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おっさんって何者?

 夜の街も未だに賑わいを見せ、御食事処だけでなく服飾品店や雑貨屋、武器屋等にもまだまだ人が出入りしている。


「どうです?活気があって中々良い街でしょう!」


 自分の街のように自慢するコゼット。

 でも確かにこの街は本当に賑わっている。

 話によれば、ここ『アオギリ』は行商等の中継地として利用されており、常に人が絶えないのだそうだ。


 夜になっても街灯や店の明かりで明るい街並みに日本にいた頃を思い出す。

 『ヤナギ』は夜になれば大体の人は家に戻ってしまうから夜の街は静かだった。


「ああ、そうだな。賑やかなのは良い」


 そうでしょう、とコゼットは満足そうに笑みを浮かべる。

 だがこっちです、とコゼットが案内した先の道でそれは起きた。



「よぉ、ヒョロいにいちゃんよぉ、良い女侍らせてんじゃねぇか!」


「うへへへ、んな辛気臭そうなのといないで俺達と楽しい事しようや」


 酔っぱらった男の二人組がミラ達を見つけて絡んできたのだ。


「前言撤回だ、俺やっぱこの町嫌い」


「うええ......嫌いになんないで下さいよ。あ、ちゃっちゃと追い払っちゃいますけど良いですよね?」


「ああ、宜しく..........って、えっ?」


 コゼットは困ったなぁ、と頭をポリポリ掻きながら男達の前に出る。


「あぁん?退けよおっさんが。俺達ぁ後ろの美人さんに用があるんだぁ」


「悪いけど彼女達はウチのお客様のお連れさんなのでね。追い払わせてもらいますよ」


「おっさんが何言って――――ひっ!!」


「な、なんなんだアンタ.........!!」


 突然、男達が恐怖に顔を青くする。

 カタカタと震えて立っているだけで精一杯といった感じだ。


 コゼットはそのまま長袖の裾をめくって腕を男達に見せる。


「自分達が何に手を出したのかこれで気付いて貰えたかな?

 分かったらさっさと失せろ!!」


「ひいぃぃぃっっ!!!」


「しっ、失礼しましたぁぁっっ!!!」


 コゼットの剣幕に男達は悲鳴を上げて逃げ出す。

 恐怖で足に力が入らないのか、所々に足をぶつけてはもつれさせて転んでいる。

 二人の男達を見た周りの人々はそんな二人を馬鹿にして笑っていた。


「さて、露払いとしてはこんな所ですかね。じゃっ、行きましょうか!!」


「お.......おう」


 このおっさん一体何者なんだ!??








