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召喚獣テュポーン

 『新月の迷宮』。

 数百年前からヤナギ近郊に存在する古いダンジョンだ。

 しかし、今だにいくつもの隠しエリアが存在すると言われており、探索に来る冒険者は多い。


 出現する魔物は主に獣タイプのものだ。

 1層~5層まで、主に出現するのはFランクの『ホーンラビット』やEランクの『豆狸』、同じくEランクの『ブラウンウルフ』だ。

 それぞれの説明はこんな感じになる。



ホーンラビット:Fランクモンスター。頭に一本角の生えた白い毛のウサギ。

主に突進しての角による刺突をしてくる。

基本的に直線的にしか動けないので討伐は楽。

肉が上手い。毛皮もそれなりの金になる。



豆狸:Eランクモンスター。見た目は丸っこい狸。変化の魔法で姿を変えて戦う。

基本的におとなしく、襲ってくることは無い。

稀に人間についてくる個体もあり、テイマーの職業ではない者が『テイム』のスキルを手に入れることがある。


ブラウンウルフ:Eランクモンスター。非常に好戦的な茶色の毛皮を持つ狼。

仲間との連携で格上の敵にも襲いかかる。

取れる毛皮は、防寒着や新人冒険者向けの皮鎧等に加工される。



 ここまでは初心者向けの危険の少ないダンジョンだ。


 更に6層~10層にかけてはEランクの『ヒュージラット』、Dランクの『エルダーブラウンウルフ』、同じくDランクの『コルックス』等が出現する様になり、一人前の冒険者達が集まる階層になる。


ヒュージラット:Eランクモンスター。全長60センチの大ネズミ。

噛みつき攻撃に注意。肉はそこそこの美味しさ。冒険者達の非常食として干し肉にされる。


エルダーブラウンウルフ:Dランクモンスター。ブラウンウルフの上位個体。

基本的に一匹だが、稀にブラウンウルフの群れを統率している場合がありその場合は危険度はC-になる。

毛皮は防具屋に重宝される。


コルックス:Dランクモンスター。大きな二足歩行の鳥。空を飛ぶことは出来ない。

テイムしやすい魔物として有名で、家畜として飼われていることも多い。

肉は美味しい。



 『コルックス』。

 あのトリ野郎の下位個体だ。

 こいつもピヨピヨ鳴くんだろうか?


 これより下はまた後でにしよう。

 現在このダンジョンは最下層が30階と確認されており、そこにあるボス部屋でボスドロップを目指す冒険者も多い。


 今、俺たちはその第8層まで来ていた。


「またネズミだ!ネズミ多すぎない!!??」

「こんなにネズミだらけだとあの夢の国を思い出すな」

「夢の国??」


 夢の国、『ネズミ帝国』と呼ばれる遊園地だ。

 家からは割と近かったからリュウガ達と行ったこともよくある。

 『ハハッ!!君も帝国軍に入隊しないかい!!?』というキャッチフレーズ?はあまりにも有名である。

 懐かしいな。


 そんな事を考えている内にどんどん消し炭になって魔石だけ残して死んでいくネズミ達。

 ブランシュが無言で光魔法で屠りつづけているのだ。

 流れるように現れては、流れるように死んでいくネズミ達に諸行無常を感じる。


「とりあえず.......魔石は収集しとこうか.........」


「そうだね、ブランちゃんがなんか怖いしそっちはお任せしとこうか」


「ん.......クロエも......拾う..........」


 ネズミはブランシュに任せて俺たちは魔石を拾うことだけに専念する。

 30体ほど倒し終えた所でネズミはいなくなり、ブランシュも戻ってきた。


「流石だね、ブランシュ。お陰でこっちは楽だったよ」


「ふふふ、撫でて下さい。タツキ様」


 言われたとおりにもふもふ撫でる。

 嬉しそうに顔を緩ませるブランシュに俺の頬も緩んでしまう。


「むー。タツキ鼻の下のびてる!」


「うえっ!?ほんとに!!???」


 ミラがふくれる。

 恥ずかしくなって口元を手で隠すと、


「むふふふ。タツキひっかかった!!!僕がブランちゃんとイチャイチャするのを許さないとでも思ったのかな??まあちょっとは寂しいけど僕はブランちゃんならOKだよ!!」


