終結・ヤナギ防衛戦
「ああ、良かった。本当に良かった」
「タツキ様は心配性ですね。私がついているのですから安心して下さって大丈夫だったのですが」
「そんなの関係ない。万が一何かあったらと思ったら気が気じゃなかった」
「ん、ご主人様。クロエは大丈夫」
「ああ、そうだ、そうだな」
今、俺とミラは南門の近くに来ている。
西門の方には居なかったので、またミラを抱えて全速力でこちらまで来たのだ。
二人とも無事で、元気な様子で良かった。
指輪の『交信』の能力で彼女と連絡が取れたのが幸いして、すぐに二人を見つけることが出来た。ニコラスに感謝だ。
「それよりタツキ様。リセントメントファラオとかいう魔物は大丈夫なのですか?」
心配だと、不安そうな顔をしてそう質問するブランシュ。
「タイタンを置いてきたから多分大丈夫。配下はドマ達がなんとかしてくれるだろ」
「割といいかげんだね、タツキ」
「二人が無事だったから安心しちゃってさぁ」
『タイタン』は耐久だけなら『テュポーン』にも勝るステータスを与えた。パワーもそれなりにある方だ。
あの『リセントメントファラオ』という魔物の力では、正面からぶつかり合えばまず『タイタン』に軍配が上がるだろう。
街の外の平原という場所を戦場に選んだのは向こう側の失敗だ。あれだと正面戦闘がメインになり、奇襲等はよっぽどの混戦でなければ成り立たないだろう。尤も、俺達やドマ達が居なければその作戦は非常に上手く行っただろうが。
まあ、そんな訳だから安心できる。
はぁーっ、と息を吐き出す。
力の抜けたタツキはそのまま地面に座り込んだ。
「完全に気が抜けたね」
「気が抜けてへろへろですタツキ様」
「ん、クロエは膝に乗る」
「む!クロエちゃん子供特権はずるいよ!!」
「じゃあ私は右腕で。タツキ様失礼します」
「なっ!?ブランちゃんも便乗かい!?じゃあ僕も左腕ね!!」
もふもふする。
膝にクロエが乗っかって。
右腕にはブランシュが抱きついてて。
左腕にはミラが抱きついてる。
暖かいなぁ..........。
眠くなってきたぞ............。
ふわあぁぁぁ............。
「あ、タツキ様寝ました」
「まじか.....タツキこの状態で寝れるのか。美少女達にここまで迫られているというのに.........」
「ん、ご主人、鈍感」
「むっ、クロエちゃん。僕もそれは同感だよ」
「ぶい」
ミラに対してVサインをするクロエ。
完全にそこだけ大暴走に襲われている街の風景ではなかった。
「ムッ、ナンダアノ巨人ハ」
「神獣様?じゃねぇのか?」
剣を打ち合っていたジェネラルゾンビとドマはいきなり現れた筋骨隆々の巨人に戦うことさえ忘れてポカンとしてしまう。
『ウオオオオオオオオオオオオオ!!!』
巨大アンデッドとリセントメントファラオに向けて咆哮するタイタン。
空気がビリビリと震動する。
「うおっ!なんだこれうるせぇぇ!!」
「耳ガ!?耳ガ破裂シソウダ!」
「キュルルルルルル........」
あまりの音量にドラゴンゾンビでさえ苦しそうにする。
「ってかお前耳なんてあんのかよ.......」
「ン?ア、本当ダ。耳ナンテ無カッタナ。聞コエルケド」
