冬野つぐみは争奪される
「うんうん。これでつぐみさんが、白日入りが決まりましたね。となると次ですよ、次!」
つぐみには、明日人が心なしかウキウキとしているように見える。
「あぁ、次だな。……さてと、では始めようか? 品子、明日人」
どうしたことか同じようにふるまう惟之に、つぐみはその「次」が何を指すのかわからず、きょとんとしてしまう。
「ちょっと待ってくれ! いくらなんでも性急すぎやしないか?」
慌てたように品子が、二人を制する姿に思わず問いかけてしまう。
「あの。『次』というのは一体、何なのですか? 先生がすごく困っていますが」
つぐみの言葉に、惟之がにやりと笑う。
「いやいや、別に困ることなんて無いよなぁ? 品子ぉ?」
「そうですよ。機会は皆、平等ですよ! 品子さーん?」
掛けられた言葉に対し、品子は苦虫をかみつぶしたような顔をして二人を見つめるだけだ。
「おっと、いけない! 主役が理解できていないのは良くないではないですか」
明日人がつぐみの方を向き、楽しそうに話し始める。
「白日には一条から四条まで、四つの所属先があるのは知ってるよね? 基本的には君がこの組織に入るきっかけとなった人に関わる所属になるわけなんだけど。靭さんの二条、品子さんの三条、そして僕がいる四条。君はどこを希望する?」
「待ってくれ! そんなに焦らずともいいじゃないか。もう少し彼女にも時間を……」
明日人の話を遮った品子の声に、更に惟之が入ってくる。
「まぁ待てよ品子。別に今すぐに決めろと言っているわけではないんだ。所属先が選べるということを、冬野君に知ってもらうだけじゃないか」
珍しくにんまりとした表情を、惟之はつぐみへと向けてくる。
「だから今から俺達が君に、プレゼンをしよう。そういう話になるわけだよ」
「そうそう。つぐみさんは品子さんのいる三条に行くんだろうな〜と思っているでしょう? でもね。僕達、他の所属も知ってからでもいいんじゃないの? っていう話なんだ」
「えっと、つまりは所属先を決める説明をしていただけるということでしょうか?」
「そうそう、その通りだよ~。そしてつぐみさんの意思が決まったら、その希望先の所属の長に確認して、認証されれば正式に白日の一員になるわけだね」
ようやくつぐみにも状況が理解できた。
だが品子はどうしてこんなに困っているのだろう。
疑問を抱えたままの顔で、品子の方をちらりと見てしまう。
それに気づいた惟之が、愉快そうに笑いはじめた。
「冬野君。品子は君が、三条以外の所属に行くのではないかと心配しているのだよ」
「なっ! そういう訳ではっ……!」
品子の言葉を待っていたと言わんばかりに、惟之が続ける。
「ふぅん、そうか。ならば別に問題はないな。さて、なら俺からいくとするか。二条は冬野君が知っての通り、情報解析を主として行っている。君と接点があるのは……。出雲と連太郎かな?」
「はい、お二人には、本当にお世話になりました!」
「なら、彼らを見てうちの雰囲気は分かっているね。俺は君のその記憶力と観察力を使うのにふさわしいのは、解析班の二条だと思っているよ」
柔らかく穏やかな口調で惟之はそう言うと、つぐみを見て静かにほほ笑む。
「もし君が二条に来たら、出雲のもとで学びながら仕事を任せていきたい。どうやら君は出雲に憧れている所もあるみたいだしね。彼女から学びたいことも多そうだから、君としてもその方がいいのではないのかな?」
「い、出雲さんの下で……!」
「君は学ぶことにすごく貪欲だ。出雲のそばで色々と、彼女のスキルを盗むくらいの気持ちでいてくれたらいいなと思う」
あの出雲に仕事を教えてもらえる。
出雲の視野の広さを、そばで学べるチャンスではないか。
魅力的な提案につぐみの目は輝いていく。
「どうだい? 俺としては君を二条に心から歓迎するよ」
「すごく、すごく素敵な提案でした!」
「とりあえず惟之さんは一区切りですか? じゃあ今度は僕ですね」
こほんと咳払いをして、明日人が話を始める。
「僕のいる四条は、主な仕事は治療だね。惟之さんと同じ流れで説明すると。……って四条で会っている人って、つぐみさんはいないや。今は祓いの待機中だから基本、外に出ることがないからね〜」
「それなのに井出さんは、外出しても大丈夫なのですか?」
「うん。だって僕、上級発動者だから色々と融通が利くんだ〜。おっと、そんなことは別にいいね。さて。四条のメリットだけど、僕がいることかな〜。なんて、さすがにそんなことは言わないよ。でも君の発動に一番相性が良いのは、この中では僕なんじゃないかと思ってる。指導者的にもね」
まだ実際には試していないが、確かに自分の変化による発動は四条が相応しいのかもしれない。
「だから四条に来てくれたら、僕の直属の部下になってもらおうかなー。表向きは品子さんじゃないけど、秘書的な扱いになると思う。それで内密に、君の指導をしていくつもりだよ。あとね。僕の秘書になったら、一月に一回、タルト会をやるからね。それはもう決定事項だから〜」
明日人からの指導。
そして月一のタルト会があるなんて。
っていやいや、タルトは別だから!
そんなことを考えてしまう自分に大きく首を振り、後半部分に惹かれそうになっている心を打ち消していく。
「いや〜。まさか僕の『この周辺のタルトの美味いリスト』を、ここで開示することになっちゃうとはなー」
明日人が頬をぽりぽりとかきながら、呟くのが聞こえる。
「たっ、タルトリスト! しかも美味しいですって!」
つぐみは思わずごくりと、つばを飲み込んでしまう。
「いや、冬野君。……発動とタルトは別物だよね?」
一連の行動に不信感を抱いたのか、品子が疑いの眼でつぐみを見つめてくる。
「も、も、もちろんですよ! いたって私はタル……。じゃなかった。私の能力を促してくれる場所を、探しているのですから!」
両手を前に出し、ぶんぶんと大きく横に振りながらつぐみは否定する。
「あと僕さぁ。結構、同好の士が多いからさぁ。全国各地の有名店のタルトが届いたり、自分でも頼むんだよねぇ。仲間内の批評会とかで食べ比べとかしたりするから、その仲間も欲しいと思っていたんだよねぇ」
ちらりとつぐみを見た明日人が、くすりと笑う。
前に出した手もそのままに、つぐみは明日人の方へと黙ったまま数歩すすんでいく。
「ふ、冬野君? 何だかゾンビみたいな歩き方になっているけど……」
惟之の声が、なぜだか遠くから聞こえてくる。
「だ、だいじょうぶですよ。いた……、いたってわたしはたるとですからぁ」
「……品子、冬野君はどうやら今日は、頑張りすぎて疲れてるみたいだ。すぐに休ませてやれ」
「……了解」
――数秒後、つぐみの額にやや強めの風が吹いた。
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次話タイトルは「ある木曜日に」
日にちが変わり、また新たな出来事が起こります。




