Episode03:銀髪女と人の運命の決定瞬間
どうも。香具師です。なんとか三話目も完成いたしました。それにしても自分文章力無いですね。ご指摘を受けて本当にそう感じました。しかしめげずに僕は書きます。
(しつこい奴だ)
運動には自信があるが、スーツ男をなかなか振り切ることが出来ない。
(それにこの女……)
女の癖に俺の足に難なく付いて来やがる。さっきのことといい、なんだこいつは。
横を見ると、汗一つ無く風を切っている銀髪女の姿があった。今気付いたがこいつ女の割に背高ぇな。百七十は普通に越えてんだろ。この銀色の髪といい、本当に変な奴だ。
(さて)
んなことはどうでもいい。問題は後ろの炎スーツ男。そろそろ俺の体力も落ちてくる所だ。早く巻かねぇと面倒なことになる。
ん?つーか俺なんでこんな落ち着いてんだ?
さっきからワケ分かんねえことばっか起こってんのにヤケに冷静じゃねえか。
(ふん)
まあ別にどうでもいい。冷静になれるに越したことはねぇからな。
だがもう一つ気になることがある。
(何で人一人いねぇんだ?)
確かに今は夜だが、ここまで人間がいないのは正直おかしい。一体何がどうなってやがる。
そう考えていた時、後ろから炎が勢いよく飛んできた。前方に多大な量の炎が蠢き、やがて俺と銀髪女の前に炎の壁が出来る。流石にこれでは進めない。ならば横に、とも思ったが、そう考えている間に横も炎で覆われていた。
「チッ」
思わず舌打ちをする。ついに捕まったか。
(炎の牢獄ってとこか)
逃げ場は上と男の後方しか無い。
「おい」
女に声をかける。
「お前、空飛べたりするのか?」
銀髪女は何も言わず首を横に振った。
「……ふん、言ってみただけだ」
俺は女にそう言って、近付いてくるスーツ男の方を向いた。
**
男はまず俺を睨んで来た。鋭い視線が俺を射抜く。
俺も負けずに睨み返す。俺が睨んだ奴は大抵ビビってどっか行っちまうんだが、スーツ男は全く表情を変えやしない。
睨み合いが数分続き、男が一つ溜め息をついた。
「……まずお聞きしましょう。アナタは一体誰ですか」
口調は丁寧でも目は相変わらず鋭いままだ。
「答える義理が俺にあるのか」
俺はそうやって不遜な態度で答えてやる。
男はさらに視線を鋭くした。
「……ならば答えなくて構いません。しかし一つだけ忠告しておきましょう」
「いらねぇ」
立場が分かんねえわけじゃねえ。ヤバいってことくらい分かってる。でもだから何だ?
「下手に出るのは好きじゃねぇんだよ」
俺がそう言った瞬間、男の体の周りに炎が渦巻きだした。
まるで竜巻のように男の体を覆い、やがて男は見えなくなっていく。
「チッ……何だこれ。ヤバそうな雰囲気じゃねえかよ」
銀髪女の方を見ると、どうやら何かを唱えているらしかった。体から緑色の光が奔流する。
シアンの瞳を携えた眼球を見開き、炎の壁に手を翳す。
「……解除」
女がそう言った瞬間、炎の壁がどんどん消え去っていく。
「へぇ」
たいした女だ。
そう思ったその瞬間。それは本当に瞬きするほどの時間だった。
銀髪の髪一本一本が光ながら落ちていく、暗い暗いコンクリートに向かって、重力が手を貸して。
握られていた手は、俺の手をスルスルと離れて行った。
「……おい、逃げるんじゃねえのか」
そう告げても、女が立ち上がる気配は無い。
変わりに、小さな声が聞こえてきた。
「…………く……て」
何を言っているのか全く聞こえないほどの小さな小さな声だ。
「聞こえねえぞ。何て言ってんだ」
そう言うと女は顔だけ上げて俺の瞳を真っ直ぐ見つめて言った。
「……早く、逃げて」
確かに女はそう言った。強い強い意志を持ったその瞳で。唇で。強く強く、ひたすら強く。
何言ってやがるんだこいつは?てめぇが逃げなきゃいけねぇからこの壁解いたんじゃねぇのかよ?てめえが逃げなきゃ意味がねえだろが。しかもなんでそんな倒れ込むまでやりやがって……
その時、ハッとした。俺は一人、思考の渦に入り込んだ。
まさかコイツ……
俺を逃がす為だってのか?
自分が助かるためじゃなくてか?
だから自分がこの壁を解いた後どうなるか分かってたにも関わらずただ俺を逃がすためにこんなことをしたってのか?