 はぁ、とため息をつく。

 でも「寂しい」と言ったのは聞き逃さなかったので不意をついてミラを抱きしめた。

 ちょっとしたいたずら心だ。


「ちょっ!!!?タツキ??!!い、いきなりなんてボ、僕!!うううーー///」


「からかった仕返しだミラ。恥ずかしかったか?」


 顔を真っ赤にしてあたふたするミラも可愛い。

 ミラをそのまま撫で撫でしていたらクロエが近づいてきた。


「ん、ご主人」


「なんだ?クロエ」


「ご主人とミラ様........男女の仲............??」


「どこでそんな言葉覚えたんですか!!??ミラか?それともブランシュか!!??」


「ん、ご主人.......クロエ......14歳。それぐらい......知ってる..............」


 クロエはロリロリしているけれど14歳でもう結婚出来る年齢なのだ。

 この世界での成人は15歳。

 結婚できるようになるのは男が15歳で女が13歳からだ。

 だからクロエは見た目以外なら立派な大人だと言っても良い。


「そうだな......そうだったな..........」


「ご主人...........クロエは........子供..........?」


 遠い目をしている俺にクロエは残念そうな様子でそう言う。


「クロエちゃんは.......きっとまだこれから成長しますよ!!がんばりましょう!!!」


「ん、ミラ様.....がんばる..........」


 そう言って、二人はぐっと拳を合わせる。 


「タツキ様、もう少し下に降りてみませんか?」


「そうだな、ここも充分探索したしもうちょい降りてみようか」


 そうして四人は12層まで降りてきた。

 11層からは基本的にDランクの魔物が中心になって出現する。

 偶にCランクモンスターも現れ、ごくごく稀にBランクモンスターも現れるようになり、冒険者は相応の備えをしてここまで来るようになる。


「タツキ様。魔物です」


「少し俺にやらせてくれないか?」


 出てきたのはDランクの『エルダーブラウンウルフ』と、Eランクの『ブラウンウルフ』の群れだ。


「量が多いからな。召喚術を試してみようと思う」


「召喚術かぁ、そういえばまだ使ってなかったね」


「ニコラスにもああ言われたし、目立つことは避けたいんだ。それに丁度ここは人が少ない」


「ふーん。まぁ僕はタツキが格好良ければそれで良いけどね!!」


「格好いいって........俺には難しいなーー。格好いいのは召喚獣だけだわ」


 そうこうしている内に、狼達は敵意を露わにして襲いかかってくる。


「「「グルアアァァァァァァ!!!!!」」」


 俺はアイテムボックスから召喚石を一つ取り出す。


「ぶっ飛ばせ!!!『テュポーン』!!!!!」


 カッ!!!!とまばゆい光が召喚石から放たれると石は砕け散った。

 と、同時に広いダンジョンの中に巨大なクジラのような姿のドラゴンが出現する。


『グオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!』


 凄まじい咆哮がドラゴンの口から放たれ、狼達はダンジョンの壁に吹き飛ばされ激突する。


『オオオオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!』

「テュポーン先生すげえええええええ!!!!!!!!!」

「タツキぃ!!エンジョイし過ぎぃぃぃぃぃぃ!!!!!!!」


 テンションのあがる俺とあわあわしているミラ。


『グルアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!』


 そのまま召喚獣テュポーンは巨大な手で狼達を握り潰し始める。

 飛び散る肉片!!!!!噴き出す鮮血!!!!!

 スプラッターな光景が目の前に広がる。

 ものの数秒でテュポーンは狼達を全滅させた。


「『召喚解除』!!!」


 役目を終えたテュポーンは霧の様になって消えていった。


「まさか、ここまで凄まじいとは思わなかったよ」


 ミラが本当に驚いたと言ってくる。


「そりゃあテュポーンにはAランクモンスター『ギガントウィービル』の魔石を使ったからな。特殊能力も身体強化に枠を使い切ったから強いに決まってる」


「なぜそんな貴重な物を実験に.......。はぁ、タツキはほんと規格外だねぇ。いや、もう馬鹿と言うべきか.........」


「ん、ご主人.......凄い...........」


「私のご主人(マスター)で未来の旦那様であるタツキ様が中途半端な物をつくるはずがありませんから!!!」


 遠い目をしているミラとキラキラと目を輝かせるクロエ、そして自分の事のように喜ぶブランシュ。

 喜んでくれるのは良いけど、いちいちべた褒めされて気恥ずかしい。誉められなれてないんだ。

 やめて!恥ずかしすぎて死んじゃう!

 それとなんかすごくアホっぽい!


 まあそれはともかく実験が上手くいって良かった。

 これだけ強ければどんな戦いでも大きな戦力になるのは間違いないだろう。

 発動時の消費魔力もほとんど無いに等しかったし、この術を教えてくれたニコラスには感謝だ。


 ニコラス.........元気にしてるかな?

 リュウガ達には会っただろうか?

 精霊郷にも興味がある。

 大陸の南だと言っていたし、この国を満喫したらそっちに向かってみることにしようかな?


