ヤナギ防衛戦
タミルは治療を受けるとフラウの所まで来ていた。
「フラウさん!伝達です!
新しいダンジョンの8層にて『邪神ラウラプテュティカ』が復活!
弱体化している邪神を倒すべく四人が残りました!!」
「はっ!?」
フラウは一瞬ポカンとした顔をする。
「じゃ、邪神ってどういうことだい!?
だいたいその邪神は既に勇者達によって倒された筈じゃあ!?」
「本物です!この目で見ました!
あんなのに出てこられたらこの街は一溜まりもありません!!」
「嘘だろ.......?その話が本当だとしたらこの大暴走は一体.........??」
フラウが絶望した顔をする。
タミルも苦しそうな顔をするがキッと顔を上げると声高に宣言する。
「大丈夫です!あのミスリル級冒険者ライオネル親子にミスリル級の実力を持つタツキさん達です!
必ず勝利して戻ってきます!!」
フラウはその言葉にハッとさせられる。
今戦っている彼等を信じずにこんな所で打ちひしがれていて良いのか?
同時にフラウは彼の目の前にいる男が一瞬誰だかわからなくなる。
(あのタミルが.......成長したんだな...........。)
「だから........勝ちましょう!モンスター共を蹴散らして彼等が帰ってくる場所を守るんです!!」
「ああ....そうだな!
魔導師隊、1班~6班は今まで通り、7班~9班は自分に出来る最大級の攻撃魔法をぶち込んでやれ!」
ライオネル親子が帰還する14分前の出来事であった。
そして、ライオネル親子が参戦してから20分が経過。
二人の参戦に一時は押し返したものの、予想外の敵の参戦によって事態は悪化していた。
「クソッ!何なんだこのアンデッド共は!!」
憤慨するドマ。
現れたのは大量のアンデッドの大群。
彼に倒せないような魔物はこの中にはいないが、彼一人でカバーしきれる量でもない。
娘のエルザも必死にスケルトンやグールの群れを斬りまくるが一向に収まる気配がしない。
それどころか一度倒したはずのアンデッドまで復活して襲いかかってくるのだ。
「父さん!これって、まさか......!!」
「ああ、多分やつだ!」
カーン、カーン、と警報の鐘が鳴り響く。
「全部隊に告ぐ!
北門側敵後方に『リセントメントファラオ』を捕捉!!
もう一度告ぐ!
北門側敵後方に『リセントメントファラオ』を捕捉!!」
「なっ!?『リセントメントファラオ』だって!!?」
「嘘だろ......こんなんで死にたくねぇよぉ」
「気弱になってんじゃねぇ!『リセントメントファラオ』ならミスリルの二人が倒してくれる!俺たちは雑魚どもを一掃するぞ!!」
「なっ、でっでもよぅ!」
「お前等!泣き言言ってんじゃねぇ!!さっさと魔物共ブチ殺すぞ!!」
伝令の内容に絶望し心が折れてしまう一部の冒険者や衛兵達、気を保っている他の冒険者や衛兵が彼等を鼓舞する。
『リセントメントファラオ』。
不死の王シリーズの一角にして、数あるアンデッド系モンスターの中でも最高峰の強さを誇る自我を持つ伝説級のモンスターだ。
危険度ランクは実にSS。
全ての属性の魔法。光魔法でさえも自在に操り、自己再生能力は他の追随を許さない。
配下に操る低級アンデッドは強力な不死能力が付与され倒しきるのは難しい。
倒すには基本的にHPを完全に0にするしかない。
だが接近戦も生半可な力ではかすり傷さえ付けられず、遠距離戦も賢者職の中でも限られた者しか対抗できない、そんなモンスターだ。
「やはりか........クソッ」
「父さん、行けますか........?」
「やるしかねぇだろ..........」
ドマとエルザはリセントメントファラオの居る方向へと駆け出そうとする。
だが、
――――カーン、カーン、カーン
また警報の鐘が鳴る。
「東門が突破された!
アンデッドの統率個体に『エルダーリッチ』を確認!!
更に配下に『アンデッドナイト』を五体確認!
