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読み聞かせ会ポルカ

作者: kash

教授を退職したけれど、地道な社会貢献を模索する日々の一コマ

はい、皆さん集まって、集まって。

ハハハ、元気がいいな。


私はそういう、積極的な学生が大好きだよ。

前の席を取り合うなんて光景は久しぶりだよ。

もう、今の学生は後ろから席を埋めるのが義務みたいな感じだったからね


ハハハ。ダメだよ。

膝の上は。膝の上は駄目だ。


さ、今日は私、「図書館読み聞かせの会」で読み聞かせを行うことになりました、松下栄賢と申します。


ハハハ、膝の上は駄目だ。肘もひっぱっちゃ駄目だ。


あ、はいはい。

それでは今日のテキスト。


「桃太郎」


そうですね。

桃太郎、鬼退治のお話です。

島へ渡って、村人に蛮行を行う鬼を退治するというお話です。


吉備津彦という、日本神話の伝承と習合する見方もあるお話ですが・・・。

あ、そうですね、今日はそういうのは、止めておきましょう。そうしましょう。


ハハハ。どうしても、後ろの席にいらっしゃるご父兄の方々。今日はみなお若い。こう、学生と変わらぬくらいはつらつとされていらっしゃいますからついつい・・・。

ハハハ。悪い癖ですな。



昔々あるところに、おじいさんとおばあさんが二人仲良く住んでおりました。

おじいさんは山へ柴刈りに、おばあさんは川へ洗濯に行きました。


えー、ここで冒頭の「昔々あるところに」という導入部分については、ここから世界が切り替わる、異界との交点へと移動するという、暗喩であります。

最後に結びとしての「めでたしめでたし」へと係っておりまして、これにより、現実世界へと回帰するという構造をもっておりまして、英語などではonce apon a time 等の・・・。


失敬、失敬。

ハハハ。悪い癖ですな。



おばあさんが、川で洗濯をしておりますと、川の上流から大きな桃がドンブラコ、ドンブラコと流れてまいりました。



桃といいますのは、古代中国の神仙思想で桃源郷を示すキーワードであります。

かの、斉天大聖が玉皇大帝に初めて仕えた際に、その桃園の番人となったエピソードもありますように、桃は北東アジアにおいて不老不死、仙人、理想郷などを暗示するものですね。


ハハハ。すみません、先に進めましょう。

ハハハ。膝から降りなさい。

ハハハ。どんぐりは持っていきなさい。くれるのかい?ありがとう。


なに。一個返して?

ハハハ。全部持っていきなさい。



おばあさんは、たいそう驚きましたが、その大きな桃を川から引き上げると、よいこらしょ、よいこらしょ、とかかえておうちに戻りました。

おうちにもどりますと、ちょうどおじいさんも集めた柴を背負って山から戻ってきたところでした。

おじいさんもおばあさんの抱えた桃をみて大変驚きました。

二人はおうちの中に桃を運ぶと、相談をして包丁で切ってみることにしました。


民間伝承で、隠れ家や、迷い家という伝承があるのはご存知と思いますが、

そう、山奥で猟師や木こりが道に迷って、場所違いなおどに大きな屋敷に行きあたってというような話です。この部分にそれが反映されておりますね。

具体的な説明は省きますが・・・。


ハハハ。失敬、失敬。



おじいさんが包丁で大きな桃をスパンと切ると、なんということでしょう。

中からそれはそれは元気な男の赤ちゃんが大きな泣き声を上げながら出てきました。


これはね、私はセクシャルな行為に対する暗喩という論調にいささか、同意しかねる部分であります。

もう一つ、誰もが知る物語であり、日本最古の空想文学作品ともいわれることがある「竹取物語」、いわゆる「かぐや姫」であります。

こちらも竹という植物の中から人、と申しますか、異界の人ですが、が、現れるという形をとっておりまして・・・。


ハハハ、膝の上に二人は無理だぞ。

そうですね、余談です、余談。

読み聞かせです、読み聞かせ。



おじいさんと、おばあさんは大変に喜び、男の子に桃から生まれたので、「桃太郎」と名付け、二人で大事に育てました。

桃太郎は元気いっぱい、スクスクと育ち、立派な少年になりました。

ある日、桃太郎はとてもしんけんな、まじめな顔をして、おじいさんとおばあさんの前に座ると、こう言いました。

おじいさん、おばあさん、僕を育ててくれてありがとう、僕は二人への恩返しをしたいのです。近くの村は悪い鬼たちに襲われているそうです。おじいさんとおばあさんのいる村も、いつ鬼たちに襲われるかわかりません。

僕は、悪い鬼を退治してみなさんが安心して暮らせるようにしたいのです。

おじいさんもおばあさんも桃太郎の話に驚きました。


中世では、共同体として日本人とか、都民、県民といった大きな共同体意識はそれほど高くなく、また、武力いわゆる武家と、権威いわゆる天皇を頂く朝廷貴族の二重的な支配がありまして・・・。