……何だそれは
……馬鹿馬鹿しい。
……くだらねぇ。
……意味分かんねえ。……俺はそんなこと頼んでねぇだろうが。誰が望んだんだ。
……お前は逃げ回ってたんじゃないのか?あの炎に覆われている化け物から。
……捕まっていいのかよテメエは。こんな極悪人みたいな顔した男のために。
……あの男を見れば誰でもわかる。多分帰ったからってろくでもない目に遭わされるってことぐらい。
……何でそんなに他人のことを優先できる。
……何でそんなに真っ直ぐな瞳で俺を見る。
……何でそんな意志を持った声を出す。
……何でこんなに、温かいんだ。胸の奥に優しさが染み込んで来るんだ。
何で、何で、何で、何で、何で、何で。
浮かんでくる疑問と言う名の浮き輪。どんどん数が増えて、やがて思考と言う名の海を埋め尽くす。
そして俺は、思考の渦を抜け出した。
(……ふん)
そうか。そういうことか。
「悪いな、銀髪女」
コレが、人の温かさか。コイツの純粋な澄んだ心の姿か。
まるで湖のように澄んだ、深い深い透明で純粋で、包み込むような温かさを持った心。
「……早く」
昔、誰かが言った。
「……逃げて」
『運命』を決めるのは
「黙っとけ」
女は目を見開く。先程と同じように。
「俺は指図されんのが、大嫌いなんだよ」
『決心』の瞬間だと。
「俺の運命は、俺が決めてやる。お前は黙って見学してろ」
**
スーツ男の周りに渦巻いていた炎が急に無くなった赤い球体のような物が男を覆っている。
そしてその球体に罅が入り中から何かが出てくる。アレは一体なんだ?
「化け物って、比喩じゃ無くなってんなホントに」
灰色の皮膚で覆われ、血管が浮き出ている、背丈二メートル後半はあろうかという巨大な体。
その頭の大きな角。二本の大きな牙。目は黄色に光り、耳は尖ってしまっている。もはや人間の原型を留めてはいない。
文字通りの化け物だ。
少なくとも地球上の生物じゃねぇ。
化け物は暫く静止し、やがて俺を睨んだ。黄色く鋭く目が不気味だ。
そして化け物は俺を見てニヤリと笑い、俺に向かってきた。そして、俺の視界から、消えた。
一瞬、何が起こったか分からなかった。
まず理解出来たのは腹にめり込む灰色のグロテスクな腕。今まで感じたことが無い痛みと骨が折れる音色と共に、おれは吹き飛ばされた。
人の家の壁をぶち壊して不法侵入。
「う……っ……」
クッションになった草木の塊の横に有った気を支えにして、俺は立った。瞬間に脇腹を押さえる。
「かっこつけといて、結局これかよ……っ」
おぞましいほどの力。まともにやり合って勝てる相手じゃねぇ。
もといた場所では化け物が、倒れている銀髪女の横にいた。連れ去る気らしい。
「待ちやがれ……っ!」
「まだ、やるんですか」
化け物の声はあの男のままだった。ムカつく丁寧な口調も変わってはいなかった。
変わっていたのは背筋がゾッとするような鋭い視線だけだ。
「もういいでしょう。何故そうまでしようとするんですか」
何故?
何故俺は……?
「知り会ったばかりの人の為に死ぬ気ですか?」
俺は……
思い出す。
俺が嫌いな筈の『オンナ』は、とても無表情で無口なやつだった。銀髪でシアンの瞳で、妙な力を持っていた。
女が嫌いな俺が女と手を握った。一緒に走って、逃げ回った。汗一つかいていないのに少し腹がたった。握った手は、柔らかくて冷たかった。
女は俺に何回も逃げろと言った。逃げろ、早く逃げろ、と。自分が逃げなきゃいけねえのに。俺を逃がすために自分を犠牲にしようとした。
……変な女だ。本当に変な女だ。
でもコイツは俺を助けてくれた。心配してくれた。自分を犠牲にしてまで逃がそうとしてくれた。自分のことより、会ったばっかの俺なんかのことを。学校で辰也以外誰も関わろうとされない俺なんかのことを。
じゃあ俺は?
俺は一体……コイツに何をしてやれた?
