ヤナギ
俺たちは馬車に揺られてヤナギに向かっている。
あれから二回魔物の襲撃に合い、一回盗賊の襲撃に合ったが、ブランシュとミラがあっという間に倒しきったのでゆったりとした旅になっている。
御者の席に居るメッケが後ろに居る俺たちに話しかける。
「さて、ではこの『ツバキ王国』について話しましょうかね。
まずこの国は魔人族が中心になっている国ですな。世界でも有数の平和な国で様々な場所から私のような商人が集まってくるんですよ―――」
ツバキ王国、彼の説明によれば、魔人族の国であるここはとても平和で1000年前の初代勇者が自分の故郷に似せて創った国だそうだ。
北の魔族に対抗するための軍隊もかなりしっかりとしており、魔人族の高い魔力保有性による『王国魔導士隊』や、他国における騎士団の役目をする『侍』達は世界でもトップを争う強さだそうだ。
ただ、近年代替わりした西の大国『ヴォーギル帝国』との関係が悪化してきているという。
(ヴォーギル帝国については後で調べておくか......)
暫く行くと『ヤナギ』の町の防壁が見えてきた。
沢山の人が門の前に並んで、衛兵の検閲を待っている。
「おや?何かあったんでしょうか?」
「ん?どうかしたのか?」
「いやぁ、ヤナギの町には何回か来ているのですがこんなに並んでいるのは初めてでしてね」
メッケの言うとおり、300人近い人たちが並んでいる。
冒険者の様な格好の者もちらほらと見える。
「気になるし聞いてみましょうか。あの、少しよろしいですかな?」
列の一番後ろにならんだメッケは一つ前に居た吟遊詩人風の男に声かける。
「おや~?旅の商人さんがボクになんの御用かな~?」
間延びした調子で反応する男。
天然がかなり入ってそうな顔をしている。
「いやぁ、この町の門がここまで並ぶのは初めてでしてね。何かあったのかと思ったのですよ」
「んん~~?多分それはここの近くに出来た新しい迷宮の事じゃないかなぁ~」
「ほぅ!!!新しいダンジョンですか。それは各地から冒険者達が集まってきそうですなぁ!!!ダンジョンで冒険者が潤えば、商人も潤う、そして町も潤う。これだけの行列が出来て当然でしたな。知れて良かったですよ、ありがとうございます」
「気にしなくていいのさ~~♪」
彼はヒラヒラと手を振ると前に向き直った。
少しずつ列が進んできている。
「新しいダンジョンか..........気になるね」
「僕も気になるなぁ。町に入ったらまずは冒険者ギルドかな?」
「んー、それは明日にするかな?でも早いうちに行くよ。色々ギルドに渡さないといけない物もあるしね...........」
「.........???」
冒険者ギルドに行く理由は、身分証を作ってちゃんと仕事を始めるというのもあるが、アレもちゃんと渡さないといけない。
彼らの生きた証をあるべき場所に戻してあげないといけないんだ。
数十分後、やっと門の前まで来た。
「身分証は持っているか?」
「はい、商業許可証と身分証です。後ろに乗っているのは私の商品と、雇った護衛達です」
「よし、次に犯罪歴の確認をする。お前と護衛達はこれに手を当ててくれ」
出されたのは半透明の板。
それの上に手を乗せると、青く光った。
ミラとブランシュも同様にそうする。
「うっ、うおおおぉぉぉぉ..............」
馬車の中から現れた二人の美少女に衛兵達は見とれてため息をついた。
二人とも俺の嫁(予定)なんだよ?信じられないよね?
