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2.ある意味でテンプレなエンカウント





「えー、それでは順番に自己紹介をしていってもらうぞ」


 教室にたどり着き、席に座るとしばらくして担任の教員が入ってきた。

 そして、一通りの祝辞をいただいて。次はある意味で定番とも言える、各々の自己紹介の時間だった。僕は比較的最初の方で、無難にそれを済ませる。


「よし、シルフド。座っていいぞ」

「はい」


 基本的に、名前とどこ出身なのかを言えばそれで終わりだった。

 だが、中には目立ちたがり屋もいるわけで。


「俺様の名前は、モーブ・ザッコー! 世界最強の剣士を目指してこの学園にやってきたぜ!! いつの日か、騎士団の長になってみせるから、見てろよ!」


 などと、どこにでもいるような顔をした奴がそう声高に宣言してたりする。

 僕はそんな学友をやや冷ややかな目で見つめつつ、ボンヤリと時間が経つのを待っていた。すると不意に、隣の席の男子に声をかけられる。

 見れば、これまたどこにでもいそうな顔をした坊主頭だった。

 名前はたしか――クリン、とかいったっけ。


「なぁ、リードくん。キミは何を目指してこの学園にきたんだい?」

「え、なにを目指して……だって?」


 コソコソと、そんな世間話を振ってくるクリン。

 あー、言われてみれば。先ほどのモーブ然り、この学園にくる者は何かしらの夢やら、目標やらを持っているものだ。その辺の理由付け、忘れていた。

 とは言っても僕の最終目標は、前世からずっと決まっている。


 最高、最強の賢者となること。

 そして正体を隠しながら、人々を助けること。

 そうなると、風当たりの良い無難な職業はなんだろうか。世界中を旅しながら、何者にも縛られぬ存在であり続けるには、そうだな――。


「――僕は、冒険者になれれば、それで良い」


 それが一番、僕に適しているだろう。そう思えた。

 冒険者という肩書で世界を旅しながら、賢者レッドとして人々を助ける。

 正体不明の、そんな存在としてあり続けること。名誉なんて要らないのだ。ただ僕は、そういう生き様に憧れているのだから。


 まぁ、大きな敵があれば楽しそうだと、妄想もするけど……。


「へぇ。意外と小さな夢なんだね。ちなみに俺は――」


 僕の答えを聞いて、クリンは何かを言おうとした。

 だが、それを遮って――。


「私の目標は――赤き賢者、レッド様のような立派な賢者になることです!!」


 ひときわ大きな声で、こう宣言する女子がいた。

 クラス中の視線がその子に、一斉に注がれる。僕やクリンもその例に漏れず、彼女を見た。するとそこにいたのは、ブロンドの髪をした小柄な少女。

 小動物のような外見に、円らな蒼の瞳をしていた。


「赤き賢者、レッドだって……!?」


 僕は思わずそう漏らす。

 どうにか声量は抑えたが、それでも驚きを隠せなかった。


「聞いたことないね……誰だろう、レッドって。リードくんは知ってる?」

「あ、いや……。まったく知らない」

「だよねぇ~」


 クリンが不思議そうに訊いてくるが、僕は白を切る。

 どうにか誤魔化し切れたけど、軽いパニック状態は収まっていなかった。

 どういうことだ。僕が賢者として活動したのは一回きり。しかも、賢者レッドという名前を使ったのも一回だけ。こんなところでその名を聞くことになるなんて、想像もしてなかった。いったいどうして……。


「あ、出身地を言ってませんでしたね! 西の方にある、アド村です!」


 ……そういうことかよ!


 内心で思わず、僕はそうツッコみを入れた。

 なるほど。あの村の出身であれば、噂程度に僕の活躍を聞いた可能性がある。ただそれにしても、そのくらいで憧れる、までいくことが疑問だが……。


「これ、見てください! 私のお父さんのペンダント、レッド様が取り返して下さったんです!!」


 ……あの子かよ!


 ――ゴン! と、僕は思わず机に勢いよく突っ伏した。

 熱のこもった彼女の声以外に、なにも聞こえない教室の中。したたか額を打ち付ける、その音が響き渡る。瞬間クラスメイトがこちらを見た気がしたが、気にしている場合ではなかった。


 これは、あまりに想定外だった。

 まさか二年前のあの日に偶然に助け、またまた偶然にペンダントを返した女の子と、こんなところでクラスメイトになるなんて。しかも、あっちは赤き賢者レッドに執心ときた。


「ステラ・カラハッドさん。もういいですよ」

「あ、分かりました!」


 担任に促されて、ようやく女子――ステラは着席する。

 だがしかし、他の生徒たちはみな口々に「賢者レッドとは?」と話していた。あんな辺境の噂程度の存在が、王都であるガリアで知られているはずがない。


 それでもちらりと見れば、ステラはどこか満足そうに笑っていた。

 まるで大きなことを成し遂げたかのように……。


「えー……それでは、次」

「はい、私は――」


 その空気を振り払うように、先生はそう言った。

 次の生徒が自己紹介を開始して、教室内の雰囲気は元通りになる。

 そのことに僕はホッと胸を撫で下ろして、息をついた。とりあえず、あのステラという少女は要注意人物だ、と。そう頭に叩き込んだ。



 僕がその賢者レッドだということは、バレてはいけないのだから……。



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