愛と混沌の物語
ある所に仲のいい双子の兄妹がいた。兄のセバスチャンと妹のヴァイオラである。2人は船旅をしていた。
船旅の途中、甲板から空を見上げていると、たちまち雲行きが怪しくなっていった。
暗雲が前方に広がっている。雷が鳴り、雨が降り、風が吹いている。
「嵐のようですわね、お兄様」
「あぁ、そのようだね。何、心配しなくていい、この船は頑丈にできている。ちょっとの風じゃ何ともないさ」
「それなら安心だわ」
そう言ってヴァイオラは微笑んだ。
嵐は船を襲おうと待ち構えているようだ。
船は舵を切り、嵐を避けようと試みた。しかし遅すぎたようだ。嵐は真っ直ぐに船に向かってくる。
船は嵐に飲み込まれてしまった。
船は揺れる。風に吹かれて。
そのうち、甲板でようすを見ていたヴァイオラが船外へ勢いで飛ばされてしまった。
「ヴァイオラー!!」
叫びながら後を追ってセバスチャンが飛び込む。
荒波に飲まれ二人の距離は次第に離されていく。
「お兄様ー!!」
*
嵐が過ぎ去り、残っていたのは壊れ果てた船の残骸と見受けられるものだけだった。
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音が聞こえる。波の音だ。
薄く目を開けると海岸に倒れていることがわかった。
体の節々が痛い…
(私は船から落ちてこの海岸まで運ばれてきたようですわね。)
なんと幸運なことだろうか。ヴァイオラは生きていたのだ。
起き上がって見渡すと嵐なんてあったのかと錯覚するほど穏やかな海が広がっていた。
(そうだわ!お兄様!私の後に続いて海に飛び込まれていたはず。私がここに運ばれたということはお兄様も!)
周りを見渡すがそれらしい人影は見当たらなかった。
(やはりそう上手くは行かないものね…もしかしたらお兄様はもう…いえ、そんなことはあるはずがありません!私は信じておりますわ)
しかし、あの状況の海に飛び込んで無事でいられる方がおかしいのだ。全くないとは言いきれない。
しばらく落ち込んでいると鼻歌を歌いながら一人の男が近づいて来る。
ヴァイオラは少し怪しいが身なりは悪くないその人に質問することにした。
「あのーすみません。少しお尋ねしたいことがあるのですが…」
「はい?私ですかな?」
男は驚いたように目を丸くして自分を指さした。
「はい。えーっと、いきなりですがここはどこかお教えていただけないでしょうか。」
「え、あ、はい。ここはイリリアの海岸ですが、どうかされましたか?」
(イリリア、以前お父様から聞いたことがあったわ。確かオーシーノ公爵という方が治めておられたと聞いたような。)
ヴァイオラはこれからの方針を考えながら返事を返した。
「はい。船旅の途中で嵐に会いまして、どうやらここまで流されてしまったようです。」
「それは災難でしたな。それにしても助かるなんてすごい幸運の持ち主ですな。して、これからどうするおつもりで?」
「ここはイリリアですよね。それならば公爵様に仕えようかと思います。」
私が答えると男は苦笑しながら答えてきた。
「いやいや、それは無茶ってもんですぜ、お嬢さん。お嬢さんあんたは女だ。女だと仕事になにかと支障をきたすと思うんですがねぇ。」
「うーん、そうですか。あ、それならば男装をすることにします。」
「ほほう、男装でございますか。いいかもしれませんね。」
「それでは失礼いたします。ありがとうございました。」
私は足早に立ち去ろうとした。
「お待ちください。」
ヴァイオラは呼び止められ振り向いた。
「まだ名を名乗っておりませんでした。私はフェステ。道化師のフェステです。」
「はい。ご丁寧にありがとうございます。私はヴァイオラというものです。それでは。」
フェステは面白そうに去っていくヴァイオラを見ていた。
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ヴァイオラは公爵家へ赴いた。