二人とも板を触ると青く光った。
「うむ、通ってよし!!!!」
門が開かれる。
俺たちはヤナギの町へと足を踏み出した。
和の雰囲気が漂う街並み。
町行く人は皆生き生きとした顔をしている。
歩いている人達の三分の二くらいは角が生えていることから魔人族だとわかる。他は人族だったり獣人族だったり様々だ。
俺達は宿屋へ向かうがメッケは商人ギルドに用がある。
二つの建物は互いに町の反対側にあるので、入ってすぐにメッケとは別れることになった。
「ここで、お別れですかな。」
そう言ってメッケは金貨を懐から20枚出すと俺に渡してきた。
ここで、この世界での金銭感覚を説明するとこんな感じだ。
鉄貸 1円
銅貨 10円
大銅貨 100円
銀貨 1000円
大銀貨 5000円
金貨 10000円
大金貨 100000円
白金貨 1000000円
金貨二十枚だから20万円稼いだことになる。
「それではタツキさん、お達者で!!!」
「メッケさんも達者でな」
メッケは元気よく手を振ると、馬車と共に人混みへと消えていった。
しばらくして到着したのは旅館風の宿屋『風鈴邸』だ。
メッケにお勧めの宿屋ということで紹介して貰ったところだ。
中にはいると受付に和服の魔人族の女性が立っていた。
「一週間程宿泊したいんですが部屋は空いていますか?」
「四人部屋ならいくつか空いていますがよろしいでしょうか?」
「それでお願いします!!!!!」
俺が返事をするよりも速く、ミラがそう答える。
チラッと此方を見るとニッと笑う。
ミラさんや、部屋が一緒は良いけどクロエもいるからアレやコレやは無しだよ?
一日につき金貨一枚で金貨七枚。
宿泊料を払うと、彼女は何かを使って短く連絡をした。
「それではお部屋にご案内いたします。」
受付の彼女がそう言うと横の廊下からススススと魔人族の少女が現れて、部屋へと案内してくれた。
さっきの連絡はこのことだろう。
しばらく歩くと部屋に着いた。
部屋は十畳ぐらいの広さで、日本に居るような安心感を覚える。
「こちらが部屋の鍵になりますので無くさないようにお気を付け下さい」
彼女はそう言うと部屋を出ていった。
窓の外には旅館の中庭が見える。
小さな小川が流れ、その先の池には錦鯉?の様な魚が泳いでいる。
まだ昼間なので石灯籠に灯りは点けられていないが、夜になれば幻想的な雰囲気を醸し出すだろう。
「んー、中々良い部屋だねぇ」
「この部屋の香りを嗅いでいると心が落ち着きます」
「ん..........いい香り..........」
街の風景もだが、こんな所も日本の文化が根付いている事に暖かさを感じる。
この日はそのまま四人でゆったりと過ごしたのだった。
次の日。
冒険者ギルドに着くとすぐにカウンターへと向かった。
受付の美人のお姉さんに話しかけると周りから鋭い視線が飛んでくる。人気の受付嬢さんなのかな?
「冒険者ギルドに登録したいんですが」
「登録ですね?ではこちらに魔力を流して下さい」
差し出された鈍色のカードに四人は魔力を流すと、文字が浮かび上がった。
タツキ・ヒュウガ 男
ランク 鉄
ミラ 女
ランク 鉄
ブランシュ 女
ランク 鉄
クロエ 女
ランク 鉄
「これで登録は完了です。そのギルドカードは魔物の討伐数も記録する優れモノですので無くさないように気を付けて下さい。再発行には金貨が二枚かかります」
「わかりました、有り難う御座います」
「次にギルドのルールを説明するのですが聞いて行かれますか?」
「ええ、お願いします」
彼女は金髪の綺麗な髪をなびかせてにっこりと微笑むと説明を始めた。
要約するとこんな感じだ。
ギルドはあらゆる権力や政治に不干渉であること。
ギルド内、又はギルドのメンバー同士での争いはギルドが仲裁して判断し処分する。その間、たとえ王族であってもいかなる権力も効力を持たないこと。
パーティ登録はメンバー全員が居なければ出来ないこと。
クエスト報酬はカウンターにて直接渡されること。
素材の買い取りは、隣の買い取り窓口で行っていること。その際に、解体されていないものに関しては解体料がかかることなどであった。
「説明はこんな所ですが他にご質問はありますか?」
「大丈夫です。有り難う御座いました。それと何ですけどパーティ登録をお願いできますか?」
「それは皆様四人でよろしいでしょうか?」
全員が頷く。
「..........はい!皆さんはこれでパーティとして登録されました。全員が鉄ランクなので鉄ランクパーティですね」
「有り難う御座います。最後に一つ、渡さなければいけないものがあるんですが........」
「えっ!?わ、私にですか??でもまだ初対面ですし............」
周りから冷たい怒りの視線が突き刺さる。
いや、ちゃうねん。そういうのじゃないんだよ。
「いや、そういうのじゃないです。これなんですけど................」
そう言って俺はポケットから出すようなそぶりでアイテムボックスから地底で拾ったあのギルドカード達を取り出す。
バラバラとおかれたそれに受付嬢は顔を青くした。
「なっ!!??こ、こっこれは一体...........」
「全部『王の墓』の深層で拾ったものです。俺が何かしたわけではないですよ」
彼女はそれらを纏めると「少し待っていて下さい」と残して奥へと走っていってしまった。
しばらくすると彼女は戻ってきて、
「ギルドマスターに会っていただけますか?」
と、聞いてきた。
特に断る理由も無いので肯定する。
「では、着いてきて下さい」
カウンターの裏へと入り、二階へ上がっていく。
受付嬢はギルドマスターの部屋の扉をノックすると、
「フラウ様、先程の四人を連れてきました」
「ああ、入ってくれ」
中からは若々しい男の声が聞こえた。
扉を開けて入ると、そこには髪を肩まで伸ばした美青年が椅子に座っていた。
しかも、あの耳.........エルフだ。
本物のエルフははじめて見た。
「君が例の新入り君だね?」
「はい、本日から冒険者となりました、タツキ・ヒュウガという者です。本日はどういったご用件でしょうか?」
珍しいものでも見るかのような目つきで俺を眺めてくるギルドマスター。
「.........ふむ、全く動じないね。今君に向けて威圧を放っていたんだが、ここまで効かないのは初めてだよ。僕の名前はフラウ・ヨルガンダル。『ヤナギ』支部のギルドマスターをやらせて貰ってる。宜しくね」
そう言って、手を差し出すフラウ。
俺は鑑定で様子を見つつその手を握り返した。
「面白いなぁ、君。まあ楽にしてくれよ。
用事っていうのはさっきのギルドカードだね。『王の墓』で拾ったんだって?一体どこまで潜っていたんだか................。
いや、別に君を疑ってるわけじゃないんだよ。
ただ好奇心でね、あのギルドカードさ、調べたら最近居なくなったのだけじゃなく何十年前に失踪してる人もいるんだよねぇ。
流石に十代にしか見えない君があの人達全員殺してたなんて無理な話だから安心してね」
「まあ、それなら良いですけど............。
俺もあのままで捨て置く事は出来なかったので...........」
こいつ威圧なんて放ってたのか。
ぜんぜん気づかなかったわ.............。
「君のしてくれたことには感謝しているよ。きっと遺族達も喜ぶことだろうね」
「まあ、生きてくれていた方が喜んでいたでしょうが..........」
「今は君のおかげでこうして遺品が手に入ったことで充分だよ。
所で聞きたいんだけどさ。あのギルドカードの山はいったいあのダンジョンの何層で手に入ったんだい?
たしか今は46層まで進んでいたはずだろう?」
そこか........言うべきか言わないべきか..........。
あの場所に入ること自体はニコラスの魔法により、悪人でなければ簡単だ。
だが、その後が難しい。
そのまま戻ることは出来ないのだから先へ先へと進み続けなければならなかったし。魔物も表のダンジョンと比べると桁違いに強かった。
正直俺が生きてるのなんて運が強かった以外の何物でもない。
それにあの進化の力.......。
手に入れて感じた事だが、一人の人間が持つには大き過ぎる力だ。まぁ半分人間をやめるようなものらしいが。
「それについては..........少し考えさせて下さい.........」
「おや?そんなマズいことでもあったのかい?まあ話したくないなら強要はしないけどね。
でも君達が強いのは確信したよ。
気が向いたらウチの近くに新しくできたダンジョンにも挑戦してみておくれよ」
「ええ、元々興味はあったので行ってみますよ」
フラウはニカッと笑うと手を差し出す。
「もし話してもよくなったら受付に伝えておくれ。
いつでも待っているよ」
俺はその手をぐっと握った。
フラウもまた握り返してきた。
見掛けによらずかなりの力だと想像できる。
握手が終わった後、四人はフラウに別れの挨拶を言うとギルドリーダーの部屋から出て行った。
ふぅっ、と息を吐き出すフラウ。
「ねぇ、ミレディちゃん。あの新人は凄かったね」
「私にはよく分かりませんでしたが...........。冒険者には珍しく、礼儀正しい人だとは思いました。フラウ様は彼が危険だとお思いなのですか?」
受付嬢のミレディはよくわからないと首を傾げてみせる。
「彼が危険な人物だとは思わないけどねぇ.......。ただ底が見えないっていうか真っ暗な深淵を覗いているような感覚に襲われたよ。」
「深淵.......ですか.........」
フラウは「満足した」とニコニコしながら再び書類の山へと戻っていった。




