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アポカリプス

「くはははは!最高だ!最高だよ!」 


 バッ!と両手を広げて嬉しそうにそう言ったのは魔人族のウランフだった男。

 今では異形になってしまった彼は、頭のネジでもとんだのかキャッキャと嬉しそうにはしゃいでいる。


 彼の側頭部から生えていた二本の角は禍々しくねじ曲がり、彼の身体は筋肉が膨れ上がって筋肉ダルマになってしまっている。

 着ていた鎧は弾け飛んでしまったようだ。

 胸の中心には紫色の球体が脈を打ちながら輝いている。

 下半身は獣のような毛が生え、足の先は蹄になった。

 背中からは三対の巨大な手のひらが生えて、バッサバッサとその手のひらを羽ばたかせると空中へとふわっと浮かび上がる。


「キャァアアアア!!!!」

「な、何なんだよ.......これは........」

「嫌だ、死にたくねぇよぉ......」


 禍々しいその姿に、会場中から悲鳴が上がる。

 ウランフはくいっ、と首を傾げると、


「ああ、この筋肉は少々見苦しかったかな?」


 そう言うと彼の身体はミチミチと音を立てて元の体格に戻っていく。

 だが、元の姿に戻っても背中の巨大な手のひらや、頭の角は変わらず付いており、不気味な空気を纏い続けている。

 下半身も未だ、獣のままだ。


「お前、この国の王家に取り入ることが目的じゃなかったのかよ..........。もうここまでやったら戻れないぞ.........」


「構わないよそれぐらい。僕はね、こうして戦っている内に気づいてしまったんだよ。この世の心理にね。

 この世界は全て力によって支配されているんだ。力さえあればなんだって出来る。こそこそと取り入るなんてもうやめだよ、ここまでの力を僕は手に入れたんだから。今ならば僕1人で国の一つや二つぐらい簡単に滅ぼせるだろうね。むしろ王の方から僕の下に付いてくるぐらいが妥当じゃないか?」


「随分と野蛮な考えに至ったんだな。噂で聞いていたような理性的なお前とは大違いだ」


「あははは!でも、君も冒険者ならわかってくれるだろ?強ければいい暮らしが出来るんだから、結局はそういう事なんだよ。

 僕はもう自覚してるんだよ?自分がもう既に人知を超えた存在だって。北の邪神、南の神々、カス共が必死こいて崇めてる神と僕は同格の存在だって!!」


 そしてアハハハ!と狂ったように笑い出すウランフ。

 もう彼は自重するのをやめたらしい。

 ここからはもう全て力のみが物を言う。

 演技がかった口調で彼は叫び始めた。


「だから君は邪魔なんだ!君みたいなイレギュラーが存在しては僕の物語に支障が出てしまう。この国を支配するのは僕だ!この国で、いやこの世界で一番強くなるのが僕だ!

 僕はお前よりも、この世の誰よりも優れた存在なんだ!!

 だから、僕はこの世界を統べる神になる!!」


 そしてスッ、と腕を未だ観客達が避難を続けている観客席へと向ける。

 その先には、ミラやリュウガ達が居た。


「おい.....やめろ........!!」


「くふふっ!手始めにまずは君の大切な人達を殺して絶望を贈ってあげよう!!」


 ウランフの手の先に黒い塊が集束して渦を巻く。

 俺がウランフと観客席のミラ達の間に飛び上がるよりも速く、()()は発射された。


「止めろぉぉぉぉぉぉ!!!!」


――ズドォォォォォォン!!!


 観客席へと飛んでいった黒い塊は爆発して轟音と共に砂煙を起こす。

 間に合わなかった。

 今の俺とウランフではステータスをウランフに上回られてしまったみたいだ。

 覚醒した進化者とそうでない進化者ではどうしても差が出来てしまう。


「そんな.......皆!」


「.........タツキ!」


 砂煙の向こうからミラの声が聞こえてきた。

 良かった、まだ大丈夫だ。


 砂煙が晴れると半透明の光の壁が現れた。

 ブランシュとミラ、そしてユイカが手を伸ばして魔法を発動していたみたいだ。

 

「達樹!こっちは大丈夫だ!」


「リュウガ!」


「こっちは僕達が守り続けるからタツキはそいつをお願い!」 


「ああ、ミラ。了解した!」


 空中に立ったままウランフの方を振り向く。

 

「チッ、めんどくさいな。そっちまで強いのかよ...........。まぁいいよ、どうせそこまで強くは無さそうだったし」


 ポリポリと頭をかいて独り言をこぼす。

 はぁ、と溜め息をつきながら彼は腕に力をいれた。 

 するとみるみる内にバキバキという音と共に彼の腕は数倍にも膨れ上がった。


「僕が消したいのは君だけだ。今僕はこの両腕にいくつもの強化(バフ)をかけた。『身体強化』『肉体硬化』『爆発付加』『対魔法攻撃付加』『二回行動』『HPドレイン』。これで、君を殺す」


―――轟ッッ!!