警備員さんに挨拶をすると簡単に通してもらえた。
ヴァイオラは疑問に思うことなく屋敷へと足を踏み入れた。
扉をくぐると侯爵様が出迎えてくださった。
「我はオーシーノ。お主がこの私に仕えたいと申すものか。」
「はい。左様でございますが。なぜご存じなのですか?」
ヴァイオラは驚いて名前を言い忘れ、逆に尋ねてしまった。
しかし公爵は何もなかったように答えた。
「ちょっとした情報の伝手があってな。」
(情報の伝手ってもしかしてあの道化師の方かしら。)
「そうですか。では雇っていただけるのですか?」
「そうだな。それでは今日から私に仕えてくれたまえ。」
話がとんとん拍子に進み呆然とするヴァイオラだったが、我に返り名乗った。
「すみません。名前をお伝えするのを忘れておりました。僕はシザーリオです。よろしくお願いします。」
「よし、これから頼んだぞ。シザーリオよ。」
オーシーノはシザーリオの事を認め、一方ヴァイオラはオーシーノのかっこよさに一目ぼれをしてしまったのだった。
こうしてヴァイオラことシザーリオはオーシーノ公爵に仕えることになった。
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実をいうと情報源はフェステである。フェステはオーシーノに信用されており、今回もオーシーノに可愛らしい男性がここに仕えさせてほしいといいに来ると伝えていたのだ。
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シザーリオはよく公爵に頼みごとをされた。
オーシーノはよく働いてくれるシザーリオをとても気に入りいつも側に置いておき、可愛がるようになった。
オーシーノがシザーリオが女性だったならば良かったのにと思うほどに。
シザーリオはそのことを知っていた。しかし自分が実は女だとはとても言えなかった。なぜなら自分が好かれている以上にオーシーノが好いている女性がいることを知っていたからだ。
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ある日、シザーリオはオーシーノにある人物に会いに行ってほしいと頼まれた。
その人物とはオーシーノが好いている女性であり、オリヴィアという人だった。
オリヴィア姫は伯爵の娘であり、ずっと公爵の求婚を亡くなった兄の喪に服しているという理由で断っていた。
そこでオーシーノはかたくななオリヴィアの心が和むだろうとシザーリオをメッセンジャーとしてオリヴィアのもとへ送り込むことにしたのだ。フェステの提案で。
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シザーリオはオリヴィア姫のもとへ行く、自分の気持ちを抑え込んで。
一方、シザーリオのことを興味本位で迎え入れたオリヴィアはその日からシザーリオの恋のとりこになってしまった。
シザーリオは恋するオーシーノのために心苦しさに気づかないふりをしてオリヴィアに彼の気持ちを伝える。
「オリヴィア様、僕の主人はあなたのことを心から愛しておられます。あれほどの愛には報いてあげなければなりません。どれほどあなたが美しくとも。」
「あら、どのように愛してくださるのかしら。」
「もし、求婚を受けなさったならば、滂沱の涙を流し、轟くほどに愛を叫び、炎のようなため息をつかれることでしょう。」
「私の答えは変わりません。あなたや公爵もご存知でしょう。私には愛せないのです。今までにも何度も断っているでしょう。今後もその考えに変わりはありません。」
「それでは納得が行きません。なぜ愛せないのです。なぜあれほどの愛を受け止めないとおっしゃるのです。」
「納得出来ないのならどうするつもりですか?」
「家の前に小屋を建て、毎日のように主人の愛を叫びましょう。あなたが哀れに思うほどに。」
「あなたなら、やりかねないわね。あなたの生まれは?」
