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恋愛描写は難しい(相変わらず苦手)。
『ねえ、どうして貴方は勇者なの?』
少女は隣に立つ少年にそう聞く。
『さぁ、どうしてだろう?それに勇者って言っても僕だけじゃないしね』
少年は前を向いたままそう答える。
月明かりに彼の横顔が照らされている。
『貴方はどうして人を助けるの?』
少女は訳が分からないという風に彼に聞く。
『貴方にとっては全く関係ない世界の人達でしょ?どうしてそこまで一生懸命になれるの?』
『これでも助ける人間は選んでいるつもりなんだけどね。この場に僕がいる時点でもう関係ない人じゃなくなっちゃったし。
それでも全部は守れないさ』
自嘲する様な調子で苦笑しながら彼は答えた。
彼を見つめる少女の頬はほんのりと赤く染まっている。
『優しいんだね........。貴方は............』
『別に..........僕は優しくなんてないよ。むしろどんな人間よりも薄情で冷血だ。
だから僕はそう見えないように。外見だけでも優しく見えるように振る舞ってるだけ。
だから............僕には、もう........近付かないでくれ.........。
僕は君の側に居ていいような男じゃないんだ........』
彼はそう言うと静かにその場を離れようとした、だが――――
『嘘、優しくなんかなかったら貴方はこんなことしない。
だから逃げないで。私は貴方が何処に行こうともついて行くから................』
背中から、彼女は彼に手を回して抱きつく。
彼は振り払うこともできず、難しい顔をして立ち止まる。
『僕に、そんな権利は無い。第一君が僕を好きになる理由がない』
『ねぇ、私さ女の子の勇者と話してて聞いたんだけどね。ニホンでは好きになるのに理由なんて要らないんでしょ?それに貴方には無かったとしても私には貴方を愛する権利があるよ?そうでしょ?』
『ぐっ............』
少年はまた難しい顔をして黙り込んでしまう。
少女は抱きついて離れようとしない。
そして、二人の間に静寂が訪れた――――
―――――――――――――――――――――――――――
起きるにはまだ早い。
時刻は午前4時。
目を覚ました女神ミラナディアは身体に暖かいものを感じた。
彼女はタツキの腕を抱き抱えて寝ていたのだ。
少し顔を上げると彼の寝顔が見える。
「ふふっ.......可愛い...........」
ミラはまだ眠っているタツキの頬に手を当てるといとおしそうに撫でる。
ずっと好きだった。
ずっと愛していた最愛の少年。
封印から解放されたとき。
彼の顔が目の前にあって本当に嬉しかった。
『僕の王子様はやっぱり助けに来てくれた』
彼が僕の想いを受け入れてくれた時はもう死んでも良いと思ったぐらいだ。
女神ミラナディア―――― いや、ただのミラは、日向達樹を愛している。
どんなことがあろうとも。
この世の誰よりも、深く、深く――――
「もう、何処にも行かないでね―――」
彼女は彼の身体にきゅっとくっつくと再び眠りにつくのだった。
ゆっくりと意識が覚醒していく。
時刻は7時11分。
タツキは身体に触る柔らかいものを感じながら目を覚ました。
「あぁ.........ミラか................」
隣に布団を敷いて寝ていた筈だが、いつの間にか此方の布団に入ってきていたらしい。
「おい、ミラ朝だぞ、起きろ」
ミラの身体をゆさゆさと揺すって起こす。
「んぁ......タツキ?」
「ああ、朝だから起きるぞ」
「タツキ..............好き........」
「起きたばっかりでそれか...........」
彼女の台詞に少し呆れるが、それもまた愛おしい。
不思議と彼女とはずっと共にいたような感覚になる。
(はあ、とんだ惚気話しだよな。)
そうして彼は布団をたたみにかかった。
他の二人も起き始めている。
「ふあぁ~、............タツキ様お早う御座います」
「ん.............お.....きた..............」
起きたばかりなのにキリッとしているブランシュ。
寝癖でぼさぼさになっており、まだ眠そうなクロエ。
皆、俺の大切な家族だ。
「さ、皆顔洗ったりしたら御飯に行こうか」
パンパンと手を叩いて、朝の準備を促す。
今日も一日が始まった。
宿のお食事処に行くと他の宿泊客も既に集まっており、賑わいを見せていた。
「タツキ・ヒュウガ様御一行ですね?お座敷へ案内させて頂きます。」
今日も和服の大和撫子然とした魔人族の女性が案内をしてくれる。
サービスが事細かで、メッケに教えてもらって本当に良かった。
流石に他の宿と比べると割高の様だがそれに見合っただけの、いやそれ以上に快適だ。
案内された座敷に座って待っていると、朝食が運ばれてくる。
今日の朝食のお品書きは『白ご飯(おかわり自由)』、『根菜とお豆腐のお味噌汁』、『白身魚の焼き物』、『東陣漬け』の四品だ。
