それぞれの戦い
みじかめ
『ヤナギ』の街は混乱に陥っていた。
飛び交う怒号に子供の泣く声。
大暴走の調査に行った冒険者達はまだ半数しか戻ってきていない。
幸い、国からの調査隊が街に残っていたため、街の衛兵達とも力を合わせて今までなんとか街を守り切っている。
「魔導師部隊よーーい!!!!撃てーーーッッ!」
「「「「「『火弾』!!」」」」」
「「「「「『水弾』!!」」」」」
防壁の上に居る魔導師達から攻撃魔法が雨のように放たれる。
「ピギャアアァァァァァッッッッ!!」
「ブゴッ!ブゴオオオオオオオ!!」
放たれた魔法はゴブリンやオーク、ブラウンウルフ等の群れに当たり、次々に死体へと変えていく。
その周り、モンスターの薄い所の門めがけて走る影があった。
「『水刃』!」
「ゴッ、ガグゲァァァァァァァァァ!!」
範囲攻撃として放たれた水の刃がゴブリンの群れを切り裂く。
タミルは全力で走り続ける。
「フラウさん!南門の方から人影が近付いてきてます!」
「誰だ!むっ!?あれはタミルか!?」
ゴブリンの群れに穴を空けて強行突破するタミル。
当たり前だが無傷というわけにはいかず、ゴブリンから放たれた投石や、ゴブリンメイジの撃つ火の魔法が近くをかすめていき彼はだんだんと弱っていく。
(まだだ!俺はまだ死ぬわけにはいかない!!)
ボロボロの身体に喝を入れて走り続けるタミル。
「彼を入れる!衛兵は通用口を開ける準備をしておけ!!」
「了解です!ギルドマスター!」
タミルを街へと入れるべく、防壁の上に居る魔導師達から門の周りに居る魔物に向けて沢山の魔法が放たれる。
「うおおおおおおおおおおおお!!」
叫びながら走るタミル。
全身からは血が噴き出し、いつ倒れてもおかしくない状態だった。
だが、彼はそんな痛みも、失った血も忘れているかの様に一心不乱に走り続ける。
「おい!お前こっちだ、来い!!」
一人の衛兵が通用口の扉を開いてタミルを引き入れる。
タミルの決死の突破はここに成ったのだった。
タツキとミラはダンジョンの25層まで来ていた。
20層まではたいして強い魔物は出て来なかったのだが、21層から一気に強い魔物が出て来るようになった。
『リッチ』や『イビルプリースト』果てには『ドラゴンゾンビ』まで出てくる。
リッチ:自我を持ったアンデッド系モンスター。強力な魔法を使い、討伐隊を組まれることもある。危険度ランクはS-。
イビルプリースト:強力な魔法を使うアンデッド系モンスター。高名な神官等が死後に呪いを受けて発生するとも言われている。危険度ランクはB。
ドラゴンゾンビ:強力な竜種がゾンビ化したもの。発生すれば確実に討伐隊を組まれる。核となる魔石はあらゆる魔物の中でも最高の品質を誇る。危険度ランクはS。
20層までは最高でも危険度ランクCの『屍鬼』までしか出てこなかったのにいきなりこの難易度はおかしすぎる。
ここまで最初に来たのが俺達で無ければ大量の死人が出ていただろう。
「......タツキ」
「何だ?ミラ」
「嫌な感じがする。封印されてた時に感じてたような感覚」
「...........まさか」
ミラが嫌な感じがすると言った方向に向けて二人は歩き出す。
そこで二人は黒幕の正体を知ることになるのだった。
「な、なんだこりゃあ.........」
思わず口からそんな言葉がこぼれてしまう。
ドマとエルザは彼の言っていた事を思い出していた。
『大暴走の兆候に邪神が関係してるかもしれない』
馬鹿らしい考えだと最初は思っていた。
だが、この光景を見せられるともう、そうとしか思えない。
「タイミングが良すぎる」
防壁に群がる魔物の群れを見てドマがこぼす。
「タミルの奴が大丈夫か心配だ。エルザ、街の奴らの負担を減らすぞ!」
「はい!魔物共をぶっ飛ばしてやりましょう!!」
二人はそう言うと魔物の群れが特に多いところに突っ込んでいく。
「『限界突破』!!『空斬』!!」
「『スターブラスライザー』!!」
人外の領域に居る二人の攻撃で魔物の群れに大きな穴が空く。
「なっ、何だあの二人!?すげぇつえぇぞ!」
「ミスリルのライオネル親子だ!助かった!助かったぞ!」
「おらぁ!お前等ボケッとしてねぇで魔物共を倒しまくれ!さっさと終わらせるぞ!」
二人の参戦で戦況は大きく動いた。
だが、この大暴走は始まったばかり。
本番はこれから始まるのだった。




