闘技大会開催
この日、ツバキの王都の港には大量の船が到着し街中は闘技大会を見に来た人や参加しに来た人々で溢れかえっていた。
そして大会が開催される会場の観客席にて。
「ここらへんで良いかなー?」
「うむ、丁度ステージを横側から見れる位置ですし良いでしょうな」
「ほらクロエちゃんも此処に座って下さい」
「ぽりぽりもぐもぐ........ぽっぷこーんおぃし......」
ミラ達は先に出て行ったタツキとは別行動で会場で席取りをしていた。
クロエとミラが抱えているのはポップコーンの入った大きなバケット。
頬を膨らませてクロエが美味しそうにぽりぽり食べている。
「あんまり食べ過ぎると後で喉が乾きますよ?クロエ」
「ん、分かった.........ブランシュ様、喉乾いた.....」
「遅かったですか..........」
そう言ってブランシュは買っていた飲み物をクロエに渡す。
クロエはおいしそうにごくごく飲み始めて、
「ぷはぁ.........。喉、すっきり、した」
「はいはい、次からは気を付けて下さいね」
クロエの口元をふきとってあげるブランシュ。
と、ここで観客達の歓声が大きくなった。
「おっ、そろそろ始まるみたいですね。司会が出てきましたよ」
司会席の後ろのカーテンが開いて司会の女の子とムキムキのおっさんが出てくる。
司会の魔人族の女の子はアイドルの様なフリフリした服を着て片手にマイクを持っている。
そしてすうっと息をすって、
『みなさぁ~~~ん!!!今年もこの日がやってまいりました!!!第999回ツバキ闘技大会の開催をここに宣言します!!!!!!』
「「「「「うおおおおおおお!!!!!」」」」」
割れんばかりの歓声に揺れる会場。
会場いっぱいに入った約6万人分の声量は半端じゃない。
『私は今回の大会の司会進行をやらせて頂きますカミラちゃんでぇぇっす!!!!今日から4日間、皆さんよろしくおねがいしますねぇぇっ!!!!!』
「「「「「うおおおおおおっっっ!!!!!!」」」」」
「可愛いっ!!!可愛いぞぉぉっ!!!」
「カミラちゅわあぁあぁぁぁん!!!!!」
「うおおおおっ流石俺の娘ええええ!!!」
「ちょっと!貴方、落ち着いてって!!」
まさにアイドルといった感じに挨拶をするカミラちゃんにまたも歓声が上がる。
『そしてっ!今日解説に来ていただいた白金級冒険者のゴリゴリ・マッチョスキーさんです!!
ゴリゴリさん!一言お願いします!!!』
カミラに呼ばれてゴリマッチョのおっさんがマイク片手に前に出る。
『俺は筋肉が好きだ!美しい筋肉が好きだ!!
今年も素晴らしい筋肉が集まってくれた、皆存分に戦いを楽しもうではないか!!!!』
「「「「「うおおおおおおおっっっ!!!!!」」」」」
「わはははは!!!!面白ぇぇ、もっとやれ!!!!」
「筋肉......ハァハァ.....」
「儂は大胸筋が好きじゃあああ!!!!!」
ノリの良い観客達。
筋肉男の意味不明な言動にも全く動じない。
『さぁぁて、自己紹介も終わったところで今日の予定に参ります!!!
一日目の本日は予選が行われますっ!!!約100人ずつにAからDブロックに分かれた参加者達によるバトルロイヤル!!!!
ルールは簡単、最後までフィールドに残っていた選手二人が本戦出場になります!!!ツバキの誇る王国魔導師隊のみなさんによって会場内で死んだら控え室まで飛ばされて生き返る魔法がかかっていますのでガンガンやっちゃって下さい!!!!
それでは、早速Aブロックの選手の入場です!!!』
彼女の宣言と共に選手の入場口から大量の参加者達がわらわらと入ってくる。
「お、そういえばタツキさんって何ブロックなんです?」
「Cブロックになったって言ってたよ。どんな格好で出てくるんだろうね」
コゼットの質問に答えるミラ。
そうこうしているうちにAブロックの選手はフィールドに出きったらしい。
『準備が整ったようです!!!