 疑問は解けることなくコゼットに案内されるままにお店の前まで来る。


「ここです!『バジリスクの牙』ってお店なんですよ。パスタが特に絶品でしてね!」


 楽しそうな彼に続いて俺たちも店に入る。


 店の中はかなり広く四人掛けのテーブルが20程並んでいる。

 奥にはカウンター席もあり、その店の奥の壁には店名の通り、『バジリスク』の頭部の剥製が飾られている。


「いらっしゃいませ!何名様でしょうか?」


 13歳くらいの少女が走ってきてテーブルへと案内してくれた。

 彼女もコゼットの知り合いらしく、お互い名前で呼び合っている。

 ミミルちゃんと言うそうだ。


「ご注文が決まりましたらお呼び下さい!!」


 彼女は元気にそう言うと、またとてとてと店の奥に走っていった。


「さて、どれにするかな?」


 メニューを開くと、コゼットが言っていたとおりにパスタ系のメニューが充実している。


「じゃあ俺はこれにするかな」


「あっ、僕とおんなじだぁっ!」


 俺とミラは『コルックスとチーズのクリームソース』を選んだ。

 ミラは俺と一緒のを選んだのが嬉しいようでにへぇっと笑う。


「じゃあ私はこれにしますね」


 ブランシュが選んだのは『鬼ナスとブルピッグのベーコンのトマトソース』。


 ブルピッグとはこの島全域に生息する豚型の魔物だ。

 肉が美味く、繁殖スピードも速いので民衆の食用として狩られることが多い魔物だ。


「ん、これに、する」


 クロエは『岩蟹と羽鮭のクリームソース』にした。


 岩蟹は川に生息する蟹型の魔物で大きさは70センチぐらいある。 

 倒しやすいのでよく庶民の食卓に並ぶ食材だ。


 羽鮭はその名の通り、羽が生えた鮭だ。

 川に生息しているのだが釣るのに少しコツがいるので流通はそこそこといったところ。

 だがその味はそのままでも絶品なので釣るための練習をする釣り人も多い。


「皆さん決まったみたいですね、すいませーん!注文お願いしまーす!」


 コゼットも決まっていた様で、ウェイトレスさんを呼んで注文をとって貰った。


「さて、料理が来るまで少し時間もありますし雑談でもしますかねぇ~」


 そういうとコゼットは悪戯そうにニコニコと笑うと指で自分の腕を指す。

 どうやら俺がずっと気になっていたのに気付いていたらしい。

 それならば彼の挑発に乗っかるとしようか。


「そうだな。コゼットさんって一体何者なんだ?」


 最初の質問で一気に確信に迫る!


「ふふふ......それはですねぇ.......」


「(ゴクリ)」


「まだ内緒ですっ!!!」


 ズルッ。


 思わずずっこけてしまう。

 ここまで期待させといてそれかい!!と言いそうになる。


「教えないのかよ........」


「あはははは!いやぁ、王都に着いたらすぐにわかりますよ。向こうじゃあ一応有名人ですからね」


「コゼットさん有名人なのか。まあ強そうだもんな」


「ええ、自分で言うのもなんですけど強いですよ?アダマンタイト級の冒険者ぐらいはあるんじゃないですかねぇ」


「あの親子よりも強いのか........。結構な強さだな」


 どうです?強いでしょう?と、ニコニコするコゼット。

 服の上からでもわかる力こぶに手を当ててアピールしている。


「お待たせしました、こちら『鬼ナスとブルピッグのベーコンのトマトソース』と『岩蟹と羽鮭のクリームソース』になります」


 話していたらウェイトレスさんが料理を運んで持ってきた。

 ブランシュとクロエの前に料理が並べられる。

 クロエは早く食べたくてうずうずしているのか、尻尾をピンと立たせて目の前の料理を凝視している。


「ふふふ、冷めちゃうのは良くないからな、先に食べてていいよ」


「ん!食べる!」


「ええ、お先に頂きますね」


 ブランシュはゆったりと食べ始めたがクロエは元気に返事をして食べ始めた。

 やっぱりこういう所子供みたいだよなぁ、と思わず顔が綻んでしまう。


「お待たせしました、こちら『コルックスとチーズのクリームソース』です!!」


 今度はミミルちゃんが料理を運んできてくれた。

 横には彼女の母親らしきウェイトレスも来ており、コゼットがたのんだパスタを持ってきている。


「はい、『ヒュージラビットのトマトスープパスタ』です。コゼットさん、いつも来ていただき有り難う御座いますね」


「ははは、旦那さんの料理は絶品ですからなぁ!この町に来る度に食べたくなって来てしまうんですよ」


 聞いているとこの店は家族三人と雇った従業員6人で切り盛りしているそうだ。

 結構繁盛しているように見えるのだが、料理は殆どここの旦那さんが作っているらしい。

 仕事量半端ないな。



「タツキ、食べよー?」


「おう、結構美味しそうだな」


 俺たちも食べ始める。


 (はふぁ........)