「運に恵まれてはおりませんが、紳士の生まれでございます。」
「そう。取り敢えずあなたのご主人にお伝えなさい。結婚の申し出はお断りします。今後、使いを寄越すことはやめて頂きたい、と。あなただけには公爵がどんな反応を示したかを伝えてもらうために許して差し上げます。」
シザーリオは渋々部屋を出ることにした。
*
(あぁ、あの方、とても紳士だったわ。言葉遣いといい顔立ちといい、他にも物腰やお心まで。私どうしちゃったのかしら。あの方の姿が頭から離れないわ。)
「マルヴァーリオ、いる?」
「はい、ここに。」
「あの方の忘れ物よ。要らないと言っているのにこの指輪を置いていったの。追いかけて渡してあげてちょうだい。」
「かしこまりました。」
*
「公爵のお使い殿。忘れ物だ。姫様がを返すようにと。忘れずにいてくれていたら余計な仕事をせずに済んだのに。それと公爵様には今後使用人を求婚のために送るのはやめていただくようにお伝えしておけ。あなたが公爵の反応がどうであったかを姫様に伝えるのは別であるということだ。」
ヴァイオラは指輪を渡される。
「これは、そうですか。」
ヴァイオラは苦笑いを浮かべると指輪を受け取った。
(私は指輪なんて渡してない。もしかして姫様が私に惚れた?まさか、そんなことがありませんように。でもあの時の姫様、私をしげしげと見つめていたわね。あぁかわいそうなお姫様。私は女。姫様の恋は永遠にかなうことはない。そしてご主人様の恋も、そして私は男のふりをしなければいけないのだから私の恋もかなわない。あぁ、このいかにも奇妙な三角関係は私にはどうにもできない。)
シザーリオは屋敷を出た。オリヴィア姫を恋に落としたまま。複雑の気持ちを抱えたまま。
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シザーリオがオリヴィア姫の屋敷を訪問してから数日がたった。シザーリオは再びオリヴィア姫の屋敷に来ることとなった。
そのころ嵐でヴァイオラと別れてしまった兄のセバスチャンは船の上にいた。
*
セバスチャンは嵐に会って波に流されていると幸運なことに彼の近くを通りかかった船に拾われた。船長をアントーニオという。セバスチャンはアントーニオの懸命な人命救助行動により一命を取り留めたのだった。それからアントーニオはセバスチャンを世話をすることにしたのだった。
*
こうしてセバスチャンは船に揺られていた。アントーニオとセバスチャンはいりろな港で商売をしながらとうとうイリリアの港まで来たのだった。
イリリアの港でいつも通り商売をしていると商人たちが情報共有というよりも世間話をしていた。
その話はセバスチャンの耳にも届いた。
その内容というのが公爵のもとに来た新しい使用人のことと、オーシーノ、オリヴィア、シザーリオの三者の見事な三角関係のことについてだった。
『おい、知ってるか。公爵様のもとに新しい使用人が入ったらしいぞ。』
『あぁ、知ってる知ってる。何とも可愛らしい男の子だそうで公爵様のお気に入りなのだとか。』
『そういえば、こんな話もあったぞ。公爵様は伯爵の娘のことが好きだろ?そこでその使用人を送り込んで心を開こうとしたらしいぞ。』
『なるほど、公爵もよくお考えになる。』
三人の商人たちは盛大に笑っていた。
セバスチャンはこの話を聞いていた。そして興味がわきアントーニオに聞くことにした。
「アントーニオ。ここの公爵様についてなんか知ってないか。」
「オーシーノ公爵か。あぁ、あいつとはひと悶着起こしたことがあるな。」
「本当か。公爵様はどんなお方なんだ?」
「オーシーノのやつは根はいいやつだが頑固だったな。」
「それで?」
セバスチャンは先を促す。
「それだけだ。」
「え。そんなことないでしょう。もっと何かないのか?」
「ない。というか思い出したくないんだ。」
「それはすまなかった。じゃあ新しい使用人のことは?姫さんのことでもいい。」
