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三人の日々

もぐもぐ

『ご愁傷様です』

『ご愁傷様です』

『ご愁傷様です』

『ご愁傷様です』


 あちらこちらでそんな挨拶が聞こえる。


ゴシューショーサマデス

ゴシューショーサマデス

ゴシューショーサマデス

ゴシューショーサマデス


 あちらこちらでそんな音が聞こえる。


 ある夫婦の葬式。

 一人の少年がぼうっと立ち尽くしていた。

 年は小学生4年くらいだろうか?


―――――――話は遡る


 少年の家庭は一般的な核家族。

 両親二人に少年が一人。


 両親の愛をめいっぱいに受けて育った少年は非常に心優しい性格をしていた。

 周りの人たちからも『○○君はほんとうにしっかり者ねぇ』だとか『いつも落ち着いて冷静で本当にいい子だね』なんて言われていた。



 そんな彼の家族にある日事件が起きた。

 家に強盗が入ったのだ。

 一人母親に隠れさせられた少年は生き残ったが、強盗は両親を持っていた包丁で刺し殺すと、金目の物を漁って逃げていった。


 少年は呆然とするしかなかった。

 目の前で殺された両親。何もできなかった自分。

 あまりの衝撃に頭が追いつかず、泣くことも出来ない。

 しばらくして騒ぎを聞きつけた近所の住民が警察を呼び、タクシーがやってくるまで少年は只呆然と立ち尽くすことしか出来なかった。





 葬式が行われる。

 少年はまだ泣くことができなかった。

 泣きたいのに泣けない。

 なんで泣けないんだ???


 少年の頭の中に疑問が浮かび続ける。

 自分には血も涙もないのだろうか?

 本当に自分には心があるのだろうか?

 少年はそんな馬鹿らしい事を本気で悩んだ。


 数日後。

 彼は母方の祖父母に引き取られて暮らし始めた。

 少年はまだ泣けていない。

 涙が出てこない。

 心が乾ききってしまったのか。


 少年はあの日以来全く泣かなくなった。



 一年後。

 犯人が捕まった。

 犯人は『金目の物を奪って楽に暮らせればそれで良かった』と供述していた。

 少年の心には何も沸いてこない。恨みはあるんだろうな、と、俯瞰した感覚があるだけ。

 少年は壊れてしまったのだろうか?


 否、少年は何も変わっていなかったのだ。

 両親は大切な家族だった。死んだとき何も感じなかった訳が無い。ただ少年はそういった感情を外に出せない性格だっただけだ。

 犯人への恨みだって、あってもそれが大きくなったりすることは無い。

 『ああ、そういうことなんだなぁ』と他人事の様に納得して終わりになってしまう。

 『しっかり者』『いつも冷静』その正体だった。


 少年は気付いてしまった。

 泣けなかった原因が全て自分にあるのだと。

 その日以来、前にも増して彼は感情を無意識の内に抑えるようになった。

 『自分に誰かを愛する資格なんて無い』。

 家族も友達も恋人も。全て。


 彼は極力人には関わらないようになった。

 だから友人が少ない。

 彼は中学に入って苛められても平気なままだった。

 その辛ささえ他人事でしかないから。


 だから少年は―――――




―――――――――――――――――――――――


「そう、そこに魔力を流し込んで。

 光らなくなるまで続けて」


 タツキは今ミラとブランシュに召喚術を教えている。

 ミラも召喚獣を描き直して、魔石に魔力を籠めている。


「うわぁ........綺麗だね......コレ......」


 キラキラと輝く魔石。

 その中には先ほど彼女が描いていた狐の様な姿をした獣が入っている。


「じゃあ最後に、能力を付与するよ。

 強すぎる能力でなければイメージしてその属性の魔力を送ればすぐに完成するよ」


「うん、やってみるよ」


「了解ですタツキ様」


 ミラとブランシュは魔石に集中してどんどん魔力を籠めていく。

 暫くすると魔石は少し光って、召喚石になった。


「うん、完成だね!これならきっとニコラスも誉めてくれるよ!!」


「えへへ、弱体化されてても僕は女神だからね!!!