全員で「いただきます」と言うと食べ始める。
ヒガシツノツキダラはこの『ツバキ王国』周辺の海で獲れる白身魚だ。スケトウダラの額に雄々しいイッカクの様な角がついた魚だ。
油の少ないあっさりとした旨味が口いっぱいに広がる。
『東陣漬け』は1000年前の大戦時に、長持ちして美味しいをコンセプトに考案された漬け物だ。
赤かったり青かったりするキュウリの様な野菜がよくわからない何か(多分日本でいう麹とか味噌とかの類)に漬けられているものだ。
白ご飯によく合って美味しい。
「ん......おぃし...........」
黒猫の獣人であるクロエは、やはり魚が好物のようで幸せそうに焼き魚を頬張っている。
「はぁ......あったまる...........」
ミラとブランシュは暖かい味噌汁にほっこりとしている。
この宿では旅館らしく食事も和風だ。
和食が何故あるのかというとこれも1000年前の勇者の一人のおかげだったりする。
勇者様々だな。
「タツキ、今日はどうするの?」
ご飯を食べながらミラが話しかけてくる。
「そうだなぁ、とりあえずギルドまで行って情報収集してからまた『新月の迷宮』かな」
「情報収集というと新しいダンジョンで起きたことについてかな?」
「まあそんな所だな」
ふーん、とミラは色々と考えるような仕草をする。
「ギルドに行くってのに嫌な予感がするのは僕だけかな?」
ミラはそう呟いた。
「はぁ、今度はなんでしょうか?」
今、俺たちはギルドマスターの部屋に来ている。
ミラの嫌な予感とやらが当たった訳だ。
「なんか俺達毎日のようにココ呼ばれてません?」
「まあ君達は話題に事欠かないからねぇ。
今日の話はね、『新しいダンジョン』についてなんだよ」
ギルドマスターのフラウは真面目な顔をして話し始める。
普段のヘラヘラとした態度が嘘のようだ。
「『新しいダンジョン』へと調査に入っていた国の調査隊の1グループが行方不明になった。
国のだから1グループでも冒険者パーティの金ランクに限りなく近い銀くらいの実力は最低でもあったはずなんだ。
それが行方不明になったからその調査を君達に頼みたいわけだ」
面倒事を押しつけられるのは嫌だぞ?
「俺たちじゃなくても良くないですか?他にも強い冒険者はいくらでも居るでしょう?」
「ギルドから派遣された金ランク以上の冒険者達なんだけどねぇ。
彼等には魔物の大暴走の兆候の調査と街の防衛について貰うことになったんだ。
そこで手の空いている実力者といえば、ということでの君だよ。」
「俺は貴方の思ってるような実力者じゃないかもしれませんよ?
ずいぶんと買ってくれてるんですね。
まあまだやる気にはなれないですけど。」
この男は一体どこまで鋭いんだ?
たとえ鑑定持ちでもステータスは腕輪の能力であたりさわりないものになっているはずだ。
「それに危険な場所にわざわざ彼女達を巻き込んでまで行きたくないです。」
「それについては安心してよ。
あくまで君達は保険として行ってもらうだけだからね。
ミスリル級冒険者が二人残ってくれてるから彼等と行って欲しいんだ。
危ないと思ったらすぐに逃げて良い」
彼がそう言うと、後ろのドアが開いて二人の人族の冒険者が入ってきた。
一人は40代くらいの筋肉質な体のおっさんだ。鈍い金色の髪は短く切りそろえられ、背中には大剣を背負っている。
そしてもう一人は20代くらいの女騎士といった格好だ。明るい金髪のロングヘアーで勝ち気そうなツリ目、腰にはレイピアを下げている。
「今入ってきた二人が例のミスリル級冒険者だよ。自己紹介よろしくね」
フラウがそう言うとまずおっさんの方が答える、
「ドマ・ライオネル。ミスリル級冒険者をやってる。天職は『重戦士』だ」
次に女騎士が、
「同じくミスリル級冒険者をやらせて貰っているエルザ・ライオネルだ。天職は『騎士』で親子で冒険者をしている」
ドマとエルザは親子だそうだ。
流れで俺も自己紹介する。
「銅ランク冒険者のタツキ・ヒュウガだ。天職は『軽業師』」
そう言ったら二人におどろいた顔をされた。
「今、君『軽業師』って言わなかったか?!」
「ええ、そう言いましたけど何か?」
「フラウ、説明してくれ。本当にこいつは強いのか?」
フラウが俺がやってきたことを彼に伝える。
登録したばかりで銀ランク冒険者を瞬殺。
100を越えるゴブリンの群れを単騎で倒しきる。
『大津波』を使うことが出来る。等々だ。
「そりゃマジかよ.......。お前さんも知ってるだろ?軽業師っていやぁステータスが低いことで有名なんだよ。まぁスキルは殆ど全てにおいてあがりやすいって言うけどなぁ」
「そうなのか、知らなかった。」
本当に知らなかった。
軽業師ってハズレ天職なんだな。
だから勇者なのにステータスが異様に低かったのか.............。
なんだか思い出したらムカついてきたぞ。
「ギルドマスター、案内人はまだ来ていないのか?」
「多分もうすぐくるよ」
案内人?何処かを目指して行くのか?