 次の瞬間、彼はタツキの目の前まで迫っていた。

 振り上げられた拳は禍々しい瘴気を纏い、眼前へと迫ってくる。


 (あ、速い)


 防御をとろうとするが、動きが間に合わない。 

 景色がスローモーションになる。


 もっと速く!動け!俺の腕!

 速く!速く!


 遅い。


 (あ、これ死んだわ)


「死ね」 

 

―――グチャッッ


 柔らかいものが潰れたような音がしてタツキの首が吹っ飛んだ。

 空中に鮮血が舞い散る。


「............は?」


「そんな..........タツキ君........ねぇ、夢だよね?」


「嘘........タツキ...........」


 突然の親友の死にポカンとした顔になるリュウガ。

 ミコトは全身から力が抜け、へたりと地面に膝をついてしまう。

 ミラの顔からは血の気が失せ、目からはハイライトが失われている。


「そんな...........い、嫌.........」


「アハハハッ!随分とあっけなかったなぁ!

 僕が本気を出せばこの程度の雑魚なんて話にもならなかったってことだ!」


「嫌ぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 泣き叫ぶミコトを馬鹿にするようにウランフは彼女を指さして笑う。


「バッカみてぇだなぁ!仲間が生きてたからって気ぃ抜きやがってよぉ!!

 マトモに戦えりゃあもうちょっとぐらいは耐えられたのになぁ!!」


「そりゃそうだ。俺の()()()だからな」


「はっ?」

「へっ?」

「あ、やっぱり嘘だった」


 気が抜けたような声を出すウランフとミコト。

 ミラは「あー、やっぱり?」みたいな顔をして血の気が戻ってきている。

 いくら仲間が大事だからって、そうしなくても良い場面で自己犠牲なんてする訳無いだろ?

 少し心臓に悪すぎたかな。


「なんでっ、おまっ――ぶげぇっ!」


「そりゃあ防御する()()ならコピーで充分だからな。俺が二人になってんの忘れちゃ駄目だろ」


 タツキに顔面をぶん殴られたウランフは会場の端に吹っ飛んでいく。


「『流星(メテオール)』」


――ドォォォォォン!!!


 追い打ちで飛んでいった流星はウランフに直撃すると爆発して吹っ飛ぶ。


「格好つけてたとこ悪いけど、こっからは本気で行かせて貰うから」


「へっ?えっ?達樹君?」


「ミコト!ぼーっとしてないで速く逃げて!」


「えっ!あっ、うん!」


 死んだと思ったら普通に出てきたタツキに頭が混乱するミコト。

 ミラがミコトのことをゆさゆさと揺さぶって現実に引き戻している。

 向こうはミラに任せておけば多分大丈夫だろう。


「さて.........あんなんで終わるとは思えないしな」


 ウランフの吹っ飛んでいった方向を見れば、砂煙の中から肌色の塊が見えてくる所だった。

 よく見れば背中から生えた六つの巨大な手で身を守ったらしい。

 中から出てきた彼は、ぶん殴った頭から血を流しているだけで他に目立った傷は無い。

 俺も殺す気では殴らなかったので彼もまだまだ平気そうだ。何とかして邪神から此方側に引き戻したい所だが............。


「意外とあの()が面倒だな.........」


「あー、クソッ。要らないダメージ貰っちゃったよ。落ち着けって、駄目だ駄目だ、僕が強いんだ、最強なんだよ、この国で一番偉いんだよ」


 起きあがったウランフはうわごとのようにぶつぶつと「僕は強い」と呟き続ける。

 すると、


――ドシャァァァァ!!!


 再び彼に向けて闇の塊が降り注ぐ。

 また彼の居る場所から放たれる瘴気が濃くなった。

 ここまで、力をまき散らして..........まだ上手くコントロール出来ていないのか?


「どっちにしても、お前は止めなきゃだからな」


 『アイテムボックス』から二個の召喚石を取り出し、空中へと放り投げた。


「格上相手だ!やるぞ!『リヴァイアサン』『ニーズヘッグ』!!」


――ピシッ、ビキビキビキビキッッ!!





 蒼と紫の光が辺りを包み込み暗闇が照らされる。

 

 異界の勇者と新たなる邪神。

 二人による壮絶な戦いの第二ラウンドの幕が上がった。

クレイジーボォイは噛ませじゃないぜ。

まだ上手く力を操りきれて無いだけなんだぜ。

by サングラスをかけたリュウガ

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