「使用人のほうは知らんな。すまん。しかし姫さんのことなら知ってるぞ。」
「本当か。教えてくれ。」
「あぁ、分かったからそんなに急かすな。姫の名前はオリヴィア、すごく美人で長い間公爵の求婚を断ってるっていうので有名だ。本人は亡くなった兄のことでいつも悲しんでいて恋愛どころじゃないそうなんだ。まぁこんぐらいしか知らないが。役に立ったか?」
「あぁ、ありがとう。アントーニオ。」
「なに、いいってことよ。かわいいセバスチャンのためだ。」
(もしオリヴィアが生きてるとしたら身の安全のために公爵に仕えてるのかもしれないな。)
そんなことを考えながら、その使用人について調べてみようと思うのだった。
「アントーニオ。僕はちょっと調べたいことができてしまった。この町にも数日いるんだろ?ちょっと自由に動きたいんだが」
「新しい使用人のことか?もしかしてそれがセバスチャンの生き別れたっていう妹なのか?」
「あぁ。なんとなく気になっただけだが。」
「儂も一緒に行動したいがオーシーノの奴に目はつけられたくないしな。すまんが一人でも大丈夫か?」
「あぁ、それじゃあな。ありがとう。」
こうしてアントーニオはしぶしぶセバスチャンと別行動することに了承するのだった。
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オリヴィアは町に散歩をしに来ていた。気分転換に屋敷を抜け出して外の空気を吸いに来たのだ。
露店を見て回っていると突然声をかけられた。
「おいおい、そこのお嬢ちゃん。ちょっとこっちへ来てくれよ。面白いもんがあるからさ」
オリヴィアは路地裏に連れ込まれた。
「なんですの?いきなり」
「まあまあ。」
そういうと男たちは懐からナイフを抜いてオリヴィアを脅しにかかった。
「素直に言うことを聞いてくれたら痛い目見なくて済むぜ?」
「ちょっと、あなたたち、そんなことしてただで済むと思っているのですか?私は伯爵の娘ですわよ。あなた達風情が貴族に手を出すなんておかしいとは思いませんの?」
「そんなこと誰も知らなきゃなんも俺らに不利益は起こらねぇよ。」
賊は下卑た目をしながら近寄ってくる。
「じゃあ、ちょっと黙ってもらおうか。」
「いや、こっちに来ないで。」
腕をつかまれそうになったその時路地裏に人影が現れた。
「おい、そこで何をしている。」
現れた人物は腰から剣を抜くと賊とオリヴィアの間に割って入るように歩み寄ってきた。
セバスチャンである。
「ちっ。おい、おまえらここはずらかるぜ。」
「でも、親分。相手は一人ですぜ。やっちまいましょうや。」
「そうですぜ。三人でかかりゃよゆうですって。」
「ばかか。怪我したら元も子もねぇだろ。はやくしろ。」
「ちっ、覚えてやがれ。」
そういって賊と戦闘を避けてオリヴィアを救うことができたったのだった。
「君、大丈夫だったか?」
「私と結婚してくださいまし!!」
今のオリヴィアには安否を問う声なんて聞こえなかった。何がなんでもシザーリオのことを夫にするために必死だったのだ。
オリヴィアはセバスチャンをシザーリオと勘違いしていた。
「あ、あぁ、いい、ぞ」
セバスチャンは美しい姫を目の前にして求婚されるという今まで経験したことのないことに驚きすぎて了承の意を示してしまった。
一方、オリヴィアは感動しすぎて泣き崩れてしまった。
(あの今まで断り続けていたシザーリオがやっと私の求婚を受け入れてくれた。私を助けてくれた王子様。そんな方と結婚できるなんて私は世界で一番の幸せ者ですわ。)
「おいおい、君。なんで泣くんだ。私はなんか悪いことでもしてしまったか?」
オリヴィアは立ち上がりながら首を振り否定する。
そして興奮も冷めやらず立ちあがった途端に言い出した。
「今すぐ結婚式をあげましょう!」
「え、あ、今すぐ?!」
「ええ、行きますわよ!」
興奮しすぎているオリヴィアには君と呼ばれていることなど些細な違いでしかないのだった。
