クロエ育成計画
冒険者のランクはいくつにも分かれている。
ランクによって受けられる依頼が変わったり、一定以上のランクになれば指名依頼が来るようになる。
一覧としてはこんな感じだ。
鉄
↓
銅
↓
銀
↓
金
↓
白金
↓
ミスリル
↓
アダマンタイト
↓
ヒヒイロカネ
一番下が鉄で、一番上がヒヒイロカネだ。
一般に鉄は駆け出し、銅、銀が一人前で、金からは上級者の領域になる。このレベルになると指名依頼が来るようになるらしい。
ミスリルを超えたあたりからは人外の領域になり、これ以上のランクの冒険者は世界中に数人しか居ない。
さらに現在ヒヒイロカネの冒険者は存在していないそうだ。
さて、冒険者になったばかりで鉄ランクの俺たちは鉄ランク依頼を受けて、町の外で狩りをしていた。
「ふっ!はっ!」
「そうだ!敵の動きにあわせて打ち込むか退がるかを瞬時に判断!!無傷で倒せ!」
今俺はクロエにゴブリンを倒させている。
ミラが言い出した事なのだが『僕達との実力差が有りすぎるのは良くないから育てた方が良い。あの子はあの一族の末裔だから絶対強くなる。足を引っ張ったりはしない。』とのことでクロエを鍛えているのだ。
ミラが言っていたとおり、彼女は飲み込みが早い。
基本的に俺ができるナイフの技を教えているのだが、ちらっと鑑定で見るともうスキルを手に入れていて、スキルレベルも上がっている。
天性のセンスと称号の力のなせる技だろう。
ゴブリンの首をかっ切ったクロエはいつもの真顔で此方へと戻ってきた。
「ご主人様.............クロエ.....がんばった..........」
「よしよし、偉いぞ。こんなに早く成長してくれるとは嬉しいよ」
「んっ.......ごほうび............なでて.............?」
ちっちゃなクロエの頭をわしゃわしゃと撫でる。猫の耳がぴこぴこ動いてかわいい。
「ふしゅー................」
クロエも撫でられて気持ちよさそうにしている。
尻尾も機嫌良さそうに、ゆーらゆーらと左右に揺れている。
「ボクも撫でてあげるーー」
「んみゅっ............ふしゅぅーー............」
ミラもクロエの頭を撫で始める。
ブランシュの方を見たら、彼女も撫でたそうにしていたので替わってあげた。
「クロエちゃんの髪さらさらですね」
「ん、黒髪.............お母さん譲り...........自慢.......」
「えへへ、クロエちゃん可愛いなー。妹が出来たみたいだよ」
「撫でるのもいいけどそろそろ依頼に戻るぞー」
三人は「はーい」と少し物足りなそうな声で返事をする。
クロエがすぐに馴染んできてくれて良かった。
勢いで彼女と主従契約をすることになったので、ちゃんと言うことを聞いてくれるかとか、嫌われたりしないかとか色々考えていたのだ。
まあ、どれも杞憂だったが。
クロエは無口な割に人懐っこく、性格も素直だ。
ミラが選んだ奴隷だが、ブランシュも彼女の事を可愛がっている。
二人のお姉さんに一人の妹って感じだ。
「よし、クロエ。ゴブリンは目標分倒しきったから次はオークを探そう」
「ん、わかった」
そろそろお昼の時間帯だ。オークを倒したら一度町に戻って昼食にするとしよう。
そうだな、その時に全員分の新しい服を買ってあげるのも良い。
クロエの服なんかはミラとブランシュが選びたがるだろう。
しばらく森を散策しているとオークを発見した。
二足歩行の豚っぽい魔物だ。
オークといえば『ぶひぃ、オデ、姫騎士、オカスぅ。』的なR18なイメージがある。
俺もそういうイメージだったのだが、聞けばオークは人間の娘を襲ったりはしないらしい。
いや、貴族がオークの睾丸を所望する時点でオークがどんな魔物かは大体想像がつくのだが。
だが彼らが襲うのは牛や馬だったりする。
理由としては体格だとか、オークの精との相性等の問題らしい。
ちなみに、肉にも精力増強効果があるそうで、そちらは町の男達によく食されている。
「クロエ、殺れそうか?」
「ん、落ち着いていけば.........できる......」