 「美味い........」


 鶏肉に似た味のコルックスの肉。

 以前食べた同種の(エンシェントでキングなやつ)よりは味が劣るが、コルックスの肉はやっぱり美味い。

 とろけたチーズとクリームソースがパスタによく絡まって優しい甘さと旨味が口に入れる度に広がる。


「むふふ、お勧めして良かったでしょう?美味しいですよねぇ、ここのパスタ」


 熱々のスープパスタをふうふうと冷ましながら美味そうに食べるコゼット。

 ブランシュはパスタを食べるのにも一つ一つの動作が上品で、何処かのお嬢様だと言われても不思議が無いくらいだ。

 反対にクロエは子供みたいにぱくぱく食べて、口元にソースがちょっと付いてしまっている。


「クロエ、食べるのに急ぐ事なんて無いぞ」


「ん、むぅ......もぐもぐ」


 ふふっ、と笑いながらクロエの口元をハンカチで拭いてあげる。

 クロエはちょっと恥ずかしそうにしたけれど一方で何処か幸せそうだった。











「いやぁ~、美味しかったですねぇ!」


「ああ、満足した」


「美味しいもの食べれて幸せだよ~」


 食べ終わった五人は店を出て宿屋へと帰っている。

 中々に美味しい料理の店だったな、この町に寄るようだったらまた来たい。


「んむぅ.......ご主人」


 くいくいとクロエが俺の服の袖を引っ張る。


「どうした?クロエ」


「クロエ.......は、料理、得意...........パスタ、今度....作ってみる」


「本当か?楽しみだな!」


「クロエちゃんの料理ですか、それは楽しみですね」


「天職に料理人あったもんね、僕も楽しみだよ」


 クロエは俺達の反応を聞いて「にへぇっ」と笑う。

 今日食べたパスタが美味しかったから作ってみたくなった様だ。

 クロエの料理か、楽しみだな。


 そんな事を話している内に、ゆったりとした時間はあっと言う間に過ぎて、五人は宿屋へと帰ってきた。









 カリカリカリカリ。


「タツキ寝ないの?」


「いや、強い召喚石を短期間で消費しちゃったからね。新しくまた作ってる所なんだ」


 タツキは寝る前に召喚石をいくつか作り直していた。

 『タイタン』や『テュポーン』、ブランシュは『バーパンシー』を消費したらしいから新しい召喚石を補充しておかないといけない。

 ブランシュにもそれは伝えて『バーパンシー』をもう一度作らせた。


 タツキも消費した二体は既に作り直してあるのだが、


「流石に力押しの召喚獣ばっかり作りすぎたからね。少しひねってみようと思ったんだ」


「ほぇ~、タツキ頑張るねぇ」


「まあ『画力』スキルも上がるし悪いことは無いからな」


「ん、みゅ.........」


「っと、悪い。起こすところだったかな?」


 隣ですやすやと寝ているクロエが寝返りをうつ。


「ふふ、クロエちゃん可愛いなぁ」


「そうだな。ふう、俺もクロエを起こさないうちにそろそろ寝るかな」


 俺は描き終えたそれに一連の作業を行い、魔石を召喚石に変化させる。


『あまり知られていない技術じゃから人には教えんようにな』


 ニコラスの言葉だ。


 召喚石は非常に便利だ。

 作った本人にしか使えないという安全性もあるし、発動時の魔力消費も少ない。

 デメリットは絵心が無ければ弱い物しか作れないことぐらいだ。

 それだけに多くの人に知られれば悪用されることもあるだろう。

 ニコラスの技術を悪用させる訳にはいかない。

 だから今回の謁見の件もかなり慎重になるだろう。


「皆、傷つけさせる訳にはいかないからな」


 隣のクロエの寝顔を眺める。

 すやすやと幸せそうに眠るクロエ。


 (俺が守っていかないとな。)


 作った召喚石をアイテムボックスにしまう。


 横になっていたらクロエが腕にしがみついてきた。


「お.....とぅ......さん.........」


「クロエ............」


 夢を見ているのか、苦しそうな表情をしている。

 思わず彼女の事をぎゅっと抱き締める。


「んみゅ.........タツキ......好きぃ........」


「はぁ、なんだか気の抜ける奴だな」


 さっきまで苦しそうだったのに幸せそうな顔になるクロエに苦笑してしまう。

 きっとこの子は家族が欲しかったんだろう。

 両親を早くに亡くしてしまったから。

 ずっと、独りだった。


 (俺も、その寂しさはわかるよ.........)


 だから俺達が彼女の家族になる。

 彼女の平穏を、幸せを、帰ってくる場所を。



「おやすみ.......ミラ」


「.........おやすみなさい......タツキ」


 横になっていた俺の意識は闇へと落ちていった。

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