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無能の勇者

 俺のステータスが低い。

 いや、もし俺がこの世界の住人立ったなら十分すぎるほどのステータスだっただろう。

 だが、勇者のステータスだとすればこれはかなり低い。

 実際、さっきまでどよめきっぱなしだった騎士たちも静まりかえっている。


「.....まぁ、そんなに悪いステータスという訳でもないですし.........」


 王女様が申し訳なさそうな顔で慰めてくれた。

 そんなに悲しい顔をしないでくれ、俺だって悲しい。

 ところでこの『聖力』ってなんだろう?聖魔法とは何か違いがあったりするのだろうか。


「あの、アリア王女。この聖力ってのは一体......?」


「......あー、それは聖職者の方がたまに持ってるスキルなんですが、今それについてわかってる事は光の壁を作れるだけなんですよね。しかも聖魔法で作る聖壁の方が強いとも言われていましてなんとも.......」


 希望は一瞬にして脆くも崩れ去ってしまった。


「あっ、でも鑑定は持ってる人も少ないので良いと思いますよ」


「.......ええ、有り難う御座います....」


 まぁ、裏方として頑張ろうか。

 別に聖力だって()()な訳では無い、俺には俺の出来ることを探そう。


 そんな俺を離れた場所からニヤニヤと汚い笑顔で眺める三人が居た。




 初日は各自に部屋が割り当てられて終了した。

 そして二日目から城で戦闘訓練が行われるようになったのだが..........。


「ぐっうぅ!?ッがはッッ.......」


「おいおい!タツキ君よぉ!気合いが足りねぇんじゃねぇかぁぁ??!!」


「そんなんじゃあ外出たら死んじまうぜ?!『水弾(アクアバレット)!!!」


「がぁっ.......!!」


 『岡駿介(おか しゅんすけ)』『加藤義久(かとう よしひさ)』『田中涼太(たなか りょうた)』この三人は元々俺を苛めていた奴らだ。

 こちらに来てからステータスにかなりの差が開いたためか、かなり暴力的になっている。

 お陰で戦闘訓練の度に狙われて、優秀な三人の勇者による『指導』という名目でボコボコにされている。

 まぁ、耐えられない程でもないし、召喚される前なら余裕で勝てるだけの力はあったし大丈夫だったが、今の俺のステータスでは三人相手に勝ち目が無いので我慢するだけにとどめているが。

 それに元々の身体能力は高かった方だ。だからステータスは低くても反応はそれなりに早いので最初の方は本当に良い練習になっている。今日は(バレット)系の魔法32発まで避けきった。なかなかの出来だ。


「おい!テメェ等俺のダチ公に何しとんじゃボケェ!!!」


 大声を出して走ってくるクラスメイトの一人。

 竜牙だ、頭に血が上って素がでている。

 嬉しいけどそんなに怒んなくても大丈夫だよ竜牙。良い感じの練習になってるよ。


「あアァ?『無能』君への毎日の()()にきまってんだろうが」


「タツキ君の腕が変な方に折れ曲がってるのに?一方的に攻撃し続けてたよね、何回言ったら止めてくれるのかな?」


 今、竜牙と一緒に止めにきた彼女の名は『姫路命(ひめじ みこと)』という。

 身長165センチで艶やかな黒髪は肩胛骨のあたりまでのばしている。

 学年三大美少女の一人に数えられる程の美少女で、俺が中一の時に庇った少女。

 今ではいつもの四人の一人だ。


「姫路さんは黙っててくんねぇかな?こんな奴にかまってるより俺と仲良くし「黙れよ」.....あ??」


 思わず立ち上がりながら睨みつけてしまった。

 お前等みたいなクズにミコトの何がわかる。

 お前等みたいな奴らにミコトは苦しめられていたっていうのに。


「....んだよてめぇクズの無能勇者の癖にまだ動けたのかよ。......チッ、行くぞ」


 岡は加藤と田中を連れるとそのまま離れていった。


「タツキよぉ......大丈夫か?いくらお前でも流石に限界なんじゃねぇか?」


「タツキ君、治癒魔法をかけるから少し動かないでね........」


 ミコトの手からポワッと暖かい光が放たれると俺の身体を優しく包み込んだ。聖魔法の一つ『ヒール』だ。


「........大丈夫だよリュウガ。あいつらのおかげで『痛覚耐性』なんてスキルまで手に入れちまったしな。ハハハハ」


「ハハハじゃないよタツキ君。........なんでそんな我慢ばっかりして......。なんで誰にも何も言わないのさ.......」


「ミコトちゃんの言う通りよ、タツキ君。貴方は自分で抱え込みすぎだわ」


「.........そりゃあ言葉で言って通じるならそうするけどねぇ」


 「むぅー.......」


 俺が苦笑いしながらそう言うとミコトがあからさまに不満そうな顔をする。


「明日からダンジョンでの実戦訓練も始まるし、アイツ等にはもっと気を付けた方が良いよ。ちゃんと何かされそうになったらすぐに助けを呼ぶんだよ?」


 ミコトよお前は俺のオカンなのか。

 いや、心配してくれてるのは嬉しいんだが今の台詞すごいオカンな感じだったぞ。

 まぁそれはおいといて。


「.....そうだな、今度からそうするよ」


 そう言うとミコトはとても満足そうにニッコリと笑うと手をぎゅっと握ってきた。

 不覚にも一瞬ドキッとしてしまう。


 ミコトは控えめに言っても美少女だ。

 だから俺と一緒に居るのが気に食わない連中もそれなりに居た(まぁその事で手を出してきたら正当防衛(かえりうちに)していたが)。


 思えばこうやって苛めで暴力を受けて怪我をするなんてこと無かったな.........。

 喧嘩は負け無しだった。


 話が逸れた、先程の話を続けよう。

 こんなに可愛いとは当時助けたときは思ってもいなかった。

 あの時はもっと暗くて冷たくてじめじめした印象だったし、『リアル貞◯』とまで呼ばれていた。

 高二で再び同じクラスになった時にはとても驚いた。

 なんせ全く知らない美少女がいきなり自分にはなしかけてきたのだから対応に困ってしまったのだ。

 しかもその美少女があのときの子だというのだからあまりの驚きに数十秒間放心状態になってしまったのは良い思い出である。


「ヒュウ!今日もお熱いこった!!」


「何処を見ればそんな結論に至るのか俺にはわからないよリュウガ.......」


 リュウガのいつもの煽りに呆れながらミコトを見ると何だか顔が赤くなっている。


「ん?大丈夫かミコト。熱でもあるのか?魔法を使いすぎたんじゃないのか?」


 ピトッ。


「ーーーーーーーーッッッ!!!!??」


 熱を確認しようと額に手を当てたら「ポンッッ」という音と共にミコトは顔を更に真っ赤にすると走って逃げてしまった。


「あーー。.....大丈夫かな?あいつ」


「今のはお前のせいだろ..........」


「はぁ........、ミコトも前途多難ね.........」


 二人が意味のわからないことを言っている。

 何が俺の所為なんだろうか..........うーーーむ...わからん。

 そんなこんなで俺たちは別れて部屋に戻ると明日から五日間あるダンジョン訓練に行く準備を始めるのだった。

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