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2.赤き賢者レッド同盟






「赤き賢者レッド同盟……?」

「うん、そうなの。先日、王室に戻られたアンジェリナさん、っているでしょ? 私と同じ、レッド様に助けられた、ってことで意気投合したんだ!」

「ふーん……俺は興味ないかなぁ。これでも、れっきとしたヴィクトル教徒だし」


 休み時間。

 移動教室のために廊下を歩きながら、ステラとクリンはそんな会話をしていた。

 少女は今朝、僕にしたような話を少年にも語ったのである。だけどクリンの方はといえば、反応がさほど良くなかった。どれも、感情の少ない生返事。


 前にもちらりと話したが、彼はこれでも敬虔なヴィクトル教徒だ。

 毎朝しっかりと祈りを捧げているらしいし、週末には必ず教団の本部に顔を出しているとか。なんなら学園長とも面識があったりで、将来有望とも云われていた。


「そっかぁ、残念だなぁ……」

「うん、さすがにね。ヴィクトル様を信仰する者として、ここだけは譲れない」


 ――おぉ。いつになく、クリンがたくましく見える。

 表情もどことなく、凛々しく感じられた。恐るべき信仰だった。


「…………ふむ」


 だからこそ、僕の中には違和感が渦巻いている。

 彼が敬虔なヴィクトル教徒だと知っているが故に、首の包帯の存在が気になった。まさか彼が黒き始祖なのか、そんな馬鹿げたことがあり得るのか?

 そう考えているうちに、二人の会話は進んでいっていた。


「噂をすれば、という感じね」

「あら、ステラさん。それに皆さんも、ごきげんよう」


 と、そんな感じで角を曲がった時だ。


「あっ! アンジェリナさんに、クリスティナさん! こんにちは!!」

「お久しぶりです。お二人とも」

「あひっ……!?」


 まるで狙ったかのように、件の上級生二人とぶつかった。

 仲良く談笑しながら現われたのは、アンジェリナとクリスティナの王女姉妹。

 彼女たちはこちらに気付くと、小さく息をついてから挨拶。なので僕たちも各々に挨拶を口にした。若干一名、なにか異音を発した奴がいたが。


 でも、そんなことも気にせずに話を続けたのはステラだ。

 少女はアンジェリナに向かって言った。


「アンジェリナさん。すみません、二人とも難しいみたいです……」

「気にしなくていいわ。こっちは、一人確保できたから」

「え! 本当ですか!?」


 すると妹君から返ってきたのは、そんな意外な言葉。

 ステラは驚きと歓喜の入り混じった声を出して、アンジェリナのことを見上げた。


「ど、どなたですか? 私の知っている方でしょうか……」


 そして、そう訊ねる。すると――。


「知ってるもなにも、ここにいるじゃない。もう一人」

「え……?」


 隣を示しながら、アンジェリナはそう言うのだった。

 そこにいるのは当然、クリスティナ王女であって……。


「よろしくお願い致します」


 王女様は全員の視線を一身に受けつつ、恭しく礼をした。

 そうなると一人、目の色を変える人物が現れる。



「お、俺もはいりゅぅ~っ!?」



 ――おい、お前。ヴィクトルへの信仰はどうした。

 僕は思わず、心のうちでそうツッコむ。即落ちだったからだ。

 情けない声を出しながら参加表明をしたのは、当然ながらクリンである。彼はふにゃふにゃとした顔をして、身体をくねらせながら笑っていた。


「これで合計四人! 部として認められるまで、あと一人だね!」


 ステラはそんな気色悪さをまったく気にしない、といった雰囲気でそう言う。

 さて、そうなると話が変わってきた。当然の流れとして、全員の視線が僕へと集まる。あと一人、ここにいるではないか、と云わんばかりに。


 僕は顎に手を当てて、入部を検討することにした。

 何故ならば、今朝とは状況が変わってきたからである。ステラの言う通りに、ただ賢者レッドを応援するのなら問題はなかった。

 しかし、そこに王族が二人入るのは想定外。

 それに加えて、動向の気になるクリンまで入ると言い出した。

 これはもしかしなくても、要注意な集団、ということになるのではなかろうか。


 それなら、僕の判断は――。


「分かった。僕も参加するよ」


 これが最善、ということになるだろう。

 そんな感じで僕は自らについて研究、応援する部活に入部するという、ちょっとおかしな状況に置かれることになったのであった。


 

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