ダンジョンでの訓練
今日から5日間、ダンジョン訓練が始まる。
訓練を行うダンジョンは王都から程近い所にあるダンジョン『王の墓』だ。
上層に居る魔物ほど弱く、下層に居る魔物程強いのはダンジョンの基本だが、このダンジョンはその特性が顕著であり、かけだしの初心者からベテランまで様々な冒険者の集まるダンジョンとなっている。
今回はその一層~三層辺りを目安に実戦訓練を行おうということだ。
ちなみに『王の墓』の名前の由来は千年前に召喚された初代勇者の仲間だった当時のクリンドル国王の墓がこのダンジョンの何処かに有るという噂からきている。
そして今、ダンジョンの前には40人全員と10人の騎士が集まっている。
今回の訓練では4人一組でパーティを作り、それに護衛の騎士が一人ずつ付く形で行われることになった。
「よし!タツキ、俺らと組むぞ!異論は認めん!!」
リュウガは俺が弱いとわかっていても尚変わることなく一緒に居てくれる。
本当に俺には出来過ぎた友達だ。
「ふふふ、これなら安心だねぇタツキ君」
ミコトもなぜだかご機嫌である。
(昨日何か悪いことしちゃったみたいだしなぁ、機嫌損ねないようにがんばろ)
そう思い、ぐっと拳を握ったら何故かこんどはユイカに悲しい目を向けられた。
何か間違っていたのだろうか?
まぁ、そんなところで。
パーティはいつもの4人になった。
付き添いの騎士のダンカンさんも30歳くらいのチョビ髭のおじさんで、少し変だったけど優しそうで良い人そうだったし余程のことがなければ安定したダンジョン探索になりそうだ。
ダンジョン一層ではRPGの定番、ゴブリン、スライム、にホーンラビット、ヒュージラット等が出るそうだ。気を引き締めていこう。
「なんだかジメジメしたダンジョンだな」
リュウガの言うとおりこのダンジョンは湿気が強い。
入り口が広かったので空気の通りは良さそうだと思っていたがそういうのはあまり関係ないらしい。
一層進んだら真逆の天候になったなんて話は良くあるそうだ。
ダンジョンの不思議ってやつだな。
しばらく進むとやっとスライムが出てきた。
「かっ、かわいい.........っ」
ユイカが思わずそう呟く。
透き通ったブルーの体に黄色の丸い目が並んだソレがプルプルしている。
たしかにかわいい。
「勇者様方。見た目に惑わされてはなりませんぞ。スライムは一層にて最も危険なモンスターとも言われております。かけだしの冒険者がスライムにやられて死んだなんて話は後を絶ちませぬ。なんせ物理攻撃はほぼ効きませぬからな。ですが、弱点である奴の赤い魔石を狙って取り出すか砕けば一撃でおわりますからな」
プルプル震えていたスライムが大口を開けて飛びかかってくる。
それをミコトが水魔法で弾きとばすと俺の聖力とリュウガの土魔法で固定した後、拳法を使って魔石をとりだすとスライムはぐにゃりと溶けて消えていった。
俺の聖力だが実はあれからLv.3になり例の壁が5つまで出せるようになっている。
「本当にコレに殺されるやつがいるのか?」
弱い。
人を殺せるだけの力がスライムにあるとは思えなかった。
リュウガも同感だったようで首を縦に振っている。
「勇者様方は十分な力を持っておりますし、4人でしたからな。それに弱点をしっていればさして苦戦する事はないというところでしょうな」
まあスライムの強いところといえば物理攻撃がほぼ効かないことなので、弱点を知っていなければ苦戦とまではいかなくとも倒すのに時間がかかっただろう。
やはり知識は大切だとあらためて実感した。
周りを見ると他のグループも順調に魔物を倒せているようだ。
「この周りは大分グループが集まってるしもう少し移動しねぇか?」
「そうだな、もう少し先に進んでみようか」
ダンカンさんからのOKも出てるし俺たちは更に先へと進んでみることにした。
しばらく進むと一つのグループがゴブリンの群と交戦していた。
委員長の居るグループだ。
「危ないんじゃないか?アレ」
リュウガがそう言う様に危なっかしく感じる。
上手く連携が取れていないようでゴブリンの何匹かに回り込まれて挟み撃ちの形になってしまっている。
次の瞬間ゴブリンの一匹が委員長の背に向けてとびかかった!!!