 俺たちは『エルダーブラウンウルフ』達の魔石(一部はテュポーンの力が強すぎて砕けてしまっていた)を回収すると、街に帰ることにした。







 街に帰ってギルドに寄り、素材を売って宿屋まで戻ったら、もう夕方近くだ。

 ミラ達は例の和服や和服モドキに着替えて部屋でゴロゴロしている。

 すると突然ミラが立ち上がって、


「タツキも和服買おう!!お金も溜まったしタツキのぶんも欲しい!!!」


 ということで、また呉服屋さんへと行くことになった。






「おっ、いらっしゃい。今日は誰のを買うのかね?」


 店長のお爺さんがニコニコして出てくる。


「今日は俺の分を買いにきたんだ」

「ほぅ、じゃあ儂が選んでみるかの?」

「「私(僕)達が選びます!!!!」」


 お爺さんが選ぼうとするとミラとブランシュが選ぶという。

 二人のセンスに任せてみるのも良さそうだ。

 クロエは二人をちらっとみるとサムズアップしてくる。


「ほっほっほっ、愛されとるのぅ?お主。絶対に手放すんじゃないぞい?」

「言われなくても。ミラ達は絶対に離さないし誰にも渡さない。あんないい子達が好きでいてくれてるんだからあたりまえだろ?」

「むほほほほ、(おとこ)じゃのう。それじゃあ決まるまでまっとるぞい」


 ミラとブランシュが和服を選び始める。

 クロエは椅子に座って待っている俺の膝に乗っかってきたので選ばないようだ。


 クロエをナデナデしていると先にブランシュがやってきた。


「タツキ様、これを着てみて下さい」


 それを受け取って試着室へと入る。


――――数分後。


 藍色の地に白のラインが入った単着物を着たタツキが出てきた。

 藍色がタツキの雰囲気にシュッとした印象を与える。

 細身でありながらがっしりとした身体が良くわかる。


「タツキ様..........濡れました......」

「ブランシュ!??頭大丈夫か??!」

「大丈夫です、問題ありません。和服のタツキ様を見て少し頭のネジが飛んだだけです。」

「駄目じゃん!!!!」


 なんてこった、あのブランシュがおかしくなってしまった。

 彼女達の和服を買ったときに自分もおかしくなっていた事は棚に上げて悲しい気持ちになる。

 ハァハァ言っているブランシュをお店のお婆さんの方に任せると、試着室へ戻って元の服装に着替える。


「まあ、ブランシュのセンスは良かったし......買うか..............」


 残念なことになってしまったブランシュの姿が脳裏に過ぎるがそれは無視する。

 ハァハァ言っててもブランシュはブランシュなのだ。................哲学??



 椅子に戻るとまたクロエが膝に乗っかってきたので、また撫で撫でを始める。

 ブランシュを見るとまだ治まらないようでハァハァ、ブルルッ、ビクンビクンしている。

 残念だ........非常に.........。


「和服のタツキ様.......ハァハァ.......んっ、んんっ!!」


 恍惚とした表情のブランシュ..........。

 お婆さんが悲しそうな目をしている...........。

 やめて、やめたげて!!もうタツキのライフは1も残ってないの!!!!


 悲しみに浸っていると今度はミラがやってきた。


「タツキ!これ着て!!!」


 さっきと同じ手順でミラに渡された和服を着る。

 そして数分後にタツキは試着室から出てきた。


 上は黒の和服で下は薄茶色の袴。

 腰には帯ではなくベルトが巻かれている。

 一見するとひょろっとした印象のタツキに力強い印象が加えられる。


 突然ミラが抱きついてきた。


「タツキ、今すぐお部屋に戻ろう」

「嫌な予感しかしないよ?」

「.................ダメ?」

「可愛くしてもダメなものはダメだろ。クロエもいるし」

「クロエに見せなければいいんだよね!!!」

「いや、しないよ!!!???」


 駄目だ、ミラまで壊れてしまった。

 お爺さんがニヤニヤと笑っている!!

 おい!!爺さん!!!この服おかしな能力とか付加してないか!!??

 鑑定をかけるがそういったものは見つからず、単純にミラ達が勝手に壊れたと確定する。

 和服にはキャラを崩壊させる力が元より備わっているのだろうか................。


 不意に袖をくいくいと引っ張るものがいた。


「ん、ご主人」

「どうした?クロエ」

「見せられないなら.......クロエも.........する?」

「クロエ......身体は大事にしなさい........。そういうのは本当に好きな人が出来たときにするんだよ?いいね?」


 タツキの保護者モードが入り、クロエは不満そうにする。


「クロエは........役に......立ちたい............」

「今でも充分役に立ってるよ......」


 そう言ってクロエの頭を撫で撫でする。


「ふみゅぅ....................」


 ぱたぱた揺れる尻尾。

 嫁二人が壊れてしまった混沌空間にて唯一癒される微笑ましい光景だ。

 お婆さんも微笑ましそうに温かい目を向ける。


 しばらくしてミラ達が治まってきたので、服の購入に移る。


「二着ともじゃな、金貨2枚と銀貨4枚じゃよ」


 きっかり代金を渡すと早足で宿へと向かう。

 後ろをついてくるミラ達の目は獲物を狙う獣そのものだった。

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