金ランク以上の冒険者は東門へと向かい、住民の救出及び対象の殲滅を開始せよ!!」
「んなっっ!?なんでそんな上位アンデッドばかりが!!?」
ドマはその伝令に足を止められる。
「くそっ、エルザ!さっさとエルダーリッチ共を倒してリセントメントファラオも殺るぞ!!」
「わかった!!」
二人はそう言葉を交わすと東門へと向かったのだった。
クロエを抱き抱えていたブランシュは伝令の伝えたことにぶるっと身体を震わせる。
遂にこの時が来たのだと。
タツキに言われたとおり、クロエは守りきる。
「ブランシュ様............?」
「大丈夫です、クロエ。クロエは私が守ります」
心配そうな顔で見上げてくるクロエを撫でるとキッと顔を引き締め戦う準備をする。
「ねぇ......やっぱり......クロエ、足手まとい..........?」
「大丈夫です。安心してください。タツキ様の名にかけて守り抜いて見せましょう」
ブランシュはクロエを抱き抱えると外へ出た。
既に街へと入ってきたアンデッド達が大量に徘徊しており、住民に襲いかかっている。
住民も逃げるだけでなく応戦するが、やはり冒険者達等の戦闘職と比べるとその戦い方は拙く、だんだんとやられていってしまう。
「はぁっっ!」
ブランシュ達に襲いかかってきたスケルトン三体をブランシュは一刀の元に切り捨てる。
「クロエ、絶対に離れないようについてきて下さい」
コクコクと頷くクロエ。
ブランシュはそれを確認すると、南の門へと進み始める。
北側には『リセントメントファラオ』。
東側には『エルダーリッチ』。
どちらもクロエを守るにはあまり良くない状況にある。
ならば今一番安全だと思われる南門へと行けば、とりあえずクロエは守れるだろう。
「カタカタカタカタカタカタカタ」
「アアアアアアアアアアアアア」
三匹のスケルトンと四匹のグールが行く手を塞ぐ。
「目覚めよ『バーパンシー』!!」
ブランシュは『倉庫』から取り出した召喚石を発動させる。
光が収まった後、現れたのは輝く紫色の髪の美少女。
だが、その姿は人のものではなく、背中からは半透明な二対の羽が生え、目には機械的な光を宿している。
召喚獣バーパンシー 魔力体
Lv.-
HP7000/7000
MP13000/13000
攻撃4000
防御4600
速度11000
魔術15000
能力:闇魔法 風魔法
闇魔法:あらゆる闇の魔法を使うことが出来る。ただし、その範囲は画力に依存する。
風魔法:あらゆる風の魔法を使うことが出来る。ただし、その範囲は画力に依存する。
「護衛して!」
『........了解した』
コクッ、と頷いて護衛につくバーパンシー。
『大嵐』
凄まじい風が吹き荒れ、行く手を塞いでいたアンデッドだけでなく、他のアンデッド達もズタズタに裂かれて倒れていく。
Bランク『エンシェントキングコルックス』の魔石で作り上げた召喚獣の力はあの『テュポーン』には一段届かないながらも凄まじい力を誇る。
「これならば、安全に南まで―――」
ドガァァァァァアアン!!
13メートル程先にあった建物が轟音と共に破壊される。
「ゴガアアアアアアアア!!!」
住民の頭をトマトでも握りつぶすかの様に掴んで潰しているアンデッドナイトが現れる。
アンデッドナイト。ランクはB+。
自我は持たないが強力な力を有するアンデッド系でも特異な存在。
ブランシュは再度身構える。
「とは......行きそうにもないですか。
クロエ、後ろに下がっていて下さい」
「.............ん」
カタカタと震えるクロエ。
ついこの前まで只の村娘だったのだから仕方のない話だろう。
「.........ブラン様.....死なないで....」
「大丈夫です。あの程度なら遅れはとりませんよ。
バーパンシー!遠距離で押しつぶします!!」
『..........了解』
ブランシュ達を視認すると剣を振り上げて襲いかかってくるアンデッドナイト。
『影縫い』
「ゴアアアアアア!??」
バーパンシーの影から何本もの線が伸び、アンデッドナイトを拘束し、地面に縫いつける。
アンデッドナイトは影の拘束を引きちぎり、再度攻撃を加えようと立ち上がるが、
「『断罪の柱』!」