セバスチャンはオリヴィアに手を引っ張られて連れていかれた。
そうやってセバスチャンは状況を理解できないまま結婚することになった。
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路地裏では二人の男がその様子を覗いていた。
一人は面白そうに。もう一人は驚愕に満ちた表情で。
誰かというとフェステとアントーニオであった。
アントーニオは自由行動を許したものの心配になって後をつけていたのだ。
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一方そのころオーシーノは町に来ていた。
久しぶりに町の様子を見ておこうと思ったのだ。
オーシーノはこうして実際に住民たちの様子を見ることも領主として大事なことだと考えていたのだ。
しばらく町を歩いていると、オーシーノはきょろきょろと何かを探しているシザーリオを見つけた。
「おーい。シザーリオ。何をしているんだ?」
そう声をかけるとシザーリオはオーシーノに気が付いた。
「これはオーシーノ様。僕はオリヴィア様を探しているところです。オーシーノ様こそこんなところで何をされているのですか?」
「あぁ、私は少し町の様子でも見ておこうかと思ってな。そんなことよりオリヴィアとはぐれたのか?」
「はぐれたというよりはその、屋敷に赴いたのですがいらっしゃらず、オリヴィア様が屋敷を抜け出したようでして。」
「なに?それは大変じゃないか。早く見つけなければ。」
『ぐぅ~』
「なんだ?シザーリオ。お腹がすいたのか?」
「へへへ、すみません。朝から何も食べていなくて。」
そう言ってシザーリオははにかんだ。
(シザーリオってこんなに可愛かったか?!いや、前から可愛かったがこんなにも女っぽくはなかったような。この私を動揺させるなんて。あぁシザーリオが女だったなら。)
「お、おう。そうか、ならこれで何か買ってこい。」
そうしてオーシーノは銀貨を数枚シザーリオに渡した。
「ありがとうございます。オーシーノ様!」
満面の笑みを浮かべてシザーリオは露店の陰に消えていった。
(あの笑顔は反則だろー!!)
そうして、オーシーノはその場に立ち尽くした。
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オリヴィアは焦っていた。早くシザーリオの気が変わらないうちにと。
セバスチャンは動揺していた。今の状況に現実味がなさ過ぎて。
しばらく手を引かれて歩いていたセバスチャンだったが港あたりに来たときに立ち止った。
「どう、されたのです?」
オリヴィアはやっぱり結婚しないと断られるのが怖くて戦々恐々としながら尋ねた。
「えっと、結婚前に伝えないといけない人がいるんだが…」
(もしかしてオーシーノかしら?私と結婚することを伝えに行くなんて勇気があるわね。でもそれだからこそのシザーリオ。かっこいいわ。)
(あぁ、いきなり結婚の約束をしてしまうなんて。アントーニオにこのことを伝えなければ。これからは手伝いはできなくなってしまうな…)
「わかったわ。いいわよ、行ってきて。でも、早く帰ってきてね、あなた。じゃあ私はそこの市場を見ながら待ってるわ。」
「あ、ありがとう。じゃあ行ってくる。」
こうして二人は別れた。
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オリヴィアは市場へ赴いた。
しばらく屋台に並べられた商品を眺めていると声をかけられた。
「オリヴィア。」
声のした方を振り向くとオーシーノがいた。
「あら、ごきげんようオーシーノ。何か用かしら?」
(シザーリオが会いに行ったはずじゃ)
「あぁ、君はいつ見ても美しいな。」
「そりゃどうもありがとう。それで?」
「私は君のことが好きなんだ!どうか結婚してはくれないだろうか。」
「あら、シザーリオに聞いてないの?」
