新・ヤナギ迷宮
受付に行くと、ギルドカードとオークの睾丸、薬草の束を出す。
「依頼完了の確認ですね、少し待っていて下さい」
受付嬢がにこやかにそう言う。
そして受付に出された物を見ると、
「オークの睾丸に薬草束、ゴブリンが........140匹!!!!????」
ギルドに居た冒険者達がざわめく。
「新入りのギルドカード壊れたんじゃないのか?」
「馬鹿言え、ギルドカードが壊れるわけねぇだろ。ドラゴンの火でも焼ききれないって言うぜ?」
「ゴブリンが140匹居たってのもありえねぇだろ」
「140匹って、ありえねぇ.......」
「あんなヒョロいのが140匹もゴブリン倒せるわけないだろ」
「お前、朝の騒ぎ知らねぇのか?あの新入り滅茶苦茶強いらしいぜ。『雄豚のガンタ』が一撃だってよ。」
「すっ、すみませんでした!!!あまりに驚いて大きな声になってしまい申し訳御座いません!!!!」
慌てて受付嬢が詫びを入れる。
しかし、あのカスは『雄豚のガンタ』なんて呼ばれてたのか。全く、お似合いだな。
「別に気にしてませんよ。それより続きをお願いします」
「っはい!ゴブリンの依頼は討伐上限は有りませんので五匹につき一回分の報酬が支払われます。合計で金貨6枚、銀貨3枚に大銅貨8枚になります。これで依頼は完了です!初めての依頼達成おめでとう御座います!!!!」
まあ140匹でもゴブリンだしこんなもんだろ。
ランクを上げたらもっと割の良い依頼を受けれるようになるしそれまでの辛抱だ。
「タツキ.........もしかしてゴブリンの群れって..........」
「ああ、そうだよ。流石にあの量は近付けすぎたら全員を守りきれるか心配だったからね」
「タツキ..................好き..........」
「ぶふっっ!!!!」
思わず吹き出してしまった。
いきなりそんな事を言うとは思わなかった。
完全に不意打ちである。
「でも、やっぱり離れるのはイヤ。今度からは僕も連れてって。足手まといにはならないから」
「大丈夫そうなら、そうするよ」
彼女のトラウマは根が深そうだ。
俺は彼女に救われた。だから今度は俺が彼女を救う番だ。
何処にも行かないって、彼女を安心させたい。
もっともっと強くなって――――
ざわつくギルドを抜け出して、宿へと帰る道を進む。
腕にしがみついてくる彼女の身体は、いつもより少し小さく感じられた。
―――――――――――――――――――――――
新しく発生したダンジョン。
元々、『ヤナギ』の町の近くには『新月の迷宮』というダンジョンがあって、それによりそこそこの賑わっていた。
そこに更に現れたダンジョン。
冒険者達はまだ見ぬ宝を目指して、商人達は羽振りの良くなった冒険者達や国からの調査団達によって活気づいた町を目指して各地から集まってくる。
このダンジョン、まだ名前が決まっていないので『新・ヤナギ迷宮』とか普通に『ヤナギ迷宮』とか呼ばれている。
現在このダンジョンは12層までが確認されている。
出てくる魔物はアンデッドが中心で、光属性の魔法を使える者が必須だ。
報告を受けた調査団の本部も増援の光魔法使いを何人か送り込んでいる。
そのダンジョンの9層にて――――
「チッ、ムカつくなぁあの野郎」
「てめぇまだ言ってんのか?確かにありゃあとんでもねぇ上玉だったけどよぉ、うちのリーダーを瞬殺するような奴に手なんか出せねぇだろ?」
彼らはこの日の午前中、とんでもない美女を侍らせた新人に絡んだのだが。
その新人があまりにも強かったために返り討ちにされてしまったパーティだ。
銀ランクのパーティなのだが、リーダーのガンタは何かしらの呪いを受けたようで回復が出来ずに一人留守番になっている。
「新人があんなに強いわけあるか!!!!ぜってーなんかズルしたに違いねぇ!!!」
「俺も同感だ!!!おかげであの獣人族の可愛い娘を食い損ねちまった!!!」