「おまっ.....どうツッコみゃいいかわかんねぇよ.......」
ジェネラルゾンビはフルプレートアーマーの耳の部分を押さえていた手をパッと離す。
ドラゴンゾンビがその行動に残念そうにうなだれた。
「はぁ、気を取り直してもう一勝負しようか」
「ウム、途中デ止マッテシマッタカラナ」
二人はまた互いに剣を構え直す。
「はぁっ!」
「セイッッ!」
ガァァァン!!と金属のぶつかり合う音が鳴り響く。
何度も剣を打ち合わせ互いに剣筋が読めるようになってきたために、更に打ち合うスピードが上がっていく。
「おらぁぁっっ!!」
「ナッ!?」
と、ここでドマはわざとタイミングをずらして打ち込みテンポを崩す。
リズムを崩されたジェネラルゾンビも流石の腕前で、すぐに立て直す。
「ヌゥッ、ヤリオルッッ!」
「まだまだぁぁ!!」
更にスピードを上げる二人。
ドラゴンゾンビも攻撃に積極的に参加するようになり、攻防は更にヒートアップする。
「『空斬』!!」
「フンッッッ!!!」
ドマが飛ばした斬撃を盾で受け流すジェネラルゾンビ。
その瞬間を狙ってドマは縮地を使い瞬時に間を詰める。
「覚悟!!」
「ヌガァァッッ!」
守りを捨てたドマの一撃。
遂に決定的なダメージが加わった。
「マッ、マダダ!」
「いや、『一閃六華』!!」
守りを崩したジェネラルゾンビの身体に幾つもの深い傷が刻まれる。
「終わりだ」
そう言って剣を持つ腕を切り落とす。
「ガ.........ア、ミ、見事ナリ...........」
首を差し出すジェネラルゾンビ。
ドラゴンゾンビも主の敗北を認めたのか、おとなしくなる。
だがドマは一つ気になることがあった。
「........お前よぉ......作戦?とやらをやらなきゃいけないって残念そうにしてたけどよ。自分の仲間達の考えに賛同してねぇのか?」
「ウ.......ソレハ......。イヤ、オハズカシイ事ニ我ト相棒ノドラゴンデ田舎デノンビリト暮ラシテイタ所ヲ隷属魔法デ操ラレマシテナ」
「その割には、さっきとかかなり自由そうな感じだったが?」
「...............アレ?コレハ.........術者ガ死ンダ為カ切レテマスネ........」
「お前やっぱ馬鹿だろ...........」
「........面目ナイ.....」
しょんぼりとうなだれるジェネラルゾンビ。
最初の威厳は何処へやら.........。
ドラゴンゾンビもがっくりとうなだれる。
流石のドマも呆れるしか無い。
「はぁ、もういいよお前等。さっさとお家に帰れ。その方が良いだろ」
「........イヤ、ココハオ主ヲ新タナ主トシテ付キ従ウ所存!是非、テイムモンスター二シテ下サレ!!」
「はあぁぁぁぁぁぁ??!!」
いきなりの宣言に訳が分からないドマ。
Sランクモンスターをテイムなんて本職のテイマーでさえしないだろう。
「俺、テイマーじゃないんだけど.........」
「我等ヲテイムモンスター二スレバ、テイムノスキルハ手二入リマスゾ」
「んー、あー、まぁいいか!っし、これから宜しくな!!」
ドマはあまり考えないことにしたのだった。
ドゴオオオオオオオオオオオオ!
