Episode01:悪魔と王子の真っ直ぐな道
取りあえず一話更新です。できるだけ一生懸命書いてみました。感想、評価よろしくお願いします。
今日も朝が来た。
朝は好きだ。特に春の朝はな。
太陽が春の気持ちがいい暖かな光を無料で提供してくれる。ついつい二度寝しちまうこともあるが仕方ねえ。
俺はそんな催眠術じみた太陽光線をなんとか回避して一ヶ月前には高校生になった重たい身体をゆっくり起こした。反開きの瞼を手の甲で擦って視界の覚醒を促し、両腕を天井に掲げ、身体を伸ばす。
「――朝か。」
外にいる小鳥達の涼やかな声が鼓膜をゆさぶる。かと思えば今度はけたたましい九官鳥の鳴き声が耳小骨を震えさせるようだ。
ふと時計を確認。
ふん、目覚まし時計のアラームより早く目が覚めたみたいだ。
布団から自らの身体を引きずり出し、時計を見る。時刻は朝の六時。いつもよりだいぶ早い起床時間だ。結局出番が無かったアラーム君を停止させて、自分の部屋を後にする。
洗面所で顔を洗い、完全に意識を覚醒させる。その後向かうのはリビングだ。
見ると、リビングの中心辺りにある大きな机の上には朝食にラップがかけてあり、メモが置かれてあった。
そこには少し丸みを帯びた字体で何かが書かれている。それを見て一つ溜め息。
“弁当はいつものとこ。忘れ物しないようにね。会えなくて寂しいけど行って来るね。今日も愛してるよ。”
全く姉さんは……こっちが恥ずかしくなる。毎日毎日よく飽きねぇな。まあ毎日といっても今日のは少し意味合いが違う。姉さんは一週間ほど仕事で出張みてえだからな。
それにしてもわざわざラメペンで書かなくても……まあいい。いつもの事だ。メモの中で飛び交っている無数のハートマークも気にしない。
もう一度溜め息をついて俺は朝食にありついた。ちなみに姉さんの料理はかなり旨い。店でも出したらいい稼ぎになるだろう。店建てる金無ぇけど。ウチ貧乏だし。今日もしっかり完食。御馳走さんっと。
食器を水につけて、自分の部屋に戻る。部屋に入ると直ぐにスウェットを脱ぎ、すでげ均意してあった黒のロゴ入りTシャツにカッターシャツを重ね、ズボンをはき、部屋にかけてあるハンガーにかけてある…ややこしいな。まあいいや。ブレザーに袖を通す。着替え完了。鞄は昨日用意出来てる。その間約二分。カップ麺も作れやしない。
まあまだ早ぇが準備も出来たことだし行くか。部屋のドアを閉め、家の火の元の点検を済ませ、鍵をかけ、俺は学校に行くために歩き出した。
俺が通う高校は俺の家から徒歩で約十五分くらいの距離で、町の中心部に存在する大きな私立高校だ。家が貧乏なのにどうしてそんなとこに行けるのかって?知るか。姉さんに聞け。
空気に身を任せながら歩いていると、暖かい風が全身を包み込むような錯覚に陥った。
それほど春風は心地良かった。悪くない気分だった。今頃なんだと思うかもしれないが、今は春だ。俺は高校一年生。入学してまだ一ヶ月ほど。だんだんと学校生活にも慣れてきた、ということにしとく。
風の心地良さを全身で感じながら進んでいると、いつの間にか学校にたどりついた。校門横のプレートには大きく、“私立明凌高校”と達筆っぽく彫られた文字が並んでいる。正直読みにくい。
俺は校門をくぐり、下駄箱へと向かった。下駄箱で下ぐつを履き替え、教室に向かう。周りには誰もいない。少し早く来すぎた。まあ俺にとってはその方がいいか。
用務員の先生が朝一で鍵は開けてくれるため、取りにいかないでいいのはとてもありがたい。
俺の教室である一年A組に入る。入っても誰もいない。まあ寂しい気もするが仕方ない。この学校では遅刻したらダルい生活指導の先生にみっちり指導をうけなきゃなんねえからそれだけは避けたい。まあそれにしても少し早く来すぎたな。
現在時刻は丁度七時半。まだSHRまで長針一周分もある。こんな時間に来てんのは朝練の連中ぐらいだろう。
……暇だな。
予習やら宿題やらは終わっているし、時間もあることだし…あそこに行くか。