「シザーリオに?何をだ?」
オリヴィアは自信満々に負け犬を見るように答えた。
「あら、聞いてないの?なら私が教えてあげる。あなたのとこの使用人のシザーリオはとうとう私に靡いてくれたのよ。」
「どういうこと、だ?」
オーシーノは動揺しながらも尋ねた。
「どういうことも何も私の求婚を受け入れてくれたのよ。そう、これから結婚式を挙げるのよ。どうせだからあなたも呼んであげる。あなたの信用してた人がまさか裏切るなんてね。まぁ私の愛のこもった求婚がシザーリオの心に届いたんでしょうね。今度からあなたの使用人のシザーリオは私の夫になるのよ。夫にね。」
そうオリヴィアが言い終わるとオーシーノはわなわなと震えて次の瞬間にはシザーリオがお昼ご飯を買いに行ったであろう方向へと駆け出した。
オリヴィアはそんなオーシーノの様子を見て呆然としていたがしばらくして我に返りオーシーノの後を追うことにした。
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「うーん。セバスチャンの奴どこへ行ったんだ?」
アントーニオは呟きながら思考する。
(セバスチャンの奴オリヴィア姫と結婚するとか何とか言っていたな。路地裏に行って何こそこそしてるんだと思ってつけていったらなんか変な話になっておったし。しかも驚いてたらなんかいきなり走り出して姿が見えなくなってしまうし。はぁ、ほんとにどこに行ってもうたのか…)
アントーニオが路地裏から出てくるとオーシーノが顔を真っ赤にして猛然とこちら側に走ってくるのが見えた。
(お、お、お、オーシーノ?!!)
「ちょっなんじゃ。待て待てオーシーノ!こんなところで争うなんて注目を引きつけて大変じゃぞ。って、あれ?」
今のオーシーノにはアントーニオのことなんて眼中になかった。
そしてオーシーノはと言うと一目散にシザーリオの元へと走っていった。
アントーニオは不思議に思いながら自分さえも無視する理由が気になって後を追いかけた。
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オーシーノはシザーリオの元にやってきた。
「おい、シザーリオ。お前オリヴィアと結婚するとはどういう事だ!主である私を裏切ったのか?!だからいつもに増して嬉しそうしてたんだな。そうなんだろ!」
オーシーノはシザーリオを見ると一気に捲し立てた。
「ご、誤解です。オーシーノ様。」
「何が誤解なのだ。ここでしらばっくれようとしても無駄だ。現にオリヴィアがお前のことを夫だとか言っていたぞ!ここで認めたら解雇だけで許してやったというのに。残念だ。」
そうしてシザーリオの弁明もろくに聞かないまま、オーシーノは剣を腰から抜きシザーリオに斬りかかった。
「お前は領主である私を愚弄しあまつさえ私の好きな人を取ろうと画策した。この罪は万死に値する。よってこの場で斬り伏せてやる。」
シザーリオは懐刀で応戦する。
「お待ちください。オーシーノ様。確かにオリヴィア様が僕のことを好きというのは事実です。しかし僕は求婚を受け入れておりませんし、今後受け入れるつもりも全くありません。」
「嘘であろう。ならば何故、オリヴィアはお前のことを夫だなどと言っていたのだ?」
そこに颯爽と剣を構えて割ってはいる者が現れた。
アントーニオだ。
「セバスチャン大丈夫か?おい、オーシーノ。儂の可愛いセバスチャンに何をしてくれてる!セバスチャンに斬りかかるなどたとえ相手がお前であっても許さん!」
(セバスチャン…お兄様、生きていらっしゃったのですね。)
そんなことを考えながらシザーリオは見知らぬ闖入者に警戒し身構える。
「おい、セバスチャンとは誰のことだ。そこをどけアントーニオよ。貴様が関与する問題では無いはずだ!」
「セバスチャンが襲われていて黙って見ていられるはずがないであろう。」
そして今度はオリヴィアが現れた。
