勇者は東へ、マスターは西へ
「疲れたぁ、リュウガ、今どこらへん?」
「まだまだ、大陸の東端まであと少しではあるけどね」
「こんなペースで間に合うのかなぁ」
「弱音吐かないのミコト。大会で優勝すれば彼を捜す手伝いを国を挙げてしてもらうんでしょ?」
「そうだよね、今度こそタツキくんを見つけるんだから!」
今、ミコト達は『ツバキ王国』へと歩みを進めていた。
結局『王の墓』での探索ではタツキの痕跡は何一つ見つけられず、もしかしたら生きて外に出ているかもしれないと一縷の望みをかけて世界中を旅して探すことにしたのだ。
そこで、耳に入ってきたのが『ツバキ王国』にて開催される闘技大会。
これで優勝すれば、国王がなんでも望みを叶えてくれるという。
ならばそこで優勝してタツキを探す事を国を挙げて手伝って貰えればもしかしたら見つかるかもしれない。
「そうだよ、死んでるなんて、そんなの嫌だもん......」
一度は『王の墓』の探索で望みを砕かれた。
彼が生きている可能性なんてもう万に一つも無いことぐらい彼女だって理解しているのだ。
だから、これは心が完全に折れないようにしているだけのこと。
「ミコトよぉ、そんな暗くなってたってタツキは見つからねぇぞ?
元気出して行こうぜ」
リュウガが見かねたように彼女を慰める。
彼もまた『王の墓』の探索で一度は心を折られてしまった。
この旅は親友の死を受け入れるための旅でもあったのだ。
「あと数十分もすれば次の町が見えてくるはずだぜ。そうすればあとは船に乗ってのんびりした旅になる」
「闘技大会までに本当に間に合いそう?」
心配したユイカが彼にそう聞く。
闘技大会が開催されるまであと5日だ。
五日でツバキの王都までたどり着くのは難しいように感じたのだが、
「大丈夫だよユイカ。その船ってのがかなり速いらしくてな、のればツバキ王都まで2日で着くらしいぞ」
「そうなんだ、それなら良かった!」
安心したようで表情を綻ばせる。
「むっ、皆、魔物が寄ってきてるわ」
と、ここでイオリから全員に戦闘態勢に入るように注意を促される。
出てきた魔物はEランク『ホブゴブリン』が四匹、同じくEランク『フォレストウルフ』が二匹だ。
フォレストウルフはホブゴブリン達に飼われているのだろうか、ホブゴブリンの内の二匹に付き従っている。
「それじゃ、ちゃっちゃと終わらせますか」
「旅を邪魔する魔物達は許さないよ!」
リュウガが拳を。
ユイカとイオリが杖を。
ミコトが剣を構える。
ツバキへと向かうミコト達。
ツバキ王都で思いも寄らない出会いが待っているのを、彼女達はまだ知らない。
『ヤナギ』の冒険者ギルドの二階。
ギルドマスターの部屋にて、フラウは通信水晶を西へと向けて会議の準備をしていた。
「あー、あー、マイクテスマイクテス。
テーステステス、テステーステステス。」
水晶に向かって声を出すフラウ。
ちょっと面白くなってきたらしい。
「むふっ...........♪テーステステステス、テステステステス!!
テェェェーース!テステステステステス!!
マイクテステステーステステェェェェェ!!!」
『五月蠅いぞ、フラウ!お前のその子供みたいな性格はどうにかならないのか!??』
水晶の中から怒ったような声が聞こえてきた。
他の国、他の町の支部のギルドマスターだ。
「いやぁ、エルモンド君も怒らないでよ~。なんか楽しくなってきちゃってさぁ」
フラウはそう言うとヘラヘラと笑う。
『お前が今回の会議を召集したんだろうが。ふざけるためにやってるんだったらさっさと切るぞ』
『はぁ、私も同感だよ。緊急の案件なんじゃなかったのか?フラウ』
水晶の向こう側から抑えきれないイライラがにじみ出てくるように感じられる。
「うん、ちょっとふざけすぎたかな?