俺は自分の存在を知らせる目印である荷物を机横に置き、教室を後にした。
**
――優しく吹く暖かな風。天から降り注ぐ天然のスポットライト。いい気持ちで思わず寝てしまいそうだ。まあ早く来た意味が無くなるからそんなことは失態はしない。
ここは明凌高校の屋上である。日当たりといいこの静かな感じといい、俺のお気に入りの場所だ。入学式の日に校内の散策をしていると見つかった。立ち入り禁止って書いてあるから誰も来ない。ここを知っているのは俺以外にあと一人。まあそうだな。簡単に言えば腐れ縁だ。小学校からの。「ん、先客がいたか」
重く響く金属音の後に、流れるように澄んだ声が俺の耳に届いた。噂をすればなんとやらってな。
「ん、早ぇな。いつもこんな時間か?」
「家にいるよりここでのんびりしたほうがいいからね。そっちこそ、いつもよりだいぶ早いじゃん。幸人」
――幸人。唐沢幸人。俺の名前だ。
「ああ……早く目が覚めたからな。それより辰也、お前また昨日女子に呼び出し食らってたらしいな。確か三年生だったか?」
舞山辰也。
この男の名前だ。特徴と言えばそうだな。辰也は女子に凄い人気があるらしい。
何故かって?さあな、俺も知らねえよ。
美少年でスポーツ万能で成績優秀。通称、蒼月の王子。女子の間じゃそう言われてるらしい。
蒼月の王子ねぇ…けったいな名前だな。誰がつけたんだか。
面がいいってのは否定しねえけどな。まあ変わってるところといえば一際目立つ蒼い髪と瞳ぐらいか。本人曰く髪は染めてて、目はカラコンらしい。まあ自然色でその色はあり得ねえだろそりゃ。
「幸人も知ってたんだ。もう散々だよ。元々現実の女子に興味は無いけどあの女子はかなり最低だったよ。過去に二股をしていた経験がある上にいまだって彼氏がいるはずなのにのうのうとあなたが好きです。あなたしか見えないの、なんて言ってさ」そして辰也は物凄く広い情報網を持っている。特技が情報収集と自分でも言ってて、全校生徒の名前や血液型や誕生日、校内の裏ランキングなどなんでも知ってる。一体どこから調べてくるのか。法律上大丈夫なのかは非常に気になる所だ。
「ふん、女にロクなやつはいねえんだよ。お前もいちいち行かねえでほっときゃいいんだ」
「そうだね。やっぱり女の子は二次元に限るよ。幸人もそう思うよね?」
「興味ねぇ。勝手にやってろ」
ああ……言ってなかったな。辰也は世間一般に言う『オタク』だ。それもかなりの。一体そういった趣味にどんだけ金を使ってるか……『オタク』って言い方は貶してるみてえだからイヤなんだがそれ以外に該当する言葉を俺は知らねえから勘弁してほしい。
今もうんたらかんたらと何かのアニメの話熱弁している。
まあでもこうやってまじまじと見るとこいつが女子から好かれるってのも分からなくもない。
面は勿論だがスタイルもいい。八頭身ぐらいあんだろ多分。
まあどうでもいいけどな。
「それにしても」
「ああん?」
いきなり話を止めて俺の顔を見てくる。
「ホント幸人は女子に興味無いよね。」
「人のこと言えねえだろ」
「まぁね。」
女は嫌いだ。まずうるせえし、影でこそこそ話をしてやがったりしてイライラするし、香水は臭ぇし。話し掛けられることさえダルい。とりあえず全部うぜぇ。辰也の野郎と連んでるから偶に女子が話し掛けてくるが俺は一言も返さない。罪悪感?皆無だな、んなもん
そういや裏では色々汚えって姉さんも言ってたっけか。クラスの奴らがあいつがいいあいつが可愛いとか色々言ってるけど俺にはさっぱり理解出来ねぇ。したくもねえ。
「まあ幸人はまず見た目でほとんどの人が話し掛けないしね。」
「ふん、悪かったな。でもいいんだよそれで。俺にとってはな」
こんな話をしていると、五分前の鐘が鳴ったため俺達は教室への帰路をたどって行った。
ちなみに教室に着いたのはギリギリだった。
**
連絡事項などを言って、俺のクラスの担任は教室を出ていった。
十分間の休憩時間である。同時に辰也が俺の席にやってきた。
「ふう、エスケープ成功」
は?エスケープ?