「ガアアア.....ア.........ァァ...........」
地面から天に向けてつき立った光の柱にアンデッドナイトは浄化され灰になった。
「「「おおおおおおおおお!!」」」
戦いを見ていた住民たちが歓声を上げる。
「召喚師のおねえちゃんつええええええ!!」
「ありがとう!ありがとう!」
「うおおお!強ええええええ!!」
召喚師ではないのだが.........。
ブランシュは少し考え。
「ボケッとしてないで逃げて下さい!全員なんて守れませんよ!!」
「うっ、うおお......。そうだな、逃げるぞ皆!」
「召喚師のおえねちゃんありがとう!」
「皆!南か西の門の方なら大丈夫そうだぞ!」
住民達はお互いを励ましあって逃げていく。
パニックにならないだけ逞しい人々だ。
「私達も南まで逃げましょう。『バーパンシー』引き続き宜しく」
「ん.....逃げる.........」
『....了解.......消滅まで残り13分』
ブランシュ達は再び南へと走り始める。
住民達の方も気になって視線を送ると、薙刀を持った和服の女性達がアンデッド達を蹴散らしている。
『風鈴邸』の従業員達だ。
他にも板前姿の男性達が刀を振るって魔物を切りまくっている。
『風鈴邸』の警備体制はセ○ム並みだった。
「あちらは大丈夫そうですね........。クロエ、行きましょう」
そういってブランシュはクロエを抱き上げる。
走り始めるブランシュ。
これだけの速度だとアンデッド達はまずついて来れない。
彼女たちは進む先のアンデッド共を蹴散らしながら南門へと向かった。
入れ違いになるぐらいのタイミングでライオネル親子が到着する。
「避難はほぼ済んだみてぇだな」
「さっさと終わらせて敵の首魁を殺りましょう」
「おう、そうだな」
低級のアンデッドは既に到着していた冒険者達やブランシュ達がほぼ倒しきっている。
そんななかで残っているといえば。
「面倒な相手だな..........」
エルダーリッチを守るように立つ三体のアンデッドナイト。
その内の一体には鎧の胸の部分に赤く光る宝石の様な物が付けられている。
エルダーリッチ。危険度はS。
出現すれば確実に討伐隊が組まれるアンデッド系モンスター。魔法主戦型で、同じアンデッド系の魔物を率いて現れる自我を持つ魔物だ。
「エルダーリッチとアンデッドナイトの二重指揮官か。
どちらかがやられても片方残れば指揮を続けられる。面倒なやり方しやがって........」
対峙する四体と二人。
先に動いたのは四体からだった。
「「ゴアアアアアアッッ!!」」
二体のアンデッドナイトがドマに突っ込んでくる。
エルザの方にも指揮官クラスのアンデッドナイトが突撃し、剣を打ち合う。
「二対一か!熱くしてくれるじゃねぇか!」
「「ガアアアアアアアッッッ!!」」
二体のアンデッドナイトは一糸乱れぬ連携技を繰り出してくる。
対するドマは2メートルはあろうかという大剣を使い、最低限の動きで二体の攻撃を弾く。
重さを感じさせない程に自由に振るわれる大剣によって、逆に二体のアンデッドナイト達の方が追い詰められ始める。
「終わりだッッッ!!」
ドマが二体同時に真っ二つにしようとしたその時、
「『闇盾』」
二体の前に闇の壁が現れ、ドマの攻撃は弾かれる。
「てめぇ........」
「アッサリヤラレルト思イマシタカ?確カニ貴方ガタ達ニハ勝テナイデショウガセメテ時間稼ギグライニハナリタイノデスヨ」
「魔物のくせに........ずいぶん骨のあるやつじゃねぇか」
自軍を勝ちに導くために自ら犠牲になる事すら厭わない心の持ち主。
魔物であってもその強い精神にドマは感心する。
「だが、俺達も負けてらんねぇんだ。生き残るためにな」
「生キ残ルタメ?我々ハ全テ人類ノ未来ノ為二動イテイルノデス。ホラ!ゴ覧下サイ!魔族共ヲ皆殺シニスル為二進化シタ彼ラノ姿ヲ!!」
「なっ!??」
ドマは生き残った下級アンデッドがいじっていた町人の死体を見て息を飲んだ。
いや、既にそれは死体ではない。
ぶよぶよとした肉の塊。
異形の化け物。
その姿はあの『ラウプ』を彷彿とさせた。
「な.....何であの化け物が..........」
「化ケ物等デハ無イ!
我等ガ創造主ガ作リ出シタ新タナル人類ノ夜明ケ!!