「チッ!危ない!!」
俺は迷わず腰に装着していたナイフの一本をゴブリンに向けて投擲する。
「ゴゲッ!!?」
レーザーの様に飛んでいったナイフはゴブリンの首を見事に貫き一撃で絶命させた。
委員長は真後ろまで来ていたゴブリンが突然死んだことで目を白黒させている。
「助太刀する!!」
リュウガのかけ声と同時に五人はゴブリンの群れにバックアタックを仕掛けた。
リュウガの拳法とユイカの『水弾』で不意を突かれたゴブリン達は散り散りになり、数分もたたない内に全滅させることに成功した。
「すまない!助かった!!!」
健康そうな日焼けした肌に坊主頭の少年が俺たちにお礼を述べる。
『新田大悟』、典型的な野球少年だ。
光太に次いで男子のリーダー格になっている男でもある。
「それに日向、ステータスは低いのに結構強ぇな!!城に戻ったら是非とも訓練の相手をして欲しいぐらいだぜ」
「ハハ、俺なんかじゃサンドバッグ程度にしかなんないって。買い被りすぎだよ」
「そうかぁ?あのナイフ投げ凄いと思ったんだけどなぁ」
この俺、日向達樹は諸事情によりナイフの様な棒状の物を投げるのがこちらに来る前から得意である。
どんな事情かは察して欲しい。
「さっきは危ないところをありがとうね。助かったわ」
委員長がお礼を言ってくる。
素直なお礼が彼女の口から出たことに少々面食らってしまった。
「おオゥ..........」
「何よ、私が素直にお礼を言うのがそんなに変だったかしら?」
「心を読まれたッッ!!??」
隣でミコトが不機嫌そうな顔をしているように見えたが気のせいだろう。
今の下らない会話で彼女が不機嫌になる要素など一つも無いのだ。
「タツキ君と委員長って仲良かったんだねーー。へぇーーーー」
「んー?それは無いと思うけどなぁ」
今の会話にそんな仲良し要素があっただろうか。むしろ俺と委員長はロクに話した事が無かったのでそれはもう砂漠の如きドライな関係である。
仲良しに見えるなんてあり得ないのだ。
きっとミコトは昨日の熱で調子が戻りきっていないんだろうな。
なんて、ずいぶん気の抜けた会話をしていたが、ダンカンさんともう一人の騎士が険しい顔で何か話し合っている。
大方、先程のゴブリンの群れの事だろう。
普段とは違う『何か』があったに違いない。
「勇者様方、申し訳有りませぬが今日の訓練はここまでにして外へ戻りましょう。イアンには更に奥へと進んでいるグループへの連絡を任せたので私に付いてきて下され」
帰りはなるべくモンスターと交戦しないようにモンスターを避けて歩いた。
行きの時とは違うルートになっていて、しばらくすると大きな穴のあるエリアへと出た。
遠目で見たが、底が見えない。
穴と言うよりも崖といった方が正しそうだ。
俺が気にしているのに気付いたのかダンカンさんが穴について説明してくれた。
「あの穴は冒険者達に『死の淵』と呼ばれているのですぞ。何故かあの穴を恐れるようにこの辺りにはモンスターが寄ってこないことから付けられた名前ですな。今回このルートを選んだのもそれが理由ですぞ」
なるほど、確かに人間の俺でもあの穴には近付きたくない。
リュウガ達もあの穴を見て得体の知れない恐怖を抱いたらしくブルッと身体を震わせている。
ダンカンさんもあまり近づくのはお勧めしないとの事だったので、穴から離れた所を歩いて抜けていった。
とくにモンスターと遭遇する事もなくダンジョンを出ると、大勢の法衣を着た人達が待ちかまえていた。
法衣にはドラゴンの様な紋章があしらわれている。
なんでも『ミラナディア教』という宗教の聖職者達らしい。
傷を負った勇者達を癒すために国が派遣していたそうだ。
宗教についてだが、この世界には神様とやらが実在し、その一柱ごとに宗教があるらしい。一体いくつの宗教が存在するんだろうか。ちなみに、このミラナディアは生命と魔法の女神らしい。
今、このクリンドル王国で最もポピュラーな宗教だそうだ。
治療を終えると俺たちは今日から4泊お世話になる宿へと向かった。
夕食は豆と魔物肉のクリームシチューにコーンらしきものとレタス?のサラダ、マルド麦のパンでとても美味しかった。
風呂は共同の物が付いていたのでそれに入った。
宿のサービスに満足し、今日はぐっすりと眠れそうだった。