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アオギリ


 時刻は午後6時を過ぎた頃。

 アオギリに到着した一行は予約されていた宿屋へと向かっていた。


「同じツバキの町でも大分違うな」


 タツキがそう呟く。

 この『アオギリ』の町は和風な要素があまり見られないのだ。

 クリンドル王国の城下町の様な雰囲気。


 ところどころに和風のお食事処や小物屋が並んでいるが、基本は中世を感じさせる町並みだ。


「着きました!ここですよ皆さん」


 四人を先導していた御者の男が一軒の宿屋の前まで来て振り向く。

 着いた宿屋もタツキが日本に居た頃に読んでいたような漫画に出てくる、中世を感じさせる洋風の建物だ。

 玄関に下げられている看板には『子猫の尻尾亭』と書かれている。

 

―――カランカラン


 鈴が付いているドアを開けて、中に入る。

 入るとすぐに受付があり、タツキと同い年くらいの金髪の少年が立っていた。


「キール君、四人部屋一つと一人部屋一つ予約してたコゼットだ。案内してくれ」


 御者の男、コゼットが話しかけるがキール君はぼーっとしてしまって反応しない。


「.........美しい...」


「おい、キール。戻ってこい」


 どうやらミラとブランシュに見とれているらしい。

 二人とも凄い美少女だからな、仕方ない。


 パァン、とぼーっとして戻ってこないキールの頬に平手を食らわせるコゼット。


「あだっ!あ、コゼットさんですか。予約でしたよね」


「ああ、そうだが仕事中にボケッとすんじゃねぇ」


「うへぇ、すいません。あ、こっちが四人部屋でこっちが一人部屋の鍵です。二階にありますのでどうぞ」


 いそいそと鍵を出すキール君。

 どうやらコゼットとは知り合いらしい。


「おう、ありがとな。それとキール、こっちの美人さん二人はどっちも旦那の嫁だぞ。手ぇ出したら殺されっからな」


「ええっ!!そ、そんな.................」


 目を見開いて驚くキール君。


 今思ったけど二人とも俺の嫁(予定)なんだよね........。

 あれ?どうして一夫一妻制の国に居たのにこんな自然に二人の事を受け入れられたんだろ........。

 そうあることが凄く自然に感じたような......?

 まあ、今この事について考えても仕方無いか。

 

 そう思って現実に戻ってくる。

 目を見開いていたキール君がちらっとタツキの方を見る。

 そして、


「はぁ......やっぱりイケメンがいいのか........。そうだよな、イケメンの方がいい..........」


 うなだれるキール君。

 俺はイケメンじゃないぞ?イケメンだったら苛めなんて受けてたはず無いからな。


「よくわかんないけど、今日一日宜しくなキール君。それと俺はイケメンじゃないぞ」


「ハハハ、何言ってんだか.........。俺の心の平穏の為に今日の夜はしないでくれよ.......?」


「はは、言われなくとも―――」

「タツキ?」


「は、はい.........何でしょうかミラさん?」


 横からミラが出てきてキース君との間に割って入り此方を見る。

 そして、目をとろん、とさせると。


「.............朝まで....するよね......?」


「ひゃ、ひゃい..........」


 目が!ミラさんの目がハートになってる!!

 ミラの迫力に圧されて了承してしまった。

 キース君が白眼をむいている!!!


「あー......。ほれ、これ鍵だから先に部屋行ってていいよ」


「ありがとうございます。はぁ、どうも押しに弱いな俺.........」


 タツキは鍵を受け取ると他の三人と一緒に部屋へと向かった。


 タツキ達が上へとあがってしばらくして、


「チクショーーッッ!!俺もハーレムしてぇよぉぉぉぉぉ!!!」


 キース君の悲痛な叫びが宿屋の一階に響き渡った。









 部屋につくと鍵を開ける。

 中々綺麗な部屋だ。

 四人分広々とした部屋になっている。


 だが一つだけ問題があった。


「ブランちゃん、クロエちゃん、これは戦争と取っていいんだね?」


「のぞむところですミラ様。たとえミラ様といえど容赦しません!」


「ん、クロエ......勝つ........!!」


 にらみ合って向かい合う三人。


 何があったのかというと、それはベッドについてだ。

 なんとこの部屋には一人用のベッドが二つと二人用のベッドが一つの組み合わせだったのだ!!