『オラアアアアアアアアアアア!』
「何ナンダコイツハァァァァァァ!??」
「グギャアアアアアアアア!!」
筋骨隆々の巨人に殴られてぶっ飛ばされる巨大アンデッド。
巨人の名は『タイタン』。
タツキに作られた召喚獣だ。
タイタンはぴくっとなにかを感じ取る。
「ナ......何ダ..............?」
警戒するリセントメントファラオ。
『何してんの我のマスターッ!?何で寝たのコイツぅぅぅぅぅぅ!!』
「訳ガワカランゾコイツゥゥゥゥゥ!??」
頭をかかえて大声で叫ぶタイタン。
意味不明なタイタンの行動に混乱しまくりのリセントメントファラオ。
端から見ればリセントメントファラオがタイタンに何かしたとしか見えないだろう。
実際この後に書かれる神話の一ページにリセントメントファラオに精神攻撃魔法を受けて悶える神獣の図として知られるようになるがそれはまた別の話。
『くそぉぉぉぉぉっっっ!ヤケクソだコノヤローーッッ!!』
「ム、迎エ撃テ!『グレイトフルデッド』!!」
マスターが何故かすやすやと眠り始めたので色々やけくそになって殴りかかるタイタン。
『グレイトフルデッド』は下級アンデッドの集合体だ。リセントメントファラオの死霊術によって今まで戦場に溢れかえっていた下級アンデッド達が集められたのだ。
リセントメントファラオは巨大アンデッド『グレイトフルデッド』に迎え撃たせ、自分は更なる攻撃魔法の為に魔力を練り始める。
「ごぷ.....あああああああああ!!!」
『くそがああああああああああああ!!!』
巨大アンデッドの首?の様な所を掴むとタイタンは地面に叩きつける。
「ゴアアアアアアアアア!!!」
『さっさと終わらせちゃるうううううう!!!』
叩きつけたグレイトフルデッドが反撃する間もなく、更にもう一度地面に叩きつける。
ドッゴオオオオオオオオオオオ!!!!
「神獣様すげえええええ!」
「神獣様強すぎぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
「ふへえぇぇぇぇ、神獣様ありがたやありがたや~」
「なんか.......あのアンデッドが可哀想に見えてきた......」
テンションの上がる冒険者や住民達。
タイタンは更にそれを掴んだまま持ち上げ、地面に叩きつける。
そして又叩きつける。
叩きつける。
叩きつける。
叩きつける。
叩きつける。
見る見る内にボロボロになっていくグレイトフルデッド。
「が......ア.........う....ぷぁ...........」
『うおおおおおおおおおおおおお!!!』
止めとばかりに渾身の一撃で地面に叩きつけるタイタン。
それを最期に動かなくなるグレイトフルデッド。
グレイトフルデッドは危険度S+の凶悪なモンスターであったにも関わらず、タイタンの前にあっさりと敗北したのだった。
だが、そこに
「『暗黒流星群』!」
リセントメントファラオは攻撃魔法をタイタンに向けて放った。
黒色の破壊の雨がタイタンへと降り注ぐ。
「死ネェエエェェェェ!!」
『ぬううううううううううううん!!!』
避けることなくその全てを受けきったタイタン。
リセントメントファラオの『暗黒流星群』ともなれば町一つを一撃で更地にすることも容易い。
本来ならばどんな魔物も消し炭さえ残さず殺しきるのだが。
その身はボロボロになりながらも未だに立っていられるタイタンに恐怖するリセントメントファラオ。
元々逆に怖がられることはあっても自らが恐怖すること等無かったのだ。
その恐怖は並みの比では無いだろう。
(何なんだこいつは!?本当に生物なのか!??)
意味不明なまでの力にリセントメントファラオは恐怖する!!
「ク、クソッ!作戦ハ失敗!全隊帰還セヨ!!」
リセントメントファラオは帰還命令を出して戦線から離脱しようとするが、
「『土魔像』!」
「!??」
地面からズズズズとせり上がる様に現れる三体の土の巨人。
本物をあわせて四体のタイタンがリセントメントファラオに襲いかかる。
『逃がさああああああああん!』
「イイイイィィィィィィヤァァァァァァ!!!」
ドッゴオオオオオオオオオオオオオ!!!
ドガアアアアアアアアアアアアアン!!!
ズドオオオオオオオオオオオオオン!!!!
ボガアアアアアアアアアアアアアン!!!!
タイタン四体の攻撃を受け止められる筈が無く、粉々に潰されるリセントメントファラオ。
『うおおおおおおおおおおおおおおお!!!』
「「「「「うおおおおおおおおおおお!!!」」」」」
タイタンは咆哮し、衛兵や冒険者達からは歓声が上がる。
こうしてヤナギの街を恐怖に陥れたSSランクの化け物はなんとも締まりのない最期を迎えたのだった。
ヤナギの街防衛戦はここに終結した。
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