ツバキ王都
揺れる馬車と流れていく景色。
―――ガタガタガタガタ
『アオギリ』を出たタツキ達は、再び馬車に乗り込んで王都を目指していたのだ。
「そろそろですよ!王都の外壁が見えてくるはずです!」
御者のコゼットが後ろをちらっと振り向いて俺達に伝えてくる。
前方に目をこらすと遠くに確かに町の外壁が見えてきた。
「........あれがツバキの王都か」
「ええ、かなり大規模な町ですよ。王都としては最大級なんじゃないでしょうかね」
自慢するようにコゼットは言う。
「あ、そうですそうです。実は王都で毎年この時期になると闘技大会が開催されるんですよ。タツキさん達も参加したり見に行ったりしては如何ですかな?あれで優勝すると国王が願いを叶えてくれるっていうんで参加者は毎年凄い人数なんですよねぇ」
「闘技大会か、参加する気は無いけど見に行くのはアリかもしれないな。色んな人達の戦いを見れるのは良い」
「えー、タツキ参加しないの?僕、タツキのかっこいいところ見たいなぁ」
不満そうに頬をぷくーっ、とふくらますミラ。
可愛かったからそのままほっぺをぷにぷにする。
「ひょっ、やめっ、たちゅきぃっ。ほっぺやめっ」
「ふふふ、ミラは可愛いなぁ。ミラが出て欲しいって言うなら出てみようかな?」
「ほんろ!!?」
ほっぺをふにふにつままれながらミラが嬉しそうに叫ぶ。
「ああ、ミラ達のためならどんなことだってしてみせるさ」
「えへへ、タツキが最近ずっと優しくて嬉しいなぁ」
タツキが手を離した後、ミラは自分の顔に両手を当ててイヤンイヤンしている。
だが、その向かいに座っているブランシュの顔は浮かなそうだ。
「なぁ、ブランシュ。今回の事そんなに気にしなくたっていいんだぞ?フラウもああ言ってたしさ」
「ですが.........」
「俺が気にしてないって言ってるんだから気にするな。少しは甘えることも覚えろよ?」
そういって彼女の頭を優しくなでる。
撫でていたら横からクロエもブランシュの頭をなで始めた。
更に続くようにミラもブランシュの頭を撫でる。
「皆さん...........。有り難う御座います。なんだか恥ずかしいですけど暖かいですね。幸せな気分になります」
「ああ、だからもう気にするなよ?今度からは抱え込まないで甘えることも考えてくれよ?」
「わかりました達樹様。では早速甘えても宜しいですか?」
少し頬を赤らめたブランシュが上目遣いで此方を見てくる。
あっ、可愛い、鼻血が出る。
隣を見るとミラまで可愛さにノックダウンされている。
「あ、ああ、いいぞ。どんどん甘えてくれ」
「じゃあ........私と抱き合って.....キス....して下さい」
「え、それって甘えることとはちょっと違う気が――」
「いえ、お願いします。それ以外認めません」
「最近のブランシュはなんだか強引だなぁ。もしかしてミラに嫉妬してるのか?」
「そういうことじゃないです!構って欲しいだけですから!!」
「あー、最近構ってくれないってこぼしてたもんな」
「そういうことです。では、お願いします」
「ああ、いくぞ」
そう言ってブランシュをぎゅっ、と自分の方に抱き寄せる。
そしてゆっくりと顔を近づけ合い。
互いの唇を合わせた。
「はむぅ.........んっ.....むっ......好きぃ.......」
「んむっ..............ふぅ.......ああ、俺もだ.......」
キスしては愛を確かめ合いそしてまたキスをする。
隣ではクロエがミラに目隠しされてじたばたしている。
ミラは顔を紅潮させて「ここ二日のブランちゃん激しぃ.....」とぽーっとしている。
「タツキさん、そろそろ王都に着きま―――――――って、なんか失礼しました~」
コゼットが王都に着くと、連絡をしてきたが空気を察してすぐに前を向く。
王都の門の列に並ぶまで、二人のキスは続いたのだった。
ツバキ王国。
極東に位置する魔人族の国である。
魔人族は総じて内包している魔力が高い。
外見の特徴としては一番は頭部に生えている角だろう。
角は一人一人違った形をしているが、形がその個人の能力を左右したりすることは無い。
その他にも耳の先がエルフほどでは無いがとがっていたりする。
王都に到着したタツキ達一行はその足のまま馬車で王城まで向かっていた。
町並みは正に江戸時代の江戸の町そのものといった雰囲気だ。
それでいて綺麗に舗装された道路や細かく整備されているであろう街灯、下水などが見ただけでよくわかる。
少し先に見えている王城も教科書等でよく見た日本の城そっくりだ。
馬車に揺られていると町の人々の話も聞こえてくる。
「ねぇねぇ聞いた?ヤヴィンの所の坊ちゃんが闘技大会に出場するらしいわよ!」
「小さい頃はアオイ姫と仲良かったわよねぇ。
もしかしてそういうこと?」
「絶対そうに決まってるわよ~!」