クロエは覚えたばかりの『隠密』を発動し、オークの背後へと忍び寄る。
そして、
「ぷぎいぃぃぃぃぃぃっっ!!!???」
首の動脈を切られたオークはしばらく血を噴き出させながらふらつくと、断末魔を上げて倒れ伏した。
クロエは他に何か周りにいないかキョロキョロと確認すると此方を向いてサムズアップした。
俺はそれを血抜きするとアイテムボックスにしまう。
「ん....出来た......誉めて?」
「ああ、いい子だクロエ。流石だ」
尻尾がふりふりとせわしなく揺れる。
その様子を見て、ミラとブランシュは完全に力の抜けた顔になっている。
「さて、そろそろ昼食の時間だし町に戻ろうか。ミラ達の服も買いたいしな」
「服買ってくれるの?お金だいじょうぶ?」
「一応メッケのお陰でお金は大丈夫だからね。それに今ある分じゃ足りないだろ?」
「ふふん、それじゃあ遠慮しないで買っちゃおうかな?クロエのも買うよね?」
「ああ、勿論だ。ずっと同じ服で居られる訳にはいかないからな」
「ご主人様........私の..........買って.....くれるの......?」
「ああ、クロエのお陰で依頼も早く終わりそうだしな」
「嘘.......ご主人がやれば.......もっと早い.............」
「んー?俺達はクロエを強くしたいし依頼も早く終わらせたかったから時短になってると思うぞ?」
「?よく........わからない..........?」
「とにかくいいんだよ、気にするな」
わしゃわしゃとクロエの頭を撫でる。
今回は猫耳の付け根も優しくコリコリした。
「んっ、ふにゅ..............ふしゅーー」
ゴロゴロと気持ちよさそうに喉を鳴らすクロエ。
俺はそんな彼女を見て考える。
(成り行きでクロエを貰ったけど、この先の人生を決めるのは俺達じゃない。彼女自身が選んだ道を進んでいくんだ。だからその時のために、彼女には一人で生きていけるだけの力を持たせてあげよう。せめて、この町に居る間だけは。)
三人を連れて、町へと戻るタツキ。
彼を縛る枷は既に外れた。
だからもう迷わない。
もう躊躇わない。
もう自重なんてしない。
たとえ一時の短い付き合いでも、クロエを蔑ろにする理由にはならない。
もうタツキの中にあった偽善は残っていない。
(本当に、ミラとブランシュには感謝しないとな........。)
彼女達の馬鹿みたいにまっすぐな想いに俺は救われた。
(今思い出すと、色々とむずがゆくなってくるな。)
タツキは歩きながら楽しそうに談笑している三人を横目に、頬を緩めた。
「ねぇねぇ!!タツキ!!これなんてどうかなぁ?」
大通りにあった定食屋で昼食をとった俺達は、同じく大通りにあった呉服屋に来ていた。
おそらくは他国の文化と混ざり合って出来ただろうと思われる様々なハイブリッド和服や純和風の浴衣等が所狭しと並んでいる。
ミラはその中の一つに目を付けると早速試着室へと行き、今タツキ達に披露している所なのだ。
ミラが選んだのは黄緑色を基調としたハイブリッド和服だ。
上は黄緑色の地に朝顔の柄の和服で、袖の所からは白いフリルが覗いている。
薄紫色の帯から下はミニ丈のスカートの様になっており、ニーソックスと併せて絶対領域を作り出している。
「ねーねー、どう?可愛い?」
頬をほんのりと赤く染めたミラはスカートのすそをひらひらさせて聞いてくる。
「ああ................」
「えへへ、もしかしてボクに見とれちゃった?」
「ん、ミラ様......綺麗............」
「ふふふふ、クロエちゃんはいい子だねー。よしよしよしよし~」
「ふみゅ~~」
買おう。
絶対買う。
今ある素材を全部売り払ったって買う。
「むほほほほほ、どうですかな?ウチの品は?」
好々爺といった感じの魔人族の店長が話しかけてきた。
「むほほ、ウチの孫も丁度お主のお連れさん達ぐらいじゃからの。もし良かったら儂と妻で良いのを見繕おうかの?」
「買おう。」
「ん?むほっ!??」
「言い値で買おう。是非良く似合うものを見繕ってくれ」