指図は受けねえとか勝手なこと言ってずっと一緒に居て、かっこつけといて結局足手まといになってるだけじゃねえか。
「今なら見逃してあげますよ。その勇気に免じてね。気が変わらない内にさっさと消えて下さい」
……あり得ねぇ
……絶対あり得ねぇ
……あって、たまるか……っ
ドクンッ
何かが俺の全身を駆け巡った。
瞬間
俺は化け物を吹き飛ばしていた。
違う家の壁をぶち抜いてやった。
**
化け物を吹き飛ばした俺を見て、銀髪女は驚愕の表情を浮かべていた。
「ふん、なんだ?そんなに意外か?」
「……手」
「あぁ?」
「……手……光ってる」
見ると俺の手は確かに光っていた。正確に言うと、紫色の粒子が掌に集まっていた。
「なんだ……?」
やがて紫色の粒子は形となり、その姿を表していく。握ることが出来たその粒子は、長く、鋭く、美しく変化する。
「剣……か?」
顕現したそれは剣だった。恐ろしいほど鋭い漆黒の刃に紫の紋章が羅列していて、細さは日本刀ほど。長さは俺の背丈ほどもある。
「……この人も……」
後ろで銀髪女はそう呟いた。
その時、化け物はとばされたほうから戻ってきた。
俺はそれを漆黒の剣で受け止める。そしてはじきあって互いに離れて向き合う恰好になる。
「黒帝、だと……っ」
化け物は俺の刀をみて唖然とする。
「そんな筈は無い!こんなところに黒帝があるはずが……っ」
何故か分からないが化け物は怯えていた。
黒帝か。ふん、悪くねえな。
「逃げたかったら逃げろ。今なら見逃してやる」
刀の刃を向け、言い放つ。
化け物は体を震わせて炎を纏う。
「……っ……なめるなぁぁぁぁ!」
向かって来ながら噴出してくる炎は全て漆黒の剣に吸い込まれて行った。
「ば、馬鹿な……」
俺は剣を構える。構え方なんてわからねぇが。
そして向かってくる化け物に刃を交錯させる。
交錯した刃は闇で対象を覆い込む。
断末魔を見ることなく化け物は粒子となり消えていった。
「理由……か」
俺は小さく呟いた。
何故俺が会ったばかりの、しかも嫌いな『オンナ』のために頑張っているのか。
「答える義理が、俺にあるか?」俺は不遜にそう答えてやった。
**
その後、漆黒の剣は紫色の粒子となり、どこかに消えて行く。
後には、俺と銀髪女が残った。
「ふん……」
「……なんとかなるもんじゃねえか」
一人で夜空に呟く。
「おい、立てるのか」
寝転がっている銀髪女に声をかける。
「……立てない」
見る限り本当に立てそうになかった。
そしてそのまま約一分。
「チッ」
……仕方ねぇ。こうなったのも俺のせいだ。俺は銀髪女の手を取り立たせ、背中に背負った。観奈ぐらいだぞ。こんなこと女にしたことあんのは。
嫌悪感は、感じなかった。
ただ、とても柔らかい。
「おい女、お前、これからどうするんだ」
家出したっつっても寝る場所とかどうするつもりなんだ。
「……野宿」
「お前馬鹿だろ」
「……馬鹿じゃ、無い」
「自覚持て馬鹿」
「……また言った」
「馬鹿に馬鹿って言って何が悪い」
「……私、勉強、出来る」
「知るか」
ったく面倒くせぇ……
「オマエ俺の家に来い」
「……何する気」
「何もしねぇよ自意識過剰女」
「……今日は満月」
「満月の度に狼になってたら今頃犯罪者だぞ」
「……下心抜き一皿」
「わさび抜き一皿みてぇに言うんじゃねえ」
「……じゃあ……行く」
「そうかよ、分かった」
「……やっぱり不安」
「野宿の方がよっぽど不安だろ馬鹿」
「……そうかも」
そう言った後、二人とも話さなくなった。
銀髪女を背負って帰路を辿る。静かに静かに時が巡る。
静寂を破ったのは意外にも銀髪女だった。
「……名前」
「ああ?」
「……名前聞いてない」
「唐沢……幸人。学校では悪魔とか言われてる。オマエは?」
「……悪魔に名前教えちゃダメってお母さんが」
「落とすぞテメエ」
「……冗談」気のせいか、銀髪女は笑ったような気がした。
「……篠宮、由葡」
「へぇ、てっきりハーフとかだと思ってた」
背高ぇし、目は青だし。髪はよく分かんねえけど。
「……そんな感じ。お爺ちゃんがアイルランドだから」
そうなのか。成る程な。
「ふん、じゃあ行くぞ篠宮」
「……うん」
なんだか不満そうな声だったが気のせいだろう。
そしてその後、また会話が途切れた。暗闇に静寂が溶け込んでいた。
「……幸人」
声が聞こえた。
「ああ?何だ?」
「……ありがと」
篠宮は小さく小さくそう呟いた。
取りあえずここから先の更新はどうなるかよく分かりません。自分のペースで更新したいと思います。感想評価よろしくお願いします。