「なあなあ、今年の闘技大会に帝国の騎士団長サマが出るらしいぜ」
「うわぁ、それ負けらんないじゃん。参加するのは良いけどプレッシャー半端なさそうだなぁ」
町の人々の話も闘技大会一色だ。
話によれば、闘技大会は第一次勇魔大戦の終結から始まっているそうだ。
当時まだ、敵側と同じ人種だったとして風当たりの強かった魔人族。
そこで当時の王が仲の良かった当時のクリンドル国王と相談して、魔人族を勇者側の仲間として認めて貰う為に開催することになったのが闘技大会だ。
大会優勝者には、その願いをツバキの王が叶える手伝いを全力でするとの事もあり、第一回の大会から多くの参加者が集まる。
時代が進むにつれて、最初は「犯罪歴の無い魔人族以外の全ての人種」が参加条件だったのが、魔人族が他の人種にも認められるようになった為「犯罪歴の無い全ての人種」が参加できるようになった。
これが今の闘技大会まで続いているという訳だ。
城門の前までやってきた。
「む、何者だ!用があれば告げよ!」
門の前に立っていた二人の甲冑姿の衛兵が薙刀を交差させて行方を遮る。
「国王陛下からよりの依頼を受けて件の冒険者達を連れてきた!証拠であれば此処にある!」
コゼットは懐から紙を出すと衛兵達に開いてみせる。
衛兵の片方が前に出てそれを確認した。
「うむ、確かに本物の様だ。では、通るが良い!」
衛兵達が交差させていた薙刀を元に戻し、門を開く。
俺たちを乗せた馬車はそのまま王城の敷地内へと入っていった。
広い敷地内を抜けてやっと王城の入り口の前まで来る。
コゼットはここまでです、と言ってここで別れた。
入り口の門まで向かうと、その門の前には侍女らしき魔人族の女性が待っていた。
「冒険者のブランシュ様一行で御座いますね?
王がお待ちしておりますのですぐにご案内いたします」
丁寧にお辞儀をするその女性は和風にアレンジされた様なメイド服を着ている。
彼女に案内されるままに城の中へと案内されてタツキはその城の中の雰囲気に驚かされる。
想像していたのは大河ドラマでもよく見るような純和風の城。
だが、この城は今まで見たことがないような造りだった。
広々とした空間。
床はよく磨かれた木製の床だがカーペットがしかれていたり、階段の手すりや柱、部屋全体の形など、至る所の装飾が洋風の城の様になっている。
そして逆に天井から吊り下がる照明や外からの光を入れる窓の装飾などは和風だ。
正に和洋折衷。
カーペット敷きの廊下を歩いていても程良く織り交ぜられた二つの文化が不思議な安心感を作り出す。
一つの扉の前まで来ると、兵士が一人走ってきて、案内してくれていた侍女に何やら話しかける。
しばらく二人は話していたが、くるっと此方を見返した。
「謁見まで少々お時間が出来ましたので客室までご案内いたします。振り回してしまい申し訳ありません」
侍女は深々と頭を下げると、客室まで案内してくれた。
広い客室の前まで来ると、
「お時間になりましたらお呼びいたしますのでそれまで此方でお待ち下さい。それでは失礼いたします」
と言って彼女は下がっていった。
「なんか、トントン拍子でここまで来ちゃったねぇ」
「ああ、此処の王様のフットワークの軽さには驚かされるな。ここまでセッティングするのだって簡単じゃなかっただろうしな」
ぼふっ、とソファーに座ってミラと話す。
ブランシュの方を見ると、緊張しているのかソファーに掛けたままクロエを膝に乗っけてなでなでしている。
「はぁ..........面倒なことにならなければ良いのですが......」
「ブランシュ様、大丈夫.....?」
「クロエちゃんは優しいですねぇ......」
ブランシュがクロエの頭に顔をつけてふにふにする。
もふもふ、うりうり。
「ふみゅぅ...........」
「あんまり気を張りすぎるなよ?楽にしてて良いって言われたろ?」
「はい、なのでクロエちゃんで心を癒しています」
「ん、みゅっ」
ぴこんっ!とクロエの耳が立つ。
「これ?食べて、いい?」
クロエが指さしたのはテーブルの上に置いてあるお菓子。
何か盛られていないか心配だったので一応鑑定を掛けたが、特に何もなかったので了承する。
客室に置いてあったのだから食べても特に問題は無いだろうしな。
「ん、おいしぃ」
もっきゅもっきゅとそのお菓子(お饅頭だった)を食べるクロエ。
それを見たブランシュが「はあぁぁぁぁ」とまた癒されている。
..............狙ったのだろうか?
―――コンコン
「失礼いたします」
ノックをして入ってきたのは先程のメイドの女性。
「準備が整いましたので玉座の間までご案内いたします」
どうやらあちらさんの準備が終わったみたいだ。
ソファから立ち上がるタツキ達。
さあ、自由奔放なツバキの国王の顔を拝みに行こうか。