「あら、何か騒がしいと思ったら何をなさっているの?もしかして私の夫のシザーリオに手を出そうとしてるんじゃないでしょうね?そんなことをしてるのだとしたら私は今後あなたに関わらないようにしようと思っているのだけど。あら、もう遅かったようね。シザーリオはついさっき三人の賊に襲われてるのを助けてくれたのよ。あなたなんか戦ったら一瞬で斬り伏せられて終わりよ。」
「な、オリヴィア様何をおっしゃっているのです。僕はあなたの夫だなんて思っていないし、勝手な話をしないでください。」
「な、な、何を言い出すの。シザーリオ!あなた私を裏切ったのね?!オーシーノに私との婚約を話に行くなんて勇気があると感心したのに。やっぱり違ったのね。」
そして、騒然としたこの場に最後の要である人物、セバスチャンが現れた。
「これは一体なんの騒ぎなんだ。アントーニオ。」
そこでセバスチャンはアントーニオの背後にいる人物。ヴァイオラに気がついた。
「君はもしかしてヴァイオラ、なのか?」
「お兄様、なのですか?」
セバスチャンはヴァイオラを発見すると一目散に駆け寄った。
「あぁ、ヴァイオラ。無事でよかった。もう会えないかと思っていたよ。」
「お兄様。私もです。私も会えないものかと。嬉しいです。」
二人は涙ぐみながら再会を喜びあった。
辺りは騒然としている。何しろ外見も声も非常に似た者が二人もいるのように見えているのだから。
「あぁ、ヴァイオラよ。愛しい妹よ。またそのお顔を見ることが出来て僕はとても嬉しいよ。」
「シザーリオ。もしかして君は女、なのか?」
オーシーノ公爵があまりのことに割って入った。
「はい、そうです。すみませんでした。今まで騙すようなことをしてしまって。」
「いや、いい。良くはないのだが、そんなことよりお前が女とわかった今話したいことがある。どうか聞いてはくれないだろうか。」
「はい、もちろんです。」
(やっぱり怒られるのかしらずっと騙していたんだものね。それともオリヴィアの事かしら。どっちにしても嫌な未来しか見えないわ。)
「シザーリオ。いや、ヴァイオラ。君はたびたび『僕が女だったらあなたのことを愛するのに』と言っていたな。その言葉は真か。今でも私のことを愛しているか?」
ヴァイオラは拍子抜けした。予想打にしない質問が飛んできたのだ。
「真でございます。この私の愛はたとえオーシーノ様が老いられても結婚されても変わることはありません。私はいつでも貴方様のことを心から愛しております。」
「そうか。ならば話は早い。私はどれだけ君が女であってくれたらと思ったことか。私はヴァイオラ、君を愛している。あぁ、ヴァイオラ。私と結婚をしてはくれまいか。」
「ありがとうございます。身に余る程の幸福が私を満たしております。これからはよき妻となるよう精進致します。」
ヴァイオラの頬を涙が伝った。今まで苦しい思いを耐えてきたのだ。最愛の人に愛を唱えられては今まで耐えてきたものが崩壊してしまうというものだ。こうしてヴァイオラとオーシーノはめでたくカップルとなったのだった。
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一方オリヴィアと、セバスチャンは。
「話がありますわ。」
「分かりました。」
そう言って二人は話し始めた。
「もしかして、あなたはあの時に私を賊から助け出してくれたお方なの?」
「あぁ、まぁ、そうだ。」
「私のことはお好きかしら?」
「ああ、君のことは一目見たときから好きになってしまった。君は僕を僕の妹だと勘違いして求婚してきたのは驚いたが、君のことが好きだ。今度は俺から言わせてくれ。僕と結婚してはくれないだろうか。」
オリヴィアはひとつ頷くと答えた。
「ええ、喜んで。」
その笑顔は輝いていた。
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こうして二人のカップルが出来たとさ。
おしまい




