召喚術
主人公がお絵描きします。
「お主、召喚術をやってみる気はあるかの?」
あの後、ブランシュとミラは身体の汚れを落としたいと風呂へと向かった。
初日に俺も入ったが、結構豪華な風呂だ。
大理石らしきもので作られた部屋に広い浴槽がある。少しなら泳げそうなぐらいの広さだ。
まあそんなところで次に風呂に入る俺は二人が出るのを待っていたわけだが。
「のう、タツキよ。ミラ嬢の事もあるし、最低でも一週間は此処に居るんじゃろう?」
「ああ、そうするつもりだが。何かあるのか?」
「お主、召喚術をやってみる気はあるかの?」
ニコラスがそんな提案をしてきた。
まぁ、確かに俺は一週間暇になるわけだけど。
「俺、召喚術のスキル無いし、召喚士でもないぞ?
どうやって召喚術なんてやるんだ?」
召喚のスキルは特殊だ。
天職に召喚士が無ければどんなに頑張ってもそのスキルを手に入れることは出来ないと言われている。
ニコラスは俺のステータスを知っている筈だから冗談を言っているわけでも無さそうだが。
「召喚術??召喚術じゃなくてそれは召喚魔法じゃろう?
まあ、儂が教えるのはそれでは無い。
全属性魔法が使えるなら誰でも出来る召喚術じゃ。」
「へえ!俺にもあんなのが出来るのか!!
楽しみだな!」
俺は城にいたときに、クラスメイトの何人かが行っていた召喚魔法を見ている。
たしか、低級の召喚魔法でゴブリンやらスケルトンやらを召喚して従えていた。
あれが俺にも出来れば、いざというときの斥候役や諜報役を魔物達に任せられる。
仲間を危険に晒さずに戦えるのはとても良いな。
「まぁ、待て待て。召喚術で召喚出来るのは少しの間だけじゃ。
それに事前準備も必要じゃしな。
じゃが召喚術ならその場で消費する魔力も少なく済むし、使用者の技量によっては凄まじい破壊力にもなるぞい。
まぁそれぞれ一回こっきりじゃがの」
「なんだ....斥候役とかは任せられないのか.........」
「確かにそういうのには向かんのぅ.......。
じゃが召喚術なら仲間に危険を負わせずに戦えるのは同じじゃ。
命令した通りに動いてくれるしのぅ」
召喚魔法とは色々違うようだがこれはこれで中々便利そうな能力だ。
是非とも覚えさせてもらうとしよう。
「じゃあ、お願いします!!」
「ホッホッ、そう言ってくれると嬉しいのぅ。
魔導師の血がたぎるわい」
俺はニコラスに頭を下げて、召喚術なるものを教えて貰う事にした。
「それじゃあ、まずは此処に召還したい召喚獣の姿を描くのじゃ」
ニコラスの研究室。
細長い魔導師型のゴーレムが働いているその部屋に行くと、まず紙とペンを渡してきた。
これに絵?を描くことから始めるらしい。
「ここに描いた絵は召喚獣の器になるものじゃからな。
絵心があればあるほど強い器がつくれるぞい」
「絵画系のスキルは持ってないからな.........。
画家に描かせてそれを使うこととかは出来ないのか?」
「それは出来んのぅ。本人が描いた物でなければ魔法陣も組み込めないし、魔力もこめられんからのぅ」
「しばらく絵を描くだけになりそうだな.........」
この日向達樹は中学二年の時にイラストに挑戦してみたことがある。
アナログではあるがそれから高2の今までちまちまと描き続け、一定のレベルにまでは到達しているのだ。
だが、絵画系スキルが無いと色々と大変だ。この世界には一応鉛筆に似たものはあるがシャーペンの様な物は存在していないのだ。
シャーペンで描き慣れすぎた俺には中々キツいものがある。
「割といい線いっとるがのぅ。
あともう少しでまともに使えるレベルにはなるかの?
所でそれは何を描いとるんじゃ?」
「ん?これはカーバンクルって言って、こっちの世界の創作物とかに出て来る想像上の生き物だよ。
他にもバハムートとかタイタンとか色々居るよ」
「名前だけは知っとるがのぅ........。
やはりこの世界に存在するそれらとは違う姿をしとるのぅ」
「へぇ!カーバンクルって居るんだ!!どんな姿をしてるんだ?」
「うーむ、なんというか小さい人間の姿じゃのぅ。
額に宝石があるのは同じじゃ。
死ぬとその宝石も塵になってしまうがの」
「へぇ、獣ってかんじじゃあないんだな」
この調子なら他にもセイレーンとかスカルミリョーネとかも居そうだな.........。
テュポーン先生も........居るだろうか?