じゃあ本題に入るよ。これは全ギルドに伝えないといけないレベルの案件さ」
『..........お前が畏まるとは。それほどの事なのか』
「まぁね。正直言ってかなりヤバいよ」
いつもヘラヘラしているフラウが真面目な調子で話し始めたことで、通信先の彼等も緊張したようで静かになる。
「話は二つある。まずはダンジョン『王の墓』についての話だよ。あのダンジョン危険度を上げないといけなさそうだってね」
『ちょっと待て、何故ツバキに居るお前がクリンドルのダンジョンについて知ってる?』
「いやぁ、最近入ってきた新入りがね『王の墓』でひろってきたって大量のギルドカードを持ってきたんだよね。それで色々話を聞いてたんだ」
『大量のギルドカード?』
『まさかその新入りが冒険者を殺して奪ったとか無いよな?』
「その点は大丈夫だよ。どう考えてもその新入りくんが産まれる前のカードも含まれてたからね」
『何故そんなものが?まさか未踏破層か!?』
『待て、王の墓は最近勇者四人によって踏破されたぞ。まだ修行中の身の勇者が踏破したんだ、そんなに死亡者がいるとも思えん』
「そうなんだよ、問題はそこ。どうやら話を聞いた限りでは隠しエリアがあるらしくてね、人によっては入った瞬間に死ぬとも言ってたね」
『即死トラップだと!?そんなものが存在するのか!』
『おい、落ち着け!フラウ、続きを頼む』
「ああ、それで続きだけど、そこに入れたとしても生きて帰れる確率はかなり低そうだよ。新入り君は出来れば探索を促すような事はして欲しくないって言ってたね。皆の考えはどうかな?」
『俺は探索させるべきだ。あくまでそいつも新入りだろ?そいつが帰ってこれるレベルなら普通に大丈夫な冒険者も多いんじゃないか?』
『私も同意だ。探索はさせるべきだと思う』
「うーん、言葉が足りなかったね。実はなんだけどその持ってこられたギルドカードの中に30年前に行方不明になったミスリル級冒険者の『デミアス』のものがあったんだよね」
『『『『!!????』』』』
全員に衝撃が走る。
『デミアスって........あの風斬りのデミアスか.....?』
「そうだよ。まあ、驚くのも仕方ないよね、僕も驚いたもの」
風斬りのデミアス、30年ほど前に行方不明になったミスリル級の冒険者だ。
行方不明になったときの年齢は58歳。
老練した剣術はツバキの『七天刃』やクリンドルの『六星騎士』にも並ぶとまで言われていた。
そんな男が死んだ。
王都に程近い初心者向けのダンジョンでだ。
『考えを.......あらためる必要がある、か』
『あの男が死んだとなれば確かに探索を勧めるわけにはいかんのぅ』
「ではこの情報を流すことと『王の墓』の危険度を上昇させる方向で良いですかね?」
『ああ』
『意義無し』
『同意する』
『私もそれで良い』
『儂も同意じゃな』
次々に各地のギルドマスター達が了解を示す。
「わかりました、ではそういった方向でお願いしますね。
それでは二つ目です。
これはギルドだけじゃなく国全体、いや人類全てに関わってくることです」
『おいおい、さっきのでもう充分過ぎるぐらい何だが........』
『メインはこっちでしたか......』
今までに無いほど真面目な口調になったフラウ。
彼の言葉を聞いたギルドマスター達が重苦しい声音になる。
「既に死んだはずの邪神が一柱復活、今回は復活したばかりだったので無事に倒すことが出来ましたが他の邪神も復活する可能性が高いと見ています」
『なっ............邪神だと!!?』
『お、おい!どいつが復活したんだ!?』
『どうやって復活させた?!魔族か?魔族がやったのか!?』
「皆さん落ち着いてください。
復活した邪神は『ラウラプテュティカ』。
報告によれば、邪神を復活させたのは人族の錬金術師の男だと。その男も死亡したので情報は引き出せませんでした。
僕の見解としましては彼の単独犯行か、裏に魔族がいたのかの二つです。
二つ目に関しましては先日の勇者殺害に関係して、魔王の完全復活で本格的に戦争に入る前に何か攻撃を仕掛けてきたと考えるとかなり濃厚な線かと」
『ううむ......そうなるとこっちの方も危ないかもしれないのぅ』
『冒険者達から情報を多く集められる体制を敷かなければなりませんね』
「報告は以上ですね。私からお願いしたいことについてはやはり各国のブレーンへのこの情報の共有、拡散ですね。お願いできますでしょうか?」
『言われなくても、だ』
『うむ、流石にこのような事態は初めてじゃからのぅ。しっかりやっておくぞい』
こちらの話も上手くまとまったようだ。
これからは魔族の侵攻に対して皆が一丸となって挑まなければならない。
嘘だと怪しむことなくすぐに決断してくれたのも良かった。
「皆さん、有り難う御座います。今回の会議はこれで終了となるのですが他に何かご質問などはありますか?」
『一ついいか?』
「はい、なんでしょう?」
『邪神が復活する兆候なんかはあったりしたのか?』
「そうですねぇ、大暴走は起きましたよ。それぐらいですかね」
『ふむ、あまり情報は無い感じか。有り難うフラウこちらでも色々調べてみよう』
「ええ、了解しました。他にはありますか?」
返事は無い。
全員が聞きたいことはもう無いようだ。
「それでは会議を終了します。このために大切なお時間を割いて頂き有り難う御座いました」
こうしてギルドリーダー達の緊急会議は終了したのだった。