「おおぅ.........お主凄い目をしよるのぅ........。まあ今回はセット料金ということにしてさーびすしてやろうかの。」
タツキは完全にキャラが崩壊していたのだった。
ブランシュとクロエが店の奥に行ってからしばらくすると、店長夫婦が「実にいい仕事をした」といった顔で出てきた。
「あらあら、貴方が旦那様なのね?あの子達ほんとに綺麗ねぇ。見たら驚くわよ!」
「久々にええ仕事をしたわい。最近は客足が減っておったからのぅ、大満足じゃあ」
店の奥から二人が出てくる。
ブランシュは水色を基調とした鈴蘭の柄のアレンジ和服だ。
下は腰の辺りから片方スリットがガバッと入っており、露出が少なく隙のない上とのコントラストが彼女の女性的な魅力を更に引き上げている。
クロエは白地に桜色の和風の模様が描かれた和服を着ている。
リボン付きの帯に付いているピンには百合の装飾が施されており、彼女の雰囲気をさりげなく表現している。
「ど、どうでしょうか?似合っていますか?」
「.......................ん」
顔を真っ赤にしてもじもじしているブランシュ。
対照的にいつもの真顔のまま、何処かぎこちない雰囲気のクロエ。
「ああ、二人とも本当に良く似合っている。
ブランシュには水色が本当に似合うな。綺麗だよブランシュ.........。
クロエもいつもより更に可愛らしくなった」
「むほっほっ、ブランちゃんには水色か赤かで迷ったんじゃがのぅ。こっちで正解だったわい」
ブランシュは更に顔を赤くして俯いてしまう。
クロエは口元をニッとすると近くまで歩いてきて、スッと頭を差し出した。
なので、また頭をナデナデする。
そんなにナデナデされるのが好きなんだろうか?
まあ、可愛いから良しとしよう。
「店長、いくらだ?」
「うむ、占めて全部で金貨9枚じゃな」
「ふむ、それならブランシュに赤い方の着物もつけておいてくれ」
「そうなると金貨12枚じゃな。それで良いかの?」
スッと店主に金貨12枚を渡す。
「12枚キッカリじゃな。それとこれは着物の着付けの方法が書かれた冊子じゃ。さーびすじゃから持っとくがええ」
うん、いい買い物をしたな!!
彼女達も喜んでくれて大満足だ。
「ありがとうございます。満足ですよ」
「ふふふふ、またいつでも来るがええぞ」
ミラ達は元の格好に戻ると買った着物を大事そうに倉庫へとしまった。
クロエの分は俺が持つことになった。
さて、街での用事も終わったので再び外に来ている。
探しているのは薬草だ。
『鑑定』を使ってそこら中の草という草を片っ端から調べていく。
ミラとブランシュは薬草の知識がある様で、すぐに見つけるとどんどん集めていく。
(ん?これは............)
タツキは何かを見つけてその場から離れていった。
「こんなもんじゃない?これで依頼達成だよねタツキ。タツキ?あれ?」
タツキが居なくなった。
突然何処に行ったのだろう、心配になる。
ミラはタツキが突然居なくなった事で寂しさがこみ上げてきた。
「タツキ?あれ?タツキ?何処行っちゃったの?」
目元に涙が溜まり始めた。
「ねぇ......やだ、ヤダ、ヤダ!!!!居なくなっちゃ嫌!!!!」
と、そこでやっとタツキが戻ってくる。
「タツキ!!!何処行ってたの?!もう離れないって約束したじゃない!!!!」
「うっ、ゴメン。ごめんよミラ。ゴブリンの群れが近付いてきていたから潰しに行ってたんだ」
「何も言わずに居なくなっちゃダメ............」
「ごめん............」
抱きついてきたミラの頭を撫でて、優しく抱き抱える。
何か、トラウマがあるんだろうか..........。すぐに戻って来れて良かった。
彼女を更に力強く抱き寄せる。
暖かい、彼女の鼓動を感じる。
「..............許す....」
「...........ありがとう.....ゴメン......」
ブランシュとクロエが心配そうに見つめてくる。
「今日はもう戻ろうか。依頼も達成したしね」
四人は町へと歩き始めた。
ミラと俺はぎゅっとその手を繋いだまま...........。




