大会棄権
「あっ、でもこれでミコトが優勝する必要無くなったんじゃない?」
イオリがその事に気付いて、手を叩く。
そういえばミコト達の優勝する目的ってなんだったんだ?
「リュウガ、優勝する目的って何だったんだ?」
「あー、それはだな――」
リュウガに話を聞いてみると、どうやら俺のことを捜すのに国に協力して貰おうと考えていたらしい。
とっくに死んでると思われてて当然だったのに、ここまでして捜そうとしてくれてた四人には感謝だな。
委員長が参加してたのは凄い意外だったけど、こんなに良い友人に恵まれて本当に感謝しかない。
「でも、絶対とっくに死んでると思われてたろ?よく捜そうなんて思ったな。本当、感謝しかないよ」
「ハハハ、まぁそれは皆には思われてたな。でもよ、よく考えてみ?こういう異世界召喚モノで生き死にがハッキリしない内に死んだと思われたキャラは確実に強くなって戻ってくるんだぜ!」
「ぶっは!ヲタク知識かよ。まぁ、らしいと言えばらしいな!」
どうやらヲタク知識による所もあったみたいだ。
実際、俺はかなり強化されて戻ってきたわけだしヲタク知識も中々役に立つ。
「まぁ、それでもう優勝する必要が無くなったって話だけど、これからどうするんだ?」
「どうするって........最後まで戦ってもいいし戦わなくてもいいし、って感じかな?」
ミコトはこれ以上戦わなくても問題ない、か。
「.........なら、明日の試合は棄権してくれないか?」
「へっ?」
ミコト達の顔がポカンとした状態になる。
「タツキ......お前そんなにしてまで勝ちたい理由でもあるのか?」
「違うよリュウガ。ミコトにはあの男と戦って欲しくなかっただけなんだ」
「もしかしてよぉ........それがさっきの用事って奴か?」
「.......へっ?」
ミコト達は不思議そうな顔をする。
一方のリュウガは理解したとばかりに目線を送ってくる。
「流石だリュウガ。察しがいいな。
実は今日の第二回戦で戦って負けた方のナーシャ選手が生き返りまではしたものの、意識を取り戻していない。そこで回復系の魔法を使えるスタッフ達が呼び出されたからそれについて行かせて貰ったんだ」
「......原因は、十中八九ウランフって奴だろうな」
「ああ、いくら回復魔法を掛けても意識が戻らないから少し診せて貰ったんだ。そうしたらナーシャ選手はある種の呪いを受けてることが分かった。じわじわとではあるけれど、ナーシャ選手の生命力と魔力が何処かに吸われていってる。彼女に付けられたターゲットの紋章も消そうとしたけど出来なかった」
「タツキに出来ないって.......相当高度な呪いじゃないか.......」
ミラは何か思い当たる節があるのか、少し考え込みながら感想を漏らす。
「多分ブランシュならあの呪いも外せると思う。だけど完全に安心できるようにしたい。だからミコトには明日の試合を棄権して欲しいんだ」
「それって、私でも勝てないってこと?」
「ふむ..........『風霊結界』『認識阻害』。
ここから先は誰にも言わないでくれ。俺は『鑑定』のスキルを持ってるんだ。それでミコトとウランフのステータスを見させて貰った。あれだけのステータス差だとかなりキツいと思う」
風属性中級魔法『風霊結界』で音を、闇属性中級魔法『認識阻害』で姿を周りから遮断させたタツキは紙を取り出すと、サラサラと何か書き始める。
「これだけの差があった。見てみてくれ」
書き終えた紙をテーブルの上に差し出す。
その紙には、二人のステータスが書かれていた。
姫路 命 人族 16歳 ♀
天職:勇者・賢者
Lv.53
HP32000/32000
MP40000/40000
攻撃8000
防御6500
速度7000
魔術19000
スキル:全属性魔法Lv.6 拳法Lv.5 身体強化Lv.8 剣術Lv.4
称号:勇者
ウランフ・ヤヴィン 魔人族? 18歳 ♂
天職:魔導師・錬金術師
Lv.81
HP340000/340000
MP700000/700000
攻撃136000
防御110000
速度120000
魔術187000
スキル:闇魔法Lv.9 身体強化Lv.MAX 錬金術Lv.8 風魔法Lv.4 剣術Lv.6 拳法Lv.7 暗器術Lv.6 隠密Lv.MAX
称号:外道・邪神との契約者
外道:その名の通り、外道に贈られる称号。ステータス外能力の話術にて、人を騙しやすくなる。戦闘中、一定確率で相手の弱点を把握出来る。
邪神との契約者:邪神と契約を行った者に与えられる称号。邪神は契約者との契約を破棄することが出来ず、契約者も邪神との契約を破棄することが出来ない。
魔術、MPのステータスが上がりやすくなる。
「.......なに........これ」
「これが今のあのウランフって奴とミコトとの差だ。正直言って俺もアイツと真っ正面からぶつかるのは面倒臭い」
「それにこの『?』マークは何だ?人間じゃないのか?」
「ああ。それについてだけど.........ミラ、ブランシュ言っても大丈夫か?」
二人の方に視線を向ける。
クロエは何を話しているのかよく分からないらしく、こてんと首を傾げている。
「タツキが信用してる友達なんでしょ?だったらきっと大丈夫だよ」
「私も同じように思います。それにミコトさん達がそれを知って、その力を手に入れたとしてもそれに溺れることなくいられると思います」
「..........そうか、それなら話しても良いよな」
そう言ってタツキはリュウガ達の方に向き直った。
真剣な様子のタツキにリュウガ達四人の顔はきゅっと引き締まる。
「これから話すことは俺達が勇者である限り避けられないある事に関わってくる。心して聞いてくれ」
そうしてタツキは話し始めた。
まず人類が戦い続けている敵について。
魔王は強いが敵の総大将ではなく、邪神と呼ばれる上位存在が何柱も後ろに付いていること。
そしてそれらとの戦いで、この世界の神々は何柱も殺され、疲弊しきっている事。
そして、
「僕の本当の名前は『ミラナディア』って言うんだ。今は力を殆ど失ってるけど、一応女神をやってるよ」
「「「「..............はっ?」」」」
「流石ミラ様、女神だった。すごい」
突然のカミングアウトに放心状態になった四人。
対して、クロエは凄い凄いと手を叩いている。
「..........な、なんでその女神様がタツキの嫁(予定)に?」
「ん?それはタツキが僕にとっての白馬の王子様だからだよ?」
「チョットナニイッテルノカイミガワカラナイナー」
ミラのいつも通りの頭の中お花畑な返事に、リュウガは考えることを放棄する。
白眼を剥いて、せっかくのイケメンが台無しだぞ?
「はぁ、話を続けても良いかな?」
「えっ、あ、うん!」
そして話を続ける。
勇者と神の力だけでは勝ち目がなかった故に『進化の秘術』を使って戦う者達を神クラスの上位存在に引き上げて対抗した事。
そしてその『進化の秘術』は邪神を創り出す可能性もあったということ。
「ちなみに俺も進化している。まだ進化先は決まってないけど半分はもう人間じゃないらしいよ」
「タツキ君の強さはそういう理由だったのね。さっきのミラさん達の話からすると『王の墓』で進化したのよね?」
イオリが白眼を剥いているリュウガに代わって疑問をぶつけてくる。
彼女はこの四人の中ではいつも理性的な判断が出来ているようだし、クラス委員長だったこともあってリーダーに向いているな。
ミコトも頭は良かったしそういうのに向いているかと思ってたけどさっきのアレをみちゃったからなぁ..........。
っと、話しが逸れてきたな。
少しぼーっとしていたせいか、イオリに訝しげな視線を向けられる。
「ごめん、ちょっと考え事してた。俺は確かに『王の墓』で進化したよ」
「考え事ねぇ。ふふっ、学校にいた頃から変わってないのね。それにしても進化しても見た目は全然変わらないのね」
「確かに!私もそう思ってたよ。見た目じゃ全然わかんないんだね」
「まぁな、俺のことを進化させたじいさんも見た目は変わらないって言ってたからな」
「って.........もしかしてウランフのこの『魔人族?』ってもしかして、進化してるって事なの?」
「ああ、流石に委員長は察しが良いな。恐らくこいつは邪神か、その配下に進化の秘術を使われて進化している。そうじゃなきゃこんな馬鹿みたいなステータスになるわけが無いからな」
「つまり.........邪神候補として選ばれた、と」
と、そこでミラがさっと顔を上げた。
「違う.......何か、あれは別の何かだった。
進化による強さとはまた別の力だよ。あれじゃあ力に振り回されるだけの器でしかない。
第一ウランフが強くなりたいならナーシャさんの生命力と魔力はウランフに注がれるとは思わない?」
「違うのか?.........ならあの力とこのステータスは一体?」
不自然なステータス。
進化ではないとしたらアレは一体何なんだ?
何か........。
何か.................。
何か............................。
「.............ラウプ」
「タツキ.......それだ..........」
「もしかしたらだけどナーシャに掛けられた呪いから考えても、新たな邪神を創り出すというよりも復活の糧にされている様に見える。それならミラの違和感にも当てはまる筈だ」
つまりウランフは、その野心につけ込まれてなにかしらの契約を邪神との間で結んだ。
それに邪神の糧となる何かを作り出す必要があったと考えた方が自然になる。
「でも.........棄権するっていっても、そんな簡単に棄権なんて出来るの?世界規模の大会なんでしょ?」
心配そうな顔でミコトが話しかけてくる。
棄権するべきかまだ悩んでいるみたいだ。
だが、
「それは大丈夫だよミコト。ちょっとある所にツテがあってね、ミコトの試合が無くなる代わりに一戦エキシビションを組ませて貰おうと思う。多分これで問題は無くなるだろ」
心配そうな顔をするミコトに、タツキはそれだけ言うと、悪戯そうな笑みを向けるのだった。




