残された者達
主人公視点じゃないです
あの日から三日がたった。
二層に居た竜は増援に行った騎士と二層に行っていた勇者達の奮闘によって倒され、一層に居た竜は俺の親友と共に奈落の底へと消えていった。
正直なところ、俺はまだアイツが死んだということを受け止め切れていない。
(アイツがあんな簡単に死ぬなんて有りえねぇ)
アイツは強い。
死んでいるはずがない。
アイツはどんなに苛められても腐らなかった。
性格だって本当に優しい奴だった。
(そうだとも、アイツがこんなんで死んで良い訳がない。)
アイツは一方でとんでもない男でもあった。
アイツは苛められていたこともあって時折暴力も受けていた。
だが怪我らしい怪我なんて見たことがなかった。
何故ならアイツが強すぎて勝てないから。
そういった事が起きる度に苛めのグループも代替わりしていた。
3日前に死んだあの三人組もたしか5代目ぐらいの苛めグループだ。
初めてアイツの怪我を見たのはこの世界に来てからだ。
多分ステータスに差が開きすぎた事が原因だろう。それでもアイツは折れなかったが。
アイツの怪我をいつも治していたミコトはあれから部屋から出てきていない。
ミコトはアイツのことが好きだったからな。
本人は気付いて居ない様だったが、周りには気持ちが完全にバレバレだった(アイツは気付いてなかったけどな)。
「力が欲しい。」
親友は生きている。
親友を捜しに行きたい。
親友を助けに行きたい。
それに足るだけの力が欲しい。
「あの頃の四人に戻りたい。」
ユイカも大切な友人を失って塞ぎ込んでいる。
「いや、戻してみせる。」
叶わない夢。
叶うはずのない夢。
それでも神崎竜牙はあきらめられない。
いや、諦めるわけにはいかない。
「絶対に。」
少年は一人拳を握りしめてそう決意した。
穏やかな日差しの差し込むクリンドル城の客室の一部屋。
一人の少女が目を腫らして床にへたり込んでいた。
「どうしてこうなっちゃったのかな..........。」
少女の名前は姫路命、3日前に大切な人を失ってしまった。
私を助けてくれた人。
苛められていた私の前に立って何も言わずに庇ってくれた。
彼に「ありがとう」と言ったときの彼のはにかんだ様な笑顔は今でも忘れられない。
ああいうのを一目惚れと言うんだろう。
まさか自分がそんなことになるとは思ってもいなかった。
しかも、私の『初恋』。
私を庇ったことで今度は彼が苛められるようになってしまって心が苦しかった。
だけど彼はそんなの気にも止めないような平気な顔をしていて
―――また彼の事が好きになった。
でも彼だってずっと平気な訳はないだろう、今度は自分が彼を助ける番。
私は、変わる努力を始めた。
あいにく、中学二年からクラスが離れ離れになってしまったが彼への気持ちは変わらなかった。
中学三年になった頃からよく男子に告白されるようになったけど『好きな人がいる』といつも断った。
高校二年になって一緒のクラスになったときは天にも昇る心地だった。
彼に話しかけたとき、彼は「知らない人にいきなり話しかけられた」みたいな顔をしてたから少しさみしかったけど名前を言ったら覚えていたみたいですごい驚かれた。
その時の顔を真っ赤にした彼も忘れられない。
彼との時間が再び動き出したことがたまらなく嬉しかった。
彼の友達とも仲良くなれた。私が彼と話しているのを見てはじめは驚いた顔をしていたけど、2人ともとてもいい人だった。
四人でおしゃべりして、並んで帰って、皆で何処かへ遊びに行ったり、そして隣にはいつも彼が居て...........。
ずっと続くと思っていた訳じゃない、でもこんな終わり方なんて酷いよ...........。
私の気持ちも伝えられていないのに...............。
「.............好き...........。」
そう、呟く。
頬を涙が伝う。
結局彼と向こうで一緒に居られたのは半年と少ししか無かった。
あっという間に過ぎてしまった幸せな日々。
「........今も、まだ.........貴方のことが好き.........」
(馬鹿みたい、彼はもう居ないのに。)
ダンジョンに居たときだって彼からは何時も離れないようにしていた。
彼が、1人で何処か遠くへ行ってしまう気がしたから................。
結局、私には彼を止めることは出来なかった。
彼は結果的に一層に居た29人の命を救って死の淵へと消えていった。
死んだなんてイヤだ。
そんなの信じられない。
信じたくない。
彼は、生きている。
コンコン。
「入っても良いかしら」
ドアの外から声がする。
ユイカだ。
私が良いというと彼女は部屋に入ってきた。
「命ちゃん、話があるの」
「...........何かな」
「私とリュウガで話し合ったんだけどね..........その.........私たちは強くなるために訓練しようってことになったの」
「..............それで......?」
「.........あの状態からさ.........その......意味不明な話だけど、私達はタツキ君が生きてると思ってるの」
「...............!!」
「それで私達で彼のことを捜しに行こうとおもってるのよ」
確かに意味不明な話ではある。
彼が生きている根拠なんて一つも無い。
むしろあれから死んでない方がおかしい話だ。
それでも、自分以外に同じ考えを持っている人が居るなんて思ってもいなかった。
あの日から皆「日向君は死んだんだ」とか「もう彼のことは諦めた方が良い」なんて言ってきていた。
遠藤君に至っては「もうアイツの事なんて忘れて俺の所に来い!!」なんてドヤ顔で言ってきたので顔面にパンチを喰らわして「もう私に関わらないで」と言ってやった。
それからも何をトチ狂ったのか毎日の様に部屋の前に来ては「俺の所に来い!!」と言ってくるのでウンザリしていた所だ。
「..........本当に.....そう想ってるの........?」
「うん.........私たちはそう信じている」
胸のあたりに熱いものがこみ上げてくる。
そうだとも、彼は生きている。
私を助けてくれた彼があんなので死ぬなんて有り得ない。
顔についた涙を拭き取って結花の目を見据える。
「私も強くなる。強くなってタツキ君を捜しに行く!!!」
「うん!!一緒にタツキ君を捜しに行こう!!!!」
この日、姫路命は3日振りにクラスメート達の前に姿を現した。
その瞳に強い決意の炎を秘めて――――。