 そこで、三人の内誰がタツキと一緒に寝るかというところで揉めていた訳だ。


「じゃあいくよ.........。じゃん」


「けん」


「「「ポン!!!」」」


「うああああああああ!!!!」


「ま、負けてしまいました..........」


「ん、勝った.......!!第四章.......完!!」


 ミラとブランシュがパーを出して、クロエがチョキを出したのでクロエが一発で勝った。

 ミラ達は四つん這いになって悔しがり、クロエはチョキを天に突き上げてドヤ顔をしている。

 それにジオジオネタなんて何処で仕入れてきたんだろうか..........。


「ん、というわけで........ご主人.......今日は、クロエを..........好きにして良い.......」


「..........なんで皆、俺が二人用に寝る前提で話してるのかな?」


「えっ..........違うの........?」


 クロエの目に涙が溜まる。

 だんだん尻尾が下がってきて耳もぺたんと下がり始めた。


「ご、ごめんて。一緒に寝るから、うん、一緒に寝ようクロエ!」


「ぐすっ..........ん、クロエはそれがいい......」


 涙をふきふきして此方を見上げるクロエ。

 へにゃっと笑っているクロエはとても愛らしい。

 思わず頭を撫で撫で、耳をふにふにしてしまう。

 本当に妹が出来たみたいだよなぁ。


「ふにゃ~...........」


「ああっ.......クロエちゃん幸せそう.........」


「最近タツキ様がかまってくれなくて寂しいです.....」


 ブランシュがしょんぼりしてしまった。

 しょんぼりするブランシュも可愛いなぁ。


 クロエはそんなブランシュを見てから此方を見上げると「構ってあげて」という目をする。


 なので不意を突いて床に座り込んでいるブランシュに抱きついた。


「っ!!タツキ様っ!?」


「ごめんなブランシュ、忙しかったからあんまり構ってやれて無かったな」


「べ、別に構って欲しい訳では........」


 ブランシュはそう言うと顔を赤くする。

 ぷしゅ~、と音が聞こえてきそうだ。


「ブランシュ...........キスしていい...........?」


「.............はい」


 そのまま顔を近づけあうと唇を重ね合う。


「んあっ........ふっ.......んむぅ...........」


 吐息が漏れる。


「た........つき.......様ぁ...........んっ......」


 溜まっていた物を吐き出すかの様にタツキの唇を求め続けるブランシュ。

 タツキが離れようとしてもぐっと力を入れて離さない。

 ぴちゃぴちゃと舌の絡む音が静かに響く。


 キスは二分程続き、やっと離れた。

 ブランシュの顔は完全にとろけてしまっている。


「あんないきなりなんて.....ズルいですよ?タツキ様.........」


「俺も.......ブランシュがこんなに積極的になるとは予想外だった........」


「思わず無言でながめちゃってたけど.........ブランちゃん凄すぎ.............」


「ミラ様.........手が邪魔で見えない...........」


 今になって気づいたけど、ミラのファインプレーによってクロエに見せるのは防いだみたいだ。

 グッジョブだ!ミラ!!


「クロエちゃんには見せられなかったからねぇ」


 にへへ、とミラが笑う。


「クロエも......もう........大人........!!

 えっちな.......こと....も......平気.........!!!」


「駄目です!ミラお姉ちゃんは許しません!」


「そうだぞクロエ、まだ子供なんだからそういうのは早いぞ」


「クロエは、大人!!!14歳、だもん!!」


 ちょっと涙目なクロエ。

 ミラに頭をわしわしされている姿は子供にしか見えない。


「タツキ様、ミラ様、クロエ様、そろそろ夕食のお時間なので何処か食べに行きませんか?」


 ブランシュが時計を見ながら提案する。

 時刻はそろそろ7時を回る。

 お腹も空いてきたし何処か食べに行こうか。


「そうだな、ほら二人とも準備して!」


「はーい!」


「むぅ........クロエは.......大人............」


「分かった分かった、クロエは大人だから。ご飯食べに行こう?」


「ん......分かった」


 クロエはまだちょっぴり不満気だったけどついてきてくれた。

 きゅっ、とタツキの右腕を抱きしめる姿は『兄に構って貰いたい少し年の離れた妹』にしか見えない。


 タツキは二つとなりの部屋のドアをノックする。


「コゼットさん?居ますか?」


 ガチャッ、とドアが開いてコゼットが現れる。


「ん、どした?何か用か?」


「これから夕食に向かうんですけどコゼットさんもどうです?

 コゼットさんはこの町にも何回か来てるみたいですし何処かお勧めのお店とかあれば」


「おう、なら私も行かせて貰うか!

 美味い店ならいくつか知ってるからついてきてくれ!」


 コゼットはささっと部屋を出る準備を終えると出てきた。

 そして五人は夜のアオギリの街へと出て行った。

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