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王の墓にて

ミコト達視点です。

 クリンドル王国の首都『クリンドル』から少し離れたところにある初心者向けのダンジョン。

 此処『王の墓』に四人の勇者達が来ていた。


 自由行動が解禁になった勇者達は、それぞれ城に残ったり、旅に出たり、彼らの様にダンジョンに潜っていたりしていた。


「これで47層、遂に未踏破層まで来たね」


 力強い声で、賢者の天職をもつ勇者『姫路命』が三人にそう言う。


「今のところアイツの痕跡は見つからねぇな。もっと下まで落ちてたのかもしれねぇ」


 武道家の天職を持つ勇者『神崎竜牙』が口に手を当てて思案するような格好でそう呟く。


「装備も何も見つからない以上、彼が生きてることを信じるしかないわね」


「あいつ.........死んでたら許さないんだから」


 聖女の勇者『名森結花』と魔導師の勇者『東堂伊織』が歩きながら話す。


 そう、彼等四人はあの日居なくなった軽業師の勇者『日向達樹』を探しにここまでやってきたのだ。

 四人は破竹の勢いで王の墓を進み続け、遂に未踏破層までやってきたのだ。


「しっかし.....あの穴から繋がってるフロアが見あたらねぇな。もしかして、最下層まで落ちたんじゃないのか?」


「それはあまり考えたくないわね........ステータスの低い彼が最下層を突破出来るとは思えないわ」


 リュウガとユイカはそう話し合う。

 もしそうなっていたら彼が生きている確率はかなり下がるだろう。

 現時点でさえかなり低いのに、落下に加えてダンジョン最下層の魔物なんて彼が生きていられる訳がない。(実際にはそれより難易度の高いダンジョンをクリアしてしまったのだが)


「タツキ君はきっと生きてる。ただの勘でしかないけどそうとしか思えないもの」


 ミコトは諦めない。

 彼が生きていると信じている。

 あの日居なくなってしまった初恋の人。

 「でも、もしかしたら......」と思うと胸がきゅっと締め付けられる。


「苦しい.......かな..........?」


「ミコト...............」


 イオリが心配そうな顔でミコトを見つめる。


「えへへ、気にしないで!大丈夫、私は全然平気だよ!!!!」


 ミコトはちからこぶのポーズを取って彼女に応える。

 そんな空元気もイオリには通じない。

 簡単に嘘だと見抜かれてしまう。


「ミコト........余り抱え込みすぎないで..........。貴女が一番辛いことは私が一番理解してるつもりだから................」


 彼女の優しさが心に刺さる。


「.......イオリ.......ちゃん........。うっ.......ううぅぅぅ.......」


「大丈夫...........大丈夫だから..........」


 へにゃっと表情を崩して泣き始めたミコトをイオリが慰める。

 いくら彼を信じていても、不安な気持ちは取り除かれない。

 それでも彼女は周りに心配させまいと気を張り続けていたのだ。


「い....おり......ちゃん.......。私........私............!!」


「泣いて良いのよ........抱え込んじゃ駄目。きっと彼も『抱え込まないで全部吐き出して楽になれ』って思ってるわ」


「うっ、うわああああああああん!!!!!」


 ミコトの心に刺さったそれは、彼女の凍てついた心を一気に溶かした。


 彼女の泣く声が人気の無いダンジョンに響き渡る。


「だって、だって私ぃ、タツキ君の事が心配なんだもん!!!大好きなんだもん!!!!死んでるなんて思いたくないもん!!!!」


「ミコト、タツキ君はきっと生きてるわ。ここまで来て何も見つかってないんだもの」


「そうだぜミコト。俺達がアイツを信じないで誰がアイツを信じるんだ?」


「彼の事だから私たちが探してる内にお城にひょっこり顔を出してたりするかもしれないわよ?ステータスなんか関係なく彼、強いもの」


 仲間達の優しい言葉が『(勇者)』を脱ぎ捨てた彼女を優しく包み込む。


「ぐすっ.........うん、うん......そうだよね............」


 ミコトは溢れ出る涙を払って、ぐっと背筋を伸ばした。


「最下層まで行く。タツキ君を絶対に見つけて連れて帰ろう!!」


 顔を上げて支えてくれている仲間達に再び宣言する。

 泣いたことで目元が赤くなっている。

 ミコトは勇者なんかじゃない、普通の女の子だ。

 もうタツキを助けに行く『勇者ミコト』ではない。

 一人の女の子として『姫路命』としての再出発。


 以前のような強さは無い。

 心だって簡単に折れてしまうだろう。

 でもこの想いはどんどん強くなっていく。


 本当に大切な物は、失ったときにその本当の価値を知る。


 彼女にとって『日向達樹』とは?


「待っててタツキ君。今、助けに行くから」



 『彼』の存在は、形失われた今も彼女の心を支える支柱となっている。

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