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大暴走

 街へと走るタミルは信じられないものを見ていた。


「な.....なんでもう大暴走(スタンピード)が!?」


 『ヤナギ』の街の城壁に群がる魔物達。


 早すぎる。

 いくらなんでもこのタイミングは良すぎた。


 邪神の復活。

 同時に起きた大暴走。


 この二つが関連していないと考える方が難しい。


 「くそっ!」


 銀級冒険者であるタミルにあの魔物の群れを抜けて町の中へ入ることはほぼ不可能だ。

 街も魔物の群れを中に入れないために門は完全に閉め切っている。


 と、その時


「きゃあああっっ!」


 タミルが今居る場所から街道の方へ行った方向から女の人の叫び声が聞こえた。

 タミルにとっては聞き覚えのある声。


「ユリフィア!?」


 何故彼女がこんな所に!??とは思いながらもその方向へ全力で駆ける。


 街道の真ん中、ユリフィアがおそらくは大暴走の群れからはぐれたと思われるゴブリン5匹を相手に立っていた。

 馬は既に殺されてしまっている。


「ユリ!『水弾』×10!」


 10発の水の弾丸がユリフィアに襲いかかろうとしていたゴブリン達を撃ち抜く。


「!タミル!!」


 彼女は窮地に助けにきてくれたタミルに抱きつく。


「なんでユリがこんな所に居るんだ!大暴走のことは聞いてないのか!?危ないだろ!」

「聞いたから急いで来たのよ!」


 タミルは彼女の言っていることが理解できず、彼女を抱きしめながらも首を傾げる。


「タミル、今すぐ私と村に戻ってきて」


 ユリフィアはタミルの目をまっすぐと見つめそう言う。


 いつもの彼ならばここですぐに彼女の言うとおりにして村に帰っただろう。

 だが、彼にはやらなければならない使命がある。

 四人は自分を連絡に送り出すためにあの場に残ったのだ。

 その思いを裏切るわけにはいかない。


「悪い、まだやらなきゃいけないことが残ってるんだ。だから俺が戻るまで村で待っててくれないか?」


 ユリフィアはその言葉に一瞬ショックを受けるが、彼の顔を見て思い直す。


 タミルは男の顔になっていた。

 村を出て行ったとき。あの時はまだこんな顔はしていなかった。


 大切なものを守るために戦う男の顔。

 彼女に彼を止める理由なんてなかった。


「わかったよ........村で待ってるから。必ず帰ってきて」

「ああ、絶対に帰ってくる」

「..........タミル....!」

「!?」


 離れようとしたタミルの顔に彼女は顔を近づけると、その唇に自らの唇をあわせる。


「ふっ....ん....むちゅっ.........んむぅ.........」


 突然の事に驚いたタミルだが、すぐに彼女の想いに応えるように彼女の舌に自分の舌を絡める。

 ユリフィアの熱い吐息が彼に直に伝わる。


 しばらくすると二人は顔を離した。


「タミル、死んだら許さないから」

「死なないように頑張るよ。愛してるユリフィア」


 街へ向かって駆け出すタミル。

 彼女は突然彼に掛けられた愛の言葉の訳を聞こうとしたが遅かった。


 タミルは死を覚悟した。

 でも、それでも彼は止まらない。

 本当に守るべきものを彼はもう見つけたから.........。










 新しい迷宮の第8層にて。


「こっ、こふっ................」

「お父さん!?」


 死んだと思っていたドマが息を吹き返した。

 どうやら想像を絶する痛みによるショックで気絶していたらしい。


「!タツキ、タツキの回復魔法なら治せるよね!?」

「えっ、あ!ああ、やってみるよ」


 ミラに言われてタツキはなんとか気を持ち直した。

 そうして彼の背中に手を翳すと聖力の『ヒール』を発動する。


「ぐっ.....が、ああぁ..........」