俺が怪訝そうな顔をしていると辰也は
「ん?エスケープっていうのは逃げるって意味で他には脱出するとか免れるって意味も」
「うるせえ。知ってる。俺が聞いてんのは今現在どういう意味で使ってんのかってことだ」
ったく苛々する。
「うん。これはつまり幸人の周りにいれば女子が話し掛けてこないっていう……」
とりあえず脇腹をどついた。
「人をバリケートみてぇに扱うんじゃねえ。俺はお前の壁でも結界でもねえ」
脇腹を押さえたまま辰也はいつものようにへらへらしていて少し腹が立ったがよくよく考えてみれば仕方が無いと思った。
「まあいい。次移動教室だからさっさと行くぞ」
「はいよ〜」
気のない声を引き連れて横に並んで移動教室に向かう。
他の奴らは並んで歩く俺達を見て恐れたように道を開ける。
ああ、間違えた。
俺に、だ。
**
唐沢幸人は不良である。
実は極道の若頭である。
睨むだけで人を殺せる。
全てが俺の噂だ。正直言う。全部嘘のでっち上げだ。
この噂からも分かると思うが、俺は周りから恐れられている。
一部の生徒には月光の悪魔とか言われているらしい。ちなみに月光ってのは俺がいつも三日月の紋章が入ったアクセサリーを首にかけているかららしい。あともう一つ言うとこの高校が月代高校、通称月高って言うからってのもあるらしい。
俺がこんなに周りから恐れられる理由。やはりそれは外見だろう。
目つきはまるで蛇神のように鋭く、睨んだだけで人を殺してしまいそうで、顔全体がとりあえず鋭い刃のよう。顔自体は悪くない筈だが基本無表情だから余計怖い。,辰也談,
髪は染めてもいないのに茶髪。生活指導の太田は俺にあまり強く言えないようだった。
そして極めつけは身長。もう今まで伸び続けた身長がこの春ついに百八十センチを突破した。これから先伸びることは多分無い……と思う。
極道顔に見下げられるのはまあ怖ぇだろうな。って誰が極道顔だ。
ま、自分でも分かってはいる。だが別にそのことを不幸に思ったことは無いし俺にとっては丁度いい。俺は女嫌いだし元々人付き合いが好きではないのもあってまともに話す奴は殆どいない。それに見た目で判断するようなヤツと親しくなろうなんて思わねえ。
それが唐沢幸人だ。
**
今日もいつも通り学校生活を送り、全ての授業が終了した。
そして終わりのSHRを終えた後、すぐに青髪のヤツが俺の所に素早く来る。
「エスケープ成功〜」「るせえ。その件しつこいぞ。」
俺がそういうと辰也はいつも通りのへらへらした笑みを浮かべてくる。
「ゴメンゴメン。怒んないでよ幸人」
「別に怒ってねぇっての」
「顔が怖いよ?」
「それは元からだ」
溜め息を一つ。席を立って鞄を手に持って肩の位置。それを見ると辰也も顔はこっちを向いたまま出口の方へ体を向ける。そしていつものように締まりのないスマイル。
「よし、じゃあ帰ろう幸人。今日はどっか寄って帰る?」
自然と一緒に並んで教室を出る。俺のほうがが背が高いから少し肩の位置が違う。
「任せる」
今日も俺はこいつと並んで歩いている。
すれ違う人がみんな避けて綺麗で真っ直ぐな道になる。
悪魔と王子は今日も真っ直ぐな道を歩いていく。
ありがとうございました。これからもよろしくお願いします。感想、評価お願いします。