「あの.......テュポーンって魔物は居ますか........?」
「んーーー、それは知らんのぅ......」
「そ、そうですか..............」
非常に残念なことにテュポーン先生は居ないらしい...............。
次描くのはテュポーンにしようか............。
「ニコラスさん、描き終わりました」
「うむ、中々良い出来じゃの。
次に魔石は持っとるかの?ここのダンジョンの魔物の魔石はかなり上質なものばかりの筈じゃぞ」
「そうですね..........。これなんかどうです?」
俺はアイテムボックスからあのトリ野郎の魔石を取り出す。
拳大の大きさの緋色の魔石だ。
「うーーむ。それじゃあちと良すぎて勿体ないのぅ。他のは持っとるかね?」
今度は懐かしのゴブリンの魔石を出した。
四センチぐらいの大きさの紫色の魔石だ。
「それはゴブリンのじゃな?割と質は良さそうじゃがもうひとこえ欲しいのぅ。
ゴブリンの魔石だと単純な召喚獣しかつくれんからのぅ」
「アルミラージ」とか「竜骨兵」程度の強さの魔物なら作れるぞい。とニコラスは言った。
それならカーバンクルならどれくらいかな?
次に出したのは六センチ程の緑色の魔石。
「おお!それなら丁度いいのぅ。
エルダーマッドウルフの魔石じゃな。強さもそこそこで、良質な魔石を取れる。
熟練の冒険者のいい獲物じゃなぁ。
ほれ今度は魔法陣を書くぞい」
今度は二枚目の紙に言われたとおりに魔法陣を書き記す。
「こんな感じでどうですか?」
「うむ、上々じゃな。次は魔法陣を下にして二枚の紙を重ねるのじゃ」
「はい、重ねました」
「そしたら用意した魔石をその上に置いて、両手を添えて魔力をその三つ全てに満遍なく流すのじゃ」
手を添えて魔力を流し始める。
そして数秒後に魔石が光り始めた。
「これは.................!!!」
「タツキよ、集中を切らしてはならんぞ?魔石が光らなくなるまで続けるのじゃ」
更に魔力を流し続ける。
しばらくすると光が収まり、二枚の紙は真っ白な状態に戻っていた。
魔石をよく見るとその表面は細かな細工が施されたように魔法陣に書かれた文字が帯の様に貼り付いており、中には俺の描いたカーバンクルが眠るように入っている。もふもふの毛並みで額に青い宝石を持ち、緑色のウサギとリスを足して割った様な獣が目を瞑って少し丸まるようにしている。
「さて、もう一ふんばりじゃな。
次に特殊能力を与える術式を刻み込む。
この特殊能力はCランク魔石で一つ。Bランクで二つ。Aランクで三つというように付与できる数が増える。
今回はCランクじゃから一つだけじゃな。
さて、どんな能力を与えたいかのぅ?」
「もちろん、周りの仲間を癒すことが出来る回復能力だ!!!」
迷わず答える。カーバンクルといえば強力な回復効果や補助効果なのがお約束だ。
どこにでもありがちなお約束設定だがそれが良い。
「ほぅ、攻撃能力ではなく回復能力かのぅ!
そうじゃな、それならその召喚獣がその能力を使う姿をイメージして光属性の魔法を流し込むのじゃ。
流石に魔石と魔力に分不相応な能力は与えられんから気をつけるのじゃよ」
「わかりましたニコラスさん」
ふうっ、と気合いを入れて魔石に力を流し始める。
ごっそりと魔力が持って行かれた感覚がして直後、魔石が暖かく光り始めた。
しばらくするとその光も収まり、後には緑色のそれが残った。
よく見ると表面に貼り付いた魔法陣の一部に加えて何か装飾の様な物が増えている。
「うむ!よくやったのじゃ、タツキよ。その魔石は『召喚石』と呼んでおる。使いたいときは名前を言って魔力を少しだけ流せばよい。只、どの召喚獣も15分しか活動できんから気をつけるのじゃよ」
「すごい綺麗ですね...........これ。ありがとうございます!!こんな素敵な術を教えていただいて!!!」
「ほっほっほっ、後は繰り返し練習あるのみじゃからのぅ!!!」
キラキラと光に反射して煌めくカーバンクルの召喚石。
魔石自体も綺麗だと思っていたがこれは桁違いだ。
洗練された美しさがある。
いつか、もっと強力で綺麗な召喚石を作ろう。
しばらく召喚石を眺めていたら、ブランシュ達は風呂から出てきた様だ。
そろそろ俺も風呂に入りに行こうか。
俺は椅子から立ち上がり、風呂場へと向かうのだった。
いつも読んで下さり有り難う御座います。
改稿:全話においてステータスの『魔攻』を『魔術』に変更しました。ご指摘有り難う御座いました。