「おまっ、ちょっ流石にアレはねぇだろ........。完全にガキだったじゃねぇか」
「ああ?!ロリコンで悪いか!!!!『YESロリータ!NOタッチ』なんて俺ぁ知ったこっちゃねぇんだ!!!」
『YESロリータ!NOタッチ』。
600年前の勇者の1人が残した言葉だ。
今では大きなお友達たちの間で名言として語り継がれている。まぁ、たまにコイツのような不届き者も居るわけだが。
「ったく、お前等無駄口叩いてんじゃねぇよ。ホレホレ、魔物共のお出ましだぞ」
「かーーっ、戻ったらあの野郎ぶっ殺してやる!!!」
副リーダーの男はあきれたように頭をポリポリとかく。
彼はリーダーのガンタとは昔からのよしみでパーティに在席しているのだが、最近のガンタ達の行動にはほとほと疲れ切っている。
このパーティの中では午前アレに唯一参加していなかったまともな男なのだ。
「そろそろ潮時かなぁ......」
「んぁ?タミル、何か言ったか?」
「何もねぇよ、さっさと仕事しろ仕事」
このタミル、そろそろ冒険者を辞めて村に戻って畑でも耕そうかと考えていた。
冒険者生活に嫌気が差したのもあるが、実は内緒で手紙のやりとりをしていた幼なじみから「戻ってきて一緒に農家をして欲しい」と言われていたのだ。
彼女のことは嫌いじゃない、むしろ好きだと思うし彼の心もほとんど村に戻る方に傾いていた所だった。
「カタカタカタカタカタカタ」
出てきたのはスケルトンが三体とグールが二匹。
スケルトンはEランクのモンスターで、持っている剣以外は特に危険がない倒しやすい魔物だ。
グールは腐った人間の姿の魔物で危険度はDランク。
噛まれる、又はひっかかれると高確率で毒状態になるので危険な魔物として知られている。
「『物理強化付与』!!」
「『ホライゾンスラッシュ』!!!」
「『ブラストハンマー』!!!!」
腐っても銀ランクパーティ。
上級者一歩手前まで来ている彼らの強さは本物だ。
犯罪紛いのことをしていても、ある程度見逃されていたのは彼等がたったの三年でここまで強くなって将来を期待されていたということもあった訳だ。
「『光弾』!!!」
「ボゴアァァァアアァァァ」
タミルの光魔法により、最後のグールが倒される。
「ふぅ、こんなもんかな」
戦いを終えた彼らは魔石を回収した。
「時間もこんなだし、そろそろ帰るぞ」
「おう、十分狩れたしな。これならそれなりに金になりそうだし帰ったら女でも買おうぜ」
「そりゃいいな!!俺ぁオッパイでかい子がいいなぁ!!」
「ったく、いつまでそんな事言ってるつもりだ。さっさと帰るぞ!!」
タミルは女と金のことばかり話す仲間たちにとうとう我慢ならなくなり、一人でずんずんと上層への階段に歩いていく。
「だいたいお前達は犯罪紛いの事ばか―――」
階段の前まで来たタミルは他のメンバーが付いてきていない事に気付く。
「は?..........何処行った!?ふざけてないでさっさと出て来い!!!!」
しかし返事は無い。
「な......何が............?」
―――――ズル、ズル、ズル、ズル
何かを引きずるような音がする。
――――バキッ、ゴキッ、グチャッ、ボキッ
何かが潰される様な音が聞こえる。
タミルの心臓の鼓動が速くなる。
「う........嘘だろ................?」
タミルの見つめる先。
通路の曲がり角から現れたのは巨大な肉の塊。
自分の形を上手く保てないのか、肉を引きずりながら歩いている。
人型に見えるその魔物の手には何かが握られており――――
タミルは、仲間だったモノと目が合ってしまった。
「うっ、うわああああああああああ!!!!!」
(死にたくない!!死にたくない!!死にたくない!!!)
彼は全力で階段を駆け上がる。
上の層へ出て、他の冒険者達とすれ違うが彼は止まらない。
心を恐怖が支配する。
(何なんだアレは!!??一体何なんだ???!!!)
早くギルドにこの事を伝えなければ。
彼は町への街道を全速力で走り続けた。




