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赤頭巾は被りましよう

作者: ささきさき

明野の森は街道が通っている。

迂回すればよいにの通っているのには政治的だの地質的観点から色々理由があるが割愛する。

田舎から都会に抜ける街道でごくごく便利だが奇妙な風習が、一つあった。

未婚女性は赤い頭巾をかぶること。

かぶらねば何かおこるらしい。森に入る街道の入り口には赤い頭巾を貸し出しており、貸し出し係は未婚女性に言う。

悪いことは言わないからかぶりな

こう言われてかぶらないものは少ない。

かぶらないのはよっぽどのへそ曲がりか、急いでいたか…


安良里(あらり)は慌てていた。配達が間に合わないからだ。

明野の森に住む老婆に食料の配達である。

あの老婆は森に住み着く偏屈ババアで配達の常連でもある。

時間指定に遅れると鬼ババアと変身するのだ。

以前指定時間から10分遅れた先輩は「あそこの配達は遅れてはダメだ。これは絶対だ。」と言葉少なく語った。そして先輩は二度と明野の森の老婆に配達をしなかった。

安良里は3回目の配達なのだが今日はついていない。

まず寝坊して先輩にがっつり叱られ、慌てて準備したら荷物を間違え怒られた。

きわめつけは今、明野の森街道に入ったらナンパされている。

亀田飛脚の制服ははっきり言うと実用性を重んじダサい。

名前の亀に合わせたのか色も深草色。大物荷物を背負えば文字通り亀の出来上がりである。


「イヤー君かわぅいーね!あの変な頭巾被ってないし。ちょっとお茶でもしない?」


ナンパのお手本のような声かけをされて、安良里はつい感動してしまった。

ここは明野の森街道で近くに茶屋なんてないけれど。

ナンパ男を見ると灰色の長髪をゆるくまとめた頭に三角耳が出ていた。

目線を落とせば髪と同じ色の尻尾もある。

獣人だ。


「イヤーちょっと行ったところにすげーいい花畑あるからさあ行って見ない?まじキレイだよ」


人里離れ、伝統的生活をしている彼らに会うのはまれだ。

野性味あふれる姿に惚れ込むものも多い。

画家の束画餅〈たばかへい〉もその人で獣人の絵をたくさん描いている。

それはどれも自然と暮らす獣人の姿でこんな、こんな、ナンパな様子ではない。


「仕事中ですので失礼します」


安良里は脚に込めた走力を倍にしナンパ獣人から離れた。

懐中時計を確認すると指定時間ギリギリ。

依頼人が鬼女となり包丁を研ぐ。

安良里は鬼女のことで頭がいっぱいで、ナンパ獣人のことなど3歩目で忘れた。そしてナンパ獣人がじっと安良里を見ていることに気がつかなかった。


街道から細道に入り行けば老婆の一軒家が見えてくる。

明野の森の中だと言うのに妙に立派な家で安良里の実家より大きい。

安良里は息を整え呼び鈴を鳴らした。


「亀田飛脚です!天野(あまの)様のお荷物お持ちしました!」


はいりな、と声がしたので戸を開けても玄関は人がいない。

さらに、奥まで来な、と呼ばれる。

老婆はどうも家の奥にいるらしく声しかしない。

以前届けた時はすぐに出てきて、玄関で受け取りだったのに。

具合でも悪くしているのだろうか?安良里は老婆が心配になってきた。


「あのー天野様お加減悪いのでしょうか?」


進めば台所に出た。

荷物はそこにおきな、と言われる。

背負っていた食料品を下ろす。でもまだ仕事は終わらない。老婆から署名をもらわないと届けた事にならない。

こっちだ、とさらに案内されるままに安良里が進むと部屋に着く。

戸を開ければ畳敷の部屋で布団があり人が寝ている。

老婆は具合が悪く休んでいたのか。

家の中とはいえ声を飛ばさせて疲れさせただろうか?


「天野様お荷物台所に置かせていただきました。伝票に署名お願いいたします」


老婆の枕元に近づくと灰色の頭髪が見える。

過去3回会った老婆の髪色は白髪まじりの赤毛。


「イェーイまた会ったね。これマジ運命的じゃない?」


布団の中からナンパ獣人がピラピラ手をふっている。

安良里があっけにとられているとアッサリ布団に引きずり込まれた。


「まあ仲良くしようよ、色々とね」


安良里は狼に食べられてしまった。



老婆はぐったりとした安良里に語った。


「国は獣人と約束をしていてね。明野の森の街道はいわゆるお見合いのための道なんだ。未婚の女と出会うためのさ。でも国も女を全て獣人に取られたら困るので獣人避けの頭巾をかぶせるようになった。そしたら獣人から約束と違うと言われてね。折衷案が「頭巾はかぶせる。でも理由は教えない。」となったわけさ」


安良里は老婆から説明されても頭に入らなかった。

疲れていたし、後ろで「いやーマジよかったよー!サイコー!安良里カワイイ!」と抱きついたチャラ男獣人こと原戸(はらと)が安良里をぬいぐるみのように抱きしめていたからだし、目の前の老婆が安良里と同じ状況であっだからだ。

ガタイのいい老年の獣人の膝の上に乗り、後ろから抱きしめられ「可愛い小竹羅(ささら)いつまで話しているんだい?そろそろいいだろう。孫とはいえ雄の目に君をうつしたくないんだ」なんて囁かれている。


「……これがあんたの未来だよ」


老婆の目が死んでいる。


「天野様なんで頭巾被らなかったんですか……。」


老婆のは苦虫を噛み潰した様に顔をしかめた。


「へそ曲がりだったんだよ…」


安良里はそんな気がしました、とは賢明にも言わないでおいた。
















赤頭巾ちゃん

安良里 急いでいた子

原戸 チャラ男獣人

おばあさん

天野小竹羅 へそ曲がりな子

猟師

老年獣人


感想、評価大好きです

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