ハハハ、いけないぞ、叩いちゃいけない。

仲良く、仲良く。



恐ろしい鬼の話は、おじいさんもおばあさんも、よく聞いて知っていました。

二人は桃太郎に止めるように聞かせましたが、いつもは二人の言うことをよく聞く桃太郎が、この時だけは決して自分の言い出したことをやめようとしません。

おじいさんとおばあさんは、とても悲しい気持ちになりましたが、桃太郎のために立派な鎧と刀と羽織を用意しました。

そして、桃太郎の大好きな、きびだんごをお弁当に持たせると、元気に鬼が島に旅立つ桃太郎を見送りました。


桃太郎が一休みしようと、大きな松の木がある原っぱの所で立ち止まると、そばの藪の中からケーン、と、大きな泣き声がして、一羽の雉が現れました。

桃太郎の周りを一周くるりと回ると、

「おいしそうなにおいだな、きびだんごだ。桃太郎さん、もっているきびだんご、ひとつちょうだい。」

桃太郎は、雉にこう言いました。

「おばあさんが作ってくれたおいしいきびだんごだよ。ひとつあげてもいいけど、僕はこれから悪い鬼を退治に行くんだ。一緒にきてくれるかい。」

雉はこう言いました。

「桃太郎さんはえらいな。悪い鬼を退治に行くなんて。きびだんごくれるなら一緒に行くよ。」

雉が仲間になりました。

桃太郎と雉が竹林に囲まれた道を歩いていると、反対側から犬が元気に駆け寄ってきました。

「クンクン、いいにおい。きびだんごのいいにおい。ももたろうさん、ひとつぼくにくださいな。」

桃太郎は、犬にこう言いました。

「おばあさんが作ってくれたおいしいきびだんごだよ。ひとつあげてもいいけど、僕はこれから悪い鬼を退治に行くんだ。一緒にきてくれるかい。」


まあ、仲間になって、追加で猿も仲間になりますが、同じくだりが続きますけど、皆さんはどうお考えですか。

読みますか。

そう、読み聞かせですからね。


ハハハ。耳はひっぱっちゃだめだ。

ハハハ。もう、膝の上はあきらめた。



「ワンワン。行くよ。きびだんごくれるなら悪い鬼を退治に一緒に鬼が島に。」

犬が仲間になりました。

桃太郎と雉と犬が川の橋の近くにある梅の木に来ると、木の上から声がしました。

「キキ。桃太郎さん、腰の袋に入っているのは食べ物ですか?そうなら僕に少し下さいな。」

木の上をぴょんぴょん跳ねながら猿が桃太郎にいいました。

「おばあさんが作ってくれたおいしいきびだんごだよ。ひとつあげてもいいけど、僕はこれから悪い鬼を退治に行くんだ。一緒にきてくれるかい。」

「キキ。きびだんご大好き。行きましょう。一緒に鬼が島に桃太郎さんと。」

こうして桃太郎は、猿・雉・犬をつれていよいよ鬼が島へと行きました。


ここで、中世の、御恩、恩賞と奉公という、概念が反映されてくるのですね。

主に仕える上で、当然、見返りといいますか、対価を求める。

近世の、江戸期の武家の概念より、近現代に近いと言いますか。


ハハハ。

なにかな?膝からおりたくなったかな?

なんでもっと強いのと行かないのかって。

ライオンとか熊とか。


素晴らしい!

いいね!君ね!

ここ、大事なところなのだよ。マジカルな、呪術的意味合いが含まれているんだ。

えー。

ホワイトボードあるかな?

無い?ある?ある? 持ってきて。大変?なら大丈夫、無くても。

ハハハ、お膝に乗っていなさい。


これね、近世までの方位は十二支を方角に合わせたものでして。

子、丑、寅、卯、辰・・・と続きます。

時刻の表記もそうなのですが、十二進法に合わせてありまして。

そうして、江戸期までは、いえ、現代でも、方位学やら風水として残っておりますように、マジカルな思想で病魔や悪縁、災害を防ごうという考えがありました。

ある見地からすると単に不合理と思うかもしれませんが、これは一つの体系としてみると素晴らしく理路整然としたものであります。

そう、こういったおとぎ話にすら反映をされています。

なぜ、なぜ、鬼は角をはやして、虎皮の腰布をしているのか。マジカルな理由がちゃんとあるのです。

方位で、北東を「鬼門」と申します。

これはマジカルな死角といいますか。

この方向から、悪霊や亡霊が入り込むと考えられておりまして、大きく取りますと、例えば江戸城の鬼門方向に上野寛永寺、守りとして作られております。北東方向は、方位を十二支であらわして中世では丑寅の方向とよばれることになり、鬼門、すなわち鬼は、丑寅、それぞれ、ツノと縞模様の腰布で比ゆ的に表現されるわけです。

では、これに相対するのは、方位でいえば南西方向。

これが十二支であらわすと、申・酉・戌。

桃太郎が率いるのは、鬼、つまり鬼門である丑寅に対するマジカルな封じ手として・・・。


ああ・・・。

すみません・・・。

またやってしまった。


ご父兄の皆様。


ハハハ。膝から降りてください。

ハハハ。どんぐり、ありがとう。

おじちゃん、ママ達に謝らなきゃならないから。

耳はひぱっちゃだめだ。

肘もひっぱっちゃだめだ。


読み聞かせと言いながら、申し訳ない・・・。


え?

続けろ?

いいの?

いいから続きを聞かせろ?

どっち?

どっちも?

いいの?


はい、はいそれでは皆さん。もっと前に集まってください。

さ、子供たち。


次はね、鬼つながりで、「泣いた赤鬼」か「渡辺の綱」のお話ししようかな。


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