ではAブロックの注目選手を紹介しましょーっ!!
まず一人目わぁっ、白金級冒険者ッにしてパーティ「黒獅子の鬣」のリーダーッッ!!!!ヴォルフ・キールマン!!!』
カミラの紹介にフィールドに居た獣人族の男に注目が注がれる。
ガタイのいい狼の獣人の男は大剣を背負って観客達に笑顔で手を振り返す。
『うむ、バランスの取れた良い筋肉をしているな!!!
期待が出来そうだぞ!!』
『さらに二人目っ!
美しき豪腕の聖職者!!!「破壊尼僧」ナーシャ・ジーン!!!!』
フィールドの上にいた青髪のシスターがにこやかに観客に手を振る。
『ぱっと見ではわからないがかなり引き締められた良い筋肉であるな。女性の身だからといって気を抜けばミンチ確定であろう』
『そして三人目っっ!!
ヴォーギル帝国より参加した忠義の騎士団長!!!
グラド・レクセウスぅーーーーっっ!!!!!』
「「「「「うおおおおおおっっっっ!!!!!!!」」」」」
観客達の注目が黒い鎧を着た騎士に注がれる。
騎士はそんな観客達には目もくれず、目を瞑りただ静かに立ち尽くしている。
『それではいきますよっ!!!
Aブロック予選っ、始めぇぇぇっっっ!!!!!』
―――ドォォォォォォォン!!!!!
巨大な太鼓の音と共に戦闘開始の合図が出される。
参加者達は一気に周りにいた他の参加者に襲いかかる。
そのなかでも先程紹介された三人の周りは凄まじい。
ヴォルフは大剣で一気に何人もの参加者をなぎ払う。
時折飛んでくる魔法にも大剣を上手く使って受け流し、他の参加者の方へと飛ばす。
「うおおおおおおおッッッ!!!!!」
「んなぁぁっ!?」
「クソッ!なんつぅパワーだよこいつ!!」
「魔法が全然当たらないんだけど!!?」
「ハハハハハハ!!!!まだまだァァ!!!!!」
「うわあぁぁぁぁぁ!」
「笑ってる!笑ってるよぉぉぉ!!??」
どうやら彼も戦闘狂らしい。
いい笑顔で大量の参加者を真っ二つにしている。
尚、真っ二つにされた参加者は少しすると消えて無くなっていることより控え室に転送、復活されているようだ。
そして、破壊尼僧ナーシャ。
「ふっ!!はぁっ!ぬぅぅぅん!!!!」
―――ドゴォォォン!!!
―――ドガアァァァァン!!!!
―――バゴォオォオォン!!!!!!
「ごぼぁっ!」
「があああっっっ!!」
「ありがとうございますッッ!!!」
「うぼげあっっ!!?」
若干変な悲鳴も混ざったが、数々の参加者達が彼女のガントレットを装備した拳の前にミンチ、又は吹っ飛ばされている。
彼女の拳によってフィールドも地面に穴を空けられまくっている。
『おおおっ!!!これは早くも本戦参加者が決まってしまうのか~!!??』
『ええ、三人ともいい筋肉ですな。特にナーシャ選手はすばらしい筋肉です。やはりその筋肉からくるしなやかな動きもさることながら、一撃の重さもまるでバーサクオーガの様です。彼女は本戦に上がるのはほぼ間違いないように感じますな。
そして、ヴォルフ選手はその力強い立派な筋肉に頼ることなく上手く力を使っていますな。あの受け流しは素晴らしい。ただ筋肉を使っているだけの平筋肉共とは隔絶された強さがありますよ』
『ひらきんにく..........?まあいいでしょう、解説有り難うございますゴリゴリさん。
おっ!これは遂にグラド選手が動き出したようです!!!!』
「うおおおおおっっ!!!」
「いいぞヴォルフ!!もっとやれーっ!!!」
「ナーシャ様........尊い........」
「うおっ!?グラドすげぇぞっ!!」
「勝てぇぇ!!!全部お前に賭けてるんだぁぁっっ!!!」
本格的に動き出したグラドに観客達もヒートアップする。
「ふっ!はぁっ!」
――ザシュッ!ザクッ!