人類ハ新人類ヘト進化シ再ビコノ世界ヲ統一スルノデス!!」
「訳.......わかんねぇぞ..........。お前等は邪神の手下なんじゃ........」
「邪神?アノ失敗作ノ事デスカ?マトモニ進化スル事モ出来ズ、挙ゲ句封印状態ノママニシカナレナカッタ出来損ナイ等我等ノ創造主サマノ足下ニモッッッ!?」
「なっ!?何だ!!??」
突然、エルダーリッチはショックを受けたような顔をすると杖を握りしめてわなわなと震え出す。
「アア!我等ガ創造主ガオ亡クナリ二ナラレタ!
我等ノ崇高ナル願イヲ欠片モ理解デキヌクズ共ガ!!」
「ははっ!タツキ達だ!コイツ等の首魁を殺ったみてぇだぞエルザ!!
俺達もさっさと終わらせるぞ!!」
「はいっ!父さん!此方は片付きましたので加勢します!!」
見ると決着が付いたのかエルザの前にはボロボロになって胸の宝石も光を失ったアンデッドナイトが倒れている。
自慢の娘だとドマは鼻を鳴らす。
「ダガ創造主様ノ思イハ我等ガ受ケ継イダ!全指揮権ヲ『リセントメントファラオ』ヘト移動!作戦ヲ再会スル!!」
「ったく、首魁がやられたなら止まってくれよな!!」
ドマとエルザに向けて再び二体のアンデッドナイトが飛び出す。
更に別行動をしていたアンデッドナイト一体が到着し、挟み撃ちの形で襲いかかってくる。
「おらぁ!はあっっ!!」
「ふっっ!」
ライオネル親子は二体のアンデッドナイトの連携技に対して同じく連携技にて反撃する。
ドマが二体の剣を弾き返し、隙が出た所をエルザが素早い動きで刺突する。
後ろから現れるもう一体に対してはエルザが魔法を使って剣を鈍らせじわじわと追いつめていく。
「今度こそ終わりだ!!」
「『闇盾』!!」
「『ブレイクスルー』!」
スキルによって破壊力を高めたドマの剣が闇の壁を粉砕し、二体のアンデッドナイトを切り倒す。
同時にもう一体とも決着が付いた様でエルザは動かなくなったそれを切り捨てる。
「もうお前を守るものは居ないぜ」
「フフフフ、マダデスヨ?マダ彼ガ残ッテイルデハアリマセンカ」
むくり、と彼とよばれたそれは起きあがる。
「う........ぽぁ.....あ..................」
肉塊と化した住民はエルダーリッチの前に盾になるように立ちはだかる。
「はぁ、一番めんどくさそうなのが残ってたか.......」
「流石にラウプ程じゃないでしょうが.......」
ミチミチと音を立てて右腕を剣の形に左腕を盾の形にする肉塊。
「ぽぁ......あ.......ああああああああ!!!」
奇声を上げて突進してくる肉塊。
「エルザ!正面戦闘は避けるぞ!!」
二人はその場から飛び上がって建物の上へと避難する。
ドッガアアァァァァァァァァァァ!!
先程まで二人の居た場所に深い溝が出来た。
凄まじい腕力。
だが、身体が上手くついてこないのか腕の付け根と足の付け根から血が噴き出している。
「ぷぁ.......あ.........ぽぇ............」
二人を見失った肉塊はきょろきょろと辺りを見回すが、視力がかなり低いらしく二人は見つけられない。
「『暗黒槍雨』!!」
エルダーリッチの放った何本もの闇の槍がドマへと飛んでいく。
ドマはそれを大剣で弾きながらなんとか避けるとエルダーリッチへと飛びかかった、その時、
「ぷああああああああああ!!!!」
呼ばれるように肉塊がエルダーリッチの方へと駆け出し、同時にドマを発見して斬りかかる。
が、更にエルダーリッチに向けて飛び出したエルザが肉塊に気づかれる前に攻撃を行った!
「『極炎』!」
エルザが得意とする火魔法の上級魔法『極炎』。
アンデッド系に光魔法の次によく効く火魔法はエルダーリッチの骨の身体を完全に焼き尽くし、灰へと変えた。
「ぷぁ......あああああああああ!!」
とたんにドマへと斬りかかろうとしていた肉塊は発狂し始める。
「へっ???なんだ........こりゃあ.......」
みるみるうちに肉塊はどろどろと崩れ、ぷすぷすと音を立てて悪臭を放つだけの腐った肉になった。
「多分.......制御者を失ったからじゃないか?」
「お、おう......多分そうだな.........」
凄まじい悪臭に鼻をつまむ二人。
東門のアンデッドを殲滅しきった二人は『リセントメントファラオ』を倒すべく、北側の門へと走り出した。
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