4.始動、そして再会
顧問も決まったことで、翌日さっそく『赤き賢者レッド同盟』は活動開始となった。今はそれに当たって、部長であるステラから活動内容の説明がされている。
今さら感はあるものの、情報共有、方針確認は組織として重要だ。
「というわけで、私たちはこれからレッド様の活動を広めること。さらには、その活動の記録からレッド様のお考えについて研究することを主目的とします!」
学園内の空き教室――部室となったそこで、ステラはそう宣言した。
教員のように黒板の前に立ち、熱弁をふるっている。
「はい、ステラ部長。質問いいでしょうか?」
「なんでしょうか、リードくんっ!」
その最中に、気になったことがあったので僕は手を挙げた。
すると本当に先生そのもの、といえる感じにこちらを指名するステラ。
「具体的に、広報活動とは何をするのでしょうか?」
「それについては、私から説明するわ」
「アンジェリナさん」
僕の問いに対して、答えたのはステラの隣にいるアンジェリナだ。
彼女は部長である少女と位置を変えて、教壇に立った。
そして、こう話し始める。
「まずはレッド様の活躍を逐一調査し、それを読み物としてまとめます。その上で製本し王都全体へと向かって発行します。書店などとはすでに交渉段階に入っており、間もなく色好い返答がもたらされるでしょう」
「お、おう……?」
思ったよりも壮大な話で、僕はついつい声を詰まらせてしまった。
しかし、それだけで終わらないのがレッド同盟の活動。
「次に合わせて説明しますが、研究の内容について。現時点ではレッド様の存在は確認されているものの、あの御方についての情報は少なすぎます。したがって、まずは調査段階として王都騎士団と連携することによって――」
「いやいやいや、ちょっと待った」
「……どうしました?」
ツラツラと、さも当然のように並べられる文言に僕はついに口を挟んだ。
それに対してやや不快そうな顔を浮かべる第二王女。その威圧的な態度に呆れを抱きながら、しかしここは引き下がれない。言いたいことは言おう。
色々あるが、とりあえず問題としては……。
「え、なに……? これって、国が動くの?」
まずは、そこだった。そんな話はまったく聞いていない。
王女が二人そろって参加するあたり、自ずと規模が大きくなるだろうとは思っていた。しかしながら、これはあくまで部活動のはず。
だがこれではまるで、国家事業ではないか。
「いけませんか? お父様からはすでに許可を得ています。ですよね、お姉さま」
「ええ、そうですよ。リードさん」
「クリスティナさん……」
アンジェリナの言葉に反応したのは、姉であるクリスティナ。
彼女は隣の席に座っているのだが、表情もこれといって変えずに淡々と言った。
「お父様も、私たち二人の命を救って下さったレッド様に、一度でいいからお会いしたいと話しています。その上で、騎士団を貸し出すことを了承して下さいました。何か問題があるでしょうか?」
――いや、大ありでしょう。
首を少しだけ傾げて、僕を覗き込むクリスティナ。
そんな王女様に僕は内心でそうツッコみを入れるのだった。
「プレーン先生。教員としては、いいんですか?」
そして、苦笑いを浮かべながらプレーンへと問いを投げる。
すると一人離れた場所に立っていた彼は、不思議そうな表情を浮かべた。
「互いの利害が一致しているのであれば、それは有意義なことだと思うが?」
「………………そう、ですか」
駄目だ。この中で、マトモな思考を持っているのは僕だけのようだった。
教員もブレーキにならないのであれば、これはもう自分でばれないように活動をするしかない。予想通り、この部活は危険な組織だったわけだ。
先日の自分の判断に、乾杯。
内部の状況を知って行動すれば、簡単に素性が割れることはないだろう。
「さて、ここまでの説明で疑問のある人は?」
「ないで~す!」
とりあえず、しばらくはこの部活も要観察対象だ、と。
僕がそう考えていると、ステラがそのように確認してきた。それに間の抜けた声で答えるのはクリン。そういえば、コイツのことも注視しなければ。
まさかとは思うが、首に傷を負っているわけだし……。
「分かりました! それでは、入っていただきましょう!!」
「…………ん?」
その時だった。
ステラが教室の出入口に向かってそう言ったのは。
僕は何事かと思いながら、そちらへと視線をやった。すると――。
「――いやぁ! 王都学園、ってのは設備も整ってて凄いんだなぁ!」
現われたのは、数人の騎士団員。
その先頭を歩く男性は、物珍しそうに教室内を見回していた。
全員が軽装ながら鎧を身に着け、腰には身の丈の半分はありそうな剣を携える。誰も見覚えがない、初対面の方々――その、はずだった。
「げっ……!」
しかし一番前を歩くボサボサの黒髪に、無精ひげを生やした人物には見覚えが。
四十代半ばといった彼もまた、こちらを見ると意気揚々と声をかけてきた。
思わず潰れた悲鳴を上げたこちらとは対照的に。
「よお! 久しぶりだな、リード! 少しは背が伸びたか?」――と。
その人――レオン・シルフドは、僕にそう言った。
「父さん……」
それは、まるで望んでもいない父子の再会。
僕は苦笑いしか浮かべられなかった。
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