 これぐらいお茶の子さいさいだよ!!!」


「タツキ様の為ならこれぐらい余裕です!!!」


「ところで二人とも能力はどんな感じにしたの??」


「私は『聖壁』の魔法を使える力にしました」


「ブランシュは流石に安定してる能力を選んだね。ミラは?」


「ボクは『蜃気楼(ミラージュ)』の魔法で人に化けられる能力にしたよ。諜報向きな能力かな?まあ動ける時間は短いけど」


「ミラが珍しくまともだ..........」


「なっ!!?ボクはいつでも真面目だよ!??」


「だっていっつも爆弾発言してるイメージしか........」


「ううーん、反論できないー」


 頭を抱えるミラ。

 なんだか悲しくなってきてその頭を撫でる。

 すると、


「デレた!!??タツキ遂にデレたの??!ねぇ、もうこれはOKってことでいいんだよね???そうだよね!!!!」


「落ち着け、残念女神。今のはただの哀れみだから」


「ぐはああぁっっっ」


 ミラはふざけた感じにそう言うとばたりと倒れた。


「ふざけるのもいいけど、次の召喚石も作ろうか」


「そうですね、タツキ様」


「ブランシュちゃん.......ボクへのフォローは無いのかい...........」


 俺たちはそれから一人につき三つほど召喚石を作ると、時計を確認した。


「そろそろ昼食の時間だな、食堂まで戻ろうか」


 ミラのお腹がぐぅーーと鳴る。

 三人は研究室を後にした。








 昼食を終えた三人は消費した魔石を補充するためにダンジョンへと向かった。


「ブランシュ!押さえた!!」


「了解です!!『閃光槍(シャイニングスピア)』!!!」


 俺が土魔法で作り出した樹木が、人間の大人サイズぐらいのカマキリの魔物『デスサイズマンティス』を押さえつける。

 そこへブランシュの光魔法が思い切りぶつけられた。


「ギチイイィィィィイィィィィ!!!!」


 気色悪い断末魔を上げて倒れるカマキリ。

 俺は様子を見て近づくと、鎌や複眼、羽根等の素材になるところをはぎ取ってアイテムボックスにしまうと、魔石を取り出しこれもアイテムボックスにしまった。


「これで20個目だな」


「ブランシュちゃんと息ぴったりだねぇー。

 ボク嫉妬しちゃうよ?」


「息があってるってよりもブランシュが合わせてくれてるって感じじゃないか?」


 実際ブランシュはよく動いてくれている、俺の動きに合わせて魔法や近接攻撃をタイミング良くぶつけてくれる。


「俺戦うの苦手だからさ、一人だとどうしても力押しになっちゃうんだよね」


「んー、でもタツキのステータスならここらへんの魔物は力押しで普通にいけると思うけど?」


「いや、それはわかってるんだけどいつまでも格下と戦い続ける訳じゃないし。少しはそういう戦い方にもなれておいた方が良いなと思って」


 そんな話をしていたら次の魔物が現れた。

 7メートルはありそうな巨体のアリクイ『ギガアント・ベアー』だ。

 一匹三メートルはある蟻、『ギガアント』を捕食するこいつは、この層の生態系の頂点と言ってもいい。


「ブオオオオォォォォッッッッッ!!!!!」


 長い舌をのばして仁王立ちし、威嚇するギガアント・ベアー。


「なぁ、一人でやってもいいか?」


「タツキ本気出すの?」


「いや、一人でも魔法とか無しでどれぐらいやれるかと思って」


「なら大丈夫だよ。タツキが本気で暴れたらこのダンジョン崩れちゃうからね」


 うそん。流石にそれは無い気がするけど..........。

 気をつけておこう。


「ブオッ!!!ブオオオオオオオオオオ!!!!!!」


 四つ足の姿勢になり突進してくる巨大アリクイ。


「フッッ!!!!!!」


 その瞬間、タツキの姿はかき消えた。

 否、消えたのでは無い。たとえ熟練の冒険者と言えども恐らくは目で追えないであろう速度で飛び出したのだ。


 タツキは聖力を発動して空中にいくつか足場を作った。

 そして――――――

 空を蹴って反転しアリクイの真後ろに来たタツキは刀を一閃、両後ろ足を切断する。

 そしてその勢いのままアリクイの右方向に出ると前右足に一閃。

 こちらも瞬時に切り飛ばされる。

 そしてさらに右足を袈裟切りにした勢いを更に利用しアリクイの頭上を回転しながら飛び越える。

 次の瞬間、アリクイの首の辺りに二筋の切れ目が入り、勢いよく血が吹き出す。