 ミチミチと彼の身体の中から肉が再生する音がして、炭化した背中の肉がボロボロと落ちる。


「こっ、これは...........」

「ここで見たものは他言無用だ。頼む」


 ありえない回復力の『ヒール』にエルザは驚きの声を漏らす。


「うぁ........はぁ、はぁ」


 ドマは回復が終わって調子を取り戻した。


「......すまないな。タツキ、感謝する」


 ドマはタツキに向かって礼をする。


「全く.....歯が立たなかった。俺は強い奴がいるといつも楽しかったんだ。でも、アイツには恐怖と憎悪しか感じなかった...........!」

「父さん..........」


 ドマは悔しそうな顔をして、拳を床に叩きつける。

 ドマはこれでも世界有数の実力者だ。

 そのドマがあっさりとやられてしまったのだから、邪神との戦いがいかに厳しいか思い知らされた。

 しかもその邪神が封印状態だったのだから尚更だ。


「ごめんなさい父さん........私が、もっと強ければ」

「お前が謝ることじゃねぇ。.........ああいうときは子供は黙って親に守られてろ」

「うっ、うぐっうううぅぅぅ」

「ああもう泣くな!みっともない。結局助かったんだから充分だろ!

 ああ、そういえばあの邪神はどうなったんだ?タツキ」


 ドマは嫌な未来を想像したのか顔を歪めてそう聞いてきた。

 だけど安心して欲しい。

 大丈夫だ。


「殺した」

「..............は?」

「アレは殺した。大丈夫だ」

「は..........?」


 訳が分からないとポカンとした顔をするドマ。


「この回復魔法もだけどよぉ.......。お前一体何者なんだ?」

「自分が何なのかはまだハッキリしてないんだ。

 それとここで見たことは他言無用で頼む」

「まあ、それぐらいは良いけどな。そんな力知られたくないのも納得だぜ」


 ドマが復活してからミラは暇なのか、後ろから俺に抱きついてすりすりしている。

 と、ここでミラが口を開いた。


「とりあえず目先の問題は解決したけどこれからどうするの?」

「うーん、とりあえず二つ気になることがある」


 指を二本立てて全員に見せる。


「まず、一つ目。あの邪神を復活させた何かがここの何処かにあるはずだからそれを探したい」

「まあ、それについては俺も気になるな。あんなのにポンポンでてこられちまったら人類はあっという間に滅亡しちまう」


 ドマとエルザもそれは気になると首を縦に振る。


「そしてもう一つ。最近の大暴走の兆候に邪神が関係していたんじゃないかっていう予想だ」

「そりゃあちょっとぶっ飛び過ぎてねぇか?

 いくら何でも時期が近いってだけで共通点が見つからねぇ」

「確かに言うとおりだけど、兆候が見え始めたのは確かこのダンジョンが出来てからだって聞いてたぞ?

 理由は色々考えられるけど、完全に邪神と無関係とも言い難いと俺は思う」


 ドマはそれを聞いて考え込む。


「わかった。なら俺たちは街へ戻って確認を取ろう。邪神が弱っていて倒し切れたことも伝えてくる。それに俺達よりもお前等の方が強そうだからな」

「ありがとう、ドマ。俺達もすぐに調査を終わらせて戻ってくる」

「おう、絶対に生きて帰ってこいよ?」


 そう言うとドマは拳を差し出した。

 俺もそれにならって拳を前に出す。


「勿論だ。必ず戻る」


 拳を合わせる二人。

 男と男の約束は拘束力こそ無いがどんな契約よりも重いのだ。

 ならばこの約束は必ず果たされる事だろう。


「またな、ドマ」

「おう、またな、タツキ」


 そうして二人ずつに分かれると、ダンジョンの奥へ向かうタツキ達と外へ向かうドマ達。


 そして四人はこれから信じられないものを見ることになるのだった。

ストーリーぃぃ...........。

溶けそう。脳味噌が溶けそう。


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