。なるほど、そういうことならっと……」


 明日人は鞄からスマホを取り出すと操作を始める。


「ちょっとごめんね。でもこれで、理由が分かるかも〜」

「四条の研修の参加した方に、連絡を取ったのですか?」

「さすがつぐみさんだねぇ、その通りだよ。返事、来るかなぁ? お、つぐみさん。返事の前にタルトが来た〜」


 二人達の前に、美しい彩りを持った二つのタルトが届けられる。

 一つは白、そしてもう一つは黄色のタルトだ。

 それらはお店の照明を浴びて、まるで宝石のようにキラキラと輝いている。

   

「井出さん! 輝いています。タルト達が私にまるで微笑むかのように!」

「つぐみさん、タルトになると詩人になるんだね。おもしろーい。ねぇ。僕さ、どっちも食べたいからシェアしてもらっていい?」

「もちろんです! 白は白桃かな? 黄色はマンゴーですよねぇ。わぁ、どっちから食べようかなぁ!」

「じゃあさ! お互い違う味の方を食べてさ。それぞれの感想を聞いてから、もう一つの方を食べるってどう?」

「なんて素晴らしい提案でしょう! それだと美味しさが倍増じゃないですか!」

「だよねぇ! ……お、ちょっとごめんね。返事が来たよ」


 明日人はスマホを手にすると、やがてくすくすと笑い出す。


「……ふふ。随分と、面白い展開になってたみたいだねぇ」

「ではやはり……」

「うん、えーとね。……うわぁ。連太郎君ってば、だいたーん。これは確かに品子さんと惟之さん呼び出されるわー」


 明日人は笑みを浮かべたまま、スマホに送られてきた内容をつぐみに語り始めた。

お読みいただきありがとうございます。


次話タイトルは「木津兄妹は研修を受ける」

かなり久しぶりにヒイラギとシヤのお話となります。

2人がどう変わっているか、彼の成長を見てやってください。

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― 新着の感想 ―
[良い点] もうタルト愛に満たされた世界でしたね笑 つぐみの食レポ、もといタルレポ大好きです! これほんと、タルトで釣ったら四条行き確定じゃないですかw
[一言] タルトを目の前にしたつぐみは、このままだと将来は食レポの仕事に就けそうな勢いですね(笑) 「タルトの宝石箱や~」とは言わずとも、タルト姫兼詩人・冬野つぐみとして、彼女が訪れレビューを書き残…
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