 刀を回転すると同時にその勢いで切りつけ、更に回転しつつ脚を掠めさせる事ではいているブーツに仕込んであったナイフで首元をかっ切ったのだ。

 この間、実に1.6秒。


 突然三本の足を失い、更には致命傷となる首の傷を負わせられたアリクイはなにが起こったのか理解する間もなく倒れ伏した。


「ふぅ.....こんなもんかな.......」


「本気出さないでもこれって...........。

 対人戦なら十分すぎるぐらいに強いよ」


「流石ですタツキ様!」


「ブランちゃんも動じないねぇ」


 アリクイの素材と魔石を回収する。

 これで魔石は21個だ。


「目標何個だっけ?」


「30個ですタツキ様」


「あと9個か、もう少しだね」


「ボクは早く戻ってお風呂に入りたいなぁ。もう土やら汗やら魔物の体液やらでベトベトだよ」


「クリア使って綺麗にしてないのか?使おうか?」


「いやいや、こういうのは心の問題なんだよタツキ」


「ふむ、ミラって結構日本人的なところあるよな」


 異世界人には珍しい感覚の持ち主じゃないか?

 俺の事をずっと見てたんなら日本の暮らしを見続けるわけだし、そういう感覚にもなるかもしんないけど。


「じゃあ、早いとこ終わらせて帰ろうか」


 俺も風呂には入りたいし、ちゃっちゃと終わらせよう。

 そうして俺は少し先に見えたギガアントに向かって走り出した。









 10分後、魔物達の死骸の中心に昆虫系モンスターの体液でベトベトになった俺達が居た。


「うええ、汚いぃ、『クリアオール』」


 三人にクリアオールをかけて汚れを消す。


「まさかあんなに沢山出てくるとは.......」


「雑魚だから倒すのは楽なんだけどねぇ。うえぇぇ」


 早く帰って風呂に入ろう。

 大量のギガアントの体液に参ってしまった三人は帰りの道を急ぐのだった。












 さて、今俺達は風呂に入っている。

 ()ではない()()だ。


「ふぃー、生き返るぅぅーーー」


 ミラがおっさんみたいな台詞を吐いて湯船に使っている。

 俺は後で一人で入るといったのだが、ミラが一緒が良いと言って引き下がらなかったので三人で入っている。

 もちろんタオルは着けて大事なところは隠しているが。


「うぅーーーー、うーーーー」


 ブランシュはやっぱり恥ずかしいらしく、顔を真っ赤にして首までお湯に浸かっている。


「なあ、わざわざ三人で入る必要なんてあったか?」


「んー?なんかその方が面白そうじゃない?ほら、ブランちゃんもタツキの背中ながしてあげなよ!」


「へっ!?そ、そんないきなりなんて無理ですっ!!」


「え?じゃあボクがやろうかな?」


「なっ!!ううう~~~。わかりました、私がやります!」


「いや、別にそんなことしなくても良いんだけど........」


 二人とも俺の話を聞かずに進めてしまう。

 俺って本当に好かれてるのかなぁ??

 ミラが遊んでるだけ何じゃないのかな?


「おっ!!!おおおお背中お流しします!!!!」


「え?あ、うんよろしくね」


 ブランシュは俺の後ろに来ると、タオルに石鹸をつけて背中を洗い始める。

 中々丁度いい力加減で気持ちいいな。

 これなら皆で風呂にはいるのも悪くない。


スタスタスタスタ。


 ミラが寄ってきた音がする。


ごにょごにょごにょ...........。


「ええっ!!?.....それは........いや、しかし.......」


 ブランシュに何か吹き込んでいるらしい。

 いやな予感しかしないから声をかけとくか。


「おい、ブランシュもう背中は流さなくてい、うわっっ!!!??」


 ふにゅん!!と彼女の胸が背中に押しつけられた。タオルを脱いでいるのか二つの固いモノも感じる........。

 そのまま彼女は上下に動き始めた。


むにゅん!ふにゅん!


 (うわあああ!!!!何だこれ!!!!何だこれ!!!???)


 (マズい!!!このままだと色々とまずい!!!!!)


 逃げようと思い、立ち上がろうとしたら膝の上にミラが乗っかってきて阻止されてしまう。

 ミラのお尻とかの柔らかい感覚とか、タオルのすき間からチラッと見えてしまっている桜色のアレとかがタツキの脳味噌を揺さぶる!!!!


 (うおおおおおおお!!!!マズいマズいマズい!!!!このままだと死ぬる!!)