「フラウさん。一体ダンジョンのなかで何があったんですか?そろそろ教えてくれてもいいと思うんですが」
声に自分でも抑えきれないイライラが貯まり始める。
「うひぃ、怖いねぇ。
睨まなくたってしゃべるよ。
ダンジョンにかなり危険だと思われる魔物が出現したんだよ。
それで、その様子を見に行って貰おうってことさ」
そうフラウが言うとまた後ろのドアが開かれた。
入ってきたのは20代くらいの魔人族の男だ。
茶色の髪の毛で生真面目そうな顔つき頭からは二本の角が生えている。
唇を噛みしめて苦しそうな顔をしている。
だが、その男はタツキ達の姿を見ると―――
「先日は仲間達がすまないことをした!!!」
床に頭を打ち付けるぐらいの勢いで彼は土下座した。
「あいつ等のしてきたことは許されることでは無いことはわかっている。
厚かましいだろうがこうせずにはいられないんだ。俺に謝らせてくれ!!!」
「ちょっ!!?おまっ、誰だよ??!!謝られても意味わかんないぞ!!???」
ひたすらに土下座し続ける見知らぬ男。
そこで、フラウが彼について紹介する。
「以前、君が瞬殺した冒険者がいただろ?ほら、大人数で絡んできた柄の悪そうな奴等だよ。
彼はあのパーティの副リーダーでタミルっていう銀級冒険者なんだ。
彼等を上手く御することが出来なかったから責任を感じてるってところかな?」
「こいつが謝る意味がわからん..........。
やった奴等に謝らせればいいだろう」
するとタミルが顔を上げた。
その顔は悔しさと罪悪感で歪んでいる。
「アイツ等は今療養中のガンタを除いて全滅した。もうこの世には居ないんだ。
だから今動ける俺に謝らせてくれ。」
「さっきの『危険な魔物』って奴か..........」
タミルは顔を歪ませたままゆっくりと頷く。
「危険なことに巻き込んでしまってすまない。
だがお前達ぐらいしか行けそうなのが居ないんだ。
どうか頼まれてくれないか!!!」
タミルは再び土下座の姿勢になる。
困った俺はミラ達に視線を向けた。
「僕は.......調べに行った方がいいと思う。でもクロエちゃんはまだあまり強くないから連れて行きたくない。」
「私も同意見ですね」
「クロエ............足手まとい.............?」
悲しそうな顔をして俯いたクロエの頭をわしゃわしゃと撫でる。
「足手まといなんかじゃないよ。クロエはいい子だから皆心配してるんだ」
「...............本当?」
「ああ、本当だ」
少しかがんでクロエの小さな頬に手を当てると優しく撫でる。
クロエは少し恥ずかしそうにした後、その手を両手できゅっと握った。
「ブランシュ、クロエの事を任されてくれるか?」
「言われなくとも、クロエちゃんは絶対に守りきります」
そう言うとブランシュはクロエを安心させるように後ろから彼女を抱きしめる。
「ミラ、一緒に行ってくれるな?」
「もちろんだよ。僕が君の側を離れるわけが無いでしょ?」
ミラはそう言うと顔を引き締める。
「そういうことだ。俺達も行くことに決まった。」
「ありがとう..........感謝する」
タミルは立ち上がるともう一度深々と礼をする。
「話はまとまったみてぇだな。そういうことならさっさと行こうぜ」
「宜しく頼むぞ、タツキ殿。」
三人と握手をすると、全員は部屋を出ていく。
ギルドマスターにブランシュとクロエは街の門まで見送りに来た。
「今回の調査は例のゴブリンの大量発生の件ともしかしたら関係が有るかもしれないからね。
宜しくたのむよ。」
「言われなくともそのつもりだ。フラウ、俺を見くびるんじゃねぇぞ?」
「全く、父さんはいつも調子に乗る。調査系の依頼は苦手なんじゃなかったのか?」
「うぐっ!!そっ、それはそれだ。とにかくやるぞ!!!!」
ブランシュが此方を向く。
「タツキ様ですから大丈夫だとは思いますが、万が一という事もあります。気をつけて、絶対に生きて帰ってきて下さい」
「もちろんだ。ブランシュは気を張りすぎないようにな。安心して帰るのを待っててくれ」
ブランシュ達と別れて門を出ると、『新しいダンジョン』へと向かう。
街を出た街道には、不穏な空気が漂っていた............。