「っシィィッ!!!」
―――ザンッッッ!!!!
千切れ飛ぶ参戦者達の肉体。
舞い散る鮮血の中に彼は居た。
「(.....惨めなものだな、俺も、こいつ等も.....)」
真に願いなど王の力で叶えられることなどたかが知れている。
私だって願いが叶うのなら祖国を良くしたいとも。
「(こんな事はしたくない、だが手を抜くことも出来ない)」
この観客席の何処かにあの愚王は居る。
あんな男だが一応は実力者の部類に入る強さを持っているからタチが悪い。
わざと負けるために手を抜けば即座に見抜かれるだろう。
「(誰か.....全力の俺を倒してくれ........)」
グラドはただ斬り続けることしか出来なかった。
『Aグループ一回戦も大分人数が減ってまいりましたぁ!!
残るのはあと14人!!おおっと!?ここでヴォルフ選手が動きを見せる!これはグラド選手に一騎打ちを仕掛けるつもりかーっ!??』
『ヴォルフ選手はどうも戦闘狂の気があるようですからな。この大会に参加したのも優勝を狙っていたというよりも強者との戦いを望んでの様に見えますな』
今まで他の参加者達に囲まれていたヴォルフはグラドを見つけると一気に飛び出して距離を詰める。
「帝国最強ッ!!俺と戦えーーッッ!!!」
「ふむ、受けて立とう!!」
――ガキィィィンッ!!!
ヴォルフの大剣とグラドのロングソードが大きな音を立ててぶつかりあう。
周りの参加者達は二人の圧に押されて二人から離れていく。
――ガィィン!ギィィンッ!!
何度もぶつかり合う二本の刃。
だがだんだんと、そして確実に差が現れ始めている。
「流石だっ!帝国最強の名は伊達じゃねぇ、俺の攻撃が通ってる気がまるでしねぇよ」
「お前も中々強いとは思うぞ?だが私はあんな主でも勝てと言われてしまっているのでな。終わりだ」
「なっ!?」
突如グラドの身体が何重にもブレる。
「『限界突破』」
そう、彼もまたドマと同じくこの能力の使い手。
若くして『英雄』の域にまで登り詰めた天才なのだ。
「『クロスブレイド』『ホライゾンスラッシュ』」
「がっ!?......あ............が」
彼の攻撃を受けきれなかったヴォルフの身体にエックスの形に切れ目が入った後に、更に腹の中心あたりに横一文字の線が入る。
「かっ...........強....過ぎ、だ、ろ......」
「祖国を護るためだ。これぐらいは強くなければ成り立たん」
身体がバラバラになりながらも満足げな笑みを浮かべるヴォルフ。
数秒後、彼の身体は消えて無くなった。
グラドが周りを見ると、どうやらナーシャにより他の参加者は全滅させられたらしい。
つまり、残ったのは彼等二名。
『しゅーーりょーーー!!!!ここまで!!
最後まで残ったのは「破壊尼僧ナーシャ」と「忠義の騎士グラド」!!!!!
Aブロックでの番狂わせは起きずに決着しました!!!』
『いやぁ、皆さん良い筋肉でしたなぁ。注目されていた選手以外にも中々良さそうな選手は居たので彼等の今後にも期待しましょう!!!』
『それでは皆さん、Aブロックの勝者に盛大な拍手をーーっ!!!!!!』
「「「「「ウオオオオオオオオッッ!!!!!!!!」」」」」
会場中から盛大な拍手が送られる。
そんな中、グラドは独り浮かない顔をしていたのだった。