「あのぅ?ミラさん?ちょっとそこを退いて頂けますでしょうか??」

 

 出来るだけ平静を装ってそうお願いする。

 だが、彼女は悪戯っぽく微笑むと、


「イヤ。もう離れないよ?」


 (いやああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!)


ふにゅん!!ふにゅん!!!


 更に追い打ちをかけるようにブランが後ろから抱きついて大きな胸を押し当ててくる!!!


 (あああああああああああああああ!!!!!!)


 (ハッ!?お呼びでしょうか父上ぇぇ!!!!!)


 (やめろおおおおおおおおおおおお!!!!!!!)


 息子が!息子が立った!

 この日向達樹人生最大のピンチを迎えております!!!

 このままテントを張ったタオルを気付かせるわけには行きません!!!

 持てる力の全てを総動員してなんとかそれだけは阻止――――――


「アレ?これって...........」


チラッ。

ギギギキギギ(目を逸らした音)。

ペロリッ(舌なめずりした音)。


「タツキの..................おっきい............」


 ミラがどんどん笑顔になっていく!!!


 (うわあああああああああああああ!!!!!!)


「ひゃっ、ひゃい..............」


「もう逃げないって.......言ったよね...........?」


「いっ、いやああぁそんなこと言ったかなーー?」


 必死にとぼけてみるが。


「ダメ。もう逃がさないよ??」


「いっ、いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」


 その日、隠れ家の共同浴場は共同欲情になった。











 夕食に集まる三人。

 ツヤツヤのミラ。

 完全に白くなっているタツキとブランシュ。


 そう、ヤってしまった。

 出会って一週間足らずなのにヤってしまった。

 いや.....正確に言えば、ミラとブランシュに美味しく頂かれました................。

 いや、ね?もう逃げないって言った直後にこれだよ?

 二人とも行動力有りすぎだよ.........。片方は今になって落ち着いた事で恥ずかしくなっちゃったみたいだけど...............。

 あっ、ミラさんですか?嘘ついてませんでしたよ、処女でした。血、出てましたもん。

 本当に俺なんかで良かったのかな............。

 ミラさん................凄かったな.........。

 1000年以上溜まりに溜まったものを一気に放出しましたって感じに凄かった。

 俺もね........?そりゃ男の子だし?DT卒業できたし?満更でもなかったですよ。

 二人共好きですしね。

 

好き―――――か。


 今更だけどやっぱり二人の事が好きなんだよね........。



 ここまでしちゃった訳だし、絶対責任取って二人とも幸せにしよう。

 色を取り戻したタツキは二人に向き直る。

 

「二人共、本当に俺でいいんだな??」


 二人は一瞬きょとんとした顔をするが、直ぐに意味を理解した様で、


「私はタツキ様の事が好きです。愛しています。その答えは変わりません」


「ボクも。流石に一万年と二千年前からではないけれど、千年前からずっと君のことが好きだよ」


「二人共........」


 決意は固まった。

 俺は絶対に二人を幸せにしてみせる。

 二人共この世界の誰よりも幸せな女の子にしてみせよう。

 俺に出来る全てを彼女たちのために使うんだ。


「ふふっ.....ってかアクエリ○ンって.........。一体どこでそのネタ知ったんだ?」


「えへへ、秘密です」


 ミラは口元に指先を当てて悪戯っぽく笑ってみせる。

 これから俺が二人を守っていくんだ。

 一人は神様で、一人は機械仕掛けの女の子。

 二人とも俺には勿体ないくらいの美少女だ。

 彼女達が居てくれるなら邪神にだって勝てる気がする。


 今日の夕食は格別に美味しかった。

















―――――もぞもぞ


 既に時刻は午後11の深夜。

 薄暗いタツキの部屋のベッドに潜り込む何かが居た。


「あの...............ミラさん...........?」


 そこには一糸纏わぬ姿のミラが、


「................来ちゃった」


 蠱惑的な笑みを浮かべてミラが抱きついてくる。

 薄暗い部屋の雰囲気と相まって、上気した彼女の顔は妖艶な雰囲気を放っていた。


「タツキ................しよ.......?」


 ねだるような声でミラはそう言うと、上目遣いで見つめてくる。

 結局、我慢していた俺の理性は爆発して――――




 (父上ぇ!!!!今日は大活躍でしたなぁ!!!!!